6話 再会と死別
気がつくとアレックスは暗い森の中で倒れていた。
身体を起こし、まだ覚醒し切っていない頭を叩き目を覚まさせる。
先程までの事は夢だったのだろうか、否、首にはめられた首輪と傍に置かれたデイパックがそれを否定した。
とりあえずデイパックを開け、中から名簿を取り出し開いてみる。
「! ブライアンにヘレンに
ゴメス…魔王軍の連中も何人かいるな」
名簿にはアレックスの友人である戦士のブライアン、通称「ウザイアン」、
エルフ娘のヘレン、ガチホ…もとい、海賊髭面のゴメス、
そして敵対している魔王軍の四天王、ムシャ、ドラゴナス、死神五世と魔王軍の中級モンスター、デスシープの名前が載っていた。
「みんな進んで
殺し合いに乗るとも思えないけど、
どうだろうなぁ、ヘレンなんて最近扱い酷いもんな、ムシャだって…」
ヘレンはかつてはVIPRPGもしもシリーズにおいてのヒロイン級の萌えキャラだったが、
魔王軍四天王の一角、ダーエロによるスト―キング、それが元でのキャラ崩壊、
更にAV出演、自殺未遂など近頃の凋落ぶりは悲哀さえ感じる。
ムシャはその地味さから台詞を省略される、もしくは台詞すらない、
身体が透き通った状態のみでの登場、徹底的な無視など、
「空気」としての扱いが際立っている。最近は特にそれが顕著だ。
本人は平気そうに装っているが心のどこかではもっと目立ちたいと思っているに違いない。
余り友人知人を疑いたくはないがこの二人は注意するべきだとアレックスは考える。
他に何があるのかとデイパックを再び漁る。
地図や筆記用具、水と食糧の次に出てきたものは鞘に収められたサバイバルナイフと、
パソコンに使うUSBフラッシュメモリ。
「USB? 何かデータでも入ってるのか?」
USBの中身が気になったがパソコンが無い現状ではどうにもできないので放っておく事にした。
コンバットナイフを装備し荷物を纏めて立ち上がる。
「しかしこれからどうすれば……」
アレックス自身は殺し合いに乗る気などなかった。
自分は仮にも勇者である。恐らくこの殺し合いには一般人クラスの参加者も大勢いるだろう。
そのような人々を殺してまで生き延びる事などできない。
ならば当然この殺し合いを潰す方向で行動するのが常道。
但し、厄介な事も多い。例えば首輪である。
無理に外そうとすれば爆発するこの首輪。その威力は目の前でまざまざと見せられた。
魔法も「もしもの力」も封じられ一切使用不能である今、
死ぬという事は読んで字の如く、本当に死ぬ事を意味する。
仲間を集めて脱出手段を探ろうにもまずこの首輪をどうにかしなければならない。
かと言ってアレックスには機械知識などこれっぽっちもない、
そもそも内部構造も分からないため手の出しようがないのだ。
「考えていても仕方ないな、まずはブライアン達を捜すとするか」
アレックスが友人知人を捜しに行こうとした時。
「アレックス! おい、アレックスだよな!」
「その声は…!」
声をした方向に振り向くと、懐中電灯を片手に息を切らして満面の笑みを浮かべ走ってくる鎧姿の男がいた。
「ブライアン! ブライアンじゃないか!」
「アレックス~まさかこんなに早く再会できるなんて思わなかったぜ…」
赤と白のカラーリングの鎧を身に纏った戦士、ブライアンは、
心底嬉しそうな表情を浮かべて言う。
アレックスも友人との再会を素直に喜んだ。
この時、アレックスの背後の茂みから、二人の様子を窺う人物がいた。
息を潜め、機を窺うその様子はアレックスとブライアンに決して友好的ではない事を示していた。
「……!」
そしてブライアンはアレックスの背後から漂う殺気に気付く。
「アレックス」
「ん? 何だ?」
次の瞬間、ブライアンはアレックスの身体を横に突き飛ばした。
直後、茂みから人影が飛び出し、持っていたツルハシを振り下ろした。
ガスッ!!
「ぐ、あ」
ツルハシの穂先が、ブライアンの鎧の胸元を貫通し、内側の肉体に深々と突き刺さった。
ブライアンはがはっ、と口から血を溢れさせ、仰向けに倒れた。
突然の出来事にしばし呆然としていたアレックスだったが、
状況を把握するのにそう時間はかからなかった。
「ブ、ブライアンーーーー!!」
必死の形相で地面に倒れたブライアンの名前を叫ぶアレックス。
だが、ブライアンの元に駆け寄ろうとしたアレックスを襲撃者のツルハシによる薙ぎ払いが阻む。
「う、うわっ」
その薙ぎ払いを後ろに跳んで何とか避けたアレックスだったが、
そこは急勾配の坂になっていた。
足を踏み外したアレックスはそのまま坂を転げ落ちて行ってしまった。
「うわあああああーーーーーーーーーー………」
「……」
坂を転げ落ちて行くアレックスを見届け、襲撃者――
高野雅行は溜息をつく。
折角二人も獲物を見付けたのに一人取り逃がしてしまったからだ。
ツルハシを携え、最初に仕留めた鎧姿の男の元へ近付く。
「うぐ……て…てめぇ……」
驚いた事に胸元をツルハシで突き刺されたのにも関わらず、
鎧男、ブライアンはまだ生きていた。
だが口や傷口から溢れる血は止まる事を知らない。
致命傷である事は誰の目から見ても明らかだった。
雅行は仰向けに倒れるブライアンの近くまで来ると、止めを刺すべくツルハシを大きく振り上げる。
ブライアンはもはや身動きを取る事もできず、その光景を眺める事しかできない。
「ちく、しょう……ここまでかよ………アレッ、ク――――」
その言葉が最後まで紡がれる事は無かった。
雅行がツルハシをブライアンの心臓目掛けて力一杯振り下ろしたからだ。
鋭い穂先に心臓を貫かれ、ブライアンは絶命した。
雅行はブライアンが完全に生命活動を停止した事を確認すると、
彼が持っていたデイパックの中身を漁り始める。
入っていた不定支給品は、長さ10メートル程の細いピアノ線と、それを手頃な大きさに切るのに使えるハンドワイヤーカッターだった。
水と食糧と共にその二つも自分のデイパックに移し替える。
そして先程アレックスが落ちた坂とは逆の方向に歩いて行った。
一方、坂から一気に転げ落ちたアレックスは何とか軽傷で済んだ。
湿った雑草がクッションとなったのだ。
立ち上がり、自分が滑ってきた坂を見上げる。
思っていたよりも急勾配でとてもではないが歩いて登れそうにない。
「くそっ、ブライアン……!」
悔恨の表情を浮かべるアレックス。
今すぐにでもブライアンを助けに行きたかったが、もう間に合わないだろう。
ツルハシの先端がブライアンの胸元深くに突き刺さるのを目撃した。
生きていたとしても、自分が消えた後、
あの襲撃者――白いカッターシャツを着たモミアゲの長い男によって追撃された可能性が高い。
「すまない…!」
アレックスの目には、いつしか涙が浮かんでいた。
【ブライアン@VIPRPG 死亡確認】
【残り45人】
【一日目深夜/D-4森】
【アレックス@VIPRPG】
[状態]:全身にダメージ(軽度)、深い悲しみ
[装備]:サバイバルナイフ
[持物]:基本支給品一式、USBメモリ
[思考]:
0:仲間を集めて殺し合いを潰す。そして脱出する。
1:ブライアン…。
2:元の世界の仲間と合流?
3:首輪も何とかしたい。
※襲撃者(高野雅行)の容姿を記憶しました。
【高野雅行@俺オリロワリピーター組】
[状態]:健康
[装備]:ツルハシ(血痕付着)
[持物]:基本支給品一式、ピアノ線、ハンドワイヤーカッター、
ブライアンの水と食糧
[思考]:
0:殺し合いを楽しむ。
1:他参加者の捜索。
2:銃が欲しい。
※俺オリロワ開始前からの参戦です。
※アレックスの名前と容姿を記憶しました。
※D-4森にブライアンの死体とデイパック(水と食糧抜きの基本支給品入り)が放置されています。
≪支給品紹介≫
【サバイバルナイフ】
軍事行動中に遭難などで他装備を失った場合に、
それのみで生存を計る目的で設計された大型のシース(鞘付き)ナイフ。
刃の背に金属を切断する鋸刃が設けられている。
武器としての威力と堅牢性は高い。
【USBメモリ】
8GBの容量がある外部取付型記憶端末。
USB対応のパソコンが無ければ中身は見られない。
【ツルハシ】
土や岩、アスファルトを砕き掘り起こすのに使用する道具。
鶴のクチバシのように両端が尖っており中央に柄が付いている。
【ピアノ線】
炭素鋼で作られた鋼線。許容応力が高く、金属疲労にも強いことから、
ワイヤーやコイルばねの材料として工作機械や建設機械など幅広く利用されている。
【ハンドワイヤーカッター】
単線や多芯線の銅・アルミケーブル等を外径20mmまでカットできる工具。
テコの原理を最大限に利用しているので、片手で軽く切断可能。
最終更新:2010年04月29日 21:45