きょう‐じん〔キヤウ‐〕【狂人】
精神に異常をきたした人。
◆◆◆
『新都 中央精神病院』の待合室は異常な気配に包まれていた。
それもそうであろう、ソファに腰掛ける首輪を付けられた老若男女様々な『狂人』達は銃を持った『精神科医』に囲まれていたのだ。
何十分、何時間、いや5分も立っていなかったのかもしれないが、緊張が続いていた。
『狂人』達は自分たちに下される、もしやすると死刑宣告になるやもしれぬ『診断』の結果を待ち続けているのである。
「すいません、お待たせいたしました」
20分ほど経っただろうか、微笑を浮かべた『精神科医』が待合室の中へと現れた。
「…………」
『狂人』達の間には緊張が走っていた、何せ『A級狂人』であると『診断』されてしまえばその一生涯を鉄格子の付いた病室で過ごすことになるのである。
「それで診断なのですが……」
ゴクリ、何人かの『狂人』が唾を飲み込んだ。
「……おめでとうございます!」
パァ、そんな効果音が出そうなほどにその言葉を聞いた『狂人』達は笑顔を浮かべていた。
もっとも、その次に『精神科医』が言う言葉を聞くまでだが。
「皆さんは『S級狂人』であると診断されました、これから皆様には
殺し合いをして頂きます!」
「…………?」
事態が飲み込めない、そのような感じで押し黙る『狂人』達。
「聞こえませんでしたか?今から皆さんには殺し合いをして頂きます!大事なことなので2回言いました!」
笑劇的衝撃、
あまりに突拍子なその言葉は『狂人』達の脳を神経毒の様に麻痺させていった。
沈黙が続いた。
この異常事態を質の悪い冗談であると確認するための情報を『狂人』達は『精神科医』に求めていた。
「えー、静かにしていただいて下さって、本当に有難うございます。おかげで説明のほうがスムーズにいきそうです」
そう言って、『精神科医』が続けた説明は、この発言がけして質の悪い冗談ではなく、異常で正常な『真実』であると『狂人』達に理解させていった……
曰く 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる
曰く 参加者があらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収(義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない)
曰く 『殺し合い』の会場の配置先はランダムである
曰く こちらから『殺し合い』に必要な物資とランダムな武器を支給する
曰く 『能力』には制限が掛けられている
曰く 24時間死者が出ない場合は『診断』の際に付けられた首輪が爆発し、全員が死ぬ
曰く 一定時間ごとに禁止エリアと死者を発表する放送を流す
曰く 禁止エリア内にいると、首輪が自動的に爆発する
曰く 以前名乗っていた名前を名乗ることは禁止し、こちらで用意した『患者名』を名乗ること
「そして、何よりも大事なのは……」
『精神科医』が1拍置くと同時に、『狂人』達が息を呑んだ。
「この『殺し合い』の優勝者には、『精神科医』になる権利を差し上げます!」
…………『狂人』達に衝撃が走った
『精神科医』と言うのは支配者層であり、
彼らの様な『狂人』には『診断』や『治療』等で関係を持っても、"なる"等と言うのは月と太陽程にかけ離れた言葉であったからだ。
「……ああ、嘘じゃありませんよ、『精神科医』は支配者層なので『一般人』ではなれないのです。
と言ってもあなた方は『狂人』なので私の言葉を素直に信じてくれないかもしれません」
そう言って、懐から何らかの機械を取り出す『精神科医』。
「そこで飴の前に、鞭を直接見せることにしました」
ボン、枕に向けて銃を撃ったような鈍い音がして、
『患者名 生贄に捧げられた男』の首輪が爆発した。
飛び散る血、脳髄、肉、骨、髪のついた皮膚。
悲鳴は……上がらなかった。
「さすが『狂人』の皆さん!この事態にも動じない!素晴らしい!清々しいまでに人間の屑です!」
『精神科医』は声を上げて嗤った。
「まぁ、デモンストレーションも見てもらいましたし、そろそろ『会場』に移ってもらいましょうか」
バタバタと『狂人』達が倒れていった、周囲には白い煙が漂っている。
「それでは!『治療』を始めましょう!」
【生贄に捧げられた男 死亡】
【残り 43人】
最終更新:2009年12月08日 20:05