4話 天秤は動く
漆黒の海が見える深夜の港。
船着場の上で狐にも似た顔の少年、骨川スネ夫は膝を抱え怯えていた。
彼の脳裏に繰り返し再生されているのは、
同級生であるのび太の家に居候していた22世紀からやってきた猫型ロボットが、首輪を爆破され殺される光景。
その首輪は自分の首にもしっかりはめられていた。
「ドラえもん、ドラえもんがっ…」
ガチガチと震えながら、スネ夫が呟く。
信じられなかった。ドラえもんが死んだなどと。
四次元ポケットから色々な秘密道具を出し、時には楽しく遊び、
時には危機を切り抜け、時には大冒険を繰り広げた。
スネ夫自身、ドラえもんには幾度となく世話になっていた。
だが、ドラえもんはもういない。
そして今、
殺し合いという状況に自分は置かれている。
最後の一人にならなければ生きて帰る事はできないという。
デイパックの中には基本支給品と、金属バットが入っていた。
いつも野球で使っているので見慣れているが、今度は使用目的が異なってくる。
これで打つのはボールなどではない。人だ。
人を殴り殺すのに使うのだ。
「い、嫌だ、人を殺すなんてっ…でも、でも死にたくない」
殺人は犯したくない、だが死にたくない。
相反する二つの思考がスネ夫の頭の中で渦巻いていた。
(死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、それなら、
殺さなきゃ、でも、でも――)
名簿にはあの開催式の時に姿を確認したのび太の他にも、
ガキ大将の剛田武、通称ジャイアンと、源しずかの名前もあった。
彼らも殺さなくてはならないのか? 大切な友達を?
(ああ、あああ……!)
スネ夫は悩んだ。その時だった。
「あの…大丈夫?」
左側方から、穏やかな女性の声でスネ夫に声が掛けられた。
目を見開き、スネ夫はゆっくりと声の方向に頭を向ける。
そこには見た事ない衣装に身を包んだ紫髪の、自分より少し年上ぐらいの少女が立っていた。
武器らしい物は持っていないように見える。つまり丸腰だ。
「……!」
そして、スネ夫は遂に決心してしまう。
異世界ヴァルハラの時の塔の巫女である亜美は、船着場を歩いていた。
皇帝レミエルを二人のデビルチルドレンが倒し平和が戻ったヴァルハラで、
亜美は人々の復興作業を手伝っていた。
その矢先の出来事だった、リリアと名乗る女性が催すこの殺し合いに連れてこられたのは。
「殺し合いなんて…許されない事だわ」
僅かに怒気の籠った口調で亜美が言う。
平和を願う彼女にとって、最後の一人が決まるまで殺し合わせるゲームなど許せるはずがない。
名簿には元の世界に帰ったはずのデビルチルドレンの二人、
光の御子、ジンと闇の貴公子、アキラの名前、そして帝国軍のデビルである、
ガーゴイルとガルムの種族名が確認できた。
帝国軍のデビルはゲームに乗る可能性が高いが、少なくとも、
ジンとアキラは乗る事はないはずだ。きっとこの殺し合いに抗う方向で動くはず。
「まず、ジンさんとアキラさんと合流しなきゃ…あら?」
前方に人影を発見し、立ち止まる亜美。
どうやら船着場の縁で体育座りをしてうずくまっている少年のようだった。
傍にデイパックがあり、首に首輪をはめている事から参加者である事は間違いない。
何やら頭を抱えぶつぶつと何かを呟いている。
(きっと、恐ろしくて怯えているんだわ)
いつ命を狙われるか分からない殺し合いという状況に、少年は恐怖しているのだろうと亜美は推測する。
勿論亜美自身も全く怖くないという訳ではない。
だがそれでも他人を思いやる気持ちは忘れてはいなかった。
「あの…大丈夫?」
亜美は少年に近付き、優しく声を掛けた。
すると少年はゆっくりと顔を自分の方に向けた。
「えーと、怖がってるみたいだったから、声を…」
亜美が話を続けようとしたが、少年は耳を貸さず、自分のデイパックの中から金属バットを取り出した。
そして金属バットを亜美の方へ向け、血走った目で睨み付ける。
少年の突然の行動に、亜美は驚き、動揺し、逃げるのを忘れてしまった。
「う、うおおおおおおおおおおおおっ!!」
次の瞬間、少年は雄叫びを上げ、金属バットを大きく振り上げ、そして亜美の脳天へ思い切り振り下ろした。
ガァン!!
「がっ……!」
思い一撃が亜美の頭部を直撃し、血が噴き出しアスファルトの上に滴り落ちる。
手足が痺れ、鼻血まで噴き出した亜美はもはや自分がどういう状態なのかも理解できない。
その場にガクリと膝を突いてしまい、朦朧とする意識の中、少年の方に目を向けた。
満月が浮かぶ空に、再び金属バットを振り上げる少年の影がくっきりと映し出されていた。
「……どうして……?」
グシャッ!!
亜美の視界と意識はブラックアウトし、二度と戻らなかった。
頭部が変形し血塗れになった無惨な少女の死体を見下ろし、
身体中の震えと動悸が激しくなっているのをスネ夫は感じていた。
とうとう自分は一線を越えてしまったのだ。殺人という禁忌を犯したのだ。
もう後戻りは出来ない。
スネ夫は少女が持っていたデイパックをし少女の死体から引き剥がし、
死体を船着場から海へと落とした。
そして、少女のデイパックを開け、水と食糧、ボトル入りの消毒用エタノールとジッポーライターを入手した。
「ごめん、ドラえもん、のび太、ジャイアン、しずかちゃん」
決して許される事ではないと分かりつつも、
スネ夫は既に殺された友達、そして殺し合いに参加させられている友達の名を呼び、
謝罪の言葉を口にした。
【亜美@真・女神転生デビルチルドレンライト&ダーク 死亡確認】
【残り46人】
【一日目深夜/H-5港:船着場】
【骨川スネ夫@ドラえもん】
[状態]:健康、決意
[装備]:金属バット
[持物]:基本支給品一式、亜美の水と食糧、消毒用エタノール、ジッポーライター
[思考]:
0:生き残るために殺し合いに乗る。
1:のび太達とは会いたくない。
2:どこへ行こう…。
※亜美の死体とデイパック(水と食糧抜きの基本支給品入り)は海に捨てられました。
≪支給品紹介≫
【金属バット】
野球やソフトボールなどで打者が投手の投球を打つために用いられる棒状の用具。
本ロワに登場する金属製以外にも木製や竹製などが存在する。
スポーツ用具だが、不良によって武器となる事がしばしば。
【消毒用エタノール】
小さなボトルに入った医療用の消毒液。
揮発性が高く肌に付けるとひんやりとする。
また、可燃性も強いので着火剤代わりになるかも。
【ジッポーライター】
金属製オイルライター。高い耐久性・耐風性と永久修理保証を誇る。
1932年の発売以来、基本構造にはほとんど変化がないが、
外側のケースに様々な意匠を凝らすことで豊富なバリエーションが生じており、
世界各国に収集家が存在する。
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最終更新:2010年05月01日 00:38