こんにちは、私、初音ミク。
歌うのが大好きな女の子です。
……あ、女の子、って言っても、普通の人間じゃあ、ないんですけど。
ボーカロイドっていう、歌うために生まれたロボットなんです。
―――そ、そんな失礼なこと言わないでくださいっ!ロボットでも、ちゃんと感情くらいあります!
マスターに優しくされたら嬉しいし、ずっと歌が歌えないと悲しいし―――とにかく、私たちも人間と同じ感情を持っているんです。
だから、―――私にだってわかりますよ。
ファンの中にはミクちゃんは天然だね、って言う人もいますけど、それでも、これくらいは分かります。
今の私が―――何やらとんでもない状況に巻き込まれているということくらいは。
※
私はそもそも、今日レコーディングに向かうはずでした。
マスターが、私とルカさんのデュエット曲を作ってくれたので、喜んでルカさんと一緒におしゃべりをしながらレコーディング室に向かっていたのです。
すると、突然、視界がぼやけました。
理由は分かりません。目の前が真っ白になり、意識が遠のきました。そして気が付いたら―――
私は、今いる見知らぬ部屋にいたのです。
意識を取り戻した私が見たものは、―――広い、ティールームでした。
綺麗で豪華な丸いテーブルの上には、同じように清潔で華やかなテーブルクロスがかけてあります。椅子もあります。
紅茶とクッキーの匂いがします。私はロボットなので何も食べなくても生きていけるのですが、それでもああ、おいしそうだなあ、と思いました。
左右を見渡すと壁一面を覆う巨大な窓ガラスがあり、ここが建物の中だとすぐに分かります。
天井は余りにも高く―――頂上がどこにあるのかすら分かりません。そもそも、サイハテなどあるのでしょうか。
そもそも、ここはどこなのでしょうか。
全く分かりませんが、少なくともここで歌うわけではないということは分かります。
なぜなら、……私のすぐ隣に、死んだように眠りについている人がいて、その人の首にはいかにも冷たそうな銀の首輪が付けられていたからです。
その人は男でした。男の子、と言っていいかもしれません。
カイト兄さんより少し年下、といったくらいに見えますが、背が高いのでもう少し上かもしれません。赤毛で、金の刺繍が入った、高そうな白いスーツを着ていて、もしかしてお金持ちなのかなあ、と思えました。
息はしているので生きているのは間違いありませんが―――少なくとも、さっきルカさんと一緒にいた時には、こんな男の子は近くにいませんでした。
ううん、この男の子だけじゃありません。他にも―――周りには、何十人もの人たちが、います。
たくさんの人たちが―――男の子と同じように、眠っています。
顔は何故か全く見えないのですが―――こんな人数、絶対にいたはずはないのです。
ぞくり、と寒気が走ります。
だって―――突然意識を失って、気が付いたら知らない部屋にいて、見知らぬ男の子がすぐ傍にいるなんて―――信じられません。
マスターが大好きなアニメに出ていたチョウノウリョクシャ、という人間のことを思い出しました。チョウノウリョクシャは、一瞬で人を別の場所に飛ばしたり、手から炎を出したりできるのです。
もしかして、これって―――
でもマスターは、瞳を輝かせる私に言いましたよね?こういう人間はアニメの世界にしか存在しないんだ、現実にはいないんだよ絶対に。俺もハルヒみたいに願望を現実にする力があれば可愛い女の子を空から降らせるのに、って。
ハルヒとやらは何か分かりませんが、でもマスターの言うことは分かります。
そんな不思議な能力は、現実に存在しないのです。
もっとも、マスターに言わせると私たちボーカロイドが歩いて話して実体を持っている時点ですでに不思議らしいのですが、少なくとも私は不思議な力は持っていませんし。
だから、私には分かっています。でも、分からないのです。
今、どうして私がここにいるのかということが。
分からなくて―――ただ、嫌な予感だけが私の心を満たします。
そっと自分の首元を触ると、ひやりとした感触がありました。
これには先ほどから気付いていました。首輪です。……直接見ていないので何とも言えませんが。
多分、隣の男の子と同じもの―――だと思います。
さっきまではもちろん、こんなものをはめてはいませんでした。
マスターは確かに少し変態ですが、首輪を女の子につけるような趣味の人間ではありません。
じゃあ―――これは?
一体、いつのまにこんなものをつけられたのでしょうか?
早く外したい、そんな想いが私の心をかけぬけます。
冷たいし、重いし―――何より気持ち悪い。
なんだか、感情もあるボーカロイドの私が、まるで犬のように扱われている気分になるのです。
私は無意識に、そっとその首輪を引っ張り―――
「よう、お前ら、全員起きろ!」
聞き覚えのある声に、はっとしました。
その声を合図に、皆が少しずつ起き上がり始めました。
ある人は目をこすりながら、ある人は頭をかきながら、ある人は不機嫌を隠そうともせずに。
「起きたか?俺はまどろっこしいのが嫌いだから、さっさと言わせてもらうぜ」
そして。
いつの間にか、眠っていた私たちの前には―――1人の男の人が立っていて。
どこにでも売っていそうなジーンズにTシャツ。髪はボサボサというわけでも清潔なわけでもない。
顔だってかっこよくもないしだからと言って見るに堪えないというわけでもない、そんな感じの。
簡単に言うなら、どこにでもいそうな、普通の男の人―――ううん、はっきり言った方がいいですよね。
「いいか、ちゃんよと聞けよ―――」
「お前らには、今から
殺し合いをしてもらう!」
―――私のマスターが、そこにいた。
※
そう、間違いなどありえませんでした。
それは、どう見ても、私のマスターその人なのです。
そのマスターが、笑顔で、私や他の知らない人たちに対して発した『殺し合い』という、不気味な言葉。
どういうことなのか、よく分かりませんでした。
私は茫然としたまま、マスターの話を聞いていました。
マスターは私たちに曲を作ってくれるよりいきいきとした様子で、『殺し合い』のルールとやらを説明して。
☆今から24時間の間、ここの人たちに殺し合いをしてもらうこと
☆つけられた首輪は逃げ出そうとした時、こちらに逆らったと判断した場合に爆発する。
☆また、死亡者と禁止エリアの告知のため放送を流すが、放送の時間は死亡者がちょうどいい頃合いになるたび不定期に行う。
☆放送ごとに、誰も殺していない参加者はランダムで一人、マスターが首輪の爆弾を爆発させる
☆私たち『参加者』には、食料品と地図とランタンと武器がランダムで配られる。
☆最後の一人になった人間が優勝。優勝者には、何でも1つ願いをかなえる。死者の蘇生も可能。
だいたい、覚えている限りだとそんなことを言っていたと思います。
そんな、まるでゲームみたいな内容を、マスターは、楽しそうに楽しそうに話すのです。
やっぱり、よく実感がわきません。
マスターが、何をしたいのか分かりません。
だって、あのマスターが、こんな怖いことを言うなんて思えなくて、いまだに、これは夢なのではないかと考えてしまうのです。
殺し合いなんて、ただのマスターの冗談じゃないか、って。
「ああ、言っておくが、逆らおうなんて考えるなよ?」
マスターは、誰に言うでもなく、誇らしげに叫びました。
その瞳は血走っていて―――私の見たことのないような、怖い顔でした。
「俺には、『魔法』がある。『魔法』があれば―――お前らの思考を読み取り、首の爆弾でドカン!なんて、簡単なんだからな」
魔法?……魔法って、マスター。
魔法、って、何ですか?マスターの言っていた、チョウノウリョクシャと同じものですか?
私には、分かりません……。教えてください……。
かろうじて分かったのは、その魔法というものによって、私が機能停止してしまう可能性がある、ということでした。
ぞくり、と嫌な汗が流れます。
マスター、冗談ですよね?冗談って言ってくださいよ。
それともこれは、夢なのでしょうか?
「だが、そう言っても信じられないだろ?ああ、俺だってついこの間まで魔法なんて信じてなかった。だから理解されないだろうこたあ分かってる」
そうですね、マスターは言ってましたもんね。
現実にチョウノウリョクシャなんていない、って。
なのに、マスターは魔法なんて、よく分からないことを言っているんですか?
私、こんなマスターの顔、見たくありませんでした。
「だから俺は、お前らに特別に魔法を見せてやることにした!嬉しいだろう嬉しいよなあ?さあて、じゃあ俺の魔法で死ねる栄誉ある奴は―――」
マスターはそう言って、辺りを見回します。
しばらくはうんうんとうなったり鼻歌を歌ったりして何か考えていたようでしたが、やがてある一点に目を止め、にやりと笑います。
「そうだ、お前」
「………………っ」
その目は、まるで獲物を見るかのような。
そう、マスターが指を刺した人を、私は―――よく知っていました。
「……兄……さん……?」
それは。
私の良く知る、青い髪、青いマフラーの……カイト兄さんでした。
私の大切な、大切な『家族』。
まさかここにいるなんて考えもしなかった、人。
「……え、あ、あの……マスター……?」
兄さんは、何があったのかよく分からないらしく、マスターの顔を見つめて困った様子でした。私も同じ状況だったらそうなるでしょう。
一番近くにいたはずの、マスターの気持ちがさっぱり分からない、んですから。
マスターは兄さんに対して、少し申し訳なさそうに言います。
「お前さあ、買ったのはいいけど結局未だに一度も歌、作ってやったことなかったよな?まあ、俺も男だし、歌わせるのは可愛い女の子の方がよかったわけよ」
私も、それは知っていました。
兄さんはいつも、どうして俺に曲を作ってくれないんだ、って嘆いていましたから。
マスターはそのたびに分かったお前にもいつか曲を作るよ、って笑ってごまかしていて、カイト兄さんは少しへそを曲げていましたけど、でも兄さんだってきっとマスターのことを嫌いではなかったはずです。
その兄さんが、―――マスターに、怯えていた。
「まあそれでもさ、お前のこと嫌いじゃなかったし、いつかお前のための曲作ってやろうと思ってたんだが―――ふと思ったんだ」
「ま、マスター…………」
兄さんの、震える声。
確かに兄さんは少し気弱だけど―――でも、少なくとも、普段からこんな絶望的な声を上げる人じゃないです。
マスターは、そんな兄さんを見て、笑って。
「……実は、もしかしたらお前なんていらなかったのかもしれない、ってさ」
にっこりと。
なんの迷いもない、晴れやかな笑顔で―――右手を上げた。
―――ごとり。
そして。
「……え?」
私の目の前で、突然『それ』は、起こって。
それは、わずかな一瞬。
兄さんの首が、ころりと転がって。
兄さんの蒼が、胴体から離れて、
石みたいに―――床に、落ちた。
兄さんがまき散らした―――赤い赤い液体の、上に。
音もなく。
匂いもなく。
ただ、色と動だけが、あった。
―――兄さんの首が、
「……カイト……兄……さ……ん……?」
あれ、どういうこと?
なんで、いつのまにか兄さんは首だけになっているの?
そんなことよりも、まず。
ああ、ボーカロイドも人間と同じように死ぬんだ。
私がまず思ったのは、そんなあまりにも現実離れした―――こと。
叫び声が聞こえた。
つんと鼻に着く匂いがした。
騒ぐ声が頭の中をかき回して、かき回して、かき回して。
声と言う声に私の脳内環境は犯されてしまって、そして。
視界が、白に染まって。
そして、意味が分からなくなった。
「……というわけで、こいつは死んだ。誰がどう見ても明らかだ」
マスターは、まだ何かを話しています。
でも、私には、わからない。わからない。意味が、分からない。
マスターの表情が、見えない。
「しかし、だ。言っただろう、俺は魔法が使えるんだ。―――今から、こいつを蘇らせてやるよ」
そしてマスターは、
「さあ、思いだして御覧なさい。貴方が、どんな姿をしていたのか」
そう、呟いた。
その途端に、マスターの回りに金色の蝶が集まった。
ふわり、と蝶は回転し、くるくると飛び回る―――兄さんの落ちた首を包むように。
金色の蝶は、明るい光を放ち―――やがて視界を金に埋めて―――私の視界を奪って―――
「……え?」
「……っ」
どれくらい経ってからでしょうか。
私は見ました。
見て、しまいました。
目を疑いました。真っ白だった視界が、一瞬にして開けました。
そこには―――兄さんがいたのです。
首ではありません。兄さんが、いました。
もちろん、首のない死体などではありません。
ちゃんとした、五体満足の、カイト兄さんが―――そこに。
何事もなかったかのように、立っていました。
信じられませんでした。
まさか、そんな、こと。
だって、あれ?さっき、私は、カイト兄さんが死―――あれ、本当に?
本当に、死んだんだっけ?
そう言えば、私、途中で何が現実かよく分からなくなっていたんでしたっけ?
カイト兄さんが死んだ、そう考えると、その部分が真っ白になり、全く思い出せません。何も、考えられません。
何も、―――あれ?
「……ひっ……!」
しかも兄さんは、今ちゃんと私の前にいるじゃないですか。
死んだ、なんて、本当に?
……あれ?
本当に、死んだんだっけ?
あれは、私の思い違いなのかもしれない?
「……ひ、あ……あが……い……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
兄さんは、狂ったような叫び声をあげ―――泡を吹いてそのまま気絶してしまいました。
おそらく、死んではいないと思います。
ああ、………………そうか。
……そうです、兄さんは、生きている。
だって、叫ぶなんて生きていないとできないですよね。ああ、そうに決まってます。
ああ、そうか。
やっぱり死んだなんて、私の見間違いですよね。
だって、ねえ。
あのヘタレでネタ曲ばかり歌わされて、でも優しくて面白い兄さんが、死んだりするはず。
ないじゃ、ないですか。
兄さんの首が吹っ飛ぶなんて、嫌な夢だったんです、
そう、夢。
あの赤い液体も、兄さんの首も、―――
ううん、それだけじゃありません、ここで今マスターが話していることも―――
「……………………あは、ははは……」
全部、夢なんですよね?
だって、魔法なんてそんな、現実的にありえない。ですし。
マスターもそう、言ってましたもんね?
ねえ、マスター。
もう一度、そう言って、笑ってください。
私はそう考えながら、……泣いていました。
どうして、これは夢なのに私は泣いているのか---よく、分かりませんでした。
「この通りだ。どうだ、魔法が本当だって分かっただろう?これで、優勝賞品の蘇生は叶えてやれるから安心して殺し合え!じゃあ、せいぜい頑張れよ!?」
そこで追い打ちをかけるようにマスターの、声が聞こえて。
ぶん、と何かに放り出されるような感覚と共に。
私の意識は、そこでふっと途切れた。
ああ、夢からこれで冷めるんでしょうか?
……そうですよね、ね?
大好きなマスター。
今度目覚めたときには―――幸せなマスターの笑顔が見られるといいなあ。
ねえ、マスター。
これからも。
わたしに、もっとうたわせて。
【バトルロワイアル 開幕】
※
「どうだいベルンカステル。俺の仕事ぶりは?」
「貴方にしては上出来じゃないかしら。自分の大切な『仲間』を見せしめに選んだのは良かったわ。お陰で思った以上に楽しめたわよ。
……そう言えば、あの男はどうしたの?参加者として送ったのかしら?」
「―――まさか。皆を送った後今度こそ殺したよ。俺の手伝いをしてくれるんだったら生かしておこうと思ったけど、怯えきって話にもならないからな」
「そう?せっかく『魔法』で生き返ったのに……貴方の大切な友達だったんでしょう?……可哀想ね。嘘だけど」
「くすくす、ベルンったら相変わらずゲロカスなんだから!まあ、あたしはそんなベルンも大好きだけど!」
「ラムダは放っておくとして、『魔法』を使った感想はどうかしら?楽しかった?」
「ああ、最高だったよ!『魔法』がこんなに素晴らしいものだったなんて―――
ただのさえない童貞の俺でもあんなにすごいことができるんだ……最高だよ、はは、ははははは……!」
「『魔法』を過信しすぎちゃ駄目よ。まあ、私は私が楽しめれば何でもいいのだけれどね、貴方がどうなろうとも別に」
「そうよね、魔女は退屈を憎む。この新しいゲームのマスターは『今のところ』あんただわ。せいぜいあたしたちを退屈させないように頑張って頂戴」
「分かっているさ。『魔法』を貰ったんだ、そちらの期待は裏切らないように頑張りますよ、魔女様?」
「ええ、楽しみにしているわ。くす、くすくすくすくす……」
【とあるボカロP@現実? 主催?】
【ベルンカステル&ラムダデルタ@うみねこのなく頃に ???】
【KAITO@VOCALOID 死亡】
最終更新:2010年03月21日 00:23