「オープニング」

♪♪「オープニング」♪♪



 月見をしていたのだ。

 仲良し兄弟三人で、いつも一緒の三人で。
 春は花見をした。その前の秋にも月見をした。
 一年通してだんご、だんご。
 それはずっと、いやずっとでは無いものの、
 まだしばらくは変わらないと思っていたのに。

 ――あまりにも突然に。
 あまりにも唐突に。
 前奏もなしに始まる、うたのように。

 月見をしていた長男だんごの意識は、闇へと堕ちた。

ららららー
(ららら)
らららー
(らら)
ら ら ら

ららら
ら らら らー

「みんなの ろわです」

 明るく澄んだ合唱が聞こえたかと思うと、
 いやに無機質な、ナレーションのような声がした。
 聞き慣れない声に目を開けた長男だんごが見たのは、不思議な光景。
 つい一瞬前まで見ていた景色とは、全く違う光景。

「一曲目は“月のワルツ”
 演奏時間は 6時間 です」

 黒い空に、ひっそりと浮かぶ下向きの青い三日月。
 その青い三日月に照らされるようにして、長男だんごの前に立つ女の人。
 そして、長男だんごの周りにいる沢山の、人や、獣や、よく分からない者達。
 全てが月の光を受けて、青く輝いて見える。
 周りには他に何もない。空気もなんだか薄い――どこか、すごい高いところだろうか。

「それでは ろわの概要を 説明します」

 さっきから聞こえるナレーションみたいな声は、前に立つ女の人からだろう。
 長男だんごには何故かそんな気がして、それは当たりだった。

「――演奏が終わると 次のうたへ移ります
 次のうたへ移る時に 貴方たちは 自らの時間を残しておかなければなりません
 はじめに与えられるのは 4時間 です」

 逆光で上手く顔が見えないながらも、女の人が何か喋っているのが長男だんごには分かった。
 何を喋っているのかは、長男だんごにはよく分からなかったが。

 それにしても――これは、どういうことだろうか。
 三人兄弟で見ていた秋の月は丸くて黄色かったのに、
 いつのまにか細長くて青い月になっている。

 それだけじゃない。大切な次男と三男は何処に行ったのだろう。
 三兄弟、いつも一緒に一本の串に貫かれてる筈なのに……今、長男だんごは串から離れて一人になっている。

「それに、周りの人達は……誰?」



 見ると、周りの人達もみんな驚いた様子で前の女の人を覗いている。

 鶏やら、犬やら、全身が赤い大男までいる。
 よく目を凝らしてみると、彼らの首にはもれなく黒い輪っかが付いていた。

 そして、ふと自分の体の中にも、いつのまにか何かが混入していることに気付かされる。
 多分、あの黒い輪っかと同じもの。

 一体、これは何だろう。
 女の人が言ってることと、何か関係があるのだろうか。


「時間は うたの中に 隠れているものを見付けるか
 他の人に 分けてもらうか
 他の人を 殺めて奪うか の3つの方法で延ばすことが出来ます
 さいごのうたに 辿りついた人は 1つだけ 願いを叶えてもらうことが出来ます」

 時間を分けてもらう場合は、
 1時間単位で相手にお願いをし、
 受け入れてもらわないといけません。と、女の人は付け加えた。

 いまいち長男だんごには理解出来ないが、
 「1つだけ願いを叶えてもらえる」というフレーズが長男だんごの興味をひく。

 だんご達は団子であるが故、最期には捨てられるか食べられてしまう運命。
 出来ることなら、ずっと三兄弟と一緒にいたいのだ。
 でも、さいごのうたに辿り着けばなんて言われても、やっぱりピンとこなかった。

「つまりだ、お前は俺達が一人になるまで、時間を奪い合えと――殺し合えと言っているのだな?
 この首に付けた輪は、さながら枷か。
 演奏時間とやらが無くなるとどうなるのかはまだ知らされておらんが、大体予想はつくな」

 不意に、赤い大男が腕組みをしながら声を張り上げた。
 殺し合い? 殺すって、なに?
 大男は一本角の生えた頭を小刻みに動かしながら、

「がははははははははははは!! なぁ青鬼どん、面白いことをいう人間もいるものだな!
 今宵は良い月だ! こんな月の夜には不思議なことが起こるというが、
 全く面白くて笑いが止まらぬぞ!」

 がははは、とひっくり返りそうな勢いで笑い始めた。

 がっはははっ
 がっはははっ
 がっはははっ
 がっはっはっ

 三拍子のリズムをとりながら、器用に笑い続ける。

「おいお主、命を握られておるかもしれんのに何を笑っておるのだ……風が強い、王宮に引きこもりたい」

「がっははは、何故と問うか。なら俺も何故と問おう。
 何故今笑ってはいけないのだ?
 こんなに愉しいのだから笑わなければ損というものだろう。
 なあ、この興の主催者よ。お主もそうは思わぬか?」


 側にいた豪華な服を着た男の問いに、まるで自分勝手な理屈を並べると、
 赤い大男――赤鬼は黙りこくる女の人に話しかけた。

「…………」

 しばらく女の人は何の反応も見せずに硬直していたが、一つ首を縦に振ると、

「では ろわの説明を 続けさせていただきます」

「ふん、無視か」

「では ろわの説明を 続けさせていただきます」

 静かな、感情の無い声でそれだけ言い、再び口を動かし始めた。
 相変わらずその口も、顔も、長男だんごからは見えない。

「ろわ のお供に 皆さまには 袋を提供します
 袋の中には うたの地図と 食べ物や 飲み物
 さらに明かりと 紙とペン 時計が 入っています
 また うたの中の物は 袋に入れ 次のうたに持ち越せます」

 女の人が言うと、ぽん、と音がして、長男だんごの目の前が真っ暗になった。
 どうやら、袋が目の前に現れたらしい。
 手の無い長男だんごは持つことが出来ないが、赤鬼など他の者たちは袋を手に取り、中を確認している。

「……わぁい、乾パンだー! ねーねー、さっちゃん乾パンもらったよ!」
「ゲロゲログワッ、塩はあまりおれ食べたくないんだがな」
「鯛焼きとは……儂への当て付けか」

 無邪気に笑う少女や、落胆するカエルや、深刻な顔をするおじさんが見えた。
 反応を見るにみんな、違う食べ物や飲み物が入っているみたいだ。
 自らが食べ物である長男だんごとしては、なんだか複雑な気分になる。

「どんな食べ物や 飲み物が入っているかは 無作為なものです
 優劣はありません 武器になるようなものは そちらで 探してもらうことになります
 質問はありますか」

「――あるわ、あるわ!」
 さて、説明も終わるようだけど今から何が始まるんだろう。
 長男だんごがそう思って質問しようとすると、
 女の人の呼び掛けを待ってたかのように、気の強そうな女の子の声が上がった。

 長男だんごはぴょんと袋の上に乗って、それを見ようとする。

「なんで、なんで私達にこんなゲームをさせるのよ!
 理不尽だわ、理不尽だわおかしいわ!
 それに、それにこの首輪の時間が無くなったらどうなるっていうのよ!」

 青い三日月に照らされた少女は、一歩前に進み出て必死に訴えている。
 大きなポケットのついた服が特徴的な、巻き毛の女の子だった。
 その隣には小さな男の子がいて、おびえた様子で女の子を見ている。

「何が、何が起こるか、あの鬼さんは分かるって言ったけど、あたしには分からない!
 見せて、見せてよ! じゃないと、じゃないと納得できないわ!
 何が、何が起こるか、見せなさいよ!」


「おねぇちゃん……や、やめなよ……」

「うるさい、うるさいわね黙ってなさいよ!
 あんた、あんた誰よ、あたしを止める権利があんたにあるの!?」

「な、ない……けど……」
「な、な……何よ……ふん」

 小さな男の子は女の子の勢いに押されて、がっくりと肩を落とす。
 それを見て女の子の方も気を削がれたのか、女の人を一睨みすると口を閉じた。

「いいでしょう では 質問に 答えます」

 またもや、それを待っていたかのように、女の人は無機質な声を発する。
 ……他の人の話を邪魔しないように、被らないように淡々と説明を続ける。
 やっぱりナレーションみたいな女の人だ、と長男だんごは思った。


「首輪の時間がゼロになると こうなります」

 とにかくそうして、再び女の人に皆の注目が集まった時だった。
 偶然か必然か、女の人が体を少し動かしたことによって、女の人の顔が見えるようになったのだ。

 長男だんごからも、それはしっかり見えた。
 目に感情は宿っていなかった。
 口は、動いてすらいなかった。

 その首には――長男だんごや他の者達と同じ、黒い輪っかがついていた。


「え……ママ――!?」

 それを見て、さっきの少年が驚きの声を上げる。
 同時に長男だんごは、不思議な感覚に襲われた。

 今までずっと、声は女の人から出ていた筈なのに。
 さっき「こうなります」と言った声だけは、別のところから聞こえた気がした。

 見えない誰かが――女の人の近くで喋っていた?



 じゃあそれは一体、誰?


「……っ、きゃあああああああああああああああああ!!?」

 考えている暇は、長男だんごにも、周りの人達にも与えられなかった。
 巻き毛の少女の悲鳴が聞こえた。その少し前に、長男だんごは爆発音を聞いていた。

 青い月が、影で隠される。


 女の人の首が、飛んでいた。



「――さあさあ、“バトルロワイアル”の始まりです!!」


 次に、タキシード姿のうさぎが空から墜ちてきて、女の人の首を掴むとそんなことを言った。
 タキシード姿のうさぎが来た。どこから? 空から。

「それでは みなさま
 よい ろわ を
 みんなの ろわ です」

 ナレーションは四方八方から聞こえるようになった。
 タキシード姿のうさぎは自分の出番が来たとばかりに、その体を膨らませる。
 空から落ちながら。
 空を覆うほどに膨張していく。
 みんな、それに注目している。

 あおい三日月は下向きだ。
 かぜが強い、ここは高いところだろうか。
 いい月の夜は不思議な事が起きる。
 なぜなら、
 まだだからだ。
 くるしみのうたは。
 び

 と
 共
 に、

 堕ちてくるタキシード姿のうさぎはその巨大な身に「入口」を発現させると、

「ワインはいかがですか?」

 その場にいた全ての参加者を――飲み込んだ。


【うたロワイアル 演奏開始】

 ――月のワルツ世界、一番月に近いビルの上。
 タキシード姿のうさぎによって、参加者は世界の方々へと散ることになった。

「さーて、最後の歌に辿りつくのは誰かなぁ?」
「お兄さんは誰だとおもう? お姉さんは、赤鬼どんに期待しちゃうんだけどー」
「ひいきは いけませんよ」

 参加者でない3人は、タキシード姿のうさぎと共にその場に残っている。

 相変わらず無機質な声を出す一人の姿は、やはり見えない。
 多分参加者の中に紛れこんでたのだろう他二人は、長年連れ添ってきたコンビのように息のあった会話をしている。

「さあさ、僕らは次の歌で待ちましょう」
「はーい。もっと見ていたいんだけどなー」
「お姉さん、子どもみたいなこと言わないの」
「では つぎのうたです」

 再びうさぎが入口を発現させ、3人はその中に入っていった。
 ぐにゃり、と音がして、うさぎも自らの入口の中に体をねじこみ。吸い込まれていった。

 そして、誰もいなくなった。

【ツトムくんのママ@山口さん家のツトムくん 死亡】



演奏開始 時系列順で読む 「狼の羊飼い」
演奏開始 投下順で読む 「狼の羊飼い」
演奏開始 長男だんご [[]]
演奏開始 山口ツトム 「狼の羊飼い」
演奏開始 さっちゃん [[]]
演奏開始 青鬼 [[]]
演奏開始 赤鬼 「硝子の海の中で」
演奏開始 [[]]
演奏開始 店のおじさん [[]]

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最終更新:2009年06月05日 23:43
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