「ふざけんなっ!」
森の中、一人の少女の怒声が響く。
緑色の髪をポニーテールにした少女……園崎魅音は、この
殺し合いに憤りを隠せずにいた。
「……こんな殺し合いなんて誰も乗ってたまるかっ!圭ちゃんも、私も、レナや沙都子や梨花ちゃんや詩音だって……」
こんな殺し合いには乗らない。それが―――考えるまでもない魅音の答えだった。
目の前で、人の首が飛んだ時にはさすがに生理的な嫌悪感を覚えた。しかし、それはこの会場で目覚め、現実を認識した瞬間―――怒りへと変わる。
怖くないわけではない、ただ恐怖より怒りと正義感が勝っていただけだ。
部活のリーダーとして、こんなくだらないことをするはずもない、殺す勇気もない。昔は色々とやんちゃをしたこともあったが、殺人はさすがに魅音にとっても禁忌である。
たとえ放送の時点で無差別に殺害されると言う可能性はあっても、……だとしても、誰かの命を犠牲に自分が生き残るなんて、そんなことになるくらいなら最後まで抵抗して死んだ方がマシだ、と魅音は思っていた。
第一、ここに仲間が誰もいないという保証はない。魅音がここに連れてこられる直前、彼女は部活で盛り上がっていたところだったのだ。となれば、その仲間たちもここにいる可能性がないなんて言いきれない。
もしここに圭一やレナ達がいるのならば、殺すなんてもってのほか。選択肢として一番に消すのは当たり前だ。
皆がこの場にいるのなら、合流して早く脱出する。その前に、あの主催者に部活メンバーでぎゃふんと言わせてやる。
笑いながら人を殺すような男を許すわけにはいかない、何が何でもあそこから引きずりおろしてやる。
魅音の考えはそんなものだった。
彼女の右手には、支給品として配られたボーガンが握られている。さすがにボーガンを使ったことはないが、しかし何もないよりはましだ。
考えたくはないが、もし殺し合いに乗った人間がいたとすれば、自分の身を守ることはしなければならない。
園崎魅音は、ただ誰かが助けに来るのを待っているような非力な少女ではないのだ。……本音は、好きな人に助けてもらいたいという気持ちがないわけではないが。
「……とにかく、誰か、私と同じ意見を持っている人と会おう」
しかし、一人ではなかなかうまくいかない。そこらの男に負ける気はないとはいえ、できれば男性の協力があったら尚嬉しい。そして情報を交換しあい、ここから抜け出す道を模索しよう。
「……しっかし……」
だが、勢いのある言葉を吐いたのち、魅音は困ったように頭をかいた。
表情は勝気なものから、ここに飛ばされてすぐのやや困ったようなものに戻っている。
「ってもどこに行けばいいんだろう……あてとかないよなあ……もし、圭ちゃんたちもいるとすれば……」
地図をじっと見つめて、考える。
こういうことは本来は魅音の担当ではないのだが、仕方ない。
「…………行くとすれば学校、とかかな」
もし仲間が行くとすれば、それはいなれた場所である『学校』である可能性は高いように思う。そうでなくても、このような殺し合いの場だ。学校なら、部屋も多いし物資も充実している。
目指す人は多いだろうし、情報も集まりやすい。
「……でもそれは逆に、危ない奴も来やすいってことだよね……」
そう、それはつまり、同時に危険人物もまた招きやすいことを意味する。決して成績がいいとは言えない、しかも中学生の魅音が考え付くようなことを、大の大人が考え付かないとは思えない。
できれば、危険に巻き込まれるのは避けたい。
しかし、他に手がかりもないのなら、学校に行くのが賢明なのだろうか……。
「……どうしよう……」
魅音が頭を抱えた、その時。
「……お妙さああああああああああああん!」
……突然聞こえてきた声に、背筋が凍った。
男の、野太い声が、魅音の背後から響いてきたのだ。
自分の名前を呼ばれたわけではない―――なのに声は自分に向けられている!
それだけは、本能ではっきりと感じ取っていた。
嫌な予感を覚えて、後ろを振り向くことができない。
その声がどこかおっさんくさく、変態的な匂いを感じさせるものだったから尚更だ。
鳥肌が立つ。背中に嫌な汗が流れた。いくら普段は男らしく振る舞っているとはいえ、魅音も乙女。女として生理的な嫌悪感を感じてしまっても文句は言えない。
(…………だ、誰……!?な、なんなの……!)
もし危険人物だったら、逃げた方がいいのかも、そう考える魅音の前に、いつの間にか、―――その声の主が立っていた。
「……!?」
早い。いつの間に!?魅音の頭は混乱する。
「お妙さん大丈夫ですか!?俺が来たからにはもう安心です、無事でよかっ……」
反射的に逃げようとした魅音は、……その男の発言を聞いて、あれ、と思いなおす。
もう安心?そんな言葉を、殺し合いに乗った人物がかけるだろうか?
ということは、この人は……?
もしかして?
「…………あ、アレ?お妙さん……じゃない……?」
そう、その男は。
魅音と今度こそ、ばっちりと目を合わせたそいつは……
……『まるでダメなオッサン』を絵にかいたような、ゴリラそっくりの男だったのだ。
※
「いやあすまなかった!君の声が俺の知り合いに似ていたから勘違いしてしまったよ。武装警察である俺たちが一般人を怖がらせるなんて悪いことしたな。大丈夫かい?」
「……は、はい……」
「それならよかった。君が無事でよかったよ。君の名前は?」
「園崎―――魅音です」
「魅音ちゃんか、うん、美しい名前だ」
結論からいえば、男―――近藤勲は十分にまともな人間だった。
十分、どころではない。多分とも言えるかもしれない。
殺し合いに乗っておらず、会ったばかりの魅音を『全力で守る』と言ってくれ、更に知り合いの名前を言うと、彼らがいるかどうか探すのも手伝ってくれるという。紛れもない善人、少々お人好しすぎるくらいだろう。
……これでもう少し二枚目だったなら、ロマンスの一つも夢見たところだが、見た目ゴリラじゃ話にならない。
ひとまず、魅音は彼を信頼に値する人物だと判断して、こうして情報交換をすることにしたのだ。圭一やレナ、双子の妹の詩音、沙都子と梨花。自分がここに来る直前まで一番身近にいた仲間たちの名前を挙げる。
近藤は魅音達がまだ学生であることに憤りを隠せなかったらしく、君たちみたいな子供まで巻き込むなんて許せないな、と本気で怒っていた。
近藤の知り合いの名前も聞いたのだが、彼があまりにもたくさんの『タイシ』の話題を出すので、全員覚えるなんて不可能だった。
彼の言う『タイシ』が何なのか魅音にはよく分からなかったが、おそらく彼の仲間ではあるのだろう。
警察であると言っていたから、彼の部下か何かだろうか。
その中でも特に印象に残った名前は、しょっちゅう彼が口にした『トシ』という名前だった。
どうやら彼のもっとも親しい友人のような存在であるらしく、近藤は彼を深く信頼し、また同時に心配もしているように思えた。
魅音は、近藤に問うた。
「その……探してらっしゃったお妙さんって方は近藤さんの恋人……ですか?」
その名前を聞く限りは女性だろう。近藤の親しい女性なのだろうか。
いい人ではあるが、とても女性にもてそうには見えない。
「はっはっは、嬉しいな。そう……だったらよかったんだがなあ。残念ながら俺の片思いさ」
残念と言いながらも、近藤の顔には残念さよりむしろその女性を思う気持ちがにじみ出ていた。
きっと彼女のことを本気で愛しているのだろう。
「お妙さんは君より年齢は少し上だな。……髪型といい、声以外の雰囲気も君と少し似ている。よかったな、君もあと数年すればお妙さんのような美人になるぞ!……あ、いや、今でも十分美人だぞ?安心しろ!」
……いい人なんだな。
それが瞬時に理解できる。
初めて会った自分に気を遣い優しい言葉を掛けてくれ、そして自分たちがこのようなことに巻き込まれたことを本気で憤ってくれている。
既に初めに感じた恐怖は微塵もない。彼は自分をだますような人間ではない、これが演技だとすれば彼は間違いなく天才だ。
「そういうお世辞はいいですってば」
と言いつつ、美人と言われて悪い気はしない。魅音は照れたように頭をかいた。
「……あ、ところで近藤さん、えっと、あの……」
「ん、どうした魅音ちゃん」
「あの……変な話なんですけど…………『魔法』って……本当だと思いますか?」
しかし、いつまでもそうほのぼのしたやり取りを続けていくわけにもいくまい。魅音は、近藤に自分が先ほどから気になっていたことを尋ねた。
魅音にとって、理解できないそれを。
それは、あの男が言った『魔法』という言葉。
『魔法』で人の命を蘇らせられる、と。そしてその言葉通り―――あの男は、首と胴体が離れ離れになった青髪の青年を『蘇らせた』。
……あれは本当に死んでいたのだろうか?だとしたら、本当に生き返ったとでも言うのか?
彼女の常識からすれば、そんなことは到底信じられない。
魅音の言葉に、近藤は当然のように即答した。
「まさか、あんなのただの手品だよ!死んだ人間が生き返るはずなんてない!あの男はきっと精神を病んでいるんだろう。何とかしなければ……」
近藤のその答えに迷いはなく。
魔法などという非現実的なことは信じていない、人がよみがえるなんてない、近藤は、そう言いきった。
魅音は、それを聞いて、ほっと胸をなでおろした。
死んだ人間が生き返るはずもない。
―――それは、魅音も近藤と同意見だった。
死んだ人間は戻らない。後悔をしても、どうにもならない。
大切なことは、死んだ人間のために諦めないこと。そう、彼女は知っていた。
「ええ、魔法があるとしたら、それは―――」
「皆の力で起こすものだと思います」
思わず、そう口にする。
そう、それは、奇跡。
仲間と協力して、巻き起こすものだ。
沙都子を伯父の手から救い出したあの瞬間のように―――人を幸せにするために、起こるものこそが、奇跡の魔法。
あんな、人を殺して楽しむための力など、断じて魔法ではない。奇跡ではない。
あんな男のやったことを、『魔法』だなんてすませたくない。
魅音はそう、信じていた。
「ああ、奇遇だな」
「俺も―――そう思うね」
『魔法』なんかより、もっと頼りになる者がある。
それが、仲間との泥臭い絆であり、強力であり、努力であると。
2人は、強く強く理解していたのだから。
「…………って、はは、なんかおじさん臭いこと言ってますねー、すみません近藤さん」
「いや、素晴らしい意見じゃないか。感動したよ。俺みたいなオッサンならともかく、魅音ちゃんみたいな子供でもそう言えるなんて---きっと、魅音ちゃんはいい友達を持ったんだな」
近藤は、笑う。
その顔は、全然かっこよくなんかないけれど―――でも、この人は誰かの上に立つにふさわしい人物だと、はっきり魅音に確信させた。
だから、応える。
魅音の出来る限りの明るい声で―――『いい友達』を、肯定する。
「…………はい!それはもう!」
本当に、いい人に出会って良かった、と。
魅音は、この幸運に感謝した。
※
話し合った結果、近藤は魅音の『知り合いが学校に行っているかもしれない』という意見を聞き入れてくれた。近藤の知り合いには学生らしき人はいないにもかかわらず、だ。
完全に魅音が付き合わせている。申し訳なかったが、謝ろうとしても近藤が笑って聞き流すだけだったのでそれもやめた。
今回は、この善意に甘えよう。そう思う。
普段は年上としてリーダーを務め、家では次期党首として扱われるなど、年下の少女として扱われることがほとんどない魅音には新鮮で、どこかむず痒い感覚である。
決して不快などではなく、どちらかと言えば嬉しかったが。
「本当にありがとうございます、近藤さん」
「だから気にするなって言ってるだろう?魅音ちゃん、そんなに気にやまなくても、この真選組局長・漢近藤勲が、君を無事に仲間の元まで送り届けるからな」
ぷっと、魅音は噴き出した。
どこかかっこつけようとしたらしい近藤の口調がつぼにはまったのだ。
「え、え?今のって笑うとこ?違うよね?むしろ今のはキャー近藤さんかっこいい素敵!って言うべきところじゃ?」
本気で困惑する近藤。
きっと本人は言葉通りかっこいいことを言ったつもりだったのだろうが、全く様になっていない。
普段の生活など知らないが、臭い台詞を吐くよりもふんどし一丁で泥まみれで不器用にはいずりまわっている方がずっと似合うと思った。無論、褒め言葉だ。
「あははは、近藤さん面白くないよー、真選組なんて江戸時代の話じゃん」
きっと、冗談のつもりだったのだろうと魅音は思っていた。
歴史上の人物になぞらえて気どったつもりなのだろう、そう考えていた。
新撰組など魅音にとって、教科書に出てくる存在でしかなく―――現代に生きているはずもないのだから。
冗談なら、もっと面白いこと言ってくださいと、魅音はそう言おうとして。
「…………え?いやいや、魅音ちゃん。何言ってるんだい?江戸時代の話って、今が江戸時代なのに、そんな昔の話みたいな言い方しないでくれよ」
―――言葉を、失った。
何を言っているんだ、この人は。
今は昭和58年6月―――うん、間違いない。紛れもない、忘れているはずもない。
それなのに江戸?江戸なんて、もう100年以上前に終わっているじゃないか。
まだぼけるつもりなんだろうか、近藤さんはギャグのセンスがないなあ、と魅音は思った。……思うことにした。
「…………や、やだなあ近藤さん、そうやっていつまでも引っ張らないでくださいよ。警察なんですよね?そうやって市民をからかうのは酷いですよ?」
「分かっているさ。だから嘘なんてはいていないじゃないか。俺は武装警察・真選組の局長として君を守るって―――」
どくん、と。
心臓が跳ねた。
まだ冗談ですか?と魅音は言おうとして、言葉に詰まる。
その時の近藤の表情は、―――本当に、『何を言っているのか分からない』と言いたげだったのだから。
………………シンセングミ、の、近藤。
魅音だって知識にはある。そう、確かに教科書に載っている新撰組のリーダーの名前は近藤―――彼と同じ名前だった。
近藤なんて珍しい名字ではないし偶然だろう、―――そう、思い込んでいいのだろうか?
―――まさか。
ありえない。ありえない、と思う。
シンセングミ―――なんて、もうとっくの昔に死んでいるはず。
他の人間なら嘘かとも思うが―――あの近藤がこのような場で冗談など言うような人にはどうしても思えず、だからこそ混乱する。
やっぱり、私をからかっているだけ?
でもそれにしては、あの近藤さんのきょとんとした表情は何なの?
あれじゃあ、まるで。
本当に、近藤さんが江戸時代の人間みたいだ。
え、本当、本当に?
この人は、本当に、『シンセングミ』?
信じられない。そんなバカな。
でも、もし、もしそれが本当だとしたら―――
―――この人たちは、生き返った、ってこと?
じゃあ、じゃあ、さ。てことは―――
本当に、人が生き返るってこと――――?
じゃあ、もし、もしだよ。
もし、圭ちゃんが死んだら。
レナが、皆が死んだら。
この場で、誰かが死んでしまったとしたら―――
その時は―――本当に?
……馬鹿、何を考えているんだ私は!
そんなこと誰も喜ばないっ!誰も望んでいるはずないっ!
そんなことできるはずないじゃないか!
私は!誰も殺さずここから脱出するんだから!
「魅音ちゃん、大丈夫かい?」
……はっとした。
自分と葛藤していて、気がつかなかった。
目の前には近藤が立っていて、魅音を心配そうに見つめていた。
やはりその表情には―――裏などない。この人を疑うなんて、自分の良心が痛むだけだ。
この人が私をだますなんて、ありえない―――
「は、はい。大丈夫です。……行きましょう」
だから魅音は、笑顔を作る。
気にしていないふりをして。何でもなかったような顔をして。
……頭の中に、解決できていないもやもやを抱えながら。
「……そうだな、ここでもたもたもしてられない。行こうか魅音ちゃん」
「………………はい……」
こうして、少女と男は歩き出す。
男は、結局最後まで気付かなかった。
お人好しすぎる近藤は、疑うことすらしなかった。
少女が―――その胸に、ほんのわずかの戸惑いを感じているということに。
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
【状態】健康、困惑
【所持品】ボーガン@現実、ディパック一式
【スタンス】対主催
【基本方針】皆がいるなら皆と合流。生き返ることについては……?
※参戦時期は皆殺し編、沙都子救出後です。
【近藤勲@銀魂】
【状態】健康
【所持品】ディパック一式、ランダム支給品(本人は確認しているが何かは不明)
【スタンス】対主催
【基本方針】魅音を守り、自分の知り合いや魅音の知り合いがいないか探す。
最終更新:2010年03月23日 16:21