75話 屍演舞-ShikabaneEnbu-
目を覚ますと、見慣れた木造の天井が目に入ってきた。
僕はどうやら固い畳の上で仰向けになって寝ているみたい。
上半身だけを起こし、目の前に映る光景を観察する。
見覚えのある机、本棚、窓。間違いない、ここは、僕の部屋だ。
どういう事だろう、僕は確か
殺し合いをさせられて――。
「のび太君、やっと起きたの? 昼寝ばかりしてちゃ駄目だよ」
「!!」
背後から、よく聞き慣れた声が聞こえた。
そうだ、この声は間違いなく。
「ドラえもん!?」
期待に僕は後ろを振り向いた。
でも、そこにいたのは、僕の知っている青い猫型ロボットではなかった。
「ドウシタノ、ノビタクン?」
血塗れの畳の上に、首だけになった、ドラえもんがいた。
「!!!」
僕は見知らぬ部屋のベッドの上で再び目を覚ました。
頬を抓ると痛いから、これが現実みたいだ。
首にはやはり金属製の首輪もはめられ、ベッドの傍には僕のデイパックと銃も置いてある。
ここは、僕はどうしたんだっけ……。
「……そうだ」
僕は、豪邸の前でアレックスと名乗った人と、その仲間二人と出会ったんだ。
僕と、同行していた狐の女の子のミーウさんと同じくアレックスさん達も殺し合いには乗っていない、
そう言っていたから、僕は喜んでミーウさんの方を向いた。
でも、違った。僕は騙されていたんだ。ミーウさんに。
ミーウさんはきっと最初から、僕や、既に死んでしまったけど、
アキナさん、死神五世さんを殺すつもりでいたんだろう。
振りむいた僕の目に飛び込んできたのは僕やアレックスさん達に、
大きな銃の銃口を向けるミーウさんの姿だった。
僕は怪我一つしなかった。アレックスさんの仲間のジンさんが、
自分の命も顧みずに僕の事を助けてくれたから。
でも、そのせいでジンさんと、石川さんという、青い狼の頭をした学生らしい人は、
ミーウさんに撃たれて死んでしまった。
その後の事はよく覚えていないけど、どうやら豪邸の中にいた人が、
僕を介抱してくれたんだと思う。
「……」
介抱してくれた? 本当にそうだろうか。
ミーウさんみたいに、仲間の振りをして、親切な振りをして、
最終的には襲い掛かってくるんじゃないのか?
そうだ、よくよく考えてみれば分かる事じゃないか。
この殺し合いで生き残れるのは一人だけ。
数時間前までの僕達みたいに殺し合いから脱出する術を共に探すように見せかけて、
その実、隙を突いて殺す機会を窺っている人の方が多いんじゃないか??
さっきの、ミーウさんみたいに。
そうだよ、そうに決まってる。
僕は今まで気付かなかっただけなんだ。
みんな、本当は自分の事が一番大事に決まってるさ。
こうしちゃいられない。きっと僕を保護した振りをした人達が、
僕を殺しに来る。その前にここから逃げなきゃ。
僕は自分の銃とデイパックを拾い上げた。
そうだ、ノートパソコンがあったけど……どうせ僕には使い方なんて分からないし、
ここに捨てて行こう。
デイパックの中からノートパソコンを取り出し、ベッドの上に投げ捨てた。
窓を開けると、海が見えた。どうやら豪邸の裏側らしい。
背後を気にしながら、僕は窓枠を越えて外に出た。
後は逃げるだけだ。そうだな、あの灯台の方向に思い切り走ろう。
今度誰かに会ったら、殺される前に、殺さなくちゃ。
仲間面する奴なんて、信用するもんか。
さもないと、また裏切られるに決まってる!
高野雅行は灯台の螺旋階段を下りていた。
この灯台にも、獲物の姿は見付からなかった。
折角拳銃が二丁もあると言うのに、宝の持ち腐れになってしまう。
一階の管理人詰所の部屋には何者かが使った形跡こそあったが。
螺旋階段を降り切り、外に通じる扉を開けた時だった。
「……!」
「あ……」
前方に、眼鏡を掛けた、小学校高学年ぐらいの少年の姿があった。
手には大型の黒塗りの拳銃が握られている。
突然の遭遇だったために、雅行は銃を構える動作に移るのが一瞬遅れた。
重たい銃声が三発響き、同時に雅行の胸元から鮮血が噴き出した。
大きくよろめくが何とか持ち堪える。だが、明らかに致命傷だと言う事は理解できた。
喉の奥から鉄錆の味のする熱い液体が込み上げ口から溢れる。
更に二発、今度は腹部に衝撃と激痛を感じた。
たまらず片膝を突くが、もう、立ち上がれそうになかった。
「フ……フ……」
なぜか、雅行は笑いが込み上げていた。
何とも呆気ない終わり方だと、自嘲気味な笑いだった。
ゆっくり顔を上げ、霞む視界の先に、雅行は自分をこれから殺害せんとする、
眼鏡を掛けた少年の顔を見据えた。
「フハ……ハ……!!」
そして、もう一発の銃声と同時に、雅行の意識も消失した。
やった。やっちゃった。ついに僕は人を殺した。
でも、これは仕方ないよね。だって、この人、銃を持ってたんだもん。
これで僕を撃ち殺そうとしてたんだよきっと。
だから、これは正当防衛。僕は何も悪くない。危険から自分の身を守っただけなんだから。
さて、もう動かなくなっちゃったこの人には、もう武器なんていらないよね。
僕の身を守るには一杯武器がいるから、使わせてもらおうっと。
うわぁ、デイパックの中にもう一つ、銃と予備マガジンがあったよ。
それに水と食糧が一杯だ、あれ? このツルハシ、血が付いてる。
「……やっぱり、この人も人殺しだったんだ。あは、あははは。
あ~良かった。危なかったよ」
僕も殺される所だった。本当に危なかったよ。
それじゃ、武器と食糧は貰って、このピアノ線とかはいらないや。
これからどうしようかな、そうだ、元々市街地に行こうとしてたんだから、
街の方へ行こう。それでどこかに隠れようかな。
もし、途中で誰かと会ってももう大丈夫。
武器は一杯あるし、みんな僕を騙すつもりだから、先に殺しちゃうもん。
「あは、あははは、あはははははははははははは」
何だろう、おかしいなぁ、心が軽くて、笑いが止まらないや。
今だったら空も飛べそうな気がするよ。
そうだ、スネ夫は今どうしてるのかな。まだ生きてるのかな。
スネ夫もどうせ僕なんかどうでもいいだろうなぁ。
ましてやこんな殺し合いの中じゃ。
いいもんね。僕勝手に殺っちゃうもんね!
あははははははははははははははは。
狂ってしまった者は、大抵、自分が「狂っている」と自覚していない。
野比のび太少年も、漏れなくその例に当てはまった。
【高野雅行@俺オリロワリピーター組 死亡確認】
【残り15人】
【一日目昼/H-4灯台付近】
【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:発狂、ハイ
[装備]:H&K MARK23(6/12)
[持物]:基本支給品一式(食糧一食分消費)、H&K MARK23のリロードマガジン(12×5)、
マカロフ(7/8)、マカロフのリロードマガジン(8×5)、S&W M3566(10/15)、
S&W M3566のリロードマガジン(15×5)、ベレッタM1951(8/8)、
ベレッタM1951のリロードマガジン(8×5)、水と食糧(6人分)
[思考]:
0:殺される前に殺しちゃうもんね♪
1:街の方へ行く。
※アレックス、ジン、石川昭武、ムシャの名前と容姿を記憶しました。
※発狂しました。正常な判断が困難になっています。
※H-4灯台敷地内に高野雅行の死体とデイパック(水と食糧抜きの基本支給品一式、
ツルハシ(血痕付着)、ピアノ線、ハンドワイヤーカッター入り)が放置されています。
※H-4一帯に銃声が響きました。
最終更新:2010年06月09日 21:09