2話 兄の苦悩
街灯が僅かに照らす無人の市街地の路上で、
青い髪に西洋風の鎧とマントを着用した青年、クリス・ミスティーズは頭を抱えていた。
「リリア…どうしてこんな馬鹿げた事を…!」
彼が頭を抱え苦悩している理由は、今自分が参加させられている
殺し合いの主催者、リリア・ミスティーズ。
リリアは彼の妹であり、ミスティーズ王国第18代王女なのだ。
だがその性格は唯我独尊かつサディスト、しかも残酷無比。
「あああ…最近やっと政務に復帰してくれたと思ったら、まさかこんな事を計画していたなんて」
長年に渡りミスティーズ王家を苦しめてきた元凶・ガレスを討ち倒し――否、嬲り殺しにし、
連れ去られた監獄城から自分や道中で出会った伯父のレオン、ミニドラゴンのバン、祖先のティアと共に生還したリリア。
監獄城地下深くでの出来事により元々常人ならざる力を持っていたリリアは更に強大な力を手にしてしまった。
生還後、王位に就いたものの、連日の雑務に嫌気が差し職務放棄し地下の個室に籠り完全にニート化。
以来、クリスを含めた周囲の人々や重臣の懸命な説得が続いていた。
そしてその努力が実を結び、ようやくリリアは政務に復帰してくれた――と思った矢先の出来事がこれ。
兄であるクリスとして、頭を抱えずにはいられない。
ついさっき確認したデイパックの中身に入っていた名簿には自分と伯父のレオンの名前の他、
全部合わせて47人もの参加者の名前が記載されていた。
恐らく大半がミスティーズ王国とは何の関わりも無い人物だろう。
これ程大勢の無関係な人々を巻き込んでまで、妹はこの殺し合いを開催したかったのだろうか。
おまけに首には爆薬内蔵の物騒な首輪まではめられている。
この首輪もリリアが作ったのだろうか、いつの間に機械関係の知識まで蓄えていたのか。
見せしめで首輪を爆破され殺されたあの青い耳の無い猫のような生き物と、
その知り合いと思われる少年に非常に申し訳無く思う。
そう言えばリリアを手伝っていたあの人狼と少女は何者なのだろう。
「ここでいくら考えてても仕方無いよな…」
考えているより行動を起こすべきと感じたクリスは、まだ自分の不定支給品を確認していない事を思い出し、
デイパックの中を探り始める。
「包丁に…双眼鏡か」
出てきた物は家庭用の三徳包丁と、双眼鏡の二つ。
「できれば剣が欲しかったけど…仕方ない」
包丁を装備し双眼鏡はデイパックの中に戻す。
これからまずどうするべきか。やはり兄として妹の行いは許せるものではないし何としても止めなくては。
それには仲間を集めて、首にはめられている首輪を外す方法を探す必要があるだろう。
だが、自分が主催者の実兄である事実はどうするべきか。
主催者と名字が同じという時点で何らかの疑いを掛けられる可能性は高い。
それは同じく殺し合いの参加者であるレオン伯父にも言える事だが。
「!」
思考していた所でクリスは前方から歩いてくる人影を発見した。
街灯の明かりに照らし出されたのは、茶色っぽい毛皮を持った狼獣人の女性。
露出の高い軽装で、鋭い眼光でクリスの事を見据えている。
その手にはぎらりと光を跳ね返す太刀が握られていた。
「あんた、参加者か?」
狼女性がクリスに尋ねる。
「…そうだ」
「へぇ…名前、聞かせて欲しいな」
クリスは一瞬迷ったが名前だけ教えてもどの道名簿にはフルネームが記載されているので無駄だろうと思い、
正直にフルネームで告げた。
「クリス・ミスティーズだ」
「ミスティーズ? ふぅん…あたしはシェリー・ラクソマーコス」
シェリーはクリスの名字に一瞬反応したものの、
特に触れる事も無く自己紹介をした。
「クリスだったっけ? 悪いけど……死んでくれ!」
「なっ!?」
シェリーは太刀を構えると、一気にクリスに襲い掛かった。
そして間合いを詰めると、太刀を振り上げ、クリス目掛けて振り下ろした。
だが、クリスは太刀の刃を包丁で受け止める事に成功する。
「へぇ、やるじゃない」
一旦間合いを取り、両者は互いに武器を構えたまま対峙した。
「殺し合いに乗っているのかシェリーとやら…!? 馬鹿な真似はよせ!」
「はぁ? 馬鹿はあんただろ。あのリリアって奴が言ってたじゃないか。
最後の一人になるまで殺し合えって。あたしはそのルールに忠実なだけさ」
「くっ…」
まさかこんな殺し合いに乗る者が出るとは。クリスは歯噛みする。
いや、考えて見れば自分を含め56人もいる参加者で、一人二人は乗る者が出なければ返っておかしいのだ。
「さぁて、あんたどうする? そんな包丁で戦えるとは思えないけどねぇ」
太刀を携えながらシェリーがじりじりとクリスに近寄ってくる。
彼女の言う通り、クリスの持つ三徳包丁とシェリーの持つ太刀とでは、
威力面でもリーチ面でも、圧倒的に包丁が不利である。
しかも包丁には先程シェリーの斬撃を受け止めた衝撃で刃に僅かながら亀裂が生じていたのだ。
いやそもそも太刀での一撃を家庭用の包丁で受け止められた事自体が凄いのだが。
「…くそっ!」
形勢不利と判断したクリスは無様と思いつつもシェリーに背を向け逃げ始めた。
逃がすまいとシェリーも追撃を開始する。
だがクリスはとある細い路地裏へと逃げ込んだ。
シェリーも後を追い入って行くが路地裏は月明かりも届かない程の暗さ。
「見失った…」
懐中電灯で照らしてみてもクリスの人影はどこにも見当たらない。
シェリーはクリスを追撃するのを諦め、元いた通りへ引き返した。
「そう言えばあいつ、ミスティーズって…この殺し合いの主催者も同じ名字だったけど…。
親戚か何かか? まぁ別にいいけど」
クリスは月の光が海面に映し出されている海岸、砂浜まで来ていた。
波が打ち寄せる音、潮風が心地良い。
だがクリスの心境は穏やかでは無い。
「あまりモタモタしてる訳にもいかないか…」
先程のシェリーと名乗った狼女性のように、既に殺し合いを始めている参加者が、恐らく他にも大勢いるだろう。
兄として妹の愚行には憤っているし責任も感じていた。
無関係な人々が妹の勝手で死に至らしめられようとしている、とても我慢ならない。
何としてもこの殺し合いを潰さなければ、それは兄である自分の義務だとクリスは感じていた。
「絶対止めてみせる! リリア、お前を!」
クリスは妹を止める事を改めて心に誓った。
【一日目深夜/A-5砂浜】
【クリス・ミスティーズ@ムーンライトラビリンス改造版】
[状態]:健康
[装備]:三徳包丁(刀身に僅かな亀裂有)
[持物]:基本支給品一式、双眼鏡
[思考]:
0:リリアを止める。そのためにもこの殺し合いを潰す。
1:仲間を集める。
2:襲われたら対処。
3:レオンと合流したい。
4:シェリー・ラクソマーコスには注意。
※参戦時期は本編終了後です。
※シェリー・ラクソマーコスの名前と容姿を記憶しました。
【一日目深夜/B-5市街地:表通り】
【シェリー・ラクソマーコス@FEDA】
[状態]:健康
[装備]:太刀
[持物]:基本支給品一式
[思考]:
0:面白そうなので殺し合いに乗る。
1:とりあえず見付けた参加者から殺していく。
2:ドーラ・システィールについては保留。
※参戦時期は少なくともコバルトを倒した後です。
※クリス・ミスティーズの名前と容姿を記憶しました。
≪支給品紹介≫
【三徳包丁】
文化包丁、万能包丁とも言われる最も一般的な包丁。
肉、魚、野菜など幅広い材料に対して様々な切り方ができるので、
非常に使いやすい。
【双眼鏡】
望遠鏡の一種で、遠方の物を両眼で拡大して見る光学器械。
【太刀】
反った刀身を持った片刃の両手剣。
打刀(日本刀)との違いは拵のみ。
最終更新:2010年04月19日 02:14