今宵、月が見えずとも

 深夜の街に足音が鳴る。
 どうやらここは本屋のようだ。それにしても自分のいるところとはだいぶ違う。
 そのように彼は思う。端正な容姿だが格好は洗練されていて、なおかつ変という、普通では計り知れない者だった。

(いやいや……ドクロベエも、まさかここまで歪んでいたとは)

 ヴォルトカッツェ、有名な方の名前でいえばボヤッキーはそう思う。
 変わった眼鏡に全身緑のような色立ち。とても目立つ。
 暗闇とはいえ、この格好は標的にされかねない。
 だから彼はビルの物陰に隠れ、支給品を確認していた。

 1つ目は銃器だ。といっても拳銃といった便利なものではない。 そんな近代的なものではなく、古式の銃である。
 全体的には筒のような形で、長細い鉄パイプに木の持ち手がある。
 装弾の仕方は、まず銃口に弾をつめ、火薬を別の場所から入れる。
 その後、火種を直接当て、弾丸を発射するというものだ。
 お世辞にも使いやすいとはいえない。クロスボウよりも威力が劣るほどだ。
 命中精度もよくはない。
 利点は「音がとても大きいので相手がビビる」というものである。
 これが使われていた百年戦争でも、そんな扱いだった。
 一応は携帯火器であり、手先が器用なヴォルトカッツェにとっては使えないこともない。
 ただガンマンでもないのだ。
 一流の者が使えば強い武器になるが、ズブの素人の彼にとっては悩みものである。

 二つ目はくじ引きである。文字通り、くじ引きである。
 割り箸に紙が貼りつけられ、それぞれに「買い物」とか「洗濯」とかそういう言葉が書かれている。
 衣食住をするには円滑にものを進めてくれるかもしれないが、殺し合いでは意味がない。

 三つ目は日本刀である。紫色のまがまがしい柄と鞘である。
 名前は「妖刀『ベッピン』」。その歪さを感じる見た目に合うかのようだった。
 だが矛盾しているようであるが、その刀は奇抜にして精巧。
 伝説のニンジャ「カツ・ワンソー」を殺すため、その相手の指を鉄骨と混ぜた、かなりの力を持つ刀である。
 刃の色はなんと金色。鉄のはずなのだが、なぜか金色なのだ。
 しかもそこにはまがまがしい、よくわからない文字が書かれている。
 説明書によれば、どうもこの妖刀は「特別な文字が書かれていて、太刀筋を追うことができない」というものらしい。
 そんな非科学を通り越したものはバカな、とヴォルトカッツェは科学者のはしくれのような存在なので思った。
 彼は家に転がってたネジやらで目覚まし時計を作れるほどの腕前の、いわば天才技術屋であるが、こんなものは見たことがない。
 ただ、実際のところ、太刀筋をみようとすると、不思議と目で追えないのである。
 理屈はわからないが、とにかくすごいものだ。彼は腰に携える。
 彼もヤッターキングダムの追手から逃れている身だけあって、運動神経は普通の人間よりは優れている。
 ただ、剣術の才能などはからっきしだ。
 振り回せば「使える」が「使いこなす」のは不可能だろう。

(とはいっても、このような名刀をうまくこの手で再武器化するのは……そもそも仕組みが全くわからないので難しいか。あの携帯火器でしたらやれないこともないですが、効果は期待できませんね)

 ボヤッキーはそこらにあるもので巨大ロボットを作れるような技術力を持っている。
 さらに彼は殺し合いに乗る気はない。
 あのドクロベエを倒す、という決意をした段階で彼は殺し合いに巻き込まれたのだ。
「ヤッターマン」と名を騙り、独裁王国で人々からエレルギーを吸収するような者の思惑に参加するなどもっての外である。
 殺し合いの打倒、ということになると首輪の解除も不可欠だ。
 彼からしてみれば首輪の解除はできる可能性の1つである。外す装置も作るかもしれない。
 だがそのためには材料が足りない。
 まずは首輪の構造を把握する必要がある。自分につけられてはいるが、おそらく解除対策もしているだろう。
 その危険性も考えると、別の首輪があるに越したことはない。
 もう一つは外す装置の部品だ。
 前にも言ったように彼はロボットも製造できる科学力の持ち主だ。
 ただ、それはヤッターキングダムという世界の科学力が発達したこともある。
 そのような優れた部品があるからこそ、優れた機械が生み出せたのだ。
 だが現在の支給品はそんな代物はない。材料が不足している。
 不足しているのならどこかから集める必要がある。なかなか手間のかかりそうな事態だ。

(そのためには仲間が欠かせませんね。レパード……ドロンジョ様の保護は不可欠ですし、エレパントゥス……トンズラー……まあこれはいいか……とも合流したい)

 それプラス、この殺し合いに参加していない同士だ。
 もちろん、それを見つけるのは難しいだろう。
 乗っている者もいるはずであり、いなければ殺し合いは成立しない。
 主催者もおそらくそういう人物を呼び寄せているはずだ。

(ですが、まあ彼らなら大丈夫でしょう。そんな簡単に殺されるようなタマではない)

 彼は信用する。それは共に旅をして、苦境を駆け抜いた人物だからこそできる信頼だった。
 とはいえ、なるべく早くには合流したい。
 仲間が集まるであろう場所は、かつて自分達が住んでいた「辺境の地」であろう。
 なぜ、この場所にあるのかはわからない。自分達が住んでいたであろうところではない場所に、その名称はある。
 そもそも島ではないが、そう書かれているのだ。変なところはあるが探ってみる必要はある。

 ボヤッキーがそこに向かうため地図を確認する。とはいえ、コンパスだけではここがどこかわからない。
 何か目印になればいいが、そういうものはどうも見当たらないのだ。
 しかし、それならば地図の意味などない。何かに手掛かりはあるはずなのだ。
 ここまで用意周到に殺し合いという場所を出している主催側だ。
 おそらくこの地図も彼らにとっては何らかの意味があるものである。
 とすると手がかりは街中にあると思いたい。
 どこかに看板とかにここがどこが書いているかもしれないが、それだと街中を歩き回る必要がある。
 その場合はとても危険だ。なので安全なのは建物内で速やかに済ませたい。
 その時、ボヤッキーの近くには本屋があった。
 何せ看板に「本屋」とあるのだから本屋なのだろう。
 店内は暗くてよくわからないが、おそらくこの中には、場所がわかる「手がかり」がある。
 一番目星がつくのは店内の事務室に住所が書かれた書類だろうか。
 住所と言っても「D-1」とかそういう書かれ方をしているものだ。それをなんとか手に入れたい。
 にしても、この本屋はこれといって地図には書かれていない。どうでもいいものなのだろうか。
 それにしては他の場所には個人の住宅名が書かれていたりと不可思議なところがある。
 疑問に思いながらもボヤッキーはまず、行動をうつすために店内へ足を踏み入れた。


 いくつもの本棚に書物が敷き詰められている。
 道を作るように仕切られた店内は以前として暗いままだった。
 とはいえ電気をつけると「殺してください」と言うようなものだ。
 幸い、肉眼でも目が慣れれば支障はない。ボヤッキーは店内を歩き回る。
 実はボヤッキーもこのような場所は人生において初めて見るものだった。
 近代的な店舗というのは建てられるほど発展した場所ではなかったのだ。
 異様な科学力はヤッターメトロポリスに集中していて、それ以外は荒れた大地に小さな集落があるだけだ。
 ヤッターキングダムを除いても、辺境の地にはそんなものはない。
 メトロポリス自体もそんなに詳しく探査したわけではなく、巨悪の正体をとっちめるために侵入しただけだ。
 もちろん「本屋」や「カウンター」という概念はわかるのだが、実感するのは初めてなのである。
 そのような場所を主催者、ドクロベエはわざわざ作ったのであろう。手抜かりはない。
 単に殺し合わせるのなら、このような大がかりな仕掛けをする必要はあるのだろうか。
 いやドクロベエの、そのねじ曲がった考えを予想すれば、わざわざ作るのも、楽しむための手段といえる。
 ヤッターマンの報復が達成された後でも、国を作り、住民に圧政を強いて、なおかつ「ヤッターマンが支配する国」と嘘を吐く男だ。
 このような細かい場所の再現も、そのようなものを飾る前菜になるのかもしれない。

(許せない)

 ボヤッキーは強くそう思う。
 そのような殺し合いに、自分達はまだしも、この名簿にみえる無関係な人物を巻き込むなど言語道断だ。
 はやくとっちめなければならない。彼は床を踏みしめる。

(何かカウンターがあれば事務的な書類も見つかるかもしれませんが……)

 と彼が思っていたらその時は来たようだ。
 おそらく木製であろう台のようなテーブルが、その床から生えている。
 レジスターや「今日のおすすめの本!」などを見せているようなつい立など、会計をするための装備が置いている。
 ただ気になる点があった。これは、この異常事態では大切なものである。
 目の前には女性がいたのである。

 女性と目が合う。下半身はカウンターで隠されているが、その
 殺し合いの場において、お互いの存在を確認するというのは「敵か味方」を判断するためのファーストインプレッションである。
 淡く長い赤髪、大きな丸い目、それをアンバランスに見せない整った顔立ち。
 美人である。少し「かわいい目」の美人といった感じだろう。
 だが、見た目からして単なる美少女ではない、とボヤッキーは思う。
 まず耳の部分に、耳を模した、いや耳なのだろうか。
 そう謎を臭わせる、髪よりは深めの赤色、の耳がある。
 形もまるで悪魔というか、上に刃を向ける包丁のようだ。
 さらには頬には四角形の、それも皮膚と一体化している、赤い何かがある。
 そしてなによりも

(おっぱいが大きい……!)

 それはどうでもいいとして、ボヤッキーは彼女に対して何か「異様さ」を感じていた。
 単なるコスプレ趣味とか、そういう大したことじゃないかもしれない。
 ただ「装備」の可能性もある。ドクロベエはかなり高い技術力を持っているのだ。
 彼が携える妖刀も、主催による道具かもしれない。
 つまりは目の前の女性が武器をもっているかもしれないということだ。
 それが何かはわからないが、この殺し合いと言う状況下、敵でない事を祈るしかない。
 ボヤッキーが考えを巡らせていると、女性は話しかけてきた。

「あなた……誰っ!? な、名前を名乗りなさいよっ!」
 二重語のような気がする。綺麗な声だが口調は激しい。
 ボヤッキーはあくまでも冷静、かつ丁寧に腰を軽く折りながら言った。
「これは失礼しました。私の名前はボヤッキー。盗賊団ドロンボーの……言うなれば……頭脳です!」
「いや盗賊団っていう時点で怪しすぎるんだけど……」
「あ、いやいやいや。盗賊団といえど義賊のようなもので! そう、例えるなら石川五右衛門!」
「えっ、あなた、ゴエモン? この参加者名簿にある、ゴエモン!?」

 そう言いながら彼女は名簿にある名前を突きつける。
 とっさに出てくる記憶力はあるが、考察力はないようだ。
 ボヤッキーは苦笑いになりながら答えた。

「いやあ……それとは違いますし、まず名前を名乗ったのですが……」
「あっ、そっか……。で……何の用よ。そっちが攻撃する気なら私も相手になるわよ!」
「それでしたら今ごろ攻撃していると思うのですが」
「それもそうね……。じゃあ何よ! わけわかんないわよ!」
「わかってくださいよ~……。私は殺し合いに参加する気はありません。主催のドクロベエに反撃してやろうと思ってましてね。とりあえずは仲間を探している最中です」
「仲間……がいるの? なんて名前? よかったら協力するわよ」

 どうやら悪い子ではなさそうだ、とボヤッキーは胸を撫で下ろす。
 逆にこの殺し合いと状況下で、安心した相手といえど、すぐさま手助けしようとするとは、とてもお人よしなのかもしれない。
 友好の合図はわかったのだし、ボヤッキーは彼女に近づこうと足を前に進め、そして口を開いた。

「助力とはありがたい。できれば貴女のお名前もうかがえると嬉しいです」
「あっ……えっと、私の名前はミーア。で、その、あの、そのちょっと、止まってくれないかな?」

 そう赤髪の女性、ミーアは宙を手で押している。
 敵意が突如出てきた、とかそういう様子ではない。
 不可解な表情でボヤッキーは聞いた。

「えっ、はい……。何かあったんですか?」
「ま、まあ何かあるというか、常にあるというかなんというか……」
「はっ、まさかその豊満なバストでブラジャーが外れることが日頃……そして今も」
「な、な、何言ってんのよ! こんな状況で言うっておかしいんじゃないの!」
「あー……ご先祖がよく言ってた下ネタらしいですが、ここでは流石に逆効果ですね……というか効果あるんでしょうか」

 彼がそう反省していると、ふと物音が聞こえた。
 足音、である。カツカツと静かな店内で響き渡る。
 しかもその数は2つ。おそらく「2人」いるのである。
 足音は拡散し、その数を、これまたカウンター付近にいる2人に伝える。
 一体、なんだろうか、とボヤッキーは警戒する。
 敵なのか味方なのか。

(まあ『仲間』を組んでいるのなら、そこまでの危険人物じゃないかもしれませんが、注意に越したことはないですね……)

 とはいえ、その音の方向に近づこうとはしない。
 例えばロボットやそういう武器を支給されている可能性や、一時的に殺し合いを進めるため、協力して殺しまわっているかもしれない。
 まだ安全とはいえないのだ。だからそこで留まる。

 予想は的中した。
 ドッグォンと大きな何かを破壊するような音が聞こえる。
 窓ガラスに何かがぶつかり、割れる高音が連続する。
 雨のように地面に大量の何かの落下音が聞こえる。
 暗闇だが破片が周りに乱舞しているのは、うっすらと影からわかった。
 おそらく本、そして本棚だ。
 本棚がレゴブロックを解体するように壊れ、あたりに散っている。

(これはマズい!)

 相手は武器だろうが身体能力だろうが、何らかの高い攻撃力があることはわかる。
 同時に当たりの本棚を意味もなく破壊しているのだ。
 もしかしたら主催への怒りへの八つ当たりかもしれない。
 しかし穏やかな人物でないことは明らかだ。
 どちらにしろ、身を隠す決断をするには十分な状況である。

「失礼しますよっ」

 ボソッとボヤッキーは彼女に伝えると、そのカウンターに向かって飛び込んだ。
 ミーアは異様にびっくりした顔だが、急だから仕方がない。
 着地したとき、なぜか不思議な感覚がおび寄せる。

(これは……丸太?)

 丸い謎の物体が足元にある、というのはわかった。
 バランスがとりにくい。すぐにカウンター内に隠れる準備はしていたが、足が崩れて床に座る。
 床も不思議な感覚だ。手で触ってわかるが、何か堅いものが外面にあり、内側は柔らかい何かを感じる。
 そして丸い。何か、何かに似ている。
 その時、ボヤッキーはミーアの顔を見た。
 彼女の表情はどうみても平常ではない。しまった、とでも言いたげな焦ったものだ。

(蛇……)

 ボヤッキーの思い浮かんだものは蛇だった。
 その触っている謎の正体は蛇の身体だ。
 鱗を纏った太いそれをたぐっていくと、1つのものに繋がる。
 身体である。それも人間の身体、腰部である。
 スカートからへそへ、胸から顔へ。
 顔はミーアだった。
 ミーアの下半身は「蛇」だった。
 それも太い蛇の身体である。体長は七メートル。
 カウンター内に隠すためトグロを巻き、簡単な座布団のようになっている。

 ラミア、身体の七割を蛇が占める変温動物である。
 蛇と似た背負うな習性を持ち、特徴もそれに近い。
 女性しかいない種族であり、繁殖に人間の男を必要とする。

 当たり前だが、人間ではない。
 むしろ「怪物」や「化物」といった類のものであった。
 この殺し合いの場においてそれは見た目だけで不利になるものである。
 ミーアはそれを避けたかった。見た目だけで攻撃される可能性があるのだ。
 もちろん彼女のいた世界では人間と人外の種族の間に協定がある。
 これは「他種族間交流法」と言われ、ホストファミリーシステムの文化交流もあるくらいだ。
 であるから、街中にこのような存在があることも彼女のいた地球では珍しくない。
 ただ偏見の眼や差別の眼、恐怖としての対象として見る者もいないわけではないのだ。
 彼女はそれが怖かった。
 この殺し合いに乗る気もないが、殺されるのも怖いのだ。

 その姿をみてボヤッキーは

「へええ……そういう人もいるんですね……」

 と小声で言った。
 ただそれだけだった。
 驚いてないわけでもないが、そこに敵意はない。
 純粋な驚愕があっただけである。

 ミーアは逆に驚いた。全く危険視したりとか、そういうところがない。
 対するボヤッキーも別に彼女の身体を機械と勘違いしたわけではない。
 優れた技術屋は生命体と鉄のマシンを間違えないのだ。
 それは彼の旅での経験から来ている。
 なにせボヤッキーは恐竜に会っているのだ。それも親子である。
 恐竜は本来、既に絶滅していて、相当な年数が経っていることは知っていた。
 それが存在し、しかも彼らと深い関係を築いたのである。
 本来いないであろう存在と会ったくらいである。
 ラミアのような本来存在しない者とあっても、異常なほどの驚きはない。
 そういうこともあるんだな、と思うだけである。
 もちろん敵意などは全くだ。

 彼が隠れた理由は、おそらく「何かの破壊音」から来るものと、ミーアでさえもわかった。
 彼女はお世辞にも頭がいい方ではないが、それくらいは判断できる。
 上半身をくねらせカウンターの下に隠れ、下半身をうまく使い、ボヤッキーを床へ降ろす。
 そして彼女は近づき、ボヤッキーに向かって囁いた。

「……なんでそんなに平気なの?」
「まあ……似たようなものを見たことあるので、そこまでね……」
「そう……。流石にあの法律が施行されたって言ってもまだ三年よ……。変わってるのね、あなた」
「法律? なんのことですか?」
「えっ……いやーその……私も正確には覚えてないけど、他種族間なんちゃらかんちゃらっていう……」
「全然知らないですね……。まあ私も他の世界がどのような状況なのかは知りませんが」

 嘘はついていない、とミーアはわかる。おそらく本当に知らないのだろう。
 どこまで世間知らずなのか、あるいは情報が遮断されているところに暮らしていたかだ。
 それなのにこの反応である。不思議だ。
 ただ、敵に回らなかったのは幸いというものか。

(にしても……あの音も鳴りやんだわね……)

 先ほどの物を破壊する轟音はすっかり収まったのである。
 おそらく八つ当たりか何かだろう、とラミアは思う。
 ケンタウロスやオーガなど色々と力が強い他種族は知っているため、おそらくそのような人物なのだろう。
 あまり関わりたくない人物だ。少なくともこの殺し合いに巻き込まれた自分の知り合いにはいない。

 カツカツ、とこちらに音が近づいてくる。
 ミーアは目の部分だけをカウンターから出し、向かってくる方を確認する。
 廊下はまだまだ闇に包まれ、目が慣れたとしても何があるのかははっきりと見えない。
 だが、それは人間の場合である。ミーアにはその姿がはっきりと確認できる。
 それは彼女には蛇が持つ「ピット器官」があるからだ。
 ピット器官とは簡単にいえば赤外線を感知できるものであり、つまり熱を捉えられるのだ。
 蛇は視力が弱いため、暗い場所でも獲物が探知できるよう備わっているのである。
 先ほど、ボヤッキーとあった時も、ミーア側はちゃんと見えていたのだ。

(体格を見る限りは……普通の人間ってところね。ただ身長は高いからもしかしたら巨人の一種かもしれない。でも……)

 先ほど「赤外線を感知」と言ったが、これを応用した機械がサーモグラフィである。
 温度を可視化できるミーアからしてみると、それは異様な光景だった。

(一方は体温があって……もう一方は……分散してるの? 温度はあるようだけど、人間のそれじゃない。ゾンビ……でも名簿にはいなかった気がするし……何がなんだかわからないよ……)

 ミーアは対してよくない頭をフル稼働したが、結果困ってしまった。
 この殺し合いと言う状況下、彼女も考察をその場でできるくらいには脳が回るようになったが、限界はある。
 それが証拠に、敵がこちらに向かっているのに目をぐるぐるさせている彼女の頭を、ボヤッキーが手で押してカウンターに隠したくらいだ。
 少々、ぼやっとした子なのかと彼は思う。
 ボヤッキーもまた、彼女と同じく、相手2人に対して考察していた。

(危ない危ない……下手をしたら、彼女、敵に見つかってしまうところかもしれなかったですね……。にしても、相手は一体、誰でしょう。いきなり本棚を破壊するような連中ですしね。ここはとりあえず様子見ですか……)

 ボヤッキーはカウンターの中に隠れる。
 相手の素性がわからない以上、身の安全を図るのが一番の戦法だからだ。
 果たして鬼と出るか、蛇と出るか。
 彼は、隣にいるラミアの彼女が何か言おうとする口元を見た。
 一体、何を言う気なのだろうか。

 だがそれは、母音を発するための息が吐き出されるだけで終わった。
 壁になっていたカウンターは、まるで紙細工のように、轟音をたてながら吹き飛んだ。
 1つの人間が、いや鎧が、紫色の鞭の様な触手で破壊したのだ。
 後ろにいる男は、ただ歪んだ笑顔を浮かべていた。


 オブジェクト。簡単に言えば「核爆発にすら耐える巨大兵器」である。
 これだと逆にわからないだろうか。
 もっと詳しくいえば、巨大な動力炉と並外れた硬さの装甲を持ち、レールガンやマシンガンも放つような、馬鹿げた兵器だ。
 荒唐無稽、ともいえるが、少なくとも、とある世界では確かに存在し、その圧倒的な力が故に「クリーンな戦争」が行なわれていた。
 つまりオブジェクトが強すぎるため、兵隊などを集めても意味がないのだ。
 必然的に勝負はオブジェクト同士の対決となり、片方が負ければそので戦争は終了する。
 だから被害が最小限であるため「クリーン」なのである。ものはいいようだ。
 既存の戦争のあり方すら変えてしまった、この壊れたような兵器を自らの思想信条のために使用するだろうか?
 その思想信条にもよるだろうが、かいつまんで言えば「極右」だ。
 自分達の使っている言語が最も素晴らしいため、他の言語を使う民族は滅ぼしてしまえ、というものだ。
 無茶苦茶な論理であり、酔っ払いが居酒屋で適当にわめく言葉のように見える。
 だが、これを信じていたものが、そしてオブジェクトを取り出しても戦おうとする者がいたのだ。

 プライズウェル=シティ=スリッカー。

 今、ボヤッキーとミーアの前に立っている男である。

 彼は他の民族を嫌悪している。それは奴隷制を復活させようとするほどのものである。
 オブジェクトが存在する世界では勢力が大きく四分している。それも国というよりは、思想や理念で繋がっている共同体に近い。
 その中に1つ「正当王国」というものがある。
 名前の通り、王族の集合体である。
「血統と名誉」を重んじているため、このような考えも極端とはいえ、浮かぶ可能性はあるのだ。
 ただ実行する彼が異常なのである。
 ついでにプライズウェルは「貴族」と呼ばれる身分の出身だ。
「正当王国」に所属するそれぞれの諸国の政治は、この「貴族」が行なっているため、実権があるわけである。
 実権があるならば行動するだけ、ということなのだろうか。
 そのためには自らの軍事的な発言権が強固になる必要がある。
 プライズウェルは工作をしてまで、それを得ようとしていた。
 だが目論見は発覚。彼は乗っていたオブジェクトを爆破され、死んだ―――はずだった。

 彼が目を覚ましたのは、その時だった。そして目の前に、あのドクロベエがいたのだ。
 殺し合いの参加。願いが叶えられる報酬。
 街中に転送され、名簿を見渡した時、プライズウェルのスタンスは「殺し合いに乗る」というものになった。
 参加者に自分の仲間もいない、というのも一つの要因だったが、因縁ある者がいたのも理由だった。
 クウェンサー=バーボタージュ。自らを殺した張本人である。
 先ほど「オブジェクトは最強の兵器」と言ったが、このクウェンサーという男は独力で破壊できる、工作兵である。
 厳密にいえば異なるが、彼の大活躍によりプライズウェルの計画は見事に崩されたのだ。
 恨むだろう。そんな存在は許してはおけない。
「多言語の浄化」のために移民が住む場所を破壊しようとした彼にとって、他の人間を殺す躊躇はなかった。

 彼の支給品の1つに「シュリ」があったのは運がよかったといえよう。
 これは人工エクスターという、簡単にいえばロボットである。
 詳しい説明は後々するとして、人型の兵器だ。
 鋭い眼光にユニコーンのように生える頭部の角。
 肩パットのついた白いマントに冠を模したものにぶら下がる2本の長い紫色の鞭。
 鞭と言うだけあって、それは自由自在に操れる武器なのである。
 それプラス奥の手もある。殺し合いにおいては十分な支給品だろう。
 その王族の様な出で立ちに、ついてきた支給品は王冠だった。
 これはまさしく自分に「王になれ」と言っているようなものではないか。
 独善的な政治思想を持つ彼は思い込む。この殺し合いの勝利も全ては自らの理想の世界のため。
 彼は王冠を被り、シュリを横に並ばせ、クロスボウを装備していた。
 傍から見ればどうも怪しい人間。
 だが元々頭のネジが色々とぶっ飛んでいる彼は気にしない。
 そのまま闊歩し、彼はたまたま本屋に入った。
 情報収集も兼ねて、何か役に立つと思ったのだ。

 プライズウェルはそこで憤怒した。
 彼にとってみれば、異界の言語が飛び交っている場である。
 しかも、彼はその意味がわかるのである。何故かわかるのだ。
 ありえない。何か主催が細工をしたとしか思えない。
 だが彼は他の言語を蔑視するような人間だ。
 その存在はもちろん、意味を「解してしまう」ことは許し難い。
 シュリを起動させ、彼は本棚を攻撃した。
 こんな、劣悪な言語は存在すべきではない。壊してしまわねばならない。
 紫色の鞭は本棚を飛ばし、壊し、切り裂き、無茶苦茶に破壊した。
 見るも無残な姿になったそれは、彼の発散の材料となった。

 ただ、彼は聞き逃さない。

 カウンターの向こうの誰かの声を。

 オブジェクトは強力な兵器であるが、それ故に乗るパイロットにも相応のスキルが求められる。
 操縦時に発生する大きなG、様々な機器を正確に使いこなす技能、そして相手を倒す戦闘技術。
 オブジェクトはそう簡単に大量生産できないため、乗るパイロットも特定のオブジェクトしか基本、操縦できない。
 そのような機密性の高いものに乗るのは、もはや「強化人間」くらいのものではないと、割に合わないのだ。
 彼らは「エリート」と呼ばれ、一般人より彼らの能力は遥かに高い。
 プライズウェルも危ない人間だが、その一人なのだ。
 身体能力の優れる彼なら、その声など簡単に聞き取れる。
 彼が話している2人を見つけることなど、造作もなかったのだ。

「みしらぬ顔だな、きさまらは。ん……?」

 カウンターを破壊した先に見える男女を見据えるプライズウェル。
 エリート特有の平仮名が多めの話し方をしながら、ある異変に気付く。
 女の腰から下が……何か妙なのだ。
 スカートにしては長すぎる。しかし微妙に暗いのではっきりしない。

「おじさん! 捕まって!」

 その女ことミーアは叫ぶ。
 ボヤッキーは名乗ったのに、と思いながらも彼女の伸ばした手をとった。
 そのままグイッと引かれると、ちょうど彼女の背中に辿りつく。
 すると、いきなり彼女は加速した。なんとかボヤッキーもしがみつく。
 その動き、まさに疾風迅雷。
 成人男性1人が背中に抱えられた状態とは思えないほどの速さ。
 そして蛇のように曲がりくねって道を進む正確さ。

 それは彼女が蛇だからだ。

 ブラックマンバと呼ばれる毒蛇は50メートルを11秒ほどで渡れるという。
 一見、遅いように思われる。しかし体長は平均2.5mもあるが、頭を人間の片手で捕まえられるほど、細い。
 さらにミーアは全長7~8メートル。ブラックマンバの3倍の長さに、より大きい身体。
 速さも3倍になるとしたら、50mを3秒ほどで走る計算になる。
 もちろん、体長より大きなニシキヘビは、そんな速さではないし、単純比較はできない。
 ただ、蛇というのは、本屋のように入り組んだ地形を的確に進むには早い生物なのである。
 ミーアもまた然り、いくら強化人間といえど「人間」であるプライズウェルより素早いのである。

 彼女は急いでいた。あの参加者、なのかわからないが、その鎧、どう考えても危ない。
 簡単にカウンターを壊し、隣のボウガンを持った男も危なそうだった。

(大体、何よ、あの王冠! どう考えてもキケンな人だよ!)

 泣き言を頭に思い浮かべながらも、走る。
 出口はどこなのかはわからない。ただ、進まなければ話にならない。
 運よくも、ドアが見つかった。相手はまだ追ってこない。
 扉をあけ、そのまま突き進む。月光と街灯の明るさと、夜風が体に吹き込んだ。
 道路。どうも出口だったようだ。アスファルトの感触が伝わる。
 とりあえず、向こう側の店に行くしかない。彼女は身を潜めるため、進む。


 中に入る。どうも薬局のようだ。様々な医薬品が棚に並べられている。
 それを陰に彼女は身を隠した。後ろでしがみついているボヤッキーに話しかける。

「おじさん、大丈夫?」
「え、ああ、はい。生きてます」
「はぁ~……よかった」

 ホッと胸を撫で下ろすミーア。ただボヤッキーは心中、惑っていた。
 それは簡単、下乳が手に触れていた。
 急いでいたおかげか、彼女は全く気付いてないのは運がよかった。

(いや、これはそういう問題以前に運がよいことなのでは?)

 ボヤッキーは紳士である。とりあえず無事に手を取り外せた今ならよいだろう。
 背中から離れたボヤッキーは薬品の店を見渡す。

「これだけあれば……爆弾くらいは作れるでしょうね」
「えっ、おじさん、そんな物騒なことやってるの……?」
「失敬な。あと私はボヤッキーです。それはともかく、現在、私達の武器は非常に貧弱なんですよ。ついでに日本刀とくじ引き、古代の銃しかありません」
「まだ、おじさんはツイてるほうだよ。私なんてぬいぐるみと何かのドリンクに、ドライバー。あ、でも私の作ったお粥があるよ」
「えっ……。すいません、もう一度お聞かせくださいますか?」
「私のお粥? ダメよ、手料理はだぁりんじゃないと……」
「いえ、その前!」
「ドライバー……? なんか手料理に箸にも棒にもかからないのはそれはそれでアレだけど……」

 とミーアはブツブツ言いながらディパックを調べる。
 そこから緑色の持ち手のドライバーが出てくると、ボヤッキーは息を飲んだ。

「それ……やはりそうだ。私のものだ。私の愛用品なんですよ!」
「ええっ! そんなこともあるのね……。おじさんのものなら返すよ。私は使えないし」
「私はボヤッキーです」

 と、彼は言いながらもドライバーを受け取る。
 彼は、それをまるでガンマンかのようにクルッと手慣れたように回す。
 かつて仕えていた、ドロンジョ――またはレパードの母親から授かった形見だ。間違いない。

「これさえあれば百人力……。どんなメカでも作り出せますよ」
「メカ……とか作れるの? 本当? 爆発しない?」
「いやまあ、自爆装置くらいはありますが」
「自爆って……随分と派手なことをするのね……。おじさん、普通の変な人のように見えて、変な人ね」
「それはどっちに転んでも変な人なのではありませんか?」

 ボヤッキーは若干悩みながらも、自分の武器が手に入り、頼もしく思う。
 とにかく、武器を作り上げることだ。薬品を応用すれば爆弾の作成ならできる。
 信管とかスイッチとかはレジスターなどを利用すれば可能だ。
 彼は思いだす。カウンターを吹き飛ばした、あの鎧。
 その鎧はヤッター兵のような、人型のロボットを連想させた。
 あの動き、おそらく人間じゃないのではないか?
 協力者ではなく、支給品。
 彼の技術者としての勘が伝えるのだ。
 あんな武器に対抗できるのは、今の支給品では無理だ。
 そしてあれが支給品なら、パワーバランスが崩れぬよう、同じような用途の武器も支給されている可能性がある。
 一刻も早く、それに対応できる武器を作るしかない。爆弾でも不十分なほどだ。
 彼は棚を見据える。何か爆弾の材料となる薬品はないか。

 そして爆発のように、棚は吹き飛んだ。

 目の前にはシュリ。2人を狙う触手が月光に照らされている。
 プライズウェルは舌なめずりをするように、彼らを見据え、口を開く。

「おそらく、きさまらが考えたことは、こんなところだ。まず、そこの女はからだがでかい。だから街中をはしりまわっても、いずれ見つかってしまう。わたしはクロスボウというとび道具を持っている以上、こうげきの的になってしまうだろう。だからベストなせんりゃくは隠れることだ。となると近くの薬局にかくれるのは当然のながれだ」

 薬品は粉々に、ひしゃげた棚を飾っている。
 プライズウェルが戦闘態勢にいることはすぐにわかった。
 何もしなければ殺されてしまう。

 ボヤッキーはディパックから日本刀を取り出す。
 鞘から禍々しい模様をした刃を引き抜いた。
 プライズウェルに向かって、振り向く。
 その動きは隙がありすぎた。シュリで防護するのも楽だ。
 刃が向かう方向にシュリを置く。
 双方の触手で剣を弾き、片方で攻撃する。
 その予定だったが、狂った。
 刃は片方の触手を潜り抜け、胴体に当たった。
 ただ、踏み込みが甘い。
 シュリには対したダメージにならない。
 剣の素人であるボヤッキーが繰り出す斬撃だ。
 なので結局、結果は変わらない。
 片方の触手がボヤッキーを弾く。
 どんっと彼の身体が吹っ飛ぶ。
 孤を描いて、棚にぶつかる。
 瓶詰された薬が割れ、箱が潰れた。
 床に背中をつけるボヤッキー。
 棚も衝撃に耐えられず、倒れた。
 ガタン、とそのままボヤッキーは棚の下敷きになる。

「おじさん……ッ!」

 ミーアがその方向に向かって叫んだ。
 あれでは大けがだ。なんとかして助け出さないと。
 その彼女の意志を察したのか、彼女の目の前にシュリが立ちはだかる。
 横を見ればボウガンを構えたプライズウェル。彼は話し始める。

「しかしその体……なにかのぎそくか、それとも機械なのか? それにしては、ほんとうにヘビのようだ」
「そうよ、蛇よ! 私はラミア!」
「ラミア……かはんしんがヘビという……想像上のばけものじゃないのか。ただ、そんざいしているのも事実のようだな」

 プライズウェルの攻撃の姿勢は一切変わらない。
 ミーアも反撃の必要がある。何もしなければ殺される。
 もしかしたら、あの鎧も尾っぽで縛れば無力化できる可能性がある。
 ただ自分は体が大きい。クロスボウの矢では狙い撃ちにされる。
 ならば、とる方法は1つだ。
 うまくいくのかはわからないが、やるしかない。

 相手が鞭ならこちらも鞭だ。

 尾っぽをぐうっと、振るった。
 それは対抗する鞭のように、キックボクサーの蹴りのように飛ぶ。
 2メートルを超す巨大な物体が、しなってプライズウェルに襲いかかる。
 ただ、彼もそれを読んでいた。
 棚を足で駆け上がり、攻撃をよける。
 ただ、攻撃はまだ続行しているのだ。
 シュリに向かって降りかかる。
 ただ、そんなに問題ではない。
 その鎧は跳び上がり、尾っぽをかわした。
 この状態だとどうなるか。
 ミーアはシュリに背中を向けた状態になるのだ。
 もう一度、彼女は強引に尻尾を振りかぶろうとした。
 だが遅い。
 彼女はシュリによって羽交い絞めにされたのだ。

「腕!?」

 思わず声にでるミーア。
 シュリはその頭部から見える触手が目立つが、マントの中には両腕が隠されている。
 その締める力、並大抵ではない。パンチ一発で人を吹き飛ばすほどだ。
 予想以上の強さにミーアも驚く。これでは動けない。

「なんとかうまく、いったようだな……」

 男の声が聞こえる。プライズウェルはミーアの眼前に立っていた。
 ボクサーのガードの姿勢だ。片手にはクロスボウ。
 薬の残骸を踏み潰し、歩を進める。

「な……なにビビってんのよ! そんな守りの姿勢にして!」
「威勢のいいおんなだな。というか『守り』か……そうみえるのかもな」

 プライズウェルは軽く笑いながら、矢じりを彼女に向けた。
 引き金に指をかける。
 間違いない、発射の兆候だ。
 逃げれない。どうする!?
 光る銀色の尖りは、飛び出した。

「ンンンッッッッ……ア゙ア゙ア゙ッッ!」

 あまりの痛みにミーアは声が出た。
 その叫びは薬局中に響くほどであり、そして痛々しかった。
 ただ、致命傷だけはなんとか避けた。
 彼女は自分の尻尾を矢の盾にしたのだ。
 ただ、いくら鱗があるといえど、鉄は弾くことはできない。
 表側かつ、肉がまだ太いところで受けたため、貫通は無く、致命傷ではない。
 それにしても、痛い。
 熱い感覚と鋭い痛覚が容赦なく伝わってくる。
 思わず涙が出てくる。
 こんなのは嫌だ。どうしてこんなことになったのか。
 守っていた尻尾も力なく床に落ちる。
 その先には矢をクロスボウに装填するプライズウェルがいた。

 ただ、攻撃は異なる。

 シュルは羽交い絞めをはがすと、2つの触手でミーアを攻撃した。
 壁に吹っ飛ぶ彼女に、予断を許さず、腹に拳を向かわせた。

「ごおっ……」

 鈍い痛みがミーアを襲う。
 痛すぎて、声すら出ない。嗚咽しかでない。
 そして両手で彼女の首を締める。
 なんとかミーアもシュリの腕を掴んで抵抗する。
 だが、足りない。相手の力が強すぎる。

 プライズウェルの作戦は成功していた。
 クロスボウの装填は単純に次の攻撃のためである。
 彼女を仕留めるのはシュリで十分だと判断したのだ。
 唯一の武器である尻尾も矢によって無力化した。
 無駄に矢を消費するのは意味がない。シュリで片付ける。

 意識が遠のく。首元が締まっていく。
 彼女は空気が薄くなるその最中、男のことを思い浮かべていた。
 来留主公人。彼の愛しの人物だ。
「化け物」と言われる中で一人だけ「女の子」として接してくれた人だ。

(だぁりん……嫌だよ……。こんなところで死んじゃうなんて……やだよぉ……)

 彼女の涙が増える。
 声に出ない悲しみは澄んだ瞳から流された。
 想い人に会えないまま、ここで惨たらしく死んでいくのか。
 そんな悔しさなど全く解さぬよう、シュリは首を締め続ける。
 プライズウェルももちろん、手を緩めない。
 全員の殺害が前提である以上、意味がないからだ。

 ただ、その彼も読めない事態はある。
 第三者の介入だ。

 街灯にワイヤーがかかる。
 振り子のように動くと、そのワイヤーを出した者は大きく跳び上がる。
 薬局の屋上部、そのギリギリ外側に宙に浮く。
 ディパックから獲物を取り出し、振り落す、というより持って落ちる。
 それはハルバード。紫色の絵をした、禍々しい模様だ。
 巨大だ。人間一人を超えるような大きさだ。
 らせん状に何かを巻き付けた持ち手。
 2本の穂先が髑髏を突き刺している。
 素早く腕時計から飛ばしたワイヤーを収納する。

 コンクリートの天井が破壊され、窓ガラスを砕く。
 大きな斧の刃は、プライズウェルに向けられている。

「くそっ!」

 すぐさまシュリの触手で斧を追撃。
 だが弾けない。
 重力に従い、巨大な刃は彼の目の前に降りてくる。

「うおおおおおおおっ!」

 シュリ本体をすぐさま斧に向ける。
 降りかかる刃にシュリは触覚をクロスさせ、ガードした。
 ぶち当たる。金属音が鳴り響く。
 驚いたことにシュリがこちらに落ちてくる。
 重すぎるのか。一体、どれだけの大きさのハルバードなんだ。
 なんとか落ちてくるシュリは逃れた。
 が、プライズウェルの隣に鎧と斧が落ちてくる。
 ガタンと横に倒れたハルバードと、下敷きになったシュリを確認する。
 まだ、外傷もひどくない。十分に動けるようだ。

 シュリの動作確認は簡単である。自らの身体を動かすのだ。
 その体と連動して、腕などは動く。その方が操作がしやすいのだ。
 もちろん、触手や並外れた腕の動きなどは自動でやってもらうしかない。
 そんな動きは操縦者は並大抵の手練れじゃないと不可能だからだ。
 もちろんできるならできるにこしたことはない。
 ただ、動作の確認程度なら、腕を少し動かすだけで可能なのだ。

 シュリを立ち上がらせると、プライズウェルは前を見据える。
 瓦礫を足で踏み、目の前に立つ者がいた。
 先ほど、巨大なハルバートを落としてきた者だろう。
 ボウガンを向けても動じずに立っている、肝の据わった人物。
 おそらく戦士だろう。目つきで分かる。場馴れしている。

 その戦士は、女だった。



「ゼェー……ハァー……ゼェー……」

 首絞めから解放されたミーアは荒々しく息を吸っていた。
 なんとか殺されずに済んだ。どうも助太刀が来たようだ。
 体がうまく動けない。酸素が脳に回らなかったこと、負傷のことも関係している。

(女の人……なの? それも強そうというか……)

 ミーアが見た、その女の眼は鋭かった。
 長髪の金髪に褐色の肌。へそが見えるような開放的な学生服の着方をしている。
 スタイルもいい。バストは大きいがウエストは細い、理想的な体系だ。
 それらが不釣り合いにならないような、整った容姿。
 キリッとした美人である。

 そんな彼女が、今、プライズウェルと対峙している。

(まもりさんでは……当然ないか)

 そう思いながら女・敷島魅零はミーアを見る。
 下半身が隠れているので、まだ彼女をラミアとはわかっていないが、目当ての人物でないことくらいは確認できた。
 その人物は処女まもり。
 彼女はシュリと同じく「エクスター」である。
 それも人工ではなく天然。本来の「エクスター」だ。

 外的な精神的高揚、一例としては「性的快感」により、身体そのものを武器化してしまう。
 これは彼女たちの世界で10代・20代の女性にしかかからない病である。
 発症者は原因であるA-ウイルス(アームドウイルス)から名をとって「アーム」と呼ばれる。
 その中でも自らを武器化できる者が「エクスター」である。
 そして、その武器の力を引き出せる者が「リブレイター」と呼ばれる。
 敷島魅零はそのリブレイターであり、相方であるエクスターを探している、ということなのだ。

 魅零はまもりを探す目的は、単純に相方だからというわけではない。
 彼女の記憶では、まもりは誘拐されたのである。
 誘拐した者は、因縁の人物である相良百華。
 相良百華はこの殺し合いの参加者である。
 だが、まもりは名簿の中にいない。ただ安心はできないのだ。
 言うなれば、彼女は武器である。武器となりうる存在はこの殺し合いにおいてどうなるか。
 つまり支給品だ。彼女が支給品として出されているかもしれない。
 まもりは気の弱い女性だ。その場で利用されてしまうかもしれない。
 もし、百華に支給されてしまったら、それは――。
 考えたくもないことだ。魅零は記憶を逸らす。
 杞憂ならいいが、可能性がゼロという確証はどこにもない。
 だから探さないといけないのだ。
 そう、大事な人のために。

 そこで聞こえた声は女の悲鳴。
 深夜の街中、よく響く甲高い声に、彼女はまもりを思い出した。
 もちろん、声色を考えれば違うだろう。
 だが、それだからと言って悲痛な声を、彼女は無視できなかった。
 誰かがこの殺し合いに乗り、そして殺されかけている人物がいる。
 クールそうな見た目だが、中身は純粋かつ、熱い。
 そんな彼女なら助けにいこうとかけつけるのは当然だった。
 そして支給品のワイヤーが飛び出す腕時計と巨大なハルバードを使い、奇襲を決行したのである。

「あれは……シュリ! しかし人工エクスターと言ってもリブレイターは女のはず……」

 彼女の目の前には人工エクスターであるシュリと、それを操る男。
 店の中が荒れ果てていることを考えると、シュリの力を使ったことはわかる。
 そもそもシュリを使用している者は、この殺し合いの参加者の一人でもあるリブレイターの柊晶のはずだ。
 ということは支給品となったということだろう。
 すると本来の持ち主が愛用の武器などもバラけている可能性があるのだ。
 処女まもりも、その可能性はある。
 ただ、今ではそれは考えないように、魅零は集中する。
 あの女性の首を絞めていたシュリを見る限り、襲ったのはこのクロスボウを持つ男だ。
 人工エクスターの仕組みはそこまで詳しいわけではないが、エクスターというくらいなのだから、女性にしか扱えないはずだ。
 とすると男が使っているのは贋作か、それともそれ専用に改造したのか。
 とはいえ、シュリは並大抵のリブレイターでは倒せない力を持つ。
 今、魅零はエクスターの助力も借りれないし、手持ちにちょうどいい武器はない。
 唯一の武器ともいえるハルバードも重すぎて扱えなかった。
 逆に扱えるのはどんな者なのか……気になるほどだった。

「どこの誰だかしらんが、俺のじゃまをするきか。まあ、どちらにしろころすのは変わりない」
「……」

 魅零に容赦なくシュリは鞭で攻撃する。
 彼女はその攻撃をなんなくかわす。
 その動きにプライズウェルも驚く。見事な身のこなしだ。

(おそらく、戦士かなにか……。めんどうなことになったな)

 後ろには非戦闘状態とはいえ、二人も敵がいるのだ。
 前には、あのハルバードの奇襲をやり遂げた女がいる。
 若干、彼が不利な状況なのだ。
 とりあえず牽制にクロスボウで、撃ちこむ。
 グゥンと矢は飛び、魅零のいる方向に向かう。
 ただ、それも見切られていたようだ。
 魅零は矢を避け、後ろのコンクリートブロックの壁に刺さった。
 そこに触手で追撃。
 魅零の眼前に、左右に襲いかかる紫色の鞭だ。
 片方をステップでよける。
 もう片方が襲いかかる。
 後ろに下がるが、意味はない。
 魅零の腹部にクリーンヒット。そのままのけぞる。
 コンクリの壁にぶち当たるが、なんとか体勢は保ったままだ。

 飛び道具に、鞭の攻撃。
 おまけに相手も武器をそれなりに使いこなしている。
 相手はもしかしたら兵士か何かなのだろうか。
 だとしたら、自分は不利ではないか、と魅零は判断する。

 この状況、双方が自分が不利と思っているのである。
 とすれば、取る行動は慎重になる。
 慎重になった場合、有利なのはプライズウェルだ。
 単純な話、手数が多いほど、防戦は有利なのだ。
 攻撃なら奇襲などで不意をつけるかもしれないが、防戦は不意をつくことはない。
 持っているスペックが勝っている者ほど優位に立てる。
 武器も何もない魅零と、2つ持っているプライズウェルなら、明らかであろう。

 その状況、変わればまた別の話であるが。

 パァン。

 銃声が鳴った。
 残響が薬局内を駆け巡る。
 硝煙の煙が空中を浮かんでいた。
 空気を揺らがしたその音は、当然ながら銃から発せられたものである。
 撃った者は、ボヤッキーだ。
 彼は薬局の棚に下敷きになっていたが、死にはまだまだ至らない。
 ヤッターキングダムで曲がりなりにも戦ってきた男だ。
 それに、ミーアの尻尾を振るったおかげで、上に覆いかぶさっていた棚が飛ばされたのだ。
 だから彼は支給品の携行火器を準備できたのだ。
 幸いにも、彼は器用だし、プライズウェルは店外にいる魅零との勝負に集中していた。
 これがもし、大したことのない敵ならばプライズウェルは火器の準備に気付いていたかもしれない。
 だが相手は魅零、ボヤッキーから見れば「えらい強い美人の女性」である。
 携行火器の手間は相当かかるが、なんとか装弾が完了できた。
 そして発射したのである。
 本来なら命中精度が低い、この中世の火器も、距離が近いせいか、成果があったようだ。
 つまり命中した。
 背中に弾丸があたったのか、プライズウェルはのけぞっている。
 事実、彼は弾の軌道上にいたことは確かである。
 そして鉄の塊が彼の背部に当たったことも確かなのだ。

 しかし、事実が必ずしも結果を呼び寄せるとは限らない。

 それは防弾チョッキ。プライズウェルの4つ目の支給品である。
 衝撃は分散されて到達するため、彼をよろけさせるほどの威力はあった。
 特にボヤッキーの撃った弾は鉛。着弾時に大きく広がるのだ。
 それ故に威力は高いはずだ。
 ただ、致命傷には至らない。
 プライズウェルのその強化された肉体は、まだ十分に動けるものだった。

 シュリの双方の鞭がボヤッキーに襲いかかる。
 ガァインっと銃砲は弾かれ宙を舞う。
 ただ、その火器はボヤッキーがさっき手放したものだ。
 彼の手には日本刀がある。
 金色の禍々しい文字を纏った妖刀・ベッピンだ。
 彼は吹っ飛ばされたものの、その刀は手から離さないままだったのだ。
 2つの触角の攻撃をなんとか受けきる。
 だが威力は変わらない。
 ベッピンは崩れないが、ボヤッキーに対する負担は、そのまま伝わる。
 動きが止まる。
 プライズウェルはそこを見逃さない。
 すぐさまクロスボウに矢を装填。
 相手は刀を持って防戦をするのが精いっぱいなのがわかるからだ。

(もっとも、その防壁もよわい。だからいそがなくても、きっかけさえあたえれば、かんたんにくずれる。それより……)

 魅零の方向に眼を向ける。
 彼女に気を付けさえすれば、ボヤッキーは殺せると踏んだのだ。
 また彼は、魅零と交戦していたもの、立っている位置は変わらないのだ。
 ミーアの状態も把握している。
 どうも彼女はダメージにより、倒れ込んだままのようだ。
 矢が刺さり、みぞおちの強打に、首に対する強い締めつけ。
 相当なダメージだろう。
 もしかしたら、回復のために動かないふりをしている可能性はある。
 だが死んだふりをしているなら、当分は動かないはずだ。
 そこまで気にする必要はない、と彼は判断した。
 魅零をなんとか封じ込め、ボヤッキーを始末することを目的にする。

 そこに、奇襲。
 プライズウェルの眼前には2つの物体がある。
 魅零が投げたようだ。何らかのものだ。
 何らか……それはなんだろうか。
 外は夜で街灯はあるが、明確に見えるわけではない。
 いや、明確に見えているからと言ってなんだろうか。
 例えば果物としても、それを偽装した爆弾でない可能性などはあるだろうか。
 ない。
 特に殺し合いという場だ。そういうダミー武器があってもおかしくはない。
 つまりなんであろうが関係ないのだ。
 自分の元に来るのが一番マズいということには変わりない。
 触手で素早く追撃。
 謎の物質2つを吹き飛ばす。
 見事にそれは破壊され、吹き飛ばされた。
 何もない。何も起きない。
 それもそのはず、魅零が投げたものは「ぬいぐるみ」と「おでん」だ。
 武器ではない。単なる目くらまし。

 それで十分だ。

 魅零は腕時計からワイヤーをショットする。
 黒き堅い紐は闇にまぎれるが、標的は着実に捉えている。
 ボヤッキーの持っている刀である。
 剣の柄にワイヤーが巻かれ、そのまま引っ張られる。
 ボヤッキーの手が弾かれ、まるで宙を浮くように刀が魅零に向かう。
 プライズウェルはそれに気づいたが、もう遅い。
 刃が街灯にキラリと光り、魅零は柄をキャッチする。
 ワイヤーを外し、握りしめ、構える。
 その先にはプライズウェルだ。

「ぶきを持ったていどで、勝てるとおもうなッ!」

 シュリの二本の鞭で攻撃する。
 風の切る音が、ずぅぅっと道路に響く。
 二線。
 魅零が瞬時に刃を振るう。
 鞭に打撃を与え、カキンと甲高い音が2つなった。
 元々、彼女が使っていたエクスターは剣である。
 さらに妖刀ベッピンという業物。使いこなせるとかなりの武器になるのだ。
 そして鞭の効力が消え去る。
 紫の武器は砕け、地面に破片が落ちた。
 今の鞭は単なる短くて、動く何かだ。使い物にならない。
 シュリの2本の鞭も先ほどからずっと酷使していて、疲労していたのだ。
 おまけに巨大なハルバードを高い位置からぶつけられたのだ。
 切れ味が鋭い刀と、剣技の達人の攻撃。
 この2つだけで、折れるには十分な理由となった。

 魅零は武器を失ったシュリに向かって刀を構える。
 攻撃手段が失った今、プライズウェルにとっては不利な状況。
 の、はずだった。
 だが、彼の顔は、まだ余裕のある笑みを浮かべている。
 まだ手ごまがある、と危機感を強める魅零。
 それに対し、プライズウェルは話しかける。

「こんな序盤も序盤でつかうことになるとは、まったくよそうしていなかった。まあいい。どちらにしろ、きさまがしぬことには変わりはない」

 プライズウェルがそう言うと、空気が――変わった。

 オオオオオオオォォォォォォォォォォォ

 高音の、ハモったような声が響く。
 発したものはシュリだ。その機械の口から発せられた奇妙な声だ。
 マントの内部から、剣が飛び出る。
 それも巨大だ。あのハルバードよりは小さいが、それでも人が使えるような大きさではない。
 それらが魅零にいくつも発射される。
 だが、不思議なことに、それは彼女を全く狙いすましてなかった。
 ガッ、ガッ、ガッとアスファルトに刃が刺さる。
 赤き巨大な剣はいくつも、まるで樹林のように魅零を囲った。
 そして目の前には見違えたシュリである。
 そのマントがなくなった姿はスリムで、歴戦の兵士のような体形をした鎧だった。
 これがシュリの真の力である。
 鎧は走りだし、右手で刺さった剣を引き抜く。

(まさか、攻撃する気!?)

 魅零はベッピンを振りかぶる。
 が、その攻撃も守られた。
 シュリは左手で剣を引き抜き、黄金の刀の軌道を破った。
 彼女が一旦引くと、今度はシュリが構えはじめる。
 巨大な剣を二刀流。それも何の無理もなくだ。
 そして一刀を振るう。
 ぐるう、と魅零の横を突き抜ける。
 剛腕。
 その言葉が似合う、素早くも力強い振りであった。
 魅零はなんとかよける。
 あれは受けたらマズい。
 一発で体の部位が離反する。
 魅零はシュリの存在は知っているが、奥の手まではまだ把握していない。
 この形態が見られたのは、フェステでの戦いを見た者だけだ。
 この参加者の中では魅零以外は知っている。
 彼女が外れくじを引いた、と言ってもいいだろう。
 とはいっても対抗しないわけにはいかない。
 横に一刀。
 だが魅零の、その剣筋は止まる。

「……ッッ!」

 刺さっている赤き剣にひっかかったのだ。
 対するシュリは躊躇は一切、ない。
 上から下へ、薪割りのように斬撃が向かう。
 それも二刀同時に。
 受け止められる重さではない。
 すっと魅零は横に転がる。
 剣先はアスファルトを砕く。
 破片がチッと飛んだ。
 ただ、魅零もダメージがないわけではない。
 左腕から血が流れた。
 原因は横にある刺さった剣。
 彼女は立ち上がり、その傷を確認する。
 大した傷ではないが、状況はまずい。
 この無造作に刺さった剣達は、行動を狭めているのだ。
 横の斬撃は難しいことと、避けようとしても剣が邪魔をする。
 剣を引き抜くことも、大きさが大きさだけに困難だ。
 もちろん、逆にいえば相手の行動範囲も限られている。
 攻撃の太刀筋は少ないため、そこの衝突が勝負なのだ。
 その点、巨大な二刀の剛腕は大体の相手ならパワー勝ちする。
 技量で勝負といってもシュリは機械だ。
 この戦闘方法に慣れているし、ベッピンの「捉えられない太刀筋」も意味がない。
 ベッピンの刀身を追えない理由は、その刃に書かれた禍々しい文字である。
 幻惑的な、呪術的な作用がその文字にはあるのだ。
 故に視界がぼやけ、太刀筋を追えないのである。
 ただ、それは人間の場合だ。
 シュリのようなロボットであるなら、その効果は薄い。
 もちろん、プライズウェルが操作するといった人の手が入っているなら、ボヤッキーのよれよれの攻撃でも当たる。
 だが、今は言うなればオートモード。
 シュリは魅零を倒す、という命令のみに動いているのだ。
 倒せるとするなら、実際にシュリを無力化した、並外れた火力。
 それか奇襲、くらいのものであろう。

「これで『的』にできたな……」

 プライズウェルは呟く。
 彼の手にはクロスボウが握られている。
 矢の先は、鍔迫り合いをしている魅零。
 前線はシュリに戦わせて、後方をボウガンで支援する。
 もちろん相手は止まっているわけではないが、行動パターンも限られる。
 読めれば狙って撃つことは造作もない。簡単に仕留められるのだ。

 魅零も当然、その作戦には気付いている。
 伊達に戦場を渡ってきたわけではない。あらゆるところに注意が向くのである。
 ただ、だからと言ってできる対処は今のところ、撃たれないよう動き回るくらいだ。
 シュリを盾にしようとしても、目の前だとパワー負けしてしまう。
 かといって早く逃げるとしても、まわりは剣が道を塞いでいる。
 つまりは相当な判断をして、逃げ回らねばならない。
 それはどういうことかというと、疲れるのだ。
 特に魅零は先ほどから動いてばかりだからスタミナも消費される。
 そして動きは遅くなる。遅くなるなら狙いやすい。
 プライズウェルとしてはこのままの状態で完璧なのだ。

「そこのお嬢さーーーーーーん! 逃げてくださーーーーーい!」

 男の声が聞こえる。
 声の主はボヤッキーだ。魅零もそれを確認する。
 大声をあげる彼はなんと屋上にいたのだ。
 声が聞こえたプライズウェルはボヤッキーがいないことを確認する。

「まだ、あの男、うごけたのかッ!」

 プライズウェルは思わず苛立ちが声に出る。
 しかし、それにしても不可解な行動である。

(おそらく屋上にいるんだろうが、なんのいみがあるんだ? あのシュリをえんごするような武器はもっていないはずだ。あのわたしをうった銃も前時代、それもふるすぎるしろものだ。やくには立たないだろう)

 全くもって不合理な行動である。魅零を応援しにわざわざ体を動かすなどありえない。
 何らかの策があるのだろうが、その策も考え付かない。

(ただ、いえることは、あのおんなに何らかの援護をするということだ……ッ! ならば、そのおんなをころせば問題はない!)

 ボウガンを構え、標準を揃える。
 狙うは刀を持った女戦士である。

「逃げる……って言っても……」

 斬撃を掻い潜りながらも、なんとか考える魅零。
 どちらにしろ、今の状況ではシュリに勝ち目はない。
 いや、厳密にいえばあるのだが、それにしては博打的な要素が高いのだ。
 あの男は「刀を持っている人」くらいのイメージしかないが、とりあえず頼るしかない。
 ただ、この剣の空間から逃れるのは厳しい。
 シュリはうまく動きながら、その空間から逃げないようにしているのだ。
 この戦闘方法はシュリは完璧に熟知しているのだろう。
 その状態で逃げるというなら――。

(上だ!)

 攻撃を避け、赤い剣を足で踏む。
 柄をジャンプで踏み抜け、上空に飛ぶ。
 コンクリートの壁にベッピンを突き刺した。
 腕の力で体をあげて、刀の柄を蹴りあげる。
 今、魅零は上空にいる。
 シュリの攻撃の範囲にも入らない「逃げ場所」だ。

「逃げたぞ! 一体何をする!?」

 ボヤッキーに向かって叫ぶ魅零。一体何があるのか。
 それに応えるよう、ボヤッキーは声をあげる。

「それは見ての、お楽しみです!」

 そういうと彼は「よっ」と声をあげながら投擲した。
 暗闇だから何であるかわからない。月の明かりでは不十分だ。
 わかるのは、何かがシュリに向かって飛んでいくことだ。

 着弾。

 ドッグォォォォォーーーーンッッッ!

 爆発。
 爆音。

 間違いない。それは爆発したのである。
 爆音は響き、シュリを吹き飛ばす。
 魅零は避難したおかげで傷一つないが、驚愕は残る。
 アスファルトまでは破壊されていないようだから、軽度の爆発物のようだ。
 ただ、そんなものを何故持っていたが、なぜそれで対抗しようとしなかったのか、と魅零は不思議に思った。
 その答えは単純なものである。ボヤッキーは爆弾を『作った』のだ。
 事実、薬局には爆弾を作るための材料が揃っている。
 ヘキサニンは利尿剤。過酸化水素は消毒剤。美容にも使える尿素。
 ざっとあげただけでも、これだけあり、材料は十分なのだ。
 だとしたら、必要なのは過程。
 ボヤッキーが爆弾を作る手間暇は刀を奪われた後にあった。
 確かにプライズウェルはボヤッキーとの戦いは必要なしとして、魅零との戦いに集中していた。
 ただ、短時間。一時間も、いや数十分も経っていない。
 それでも可能なのはボヤッキーの驚異的な技術力である。
 ありあわせのもので目覚まし機器を作れるくらいだ。
 今回は携帯火器や瓦礫、薬品を使って雷管や信管も作り上げた。
 銃砲の形を活かして、鉄パイプ爆弾の要領で武器にした。
 常識的に考えればありえない。
 ただボヤッキーは常識から、かけ離れた力を持つのだ。

 シュリといえど機械であることには変わりない。
 その頑丈な身体は軽度な爆弾では微々たるダメージしか与えられなかった。
 だが、コンピュータで動いていることに代わりはない。
 現在、シュリの目的は魅零の排除である。
 そこに奇襲、そして強い衝撃である。
 たとえ、それが致命傷にならなくても「思考が止まる」のだ。
 情報を正確に処理するためには、いくらかの時間をかけねばならない。
 そこがチャンスだ。

「なにッ!」

 プライズウェルは驚く。
 クロスボウで牽制さえすれば、シュリが再起動するまでの時間は作れると思っていた。
 だが、違う。異なる。
 目の前の女は速すぎる。速すぎるのだ。
 先ほどのシュリと戦っていた彼女とは大違いの、速さである。
 片目は青く、血走ったような白い血管線が見える。
 それが本当に血管なのかどうかはわからない。
 ただ目の前の女の脅威さが滲み出ていることが確かだ。

 エンハンス処置。
 ざっくりと説明すると「改造人間手術」である。
 詳しくいえば身体の部位をアーム化できるのだ。
 魅零がリブレイターである以上、その身体能力も向上する。
 だから速いのだ。少なくとも先ほどの速さの比でない。
 何とか撃ったボウガンの矢もあっという間に弾かれる。
 ベッピンの振りも高速だ。
 あっという間に距離が詰められる。

「な……めるなァッ!」

 プライズウェルは頭に被っていた王冠を投げつけた。
 それは武器ではないが、ところどころが尖っていて危ない。
 薙ぎって王冠も斬り払う。
 予想以上の斬れ味。
 ちょうどいい。
 魅零は先に進む。
 次に魅零の目の前に向かってきたのはクロスボウだ。
 ボウガン自体を投げつけてきたのである。
 武器自体が飛んでくるのである。
 それはアーム化した手で薙ぎ払う。
 せっかくの飛び道具だ。斬り捨てるにはもったいない。
 魅零は先に進む。
 またもや彼女の眼にはあるものが飛び込んだ。
 それは武器ではない。
 だが、危機である。

 プライズウェルは矢を持っている。
 向かう先は、倒れているミーア。
 その矢を握りしめ、振り下ろすように襲いかかる。

 彼女を殺す気だ。

 魅零はプライズウェルの背中に飛び込む。
 成人男性の軍人と女性とでは体格差がある。
 足で腰部を堅く挟み、羽交い絞め。
 両手をアーム化し、首の裏をきっちりと組み合わせる。
 その状態だと手首を下に下ろせないのだ。
 しかも堅い。
 改造人間の彼であっても外すのが困難である。
 ならばそのまま前に倒れるしかない。
 それならば勢いで刺せる。
 ただ、そのためには腰や足の動きで倒れるしかない。
 腕の注意は止まっている。
 ハンマーロック。
 背中に腕を引っ張り、捻りあげる関節技である。
 腕と肩関節は極めている。
 それを矢を持っていた腕にかけた。
 しかもアーム化した腕である。
 強すぎる。とても外せるものではない。
 プライズウェルはそのまま体重に乗せられる。
 そのまま、地べたに這いつくばった。
 完全に無力化の姿勢である。
 このままチョークスリーパーに移行すれば、アームの力で簡単に落とせる。
 その前に刀を確認する。
 それは飛び込む際に一旦手放した、ベッピンである。
 そのタイミングと同じ時に、声が聞こえた。

「お嬢さんっ! 危ないーーーーっ!」

 ボヤッキーの声である。
 そしてその状況もわかっている。
 魅零の目の前には最大の危機が訪れていた。
 シュリが眼光を照らしていた。

 全ては時間稼ぎである。
 プライズウェルがくじ引きを投げたり、ミーアを刺そうとしたのも、全てシュリの再起動のためだ。

(シュリは爆弾のこうげきを受けたが、こわれたわけではない。エラーをおこしているだけだ。もちろん、まったくダメージがないわけではないが、うごけるだろう)

 というか、プライズウェルはそう信じるしかなかった。
 武器はクロスボウのみ、相手は身体能力が向上した剣術の使い手。
 いくら自意識が高い彼でも勝算は見えなかった。
 だから「再起動するだろう」という望みをかけて、行動するしかないのである。
 その、合理的だが虚しい最終手段ともいえる行為は、成功した。
 魅零の特性である。

 彼女は、人を殺せない。
 いや、正しくは「殺せなくなった」というべきか。
 AAA機関。
 彼女の世界にある、世界政府が設立した機関である。
 主な任務は世界平和、つまり治安維持。
 紛争鎮圧のための兵器の行使等も入るのだ。
 その「兵器」が敷島魅零であった。
 エンハンス処置を受けた彼女は「ソルジャー」と言われていた。
 当然、治安維持で武力を行使することもある。
 つまり人も殺すこともある。
 彼女はかつて人を排除していたのである。
 だが突然、殺せなくなった。
 それは戦いの中で性格が突然変わったのか、良心を持ってしまったのか、どちらかはわからない。
 実際、第二次大戦中のアメリカの調査では兵士の8割は敵に向かって発砲していないという。
 それくらい人は「殺し」ということに拒否感を感じるのだ。
 魅零も途中で割り切れなくなったと考えてもおかしくない。

 だから日本刀でプライズウェルを殺さなかったのだ。
 攻撃はするが殺しはしない。その甘さが時間を稼がせた。
 シュリは再起動し、魅零を排除するように命令する。

 ボヤッキーが気付いたといえ、その行動は早かった。
 剣がないことで軽量化され、すぐに魅零のそばに寄る。
 武器ならば、その場にあった。
 斧である。
 巨大なハルバードだ。
 魅零が奇襲をかけた時の巨大すぎる斧である。
 人間が持つのには難しい。
 だがシュリは剛腕だ。
 あの赤き巨大な剣を二刀流で扱えるほどだ。
 ハルバードもまた、片手で持ち上げる。

「くっ!」

 魅零はベッピンを見た。
 その刀はシュリによって柄を蹴られる。
 ぐるりぐるりと回って、シュリの後方を緩く走る。
 届かない。
 獲物を奪われたのである。
 どうするべきか。
 このままプライズウェルを落とすのが速いか。
 それとも自分が斬られるのが速いか。
 操作者の意識を遮断すれば無力化できる。
 そのまえに自分が殺されれば、目の前の倒れている女は死ぬ。
 助けてくれた男も死ぬ。
 シュリは上へ大きくハルバードをあげた。
 それも両手できっちりと、頭の上に構える。
 剣道でいうところの上段の構えだ。
 反り返った刃が、暗闇の中、光を照らす。

 だが振りかぶらない。
 止まったまま。
 それは不動のまま。
 魅零はわかった。
 その姿勢は意識が失っても「落ちてくる耐性」なのである。
 つまりプライズウェルが失神しても、魅零に危機が訪れる。
 そのハルバードはシュリの支えを失い、自分に向かって襲いかかる。
 一撃だろう。
 同時に、それはプライズウェルも死ぬ恐れがあるということだ。
 あの巨大なハルバードをあの高さからでは、二人を切り裂くだろう。

「とりひきだ。このまま私のこうそくを解けば、これ以上はこうげきしないと約束しよう」

 プライズウェルが口を開いた。
 拘束しているのだが、相手は余裕そのものである。
 状況が状況だけにだろう。魅零は返す。

「お前が攻撃してこない保証はどこにある……? あの人工エクスターは強力な破壊手段のはずだ」
「保証? そんなものはないに決まっているだろう。これは、めいれいだ。私をころしても、結局、おまえはしぬだけだ」

 ロクでもない挑発、そして脅しだ。
 どちらにしろ死ぬかもしれないので条件を飲めとは、結局殺すという事ではないか。
 打開策が必要である。
 こちらはプライズウェルを拘束している。
 相手は自分をハルバードで確実に殺そうとしている。
 プライズウェルを無力化しても確実に殺される。
 もちろん、抵抗しても殺される可能性は高い。
 それに1つ、魅零には危機的な状況がある。
 エンハンス処置によるアーム化には時間に限界がある。
 長時間続けるには抑制剤がないと、身体の負担が激しくなってしまうのである。
 なのでこの駆け引きに時間は稼げない。
 どうするか。どうすればいいのか。
 困惑する。魅零の中は困惑の状態である。
 勝ち得るには、他の手が無ければならない。

 手は尾であった。

 それは巨大な蛇の尾である。
 赤く人間大の大きさを持った尾が、魅零の隣を通った。
 ぐるん、と斧を持ち上げるシュリを巻く。
 強固な締め付けがシュリの身体を固める。
 そして宙に浮く。
 矢が刺さった傷から血が噴き出す。

「痛ッ……たァ……ッッ」

 ミーアは思わず声に出す。
 先ほどの傷が響いている。
 力を入れればその分、痛みも傷も増してくる。
 だが、耐える。
 耐えなければならない。
 彼女はそのまま、シュリを持ち上げる。
 エクスターは宙を浮く。
 そのまま、横に向かって投げつける。
 グオン、と巨大な鞭が鳴った。
 その攻撃の徴候に気付いた魅零は、プライズウェルの背中に覆いかぶさる。
 彼女の後ろを風を切る音が通り過ぎる。
 シュリはもがく。
 エクスターの目的は魅零の排除である。
 それを実行ができない状態にいるのだ。
 もがくしかない。
 ダメでもやるべき行動はとって、ベストを選ぶしかない。
 シュリはハルバードを投げつける。
 巨大な刃が飛んでいく。
 方向は、魅零だ。
 そしてその先には、あの巨大な尾を持った女性だ。
 シュリを投げ捨てた赤髪の女性だ。

「うおおおッッ!」

 魅零は立ち上がり、両腕でガードする。
 あの巨大なハルバードを守れるかどうかわからない。
 だが向かわせてはいけない。
 自分のことを助太刀してくれた女を。
 その者の仲間であろう、上にいる男も。
 自分を助けてくれた人間を手助けしなければならない。
 両腕は黒く染まり、硬質化する。
 頭を守るように固くガードした。
 ピーカブースタイル。
 アーム化した鎧のカーテンである。
 刃が襲いかかる。

 ドォン。

 衝撃。
 その衝撃は両手に伝わる。
 重たさがアーム化した腕でも感じる。
 魅零は大きくのけぞり、壁に背を置く。
 だが守りきった。
 ハルバードは下に落ちる。
 ガン、という鉄の音がしたとき、彼女は眼前を確かめた。
 シュリはまだ動いている。
 こちらの排除のために、まだ攻撃する気だ。
 耐えられるか。
 疑問が浮かぶ。
 先ほどのアーム化もあってか、負担を感じる。
 体が持つかどうかわからない。
 本来ならもう、アーム化も切らねばならない。
 それであのエクスターに勝てるのか。
 無理だろう。
 第一、エンハンス処置の力を活かしても勝てるかどうか、定かではない。
 彼女は時計からワイヤーを、瓦礫の上にあるベッピンに向かって発射する。
 シュリはこちらに向かって走ってくる。
 どっちが早いか。
 さながら西部劇だ。
 シュリが近づく。
 ワイヤーが飛ぶ。
 シュリが近づく。
 ワイヤーが柄を掴み始める。
 シュリが近づく。
 ワイヤーが柄を巻く。
 シュリが近づ――。
 飛んできたのは薬品の入った瓶。
 割れるガラスがシュリの額に向かう。
 投げたのはボヤッキーだ。
 そこらから拾ったものを投げつけた。
 そんな深刻なダメージがあるわけではない。
 だが、シュリは自分を攻撃された方向を確認する。
 つまり攻撃が一瞬、遅くなる。
 ワイヤーは日本刀を引き寄せる。
 シュリが足を踏む。
 ベッピンは魅零の手に握られた。
 手足をアーム化し、彼女は走る。
 シュリは彼女に殴りかかる。
「アーム化した女が振るう日本刀」と「アームが振るうパンチ」はどちらが先か。
 魅零が攻撃を避け、斬りこんだ。
 頭部に向かって鋭い一線。
 機械といえど、頭部は重要な位置である。
 壊れれば無事では済まない。
 斬撃はシュリの頭部に深い傷を与えた。
 その王冠のような顔から火花が飛ぶ。
 二太刀目を入れようとしたとき、魅零は気付く。
 プライズウェルはどこにいった。
 守るためとはいえ、自分は拘束を解いてしまった。
 周りに目くばせして、確認する。
 もう遅かった。

 ミーアの胸には矢が刺されていた。

 プライズウェルはミーアを憎む。
 自分のせっかくの生み出した状況をあの女が不意にしたのである。
 何なのかもよくわからない化物が、自分の道を塞いだ。
 許せなかった。
 彼の高い自尊心はボウガンの矢を握らせ、襲いかからせる。
 対するミーアは、もう体力的に余裕はなかった。
 人間に置き換えれば彼女は、矢の刺さった右足でハイキックや三角締めをしたということになる。
 しかも彼女は戦闘民族でもない。
 ほんのちょっと、力が強い、恋する少女なのだ。
 痛みにだって慣れてない。疲労にだって慣れてない。
 その気力と勇気を振り絞った攻撃をした時、彼女の体力は追い詰められていたのである。
 プライズウェルの矢の攻撃も止めることは、できなかった。

「貴様ァーーーッ!」

 魅零は怒号をあげる。
 その表情は血管を浮かばせ、使用限度が近いはずの彼女のアーム化は加速していく。
 日本刀を構え、二太刀目をプライズウェルに向ける。
 それをシュリは見逃さない。
 踏みこんだ足と、右ボディフロー。
 魅零の腹へ、一直線に拳が進む。

「が……は……っ!」

 アーム化していない腹部へ、人工エクスターの打撃。
 その威力は計り知れない。
 だが、みぞおちは運よく避けれた。
 シュリの処理能力も、頭部への打撃のおかげで落ちているのだろう。
 まだ立てる。
 彼女は日本刀を床に刺し、杖のように倒れそうな体を支える。
 だが、シュリは冷静なままだった。
 ハルバードを持ち上げ、魅零に向かう。
 そう、そのシュリが居る場所は、弾いたハルバードが落ちたところなのである。
 両手でしっかりと握りしめ、シュリに向かって構える。
 床から日本刀を抜くのはロスタイムだった。
 振りかぶるため、大きくシュリは腕をあげた。

 赤き尾は、まだ死んでいなかった。
 シュリの足元は、ミーアの尾に弾かれる。
 バランスが崩れ、エクスターは後ろに倒れる。
 上へ構えられたハルバードは、重い方が後ろへ回る。
 つまり、刃である。
 巨大な刃が後方を襲う。
 そこにいるのはミーア。
 そしてプライズウェルである。

(クソッ! この女、よけいなことを!)

 彼は心の中で悪態をつく。
 危険的な状態。逃げるしかない。
 だがそれも、防がれる。
 ミーアは転ばすために軽く巻いた尾を、プライズウェルに向かわせた。
 彼は逃げられず、その赤い尾に体を締めつけられる。
 抜け出せない。なんて力だ。
 ニシキヘビは強い力で相手を締めつけ、窒息死させる。
 その締めつける力は人間一人ではどうしようもないほどだ。
 しかもミーアの尾は、そのヘビより大きい。
 いくら手負いでも、いや瀕死でも、プライズウェルが簡単に脱出できるものではない。

「ふざけるなッ! きさまらのような、みたことのないような劣等民族にわたしがころされるいわれはないッ! みとめない! こんな状況はみとめな――」

 彼の叫ぶ口をハルバードが引き裂く。
 顎を引き裂き、首輪の下を刃が通り過ぎる。
 紅の尾も赤き血を吹きだしながら、切り裂かれていく。
 刃はプライズウェルの防弾チョッキさえも破壊し、肉体を貫く。
 骨を砕き、内臓を破壊し、生命を遮断する。
 文字を断とうとした男は、身体を断たれたのだ。



【プライズウェル=シティ=スリッカー@ヘヴィーオブジェクト 死亡確認】

残り162人。


 視界はまだ正常だった。
 だが体に不思議と力が入らない事を、ミーアは感じている。
 全身の至る所が痛かったのに、熱かったのに、今じゃ何も感じない。
 感じる余裕もないくらい、身体が動かないのか。
 それは「死ぬ」ということなんだろうか。
 目の前に倒れる男と、倒れた機械とハルバード。
 それらが視界から外されると、2人の男女が見えた。

(おじさんと……女の人だ……)

 2人は何か自分に声をかけている。
 わからない。耳さえも聞こえない。
 感覚がなくなっていくのがわかる。

(そっか、死ぬんだ、私)

 身に近づく死を彼女は感じていた。
 だが不思議と悲しくない。
 何故だろう。
 多分、あの目の前の戦っていた女の人を助けたからだ。
 だから不思議な満足感がある。
 実際は何もやり遂げてない。
 後悔だって十分にある。
 だけど、哀しさはないのは、おそらく錯覚だろう。
 それでも、それはアリな気がした。
 後悔を感じないまま、死んでいくのも悪くない、くらいに思える。
 さっき、自分が死ぬと思った時は怖かったのに、いざ死んでみるとなると、真逆の感情だ。
 自分の感情だがミーアは不思議だと思った。

「だぁりん……私ね……女の人を助けたんだ……。私……死んじゃったけどね……けどね……だぁりんは……生きててね……絶対だよ……絶対……」

 ミーアの口からは、そんな声が出ていた。
 彼女自身も気づかない、言葉だった。
 心の内から噴き出した、願いだった。

 ―――好きだよ、だぁりん。



【ミーア@モンスター娘のいる日常 死亡確認】

残り161人。



 ボヤッキーは今、1人だけ立っていた。
 ミーアの亡骸の外傷は、ハルバードがあってもそれほどひどくなかった。
 後方の防弾チョッキまでは刃は突き通せなかったのだろう。
 だからミーアの上半身にあるのは胸元の矢傷だけである。
 ただ、下半身の尾は引き裂かれ、千切れかけ、壮絶な戦いを示していた。
 心配していた魅零もまるで電池が切れたように倒れる。
 アーム化の酷使に、過激な戦闘。抑制剤なしの今では仕方のないことだろう。
 だから立っているのは彼だけである。

「だぁりん……ですか」

 誰かはわからない。おそらく男性なのだろうが、彼女の知り合いの情報は全く聞いてなかった。
 わかるのは、彼女の名前がミーア、くらいということだ。
 それでも、伝えなければならないだろう。
 彼女が呟いた、その希望を伝えないといけない。

「拝借……しますね」

 回収するのは彼女のバック。何か手がかりがあるかもしれない。
 そして……クロスボウ。
 あの男が持っていた、憎き武器だ。
 しかし、ここで放置していても、仕方がない。
 彼はそれを自分のバックに入れる。
 重さは全く感じない。
 だが、それが彼を思い出させる。
 殺し合いを始めたドクロベエという邪悪。

「待っていてください……ミーアさん。必ず奴を……この殺し合いを破壊してみせます」

 1人の機械工は、月を見ていた。
 ちょうど、雲に隠れている頃である。


【一日目・午前0時30分頃/D-1・街中(薬局)】

【ヴォルトカッツェ(ボヤッキー)@夜ノヤッターマン】
【状態】疲労(中) 身体全体にダメージ ドクロベエへの怒り
【装備】クロスボウ@純潔のマリア(0/1)
【道具】予備矢(残り6本)@純潔のマリア くじ引き@城下町のダンテライオン
ボヤッキーのドライバー@夜ノヤッターマン スタミナドリンク@アイドルマスター シンデレラガールズ
ミーアの作ったお粥@モンスター娘のいる日常 ダンディくん@城下町のダンテライオン
ミーアのディパック 通常支給品×2
【思考】基本:殺し合いを破壊し、ドクロベエを倒す。
1:ドロンジョ様とトンズラーと合流したい。
2:知らないお嬢さん(魅零)をどうにかしないと……。
3:首輪を解析するための道具が欲しい。


【敷島魅零@ヴァルキリードライヴ マーメイド】
【状態】昏倒状態 疲労(大) 腹部に打撲 左腕に切り傷
【装備】妖刀「ベッピン」@ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン
【道具】ルパンの腕時計@ルパン三世 通常支給品
【思考】基本:とりあえず、まもりさんを探す。
1:…………………………………。


※携帯火器@純潔のマリアとその予備弾薬はボヤッキーが爆弾の材料にしました。

※シュリ@ヴァルキリードライヴ マーメイドは機動停止中。
損傷はありますが、なんとか治せばいけるかも。鞭は折れてます。

※ネコロンブス@干物妹!、うまるちゃんとおでん@おそ松さん、王冠@城下町のダンデライオンは破壊されて、放置されてます。

※ロゥリィのハルバード@GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えりは放置されています。

※防弾チョッキ@現実は損傷し、プライズウェルの死体に装着されています。

※薬局の入口付近は破壊されています。
 近くの本屋も内部はかなり破壊されています。


【携帯火器@純潔のマリア】
昔ながらの銃。火縄銃より使いにくそう。

【くじ引き@城下町のダンデライオン】
櫻田家で家事を決められるくじ引き。

【妖刀「ベッピン」@ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン】
神話級ニンジャサンダーフォージが作り上げたカタナ。
鋼鉄にニンジャの左薬指とか生き血とか入れてるのでめっちゃ丈夫。
漢字とかカタカナとかが禍々しく書いてて、そのおかげで太刀筋が読めない。
ハイクはすごい。あと斬った相手のニンジャの魂を吸収できる。
この殺し合いでも強い相手なら効果があるかも……?

【シュリ@ヴァルキリードライヴ マーメイド】
人工エクスター。ぶっちゃけロボ。元の持ち主は柊晶。
触手を伸ばしたり剣術が使えたり、剣が内臓されてたりする。

【防弾チョッキ@現実】
織田様も持っていた代物。撃たれるテストしてる動画を見ると痛そう。

【王冠@城下町のダンデライオン】
櫻田家で王の者が被る王冠。

【クロスボウ@純潔のマリア】
ボウガンみたいなもん。百年戦争では強かったらしい。

【スタミナドリンク@アイドルマスター シンデレラガールズ】
一話あたりで出てきたと思うドリンク。今回のイベントは諦めました。

【ミーアの作ったお粥@モンスター娘のいる日常】
見た目は普通のお粥。食べるとヤバい。ラミアは味が鈍いかららしい。

【ボヤッキーのドライバー@夜ノヤッターマン】
ボヤッキー愛用のドライバー。これで巨大ロボとかをスクラップから作れるのはすごい。

【ダンディくん@城下町のダンデライオン】
ピンクのライオンの人形。あんまりダンディじゃない。

【ルパンの腕時計@ルパン三世】
ルパンが持っている腕時計。高級時計っぽい。ワイヤーが飛び出す。

【ネコロンブス@干物妹! うまるちゃん】
うまるが持っている抱き枕。実際に商品化されてる。

【おでん@おそ松さん】
チビ太が売っているおでん。あの三角に丸に四角みたいなやつ。

【ロゥリィのハルバード@GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり】
ロゥリィの持つハルバード。めちゃくちゃ重くて、成人男性が数人で抱えられるようなもの。

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最終更新:2016年08月08日 23:11
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