「どうして」
鞄から出てきた名簿を手に、俺は思わず呟いていた。
皆原雪菜、渡辺昌子、明智拓馬、一条和樹。
俺の名前――須藤真一の後ろに並ぶのは、見知った四人の名前。
「皆原……」
俺みたいな社会不適合者にも、優しく接してくれるクラスメイト。
とても暖かい、陽だまりの様な、俺の憧れの人。
「渡辺……」
いつも明るい後輩の少女。
俺の事を好きだと告白してくれた、女の子。
二人が死ぬことなんて、考えられないし、許したくもない。
拓馬や和樹だってそうだ。
幼稚園時代からの腐れ縁をこんなところで終わらせるなんてありえない。
けれど、その想いとは裏腹に俺の脚は動き出そうとはしなかった。
もちろん、拓馬達と合流したい、皆原や渡辺を守りたいという気持ちに嘘は無い。
なのに足が動かない理由を俺は知っている。
『俺、皆原さんの事が好きだ』
ここに来る直前、拓馬から言われた言葉。
『そうやって答えを出さずにいるつもりか?
今まで通りの関係って幻想にすがり続けて、最低の逃げを繰り返すつもりなのか?』
それは胸の奥にある小さなしこり。
『お前は最低だ』
自分でもわかっていた。
少なくとも渡辺に告白された時点で、俺は選択しなければならなかった。
だけど、俺は二人の優しさに甘えて、甘え続けて、二人を傷つけ続けた。
俺が優柔不断な所為で。
もちろん、今はそんな場合じゃない事くらいわかっている。
でも、あの日の答えが出ない限り、俺は……
不意に、風が吹いた。
背中への衝撃と共に、世界が反転する。
背後から襲われた。
そう気付いたときには、すでに俺の体は硬い地面へと押し付けられていた。
「無駄な抵抗はせずに私の指示に従いなさい、いいですね」
同時に頭上からかけられる女性の声。
首筋に突きつけられた硬く冷たい感触に、俺は首を縦に振るしかなかった。
「待ってくれ、俺は
殺し合いなんてする気は」
「静かにしなさい」
俺の弁解をあっさりと切り捨て、女性はそのまま俺を地面から引きずり起こす。
「ゆっくりこちらを向いてください」
言葉と共に俺の首から刃物が離れる。
おそるおそる振り返ると、そこには妙齢の女性がカッターナイフを手に立っていた。
年は俺より少し年上、なんだろうか?
夜闇にも目立つ白っぽいワンピースのような服に身を包み、彼女は無表情でこちらを見つめている。
「あの、ほんとにあなたに危害を加えるつもりなんてないですから」
俺の必死の弁明にも関わらず、言葉は帰ってこない。
女性は眉一つ動かさず、俺をじっと見つめている。
ひょっとしなくても、こちらを警戒してるのだろう。
確かに、俺は爽やかな好青年というタイプではないので疑われても仕方はないが……
(やっぱり、ショックだよな)
などと俺がへこんでいると、空気を読んだのか女性が声をかけてきた。
「失礼、私は葛木出羽といいます。
このような環境なので過剰に反応してしまいました、申し訳ありません」
「いえ、別に気にしてないんで……あ、俺は須藤真一っていいます」
そうやって心の内を隠しながら自己紹介を返す俺を、女性はやはり表情を変えずにじっと見つめている。
「えっと、その……」
微妙な空気だった。
こんな状況でなければ逃げ出しているところだが、今ここで逃げて何かしら誤解されるのも嫌だった。
(だけど、こんなのが続くんだったら、いっそ……)
なんて考えているときだった。
唐突に……本当に唐突に、葛木さんがこちらに話しかけてきたのだ。
「須藤さんは、お知り合いの方はいらっしゃるんですか?」
「え? あ、はい、友達が四人いました」
「そうですか……私は、一人も知人が巻き込まれていないようなので、そういうものなのかと思ったのですが」
そう言って、彼女は言葉を途切れさせる。
しかし、それも一瞬の事で。
「では須藤さん、もしよろしければ一緒に行動していただけませんか?
一人ではやはり、心細くて」
「それはまあ、もちろん……いいですよ」
同意する俺に葛城さんは、表情を変えずに『ありがとうございます』という、
そうして、俺たちは共に行動することになったのだった。
(……理解できませんね)
目前の人間に謝礼を述べながら、『それ』は葛木出羽という殻の中で一人ごちた。
抱いた疑問は無数にあるが、大部分を占めるのはやはり殺し合いなどという儀式の事。
(食物の連鎖を箱庭にしたと言えば聞こえはいいですが、そこまで上等ではないですね。
儀式というからには、やはり信仰に関するものなのでしょうか?)
それ自身には積極的に参加する意思などないが、それでも殺し合いを行う理由には興味がわく。
そして、その様な状況に置かれた知的生命体の行動にも。
そう考えると、環境に染まる前のサンプルが見つかったのは僥倖である。
(この人間は一般的な雄の若者のようですね。
どうやら交流のある個体も参加しているようですし、存分に観測させていただきましょう)
目前の個体がどういう末路を辿るのか。
そう思考すると『それ』は知的好奇心を大きくかきたてられるのだった。
(しかし、本当に解せませんね。
私の顔や名前を聞いて何の反応も示さないとは)
多少は知名度が上がったと思っていたのですが……などと考えながら、『それ』は目前のサンプルについて歩き出した。
【1日目/深夜/C-4・石炭加工所 貨物駅付近】
【須藤真一(恋愛系1・主人公)@恋愛系漫画1】
[状態]健康
[服装]ブレザー制服
[装備]なし
[道具]基本支給品、未確認支給品1~3
[思考]基本:殺し合いはしたくない
1:葛木出羽と行動を共にする
2:仲間を探したいが……
3:俺はどっちを選ぶ……?
【葛木出羽(その他1・自由枠)@その他漫画1(SFホラー系漫画)】
[状態]健康
[服装]白いワンピース
[装備]カッターナイフ@現実
[道具]基本支給品、本人確認済み支給品0~2
[思考]基本:知的好奇心を満たす
1:サンプル(須藤真一)を観察する
最終更新:2010年01月02日 12:38