殺したい、と思った。
こんな感情は、初めてだった。
彼女を殺した奴を殺してやりたい、そう思った。
ずたずたに引き裂いて、ぼこぼこに殴り倒して、殴って嬲って蹴って焼いて折って叩いて壊してしまいたいと思った。
二度と日の光を拝めぬように、切り刻んでやりたいと思った。
何よりも。
そんなことを考える自分を誰よりも―――殺したいと思った。
※
綾崎ハヤテの職業は、執事である。
それは決してあだ名の類などではない。
彼は、真に高校二年生にして有名な大財閥の一人娘の執事を務めているのだ。
ことのきっかけは、些細なようで重大なこと。
親から借金をなすりつけられ、犯罪すら犯そうとしていた自分を救い出してくれた、『彼女』への恩返し。
もっともそれには、少女側の彼に対する行為と誤解も絡んでいるのだが、それはハヤテ自身にはさほど関係ないことであるので保留にする。
ハヤテは、自分の命を助けてくれた少女を守り、補助し、褒め、時には叱り、喜ばせることを至上の幸福としている。
もちろん―――彼女が命を落とすなど、あってはならない。
大財閥の令嬢故頻繁に悪人に誘拐されるなどの危険に巻き込まれがちな主を、全力を賭して守りきる。
―――そう、それは例え、自分が命を落とそうとも。
だから、ここで彼は崩壊にぶち当たることになる。
それは、彼の人生でおそらく、二番目の。
幼い頃を共に過ごした、最愛の少女に拒絶された時同様の、衝撃を。
※
「……はあっ、は、はあ……」
川沿いの道を、全力で駆ける人影がひとつ。
青い髪に、黒の燕尾服を纏うその人物は、まだ20歳にも満たないであろう少年だった。
その格好は明らかに運動を阻害していそうなものなのだが、それを気にする素振りもみせない。
少年の身体能力の高さがうかがわれる。
では、なぜ彼はここまで急いでいるのだろうか?
「……お嬢様を……お嬢様を探さないと……!」
彼の名前は綾崎ハヤテ。
三千院家の執事を務める、現役高校生である。
ここまで書けばお分かりになるかもしれないが、彼があわてているわけ、それは。
「……無事でいてください、お嬢様!」
この
殺し合いの舞台に、自らの仕える主人である三千院ナギも参加させられていたからである。
他の知り合いがいたかまでは確認していない。しかし、ナギの姿だけはこの目でしっかりと確認した。
自らの可愛いご主人さまを、見間違えるなどありえない。
早く、ナギを探さないと。
手遅れにならないうちに。
考えるのは、ナギを見つけたそのあとでいい。
大切なのは、この場が殺し合いの舞台であるということ、それだけだ。
だから、彼は探し回る。
その、命に変えてでも――――
※
「こ、ここは……どこなのだ?」
三千院ナギが目を覚ましたのは、廃屋だった。
住み慣れた豪邸とは180度違う場所に、ナギの頭は一気に覚醒する。
―――そうだ、私は―――
―――目の前で、知らない人が首輪を爆発させられて、それで―――
がたがたと、ナギの体は震えだす。
見た目は幼い少女でも、ナギの頭脳は非常に優秀だ。そんな彼女の理性は、現状をいやになるほど把握してしまっていた。
自分の目の前で、見知らぬ男は『殺されたのだ』と。
自分は本当の本当に、殺し合いに巻き込まれてしまったのだと。
「……う、ハヤテ……ハヤテえ……」
恐怖とショックが頭の中を駆け巡る中、ナギが唯一できたことは、自らの恋する、そし誰よりも頼りにしている執事の名を呼ぶことだけだった。
いつだって誘拐されかける自分を助けてくれる、愛しの彼。
今回も助けてくれる―――その乙女の甘い期待は、数秒で打ち砕かれた。
「ハヤテ、ハヤテ、ハヤ―――」
何秒待っても。
何度呼んでも。
彼は、自分の元に疾風のごとくかけつけてはくれなかった。
「わ、私は、どうすれば―――」
不安が、さらに膨らむ。吐き気もしてきた。
どうする?どうすればいい?
ナギの心を満たすのは、恐怖と絶望。
この場でただの運動音痴の14歳にできることなど、何もない。
仮にあるとすれば。
強く優しき者に救われ、足を引っ張るか。
悪意あるものに、一方的に殺されるか、どちらかでしかない。
ナギの読む漫画のように、一般人が突然強い力に覚醒するなどという都合のいい展開は、そう簡単におこるはずがない。
そして、彼女の場合は―――
「……は、ハヤテ……た、助けて……」
ナギは肩を震わせる。
ただ、怯える以上のことなどできない。そこには、普段の強気な少女の顔はなかった。
「誰か……誰でもいい……だから……」
だから、彼女は気付かない。
何かが、自分の後ろに『いる』ということに。
「……だ、……、?」
え、と声を上げることもできなかった。
一瞬だった。
それより早く、ナギの心臓から刃物が生えていた。
「……は、……て」
もう一度言おう。
この場でただの運動音痴の14歳にできることなど、何もない。
仮にあるとすれば。
強く優しき者に救われ、足を引っ張るか。
悪意あるものに、一方的に殺されるか、どちらかでしかない。
ナギの読む漫画のように、一般人が突然強い力に覚醒するなどという都合のいい展開は、そう簡単におこるはずがない。
そして、彼女の場合は―――
それが、『後者』であった、というだけなのだから。
※
そして、彼はその願いをかなえた。
『お嬢様に再会する』、その祈りは、届いた。
しかし、神はあまりにも残酷だった。
―――彼女を、生かしていてはくれなかったのだ。
はじめは、見間違いだと思った。
しかし、それをはっきりと認識した時、ハヤテはそれに駆けより―――そして、そのままへたりと地面に座り込んだ。
信じ、たくない。
「―――どう、して」
理解できない。
分からない。頭が―――考えることを拒絶する。
違う。違う、これは―――夢だ。
それは誤っている。これは現実なのだ。
そう認めることは、彼の精神が跡かたもなく崩れおちることを意味していた。
「……あ、ああ……ああ、あ……」
いっそのこと、何も残っていなければ幸せだったのかもしれない。
原型すらとどめず、骨の一本も残らず体ごと吹き飛んでいれば、彼は気付くこともなかったのだろう。
ただ、自分のあずかり知らぬところで死んでしまった『知らない人』、それだけで済まされたに違いない。
それなのに―――皮肉なことに。
「…………あ、あああああああああああああああああああああああっ!」
どうして、
見覚えのある、ありすぎる、視界から離れた日などない、見間違えるなんてありえない、金髪のツインテールが。
小柄な体躯が。愛らしい瞳が。何よりも。
紛れもなく―――彼女の『存在』を真のものにしていた。
心臓を一突き、それ以上の外傷はない。
それ故に、分かってしまう。
彼女は三千院ナギで―――既にこの世のものではないという事実が。
「……です……」
ハヤテの口から零れ出た言葉は、ただの呼吸と変わらない程度のものでしかなく。
「嘘……です……だって、こんなの……こんなの……」
守らなければいけなかった。
自分の命を救いだしてくれた、天使のような主のことを。
ナギは確かに我儘で、ぐうたらで、運動音痴で、オタクでひきこもりで、長所より短所の方が多かったと言っても嘘ではない、小さな女の子だ。
手放しで尊敬できる相手、とはお世辞にも言えなかったのは事実。
しかし、それでもハヤテの主人は、三千院ナギだった。
自身を誘拐しようとしたにも関わらず、ハヤテを許してくれ、さらに執事という職まで与えてくれた、心優しい主人。
だから。
誰よりも、守らなければならなかった。
一刻も早く、救いださなければならなかった。
自分の命よりも他の人間の命よりも何よりも―――大切に。
「……うそ、ですよね」
ハヤテの心は、ほとんど壊れていた。
死にたい。死んでしまいたい。
自分は、大切な主すら守れない、情けない男だ。
こんなに近くにいたのに。
自分は、間に合うことも出来ないなんて―――
そうだ、僕は―――死んでしまえばいいんだ。
このまま舌でも噛みちぎってしまいそうな精神状態の中、しかしハヤテは、たった一点の希望を捨てないことで理性をぎりぎり保っていた。
―――優勝した人間の願いを何でもかなえてやろう―――
それは、悪魔の囁き。
否、正確に言うなら、それは魔女の言葉だった。
現実的にありえない、根拠のない妄言。
無理だ、そんなことは、ハヤテの理性はそう叫ぶ。
神様が存在して人を救えるというのなら、自分がこんなにも不幸になっているはずがないから。
生まれたころから両親に金づるもしくは体のいい稼ぎ口程度にしか思われず、貧しく空しい過去を送ることなどなかったはずだから。
だから、ハヤテは信じない。
信じたくない。信じられない。
「……なん、でも……」
信じられないのに、どうして。
ハヤテは自分が笑っているのか、自分でも分からなかった。
ああ、そうか。
そういうことか。
神様は、僕を試しているんだね。
ここにきて、17年間生きてきて初めて、僕は神様にチャンスを与えられたのか。
幸せを掴む、チャンスという奴を。
あれは、手品なんかじゃないんだ。
本当の本当に―――人を蘇らせることができるんだ。
そうでなければ、わざわざあんなことをする必要はない。
ああ、そうだ、そうに決まっている。
信じられなくても、それが―――事実だ。
それなら、受け取ってやる。
僕は、僕を幸せにするために行動してやる。
僕の一番の幸福は―――お嬢様が幸せになることだ。
そのためには。
そのためには、どうすればいい?
簡単だ。
問いかけるまでもなく、答えは出ている。
ヒナギクさんに教えてもらった数学の方程式なんかよりもずっとずっと、単純なことなのに。
ここに来る前から、本当はずっと分かっていたじゃないか。
ここでお嬢様の死体を見る前から、心に浮かんでいたことだっただろう?
ただ、その答えに辿り着くのを、理性が邪魔していただけで。
人を想う気持ちが、それを妨げていただけで。
僕は本当は―――
「……は、はは……っは、……そうか……」
本当は、悪魔だったんだ。
当然と言えば当然かな。だって、僕の両親は人とは思えないような悪魔だったんだから。
僕にだって同じ血が流れているんだから、僕だって悪魔だったに違いない。
今までは気付かなかっただけで、本当の本当は、きっと―――
―――殺す。
それは、最低な両親に対してさえ一度も抱いたことのない、負の感情だった。
「……殺す……殺す……殺す、殺す……殺してやる……!」
許さない。
『僕』の幸せを、お嬢様の幸せを、邪魔する奴は。
ナギを殺した顔も知らぬ殺人鬼が。
こんな場所にナギを連れて来た主催者が。
ナギの幸せを目指す自分を邪魔する全ての人間が。
―――邪魔、なんだ。
みんな、殺せばいい。
そうしたら、お嬢様を生き返らせることができる。
他に知り合いがいたら、彼女たちも殺さず救い出す、できうる限りは。
そして、共に生き残りお嬢様を幸せにしてほしい。皆ならできると信じている。
最後に―――僕が自ら死ねば済む話だ。何の、問題もない。
お嬢様は、こんなことを喜びはしないでしょう。本当は、すごく優しい方ですからね。
だから、僕のことを嫌ってくれて構いません。軽蔑し、罵り、ゴミとして処分されることすら僕の望みです。
お嬢様にとって、僕が『要らない人間』であればあるほど、お嬢様の世界から嫌なものが一つ廃棄されて、お嬢様の幸せに一歩近づくのですから。
ええ、分かっています。お嬢様はそんなことはしない。
どんなに僕が主不幸な執事でも、お嬢様は僕をそんな風に扱ったりしない。
それが愛情だなんてうぬぼれるつもりはありません、それはお嬢様の心がお優しいからですよね。
しかし、お嬢様。僕は貴方に何もしてあげられなかった。
僕は貴方に命を救われた。それなのに僕は、貴方の命を救うことができなかった。
執事失格です。本当ならこの場で自害すべき、どうしようもない役立たずかもしれません。
だから―――ごめんなさい。もう少しだけ、生きさせてください。
お嬢様を幸せにするために、僕は今、神様にチャンスを与えられたようです。
今度こそ、今度こそ幸せになれるなら。
僕は『お嬢様を幸せにする』ために、全てを消しつくしましょう。
―――だから、思いださないことに。
―――自分が今まで、人生の中で唯一『愛した』、『彼女』のことは―――
―――考えては、いけない。
「……」
ハヤテは、無言で座り込み、虚ろな目で主の死体を見つめる。
即死だ。きっと、痛みはほとんどなかったに違いない。
……本当に、そうか?まさか、そんなはずはない。
心は―――ナギの心はどれだけ痛んだ?即死だったかもしれない、でもそれが何の関係がある?
お嬢様は、苦しんだんだ。
恐怖と絶望に引きつった表情を見るだけで、十分すぎるほどよくわかった。
身を引き裂かれるような―――きっと、痛みだけで死んでしまえるくらいに。
「……同じ目に、会わせてやらないと……」
炎が、彼の心を支配する。
どこまでもどす黒く、悪意と憎悪に満ち満ちた、狂気的な感情が。
お嬢様が傷ついた分の五倍の傷を負わせてやろう。
その両目すら抉り取り、四肢をばらばらにして海に捨ててやらなければ。
その顔を潰し、内臓も脳も頭蓋骨も何もかも全て粉砕しなければ。
ただ、殺すだけでは飽き足らない。
ふと、ナギのディパックが目に入った
何を思ったか、ナギを殺した人物はナギの武器を確認していないらしかった。
それだけ、自分の力に自信があるのか。それとも、よほど焦っていたのか。
「……」
ハヤテには、武器がない。
ナギなら、何か持っているかもしれない。
そう考え、恐ろしいほど冷徹な瞳で、ディパックの中身を引っ張り出す。
そして―――
「……剣……」
その中に、剣の存在を認めた。
美しくもまがまがしい色合いをした、剣などちっとも詳しくないハヤテでも名刀だと分かるほどの代物だった。
赤い刃筋は、まるで血のようで。
「……殺せる」
これで、人を殺せる。
お嬢様を殺した不届き者に、お嬢様を不幸にする無礼者を、裁くことができる。
ハヤテは、それを手に取った。
「お嬢様、ごめんなさい、力を、貸してください―――」
これは、神の啓示なのかもしれない。
ナギも、自分の背中を押してくれているのかもしれない。
そんなことはありえないと知りながら、そう考えてしまった自分を殺したくなる。
執事、失格だ。
だから、待っていてくれなくても構わない。
自分は執事として、ただ主人の幸せだけを祈ろう。
その刃の名前は、妖刀・紅桜。
対象を『斬る』という想いだけを込められ続け作られた、意思を持つ剣。
その意思は人さえも食らい、やすやすと命を葬り去る。
かつて、紅桜の狂気に見入られ、自我すら失った一人の男がいた。
果たして、綾崎ハヤテは、憎しみを身に抱いた少年は、彼のように紅桜に取り込まれてしまうのだろうか?
【三千院ナギ 死亡】
【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
【状態】健康、精神的動揺
【所持品】妖刀・紅桜@銀魂、ディパック×2(ハヤテ、ナギ)
【スタンス】 マーダー
【基本方針】ナギを生き返らせるため殺し合いに乗る。他の知り合いはいるなら可能な限りここから脱出させたい。
※参加時期はアテネ編途中ごろ。
※
ここで1つ、疑問が残る。
三千院ナギを殺したのは、誰なのだろうか?
今から、その正体について書き残しておく。
「……っ、」
声が、する。
木々の生い茂る森の中―――少女の息遣いが聞こえた。
それは、生きた人間がこの場に存在することを示しているはずだ。
なのに―――『誰もいない』。
誰の姿も見えない。存在を感知することも出来ない。
いや、否―――いる。
徐々に、本当に少しずつ―――人間の姿が『浮かび上がって』くる。
年齢は高校生くらいだろうか。紺色のブレザーを身にまとっており、その胸部のなだらかな曲線が、その人物が女性であることを如実に証明していた。
黒髪に隠れてはっきりと見えない顔は―――はっきりと青ざめていた。
ゆらり、影が、動く。
「……や……やって……しまった……」
少女は、つぶやく。
その声からは余裕は微塵も感じられず、恐怖に満ちていた。
しかし、恐怖と同時に―――決意にも満ち溢れていた。
「……先輩、ごめんなさいっす、私―――」
少女の名は、東横桃子。
鶴賀学園麻雀部に所属するごく普通の高校生だ。
……とある二点を除いては。
1つは、彼女が天才的な麻雀の腕を持ち合わせているということ。
そして、もう1つは。
―――彼女は究極に、影が薄いということ。
「加治木先輩……」
自らの恩人であり大切な人―――加治木ゆみ。
桃子は、彼女の姿をここで見た気がしていた。
正確に言うなら、姿を見たわけではないので、確信があるわけではない。しかし、本能が感じ取っていた。
彼女が、この場にいるのだと。
桃子のゆみへの強い思いが、そう訴えかけていた。
頭が真っ白になった。
殺し合い、そんなことできるはずがない。
自分はただの女子高校生だ。麻雀の経験はあるが、人を殺したことなんかない。
でも―――
想像する。
先輩が、あの男のように首から血を噴き出して死ぬ光景を。
先輩が、ありとあらゆる臓器をぶちまけて地面に倒れる光景を。
先輩が、殺し合いに乗った男たちにボロ雑巾のように甚振られ、犯され、殴られ、捨てられ、なぶり殺しにされる光景を。
考えたくない。
考えるだけで吐き気を催した。
そんなことはあってはならない。
先輩は―――先輩にだけは、死んで欲しくない。
魔法なんて、桃子に信じられるはずもない。自分はステルスという能力はあるが、しかしそれも大したものではない。魔法なんて、ただの手品の延長にすぎない、桃子はそう信じていた。
だからこそ、死んだ人間が生き返るなんて、思えない。
もし、先輩が死んでしまえば―――もう、取り返しなんてつくはずもないのだ、と。
だから、桃子は決意したのだ。
自分が、皆を殺そうと。
武器を扱ったことなどない。それでも、彼女には『ステルス』という特殊な体質がある。
誰からも気づいてもらえなかった、誰からも人として認識してもらえなかった。
この能力が、大嫌いだったはずだった。
けれどもゆみは、そんな桃子にこの能力を生かせるすべを教えてくれた。
……自分を、必要としてくれた。欲しいと言ってくれた。救い出してくれた!
それならば―――この能力は、加治木先輩を救うためにあるべきっす。
今度は麻雀ではない―――人を殺すために、使う。
彼女は喜ばないだろう。むしろ、怒るに違いない。泣くかもしれない。
彼女はどこまでも美しく、勇ましく、そして優しい愛らしい女性だ。桃子が人を殺すことを好ましく思うはずはない。
それでも、桃子は先輩を守りたかった。
嫌われたとしても、怖がられたとしても、ゆみだけには生きていて欲しい……。
それにもし、もしもここに彼女がいなかったとしても、それでも、ここで自分が死ねば、もうゆみに会うことはできなくなる。それもまた、桃子にとって辛いことだった・
だから、結果として、彼女は迷わなかった。
だから、殺した。
何の力もなさそうな―――明らかに自分より非力だと一目でわかった少女を。
何の苦労もいらなかった。ただ、平然と彼女に近づき、その左胸にナイフを突き立てただけだ。
肉の感触。血の匂い。思い出すだけで気分が悪い。
実際にそれが理由で相手のディパックすら奪わずここまで逃げてきてしまったのだ。当然だが、殺しに慣れたとは到底言えない。
それでも、それすらも乗り越えて尚―――桃子は進もうとしているのだ。
修羅の道を。
もし、ナギが桃子の存在に気付けていたならば、この悲劇は起こらなかったかもしれない。
ナギは死なずに済んだかもしれないし、桃子も殺人をためらったかもしれない。
しかし、結果として、ナギは気付かなかった。桃子は気付かれなかった。そして―――ハヤテは、気づいた。
運命は回り始める。
……予想した以上に、最悪の方向へ。
【東横桃子@咲-saki-】
【状態】健康、精神的ショックと決意
【所持品】包丁@現実、ディパック
【スタンス】 マーダー(文字通りの意味でステルス)
【基本方針】先輩を生き残らせるため人を殺す
※本当に加治木がいるかどうかはまだ未定です。
最終更新:2010年03月21日 12:24