彼(あるいは彼女)は戸惑っていた。
気がつくと見知らぬ場所――西洋風の装飾が施された、巨大な部屋――に居て、
そのうえ体が椅子に座らされたまま動く事もできないのだから当然だろう。
頭を動かすことすら出来ない、彼/彼女に与えられた自由は唯一、瞬きのみ。
強制的に固定された視線の先には豪奢に飾り立てられた椅子と、それに尊大に腰掛ける黒衣の男の姿があった。
「さて諸君、目が覚めたかね?」
目前にいる老若男女、全員が目を覚ましたのを見計らって、男は口を開く。
「すでに見知っている者も居るだろうが……私の名は大魔王ウォルラープ。
今宵、貴公等に集ってもらった理由はただ一つ。
我が肉体の完全なる復活の為の、贄としての役割」
男の放つ不穏な言葉に、数人の人間が顔を青ざめさせる。
「貴公等には最後の一人になるまで互いに殺しあってもらう。
そして残った一人には帰還の権利と、好きなだけの褒美を与えよう。
どのような褒美でも構わない。
完全となった私の力でいかなる願いでも叶えてやろう」
どんな願いでも叶える。
その言葉は毒のように彼ら/彼女らの心に投げかけられる。
「それから、私に刃向かおうなどとは考えぬ事だ。
貴公等の首には枷として首輪をつけてさせてもらった。
私に反逆などすれば……たちまちに貴公等の首は弾け飛ぶだろう。
さらに無理に外そうとするのは勿論、
朝、昼、夜の放送毎に読み上げられる禁止区域に侵入しても同じ事だ」
そこまで口にして、大魔皇はゆっくりと目の前の者たちに視線を巡らせる。
そして、彼ら(もしくは彼女ら)の顔に浮かんだ、ありとあらゆるネガティブな感情に満足げに頷くと徐に宣言した。
「それでは儀式を始める……貴公等の健闘を祈っているぞ」
言葉とともに、そこにいた全ての者たちが次々と消え始める。
やがて、暗く広い謁見の間には、大魔王のみが残された。
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最終更新:2010年01月02日 12:58