91話 妖星乱舞-第三楽章-
最上階、リリア・ミスティーズは高い天井に広い面積の大広間に立っていた。
数分前から、階下から聞こえてきていた銃声や怒号が一切聞こえてこない。
侵入者――
殺し合いの生存者達を全員始末できたのであれば、
何らかの報告が入るはずであるが、そのようなものは入って来ていない。
だとすれば、考えられる可能性はもう一つある。
ドガアン!!
正面前方の豪華な木彫り装飾が施された木製の大扉が乱暴に蹴破られ、
そのもう一つの可能性が実証された。
扉の向こうから、広間に続々と入ってきたのは、7人の殺し合いの生存者達。
高原正封。
クリス・ミスティーズ。
レオン・ミスティーズ。
ドーラ・システィール。
アレックス。
ピタゴラス。
ガーゴイル。
何れも、今まで屠ってきた敵兵士の返り血や、自らの傷から流れ出た血で、
真っ赤に染まっており、息も荒く、鋭い視線は真っ直ぐリリアに向けられていた。
「ようこそ、私の城へ」
「リリア……!」
長時間に渡る酷使の末にボロボロになってしまった長剣、
ダマスカスソードを右手に携えた、リリアの兄クリス・ミスティーズが、
ようやく再会した妹に対し厳しい表情を浮かべる。
「兄様、伯父様、まさかお二人がここまで生き残れるとは思っていませんでした」
「リリア、どうしてこんな馬鹿な事を……」
「馬鹿な事? ああ、このバトルロワイアルの事ですか……」
クリスからの問いに対し、リリアは笑みを浮かべながら、この殺し合いの開催理由を話す。
「……地下に引き籠っていた時、インターネットで『バトルロワイアル』なる小説を見付けたんですよ。
その内容は、兄様、伯父様、そしてアレックスさん、ドーラさん、高原さん、
ピタゴラスさん、ガーゴイルさん、貴方がたが経験してきた事、そう……。
最後の一人になるまで殺し合うと言う、何とも刺激的かつ興味深い内容でした」
「おい……まさかと思うがアンタ……」
「分かりましたかドーラさん? そうですよ、これは是非私もやってみたいと思いまして。
それも小説の世界ではない、本当に、現実のゲームとして!!」
主催者本人から明かされたこの殺し合いゲームの開催理由は、
身勝手の域を遥かに超えた、何とも馬鹿馬鹿しい、単純なものだった。
このような馬鹿な思考の女が気まぐれで起こした催し物により、
自分達の仲間や、他の大勢の人々は命を落としたと言うのか。
7人の、リリアに対する怒りは頂点に達しようとしていた。
「ふざけるなッ!!! このど腐れ外道女ァッ!!!」
「あ、アレックス……」
ついに我慢の限界に来たアレックスがリリアに向かって声を張り上げた。
「お前のその身勝手な理由で起こしたこのゲームのせいで、
ブライアンも、ヘレンも、ゴメスも、魔王城の連中も……!!
みんな、死んじまったんだぞ!! 俺の知り合いだけじゃない、ジンや昭武、
遼平、エルザ、他にも大勢ッ……!」
溜まりに溜まった怒りをぶちまけるアレックス。
しかしリリアは動じた様子もなく、ただ7人の方を見据えるのみだった。
「……貴方がた、どうやら自力で首輪を解除できたようですね。
もしかして、USBメモリの中の首輪設計図に気付きましたか?
……何故その事を、といった顔ですね。いや実は、私の側近が裏切って、
参加者に配られる支給品の中に首輪設計図を入れたUSBメモリを入れたんです。
協力者共々、始末しましたが」
やはり協力者がいたらしいが、悪い予想も的中していた。
裏切りが露見したその側近と協力者は全員粛清されてしまったようだ。
「……無駄話はこのぐらいにしましょうか。最後の決戦と行きましょう」
リリアが右手に持っていたボルトアクション式小銃を携え、
赤い瞳で7人を見据えながらゆっくりと距離を詰め始める。
いよいよか、と、7人は全員、覚悟を決めた。
ここまでの敵兵士との戦闘で、多くの弾薬と武器を使い果たしてしまっていた7人。
特に弾幕を張れる機関銃系の武器や、爆弾、集団戦に有効な散弾銃は完全に弾切れ、武器も放棄。
自動拳銃もその多くが弾切れになってしまい、刀剣類も過酷な使用によりボロボロになっていた。
現在7人が装備している武器は、
高原正封、回転式拳銃ニューナンブM60(4/5)、予備弾(4)。
クリス・ミスティーズ、刃こぼれしたダマスカスソード。
レオン・ミスティーズ、シグザウアーSP2340(10/12)、予備マガジン(1)。
ドーラ・システィール、三八式小銃(3/5)、予備弾(10)。
アレックス、既にガタが来始めている九五式軍刀。
ピタゴラス、S&W M19(6/6)、予備弾(12)。
ガーゴイル、鈍器代わりのRPG7発射筒。
また、体力の消耗、手傷も激しく、出血も相当数に上っていた。
それでも、ここまで来たら、戦う他ない。
この殺し合いで散って行った40余人の想いが掛かっている。
そして、銃を持った4人が一斉にリリアに向け射撃を開始した。
四人四色、四種類の弾丸が、リリアに向かっていく。
だが、その一斉射撃は難なく回避されてしまった。
「まず一人目」
リリアが手にした九九式短小銃リリア改造型の銃口を、狐獣人の青年に向け、引き金を引いた。
「正封ッ!!」
「え――――!?」
アレックスが叫んだが、もう遅かった。
7.7㎜の弾丸が正封の首を貫通した。
「二人目」
「くそっ……!!」
次に、レオンの心臓を弾丸が貫通する。
狐と狼の獣人二人が床に倒れ、呆気なく、息絶えた。
「三人――――ッ!!」
そして三人目を狙おうとしたリリアだったが、頭上からの殺気に顔を上げる。
ダマスカスソードを両逆手に構え、自分に向かって落下攻撃を仕掛ける、兄の姿が見えた。
「リリアァァァァァァァ!!!!」
「ちぃっ――!!」
思わぬ頭上からの攻撃に、リリアは反応が一瞬遅れた。
銃声と、ザクッという刺し貫かれる音が同時に広間に響く。
アレックス、ドーラ、ガーゴイル、ピタゴラスは見た。
床に仰向けになったリリアに、クリスが剣を突き立て、
そして、その兄に向かって、小銃の先端を胸元に押し当てているリリアの二人の姿を。
ごほっ、と、クリスが口から鮮血を溢れさせ、それがリリアの顔に少し掛かった。
「リ……リリア…………」
最期に妹の名前を呼び、青髪の騎士クリス・ミスティーズは床に倒れ血溜まりを作り絶命した。
直後にリリアも小銃を床の上に落とし、仰向けになったまま身動き一つしなくなる。
アレックス、ドーラ・システィール、ガーゴイル、ピタゴラスの4人が、
リリアの元へ近寄る。
「ふふ……負け……だわ……私の、負け……」
口から血を流しながらリリアが言う。
クリスの剣はリリアの腹部を刺し貫いていた。
剣が突き刺さっている部分からドス黒い血液が流れ出ている。
誰の目から見ても致命傷だという事は明らかであった。
リリアの死を望んでいなかった、と言えば嘘になる。しかし、できる事ならば、
生かしたまま自分の犯した罪を償わせたかった。
だが、どうやらそれも叶いそうにない。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
「!! 何だい、この揺れは!?」
突然城全体が、いや、世界そのものが大きく揺れ始めた。
壁や天井、床にヒビが入り、城が揺れに耐え切れず崩壊を始める。
「この城、いや……この世界は、私が用済みと判断した時、
或いは……私の命が尽きる時……崩壊するように、できてる……のよ」
「な、何だって!?」
「ふふ……安心しなさい……貴方達は助かるわ……」
そう言うとリリアは呪文を詠唱し出した。
すると、青白い大きな光が広間に出現する。
「あの、光の中に…………そうすれば、貴方達は……元の世界に……帰れる……」
転移魔法を使い、もはやリリアは完全に生命力を使い果たしてしまっていた。
間もなく自分も、兄や伯父と同じように物言わぬ屍と化すであろう。
興味本位で開催したこの殺し合いが、まさか自分の死という
幕切れで終わるとは思ってもみなかった。
「……行こう」
アレックス、ドーラ、ガーゴイル、ピタゴラスの四人は、光に向かって歩き出す。
「……」
アレックスは、一瞬だけ、リリアの方を振り向いたが、すぐに踵を返し、
他の三人と共に、光の中へと飛び込んだ。
そして、光が消え、広間は天井から降り注ぐ瓦礫や倒壊した柱で、
今にも崩れ落ちそうであった。
「……我が人生、一片の悔いなし……って言葉、陳腐過ぎるわね」
天井が、壁が、床が、城を形作る何もかもが崩壊し、灰燼に帰していく。
深い、暗闇の底に瓦礫と共に落ちて行きながら、リリアは静かに目を閉じた。
最終更新:2010年06月13日 18:25