81話 消えない想いよ天届け
第二回目の放送を聞き終えた後、ミーウは食事を取り荷物を纏め始めていた。
放送の死者発表では目の前で殺害された死神五世と神山アキナの二人、
自分が殺害したジン、石川昭武の二人の名前も当然呼ばれた。
死神五世、アキナの二人を殺害したムシャという鎧姿の男、
途中まで行動を共にしていた野比のび太の二人の名前は呼ばれなかった。
主催者と同姓の二人も、まだ生き残っているらしかった。
「後15人……もう一息って感じかな」
突撃銃H&K G3を携え、デイパックを肩から提げたミーウが民家から出る。
目指すはエリアF-6に存在する島役場である。
周囲を警戒しながら、静かな市街地の道路を歩いて行く。
黒狼レックスにとって、放送はもう余り重要なものではなくなっていたが、
それでも聞けるだけは聞いた。
今度は18人が命を落としたらしい。
自分が殺した銀髪の少女の名前も含まれているのだろうが、
名前を聞いていなかったので分からない。
当然、葉月の名前もあった。
禁止エリアはいずれも今自分がいるエリアからは遠い。
「……」
レックスは役場の倉庫にあった、丈夫で、それなりの長さのある縄を見詰める。
人一人吊るしても千切れないくらいの丈夫な縄だ。
裏には太い枝を持った樹木が無数に生えた森も広がっている。
レックスの心はもう決まっていた。
「葉月……もうすぐ俺も、そっちに行くからね」
縄を咥え、レックスが森へ向かおうとした、その時だった。
レックスは島役場入口の方向から殺気を感じ、咥えていた縄を離し、
即座に前方に跳んだ。
銃声と同時に、つい数瞬前までレックスがいた場所に無数の弾痕ができる。
「首輪を付けているって事は、貴方も参加者よね」
「……」
銃撃犯は、突撃銃を構えた狐獣人の少女――ミーウだった。
不敵な笑みを浮かべながら銃口をレックスに向け、ミーウはゆっくりと距離を詰める。
ふと、役場の床や天井が血塗れになっている事に気付く。
「この血……貴方、ここで何があったか知ってる?」
「……色々、あったよ」
ミーウの問いに、レックスは詳細に答える気は更々なかった。
「色々、ね。まぁ、そうかもね。それじゃ……死んでっ!」
ミーウがG3の引き金を引き、銃口から7.62㎜NATO弾の銃弾が掃射される。
しかし、黒い巨大な狼は肉眼に捉えるのが難しい程の俊敏さで、
その弾丸の雨を回避した。
「なっ……速い!」
予想外の黒狼の俊敏さに、ミーウがたじろぐ。
そうこうしている内に、G3が弾切れを起こした。
慌ててミーウが予備のマガジンと交換しようとするがその隙をレックスは逃さない。
「ガアアッ!!」
「あっ……」
黒狼が狐の少女に飛び掛かり、喉笛に牙を深く突き刺した。
鮮血が溢れ、ミーウの黄色い毛皮が赤く染まっていく。
そのままミーウは仰向けに床に倒れ、レックスはミーウの首から口を離した。
狐の少女はまだ息はあったが喉元から噴き出す赤い液体は止まる様子はない。
申し訳程度に手で押さえながら、ミーウは間もなく自分が死ぬ事を悟った。
「ごほっ……まい、ったなぁ。ここで、終わりなんて」
自嘲気味に笑いながらそう言い終えた直後に、
半分開かれたミーウの目から、光が消えた。
「……はぁ……」
自殺志願者のくせに殺される事を拒否するのもおかしい話だ、とレックスは思う。
ただ、この狐の少女のように
殺し合いに乗った者に殺されるのは嫌だった。
自分の人生(狼生?)の幕は、自分で引きたかった。
「……さてと」
レックスは再び縄を咥え、島役場裏の森へと歩いて行く。
島役場裏の森の中に作った、
稲垣葉月の墓。
そのすぐ傍の樹木の枝から、先端が輪になった縄が吊り下がっている。
「これでよし。我ながら良い出来だ」
尻尾を振りながら、自分で頑張って作った首吊り縄を見上げ、
得意気になるレックス。
役場から引き摺ってきた木製の椅子を、縄の下まで持っていき、
その椅子の上に上がり、レックスは縄の輪を自分の首に掛け、ぎゅっと締めた。
これで、椅子を蹴飛ばせば、自分の体重によって首が締まり、全てが終わる。
「ハヅキは怒るかな。後を追って自殺なんて」
葉月が自分の事を心の底から想っていてくれていたのなら、
きっと自分が後を追って自害する事など望まないであろう。
「でもね……ハヅキ、君のいない世界は、もう俺は耐えられそうにないよ」
思えば一人の女性に対して、それが異種族であったとしても、
ここまで一途な想いを抱いた事は生まれて初めてだった。
これが、恋愛、というものなのだろうか。
できる事なら、こんな殺し合いが起こる前にこんな経験をしたかった。
「……ハヅキ……」
レックスの目から涙が零れ落ちる。
少し時間を置きすぎた。そろそろ逝こう。
心を落ち着かせるために、深呼吸をする。
吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吐いて……。
そして。
後足で思い切り椅子を蹴飛ばし、レックスの身体が一瞬宙に浮いた。
しかし直後に、木の枝から吊るされたロープがピンと張り、レックスの首が絞まった。
「がっ……げう……」
呼吸が止まる。息を吐く事はできても吸う事はできない。
無意識に激しく前足と後足をバタつかせていた。
数分後、レックスは動かなくなり、前足後足も、尻尾も脱力した。
しかし、レックスはまだ意識があった。
(……何だか……心地良い……)
薄れゆく意識の中、レックスは妙な心地良ささえ感じ始めていた。
(……ハヅキ……俺……君と同じ所へ……行ける……か……な…………)
森の中に、縛り首になっている、黒い雄の狼の死体がぶら下がっていた。
だらりと口から舌を出し、半分開いた赤色の瞳の瞳孔は開ききっている。
その狼の首吊り死体の下には、倒れた木製の椅子と、小さな墓があった。
【ミーウ@オリキャラでバトルロワイアル 死亡確認】
【レックス@オリキャラ 死亡確認】
【残り13人】
※ミーウの死体と所持品、及びレックス、稲垣葉月、銀鏖院水晶の所持品は、
島役場受付ロビーに放置されています。
※F-6島役場周辺に銃声が響きました。
※島役場裏の森にレックスの死体が首を吊った状態で放置されています。
最終更新:2010年06月09日 21:08