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暗闇劇場――開演

舞台――その場所を一言で言い表すのならば、その単語がもっともふさわしいのあろう。

辺りには闇が満ちていた。
一体そこはどのくらいの広さがあるのか、そこはどのような場所なのか、そんな周囲の様子はもちろんのこと、自らの身体――手の形さえ
顔にどれだけ近づけてみてもわからない、見ることができないくらい、そんなねっとりと深い闇。
濃密な黒で満たされた空間。
そんな中にぽっかりと、切り取られたかのように不自然に、その空間にだけは光が満ちている。
それほど広いわけでもないが、逆にそれほど狭いわけでもない円状の空間。
そこには二人の男がいた。

二人の容姿を簡潔に述べてしまえば、両方ともに長髪痩身、整った顔立ちという記号で一くくりにすることができる。
……けれど、そうした同じ単語でまとめられる二人でありながら、実際に見比べてみるとその印象はまるで違ったものであった。

二人のうちの片方――年が若く見えるほうの印象は……地味。
見た感じは大体十代後半くらいであろうか。男というよりは青年、或いは少年と呼んだほうが良いくらいのおそらくはまだ学生であると思われる年頃。
髪が長いのもその頃にはありがちなおしゃれの為で、というわけではなく単に手入れが行き届いていないだけというのがうかがえるぼさぼさ頭。
丸眼鏡の下にある素顔は彼のもつ印象からすると予想外に整ってはいるが、彼の浮かべている人好きのする笑みのせいもあってか、どこか抜けた雰囲気とともに彼を目立たなくさせている。

一方、もう片方の外見はというと。
年齢はおそらく三十代にはやや届かないくらいであろうか。
彼の長髪はもう一人のぼさぼさ頭とは違い、それなりに手入れは行き届いている風であり、彼の身につけているコートのような趣のある「黒い白衣」や、
ベルトで両足をつなげたやはり黒色のズボンとあわせて、どこかミュージシャンのような印象を与えているが、首から下げている小さなメモ帳がその格好には似合っておらず、どこかちぐはぐな違和感がある。

そんな似ているようで似ていない二人は、共に一言も発することなく、周囲にわだかまる闇を見渡す。

「――もう少しだ」
若いほうの青年が不意に小さく呟いた。
「ん? 何か言ったかい?」
その呟きが耳に届いたのか、もう一人が視線を向けて尋ねる。
「別に何も。……ただ、強いて言うなら本当にあなたの言ったことが、その言葉通り上手くいくのか考えていたのが少し口に出たのかもしれませんね」
敵意、とまでは言い切れなくとも、明らかに好意とは無縁の感情を視線に込めて、青年はもう一人を見る。
「絶対に上手くいく……そう断言できるなら何も実際に行動におこす必要はないさ。わかりきったことをわざわざ試みなければならないほどぼくはアレを必要とはしていない。
――だからそう、断言はできずとも上手くいくという自信はあると言っておこうか」
それに対して年の功というものだろうか、相手を難なくいなすと男は小さく苦笑する。
「これで満足してもらえないかな……炫、塔貴也君」
炫塔貴也と呼ばれた青年はその言葉にすぐには応えず、静かに視線を落とし自分の腕、そこについている時計を見た。

「……」

一秒、二秒。
静かな時間が流れていく。
ややあって、闇の中からざわめく声が聞こえ始めた。
「――そろそろか」
そう言うと彼はきびすを返して、声が聞こえてくる方とは反対の闇の中へと歩き出した。
そうして彼の姿が闇の中へと消える前に、振り返ると未だに「舞台」へと残る男に向かって声をかけた。
「それじゃあ、一応後のことは任せます。……貴方の事を信じさせてくださいね? 闇曲拍明研究室長殿」
「ああ」
彼の答えを待つことなく、少年は闇の中へと姿を消した。

それを笑みを浮かべつつ見守り、闇曲拍明、そう呼ばれた男は一人静かにその場に立ちつづける。
そうしている間にも少しずつ、だけど確実に闇の中から聞こえてくる声の数は増えていっている。
最初のうちは耳を澄ませば何とか判別できた声の内容も、いまではザワザワといった物音としか聞こえない。
ちなみに最初のうちの判別できた声の内容、そのほとんどは「……ここは?」だの「だれかいないのか?」といった類の、今の自己のおかれた状況を問うものがほとんどだ。
だが、そうした言葉を理解していてもなお拍明は動きを見せず。
この闇の中、一体どれほどの人数がかくされているのか、十を超えてもなお、ざわめきの数は増えていき。

「こいつはテメェの仕業かぁぁぁぁっ!! いぃぃぃざぁぁぁぁやぁぁぁぁぁっ!!!」

不意に大声が響き渡った。

怒りと暴力。
単純にそれら二つの要素を煮詰めて人の形にしたものが叫んだのならば、今のような声が出るのだろうか。
気圧されるように、さっきまでのざわついた喧騒は消え去り、その原因となった叫び声もやんで――場には一時的な静寂が訪れた。

ぱん!

その一瞬の静寂を破るように闇曲拍明は手を打ち、
「さて、ちょっとこちらの話を聞いてもらえないかな?」
笑顔を浮かべて口を開いた。

(――さて、と)
闇の中から姿は見えずとも、いくつもの視線が自分を注視していることを感じつつ、顔色一つ変えずに拍明は『スケジュール』の内容を思いおこす。
計画ならば――
「どういうつもりだ! ……闇曲拍明!」
真っ先に闇の中から聞こえてきた声は、彼にとって聞き覚えのある――彼の妹の声だった。
そして、その声を皮切りに再びざわめきが満ちる。
ただし今度のざわめきの内容は姿をあらわした「彼」の意図を問う質問、いや難詰である。
そんな場の雰囲気、かけられた言葉、それらの全てを無視して拍明は、
「少し静かにしてくれないか?」
そうなんでもないかのように告げた。
もちろん、そういったところで場は静かになるはずもない。
すると彼ははあ、と小さく息をつくと指を鳴らした。
「お、お? なんや?」
その途端、暗闇の中から一人の少年の姿が浮かび上がった。
「轟?」
「お、何やあっきーも……」

ぼんっ

音自体はきわめて小さいものだった。
しかしそれによって引き起こされた事態は小さいものではなかった。
きょろきょろと周囲を見渡す少年を知っているのか、闇の中から別の少年の声がかけられて、轟と呼ばれた少年がそれに返事をしかけた瞬間、小さな爆音と共に彼の頭は爆発した。

「……え?」 「……あ。う、嘘……」
「きゃああぁぁぁっ!!」
それと同時に飛び散ったあまりにも生々しい血の色。
同時にいくつもの悲鳴、絶叫があがる。
「少し静かにしてくれないか?」
それらが聞こえていないかのように、そう先ほどとまったく同じセリフを拍明は告げる。
そのあまりにも平坦な声に、少しだけ静かにはなるが、それでも悲鳴はやまず。
少しだけ待った後、拍明は再び指を鳴らした。
「え? あ、嫌あああぁぁ!」
「杏!?」
「大原!」
今度姿が浮かび上がったのは、活発な印象のショートカットの少女だ。
ただし、そんな印象を感じられたのも一瞬だけ。少女は先ほどの少年と同様の状態にある自分を知り、恐怖の表情を浮かべ、悲鳴をあげた。
――そして、それ以外は先ほどとまったく同じ事が繰り返される。

爆音と流血。

「少し静かにしてくれないか?」
『…………』
……三度目の宣告にようやくあたりは静まり返った。
「ふむ、さてまずは自己紹介といこう。ぼくの名は闇曲拍明という。キミ達をここへと招待した人物、その人から『監視役』を命ぜられた人間だ」
そんな風に彼は語りだした。
「今『監視役』といったが、監視対象は君達だ。正確には君達の生き様だな。
話は前後するが君らにはこれから殺しあってもらう」
驚き、呆然、疑問。
そんな声が闇の中から幾つもあがるが、彼のたった一言「静かに」との注意で皆一様に押し黙る。
「まあただ殺しあえ、などといわれたところでおとなしく従う義理は君たちにはないだろう。そこでちょっとした仕掛けを用意させてもらっている。先ほどの二人をみていればよくわかっただろうが、君達の首にちょっと特殊な爆弾を仕掛けさせてもらった」
おそらくはほとんどのものが自分の首元を確認したのであろう、ごそごそとした物音が聞こえるのを待って、拍明は言葉を続ける。
「威力の方は……まあ『普通の人間』ならば首が綺麗に吹っ飛ぶ程度かな? どこがどう特殊なのかは……まあ、見てもらったほうが早いか」
そういうと拍明は三度指をならす。
次に現れたのは見た目十二歳前後の少女だった。
ただし今度の少女は先ほどの彼女とは違い、自分の姿が浮かび上がった、すなわち自分が見せしめとなることに気がついても特に怯える様子は見せなかった。
「絹旗!」
「一応言っておいてあげますけど、超無意味ですよ」
彼女の知り合いも闇の中にいるのか、不安そうな男の声に小さく笑みを浮かべた後でそんなことを彼女は拍明に対して言い、そして同時に響く爆音。

「人の話は聞くべきです。残念ですけどこの程度の爆発超平気なんで……」
しかし一体何があったのか、首元で爆発があったにも関わらず、少女は平然としている。

いや、ほんの少しの間だけ「平然としていた」。

「……え?」
爆発を平然とたえぬいた少女の周りを取り囲むように、不意に無数の文字が浮かび上がった。
歯車のように組み合わさったその文字は、その見かけどおり回りだし――それと同時に少女の身に劇的な変化が起こった。
十代前半のはずの少女、それが見る間に歳をとっていき、皮膚が崩れ落ち、白骨と化して、ついにはその骨さえ塵と……消えた。

「…………」
「と、まあ見てもらったとおりだ」
ほとんどの者が何が起きたのか把握できずに静まり返った場に、拍明の声がたった一つの物音として響き渡る。

「君達の首に仕掛けられた爆弾は生者の時間を吹き飛ばす。
――この中の何人かは今の彼女のように例え首元で爆発が起きても生き残ることは可能だろう。けれど何万年と生き続ける事ができるかな? ああ、もしもそんな者がいるならここで遠慮なく言ってくれ」
拍明の言葉に応える者はいなかった。

「さてと、ではもう少し詳しい説明をするとしようか。一応これから言うことをまとめたものを君たちに渡しはするけど、貴重な時間をそんなことに割くのはもったいないしね、この説明で理解しておいた方がいいだろう。
まずは基本的なルールから。
この説明が終わってすぐ、君たちを『会場』に送る。そこで最後まで生き残ればそれで良い。
もちろん君たちがどう動こうとも基本的には自由だ。真正面から一対一、決闘じみたやり方で闘おうと、一人を大勢で嬲り殺しにしようと、そして弱った相手を襲おうとも。
ただ、あまり睨み合いが続いて停滞するというのは観察する側として歓迎できない。だから禁止エリアというものを設けさせてもらう。
会場内を全部で36の升目に区切る。……と、ここまでいったら勘のいい人は気がついたかな? そう、その升のどれかが禁止エリア指定され、その中に入ってしまえば警告の後でドカン、だ。
ああ、今どれかと言ったけど、正しくは最初はゼロ。そこから六時間が経過した後は一時間毎に一エリアずつ禁止エリアは増えていく。どこが禁止エリアになるかはランダムだ。

――とはいえ安心して欲しい。一時間毎に運任せで動けなんてことは言わない、どこが禁止エリアになるのかは君達に放送という形で伝えよう。
うん、これはサービス。ついでにその放送の間に誰が殺されたのか、教えてあげよう」

そんな風に殺し合いという陰惨な内容を語る割には気楽な言葉が並べられていく。

「後は……決着がつくまで一日以上時間が経過するおそれもある。そうなると食事の有無なんかで差がつくのもできれば避けたいからね、君たちには色々支給するものがある。
会場で確認してくれれば手っ取り早いけど、うん。一応説明しておこうか。
まずは成年男性三日分の携帯食。それと水が少々。
念のため期限までの間に動くには十分な量は支給するけどそれでも足りないって人の為、会場内にも水道なんかの設備は通してある。どう活用するかは君達の勝手だ。
それから簡単な医療品。消毒薬や解熱剤、包帯の類だね。
さっきも言ったけど、これらのルールをまとめた紙、後は地図とコンパス。
ここまでが各人共通だ。
……この中には素手で人を殺すことができる人もいるけど、そうじゃない者もいる。その差を少しでも埋める為にランダムで武器が配られる。
各自それぞれに一つ、或いは二つ。
わかりやすいものなら刃物や銃。どう使えばいいのかわからないもの、あるいは何の役にもたたないハズレまで千差万別。
まあ自分の運を計るいい道標になるんじゃないかな?
――そうそう一番大事なことを言い忘れるところだった。
確かに会場内で君たちがどう動こうとも自由とは言ったけれども、こちらに熱心に協力してくれる人間、言い換えれば積極的に殺す人間。
そういう人を悪い意味で平等に扱うのもなんだしね、それに見合うメリットも与えておこう。
六……いや、五人。他の参加者を五人殺すごとに褒章として権利をプレゼントしよう。そう、本人を含めて誰か一人を会場から脱出させる権利を、だ。
例えば守るべき恋人、仕えるべき主人。そう言った自分より大事な誰かを逃がすことに使っても良いし、自分の命を一番大事に扱っても良い。どうしようとそれは勝手だ。
ただ、やはり優勝、ただ一つの生き残りを目指しても欲しいから、優勝者にも特別な権利を与えよう。
優勝したものはたったひとつだけ好きな願い事をかなえることができる。ああ、もちろんよくある権利を増やせなんていうもの以外はね。それ以外ならば何でもだ」

「もちろんこれを信じるも信じないも君達の自由だ。ただこちらとしては嘘は一切言ってはいない。。……話が長くなったけれど、もう時間だ。 では健闘を祈る」

――そうして、闇の中から一切の気配が消える。
場に残ったのは拍明ただ一人。
その彼もきびすを返すと、少し前に姿を消した塔貴也同様別側の闇の中へと姿を消した。

残されたものはただの暗闇。
何一つ残らない虚無。
いったいそれが何を暗示するのか、それを知るものはまだ、いない。

【轟慎吾@れでぃ×ばと! 死亡】
【大原杏@アスラクライン 死亡】
【絹旗最愛@とある魔術の禁書目録! 死亡】


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最終更新:2010年03月23日 12:17
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