ゼロのしもべ7 - (2007/07/06 (金) 01:36:16) の1つ前との変更点
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敷地に入るときょろきょろしながら歩くルイズの姿を見つけた。
何故こんなところにいるのだろうかと思い、声をかけると、
「使い魔のくせに主人を置いてどこ言ってたのよ!」
と怒られた。どうもバビル2世を探してここまで来たようだ。
「罰として昼食は抜き!」
と自分の空腹をバビル2世にぶつけるルイズ。もっともバビル2世はあんな朝食を見た後なので、あまり罰には感じなかったのだが。
ルイズに連れられて教室へ向かう。
教室は石造りの、古いイギリスの大学のような階段教室である。石の一つ一つに歴史が刻まれているような風格ある部屋で、
なるほど魔法使いを教育するにふさわしい。
2人が中に入ると教室のあちこちから、
「おい、ゼロのルイズが召還したのは平民じゃなかったらしいぜ」
「エルフらしいじゃないか」
「エルフっていうと臭作の?」
「というかエルフって金髪で耳がとがってるんじゃないのか?」
などという会話が始まった。あの二人が言いふらしたのか(タバサという少女は言いふらすような雰囲気はなかったが)誰かが
偶然話を聞いていたのか、バビル2世がエルフであるという誤解は教室中に広まっているようであった。
ゼロと呼ばれるルイズにはある意味心地よいのだろう。その中を颯爽と歩き、席に着く。隣にはキュルケとシャル……いやタバサが
座っている。
「さて、ぼくはどこに座るべきだろうか?」
朝の調子だと、普通に席に着けばまた一騒動起こりかねない。ここは素直に…。
童話やゲームの中に出てきそうな使い魔が並んでいるところへ移動する。ちょうどフレイムがいたのでその上に腰をかけさせてもらう。
このときキュルケはフレイムがバビルを素直に背中に乗せているのを見て感心していたのだが、バビル2世自身は周辺にいる
使い魔に気をとられ気づくことはなかった。
ざわめきが消え、教師らしき少し年配の女性が教室に姿を現す。
女性教師は赤土のシュヴルーズと名乗った。
「ふむ。二つ名というのは面白いな。」
タバサのときにも思ったのだが、この世界のメイジが持つ「二つ名」というのはなかなか面白い。
自分ならなんという二つ名をつけるだろう。衝撃の、幻惑の、激動たる、暮れなずむ……。
赤土は生徒の顔を見回し、満足そうに頷く。
「皆さんが無事に『春の使い魔召喚』を済ませたのを見て、私も誇りに思います。中には珍しい使い魔を召喚した方もいるようですが。」
教室中の視線がルイズとフレイムに乗ったバビル2世に集まる。
「ミス・ヴァリエール、私もエルフを使い魔にしたというメイジについては寡聞にして知りませんが……」
どうやら教師にもエルフという誤解が伝わっているようだ。いったい誰が広めているのだろうか?
「使い魔は術者の術の表れ。そして召喚した使い魔はメイジにとって己の半身に等しい存在なのです。ミス・ヴァリエールには
エルフを召還した意味を考えて今後の勉学に励んでいただきたいものです。他の生徒も、自分の使い魔を召還した意味を
よく考え、勉学に励んでいただきたいですね。」
いいことを言う。ヒステリックなタイプかと思ったが、案外教育熱心なタイプかもしれない。
「では授業を始めます。皆さんは私とこれから一年間『土』属性の魔法について学んでいきましょう。」
もっともバビル2世は心の奥が見えるようになって以来、立派なことをいう人物でも滅多なことでは信用しないようにしていたので
評価は保留しておいたのだが、少なくともルイズは多少なりとも好感を持ったようであった。
「では、まずは基礎のおさらいです。」
それにバビル2世にとっては人物評よりも、始まった魔法の系統に関する授業のほうがよほどおもしろかった。
風や火といった単語は頭に入ってきていたのだが、我々が普段空気について考えないのと同じで、それがどういうものか
という知識はまだほとんど持っていなかった。魔法の四大系統と、失われた虚無。使い魔の役割と意味。
複数の系統魔術、ドット、ライン、トライアングル、スクウェア……
バビルの塔で得た知識とは全く異なる情報に、バビル2世の好奇心はぐいぐいひきつけられていった。
そして事件は起こった。
散々言い尽くされていることなので省略するが、つまり爆発したのである。
あらかじめルイズの魔法は爆発するということを知っていたバビル2世であったが、その爆発の程度に今更ながら驚いた。
赤土教師は爆発の影響で人語不肖に陥り、一部の使い魔は驚きパニックになって教室で暴れまわる。主であるメイジも基本は
まだひよっこなので上手い具合に暴走する使い魔を抑えることができず、最終的には数名の教師の手伝いを借りてやっとの思いで
混乱は抑えられたのであった。
結局、午前中の授業はうやむやのうちに消滅し、生徒は三々五々散り散りに食事へと向かって行った。
ルイズが罰として命じられたのは、教室の後片付けであった。
後片付け、と言ってもあの風格ある建築はいずこへ行ったのかすでに廃墟と化しているので、掃除ではなく撤去を行なう必要がある
だろう。
「壊すのは一瞬だが、積み重ねるのは難しいことだな」
感慨深げなバビル2世。うるさいわね、と箒をバビル2世に投げつけるルイズ。
「ほら!使い魔なんだからあんたが掃除しときなさいよ!」
念動力を使えばあっという間に終わるだろう。が、能力を使っていることを知られるようなことは極力さけるべきである。
「これはキミにあたえられた罰だろう?シュヴルーズ先生は何か考えがあってキミにこの罰を言いつけたのかもしれないのに、
使い魔にやらせたせいで一人前のメイジになる機会を逃すことになってもぼくは知らないよ。」
「う…わ、わかったわよ、わかってるわよ、そんなの!じゃあ手伝いなさい!」
掃除道具を投げつけてしまったために、あらためて道具入れに向かうルイズ。
「でも掃除がいったい魔法技術上達にいったいなんの関係があるのかしら」と訝しげだが、それなりに一生懸命掃除を行なっている。
バビル2世は簡単なことはルイズに任せ、瓦礫の撤去や整理など力仕事を担当する。念動力を使っていないとはいえ超人的身体
能力を有しているため、瓦礫はあっという間に片付いていく。
気づくと、ルイズがその様子をぽかんと見ている。
「どうしたんだい?」
しまった、と内心思うがしょうがない。ここは平然と対応することにしよう。
「アンタ、いま、あの大きな石を持ち上げてなかった!?」
「ええ。持ち上げていましたよ。」
「知らなかった…。エルフって力持ちなのね。」
あくまでエルフと思い込み続けるルイズ。エルフが力持ちというイメージはないが、いわゆるバイアスがかかっているのだろう。
てきぱきと片付けていくバビル2世。
強がってはいたものの内心ショックを受けていたルイズは、なんとなく気持ちが落ち着いていくのを感じていた。
エルフを召還し契約したにもかかわらず、当然のように失敗する魔法。だが、召還したエルフはやはり頼りになる。
おそらく魔法の教え方が悪いのだ。自分は大器晩成タイプなのだ。サカつくなら早熟よりも晩成型のほうが使いやすいじゃないか。
えらくポジティヴな考えである。ある意味現実逃避と言ってよい。
だがいくら失敗しても、ゼロと嘲笑されようと今まで修行を続けているのはこのポジティヴさがあればこそだろう。
掃除が終わるころには授業の失敗など忘れてしまったかのようであった。
一方で、バビル2世は違う見方をしていた。
全員の心を読むと、ルイズは今まで魔法が一度として―バビル2世を呼び出し契約したことは除くのだが―成功したことがない、
らしい。いつもいつも、どんな魔法を唱えても必ず爆発するのだという。
だがそれは逆に言えば「必ず爆発させることができる」ということではないだろうか。
赤土の教師は、失われた虚無の系統があると言っていた。
もしもルイズが虚無の系統ならば、あらゆるつじつまが合わないだろうか?
失敗したように見えるのは、その系統の魔法ではない魔法を使うからではないか。あるいは、どんな呪文を唱えても爆発するという
魔法なのではないだろうか。
もしも本当に魔法が使えないならば、自分がここにいるはずはない。自分はルイズによって確かに召還されたのだから。
そして、ルイズの二つ名――ゼロは虚無に通じる。
はたしてこれは偶然なのだろうか?
もしも、ルイズが虚無系統のメイジだとするならば、元の世界に帰る鍵は虚無の魔法に関わっているのではないだろうか?
『いずれにしても、もう少し様子を伺う必要がありそうだな。』
少し時系列を遡る。
爆発があり、授業が大混乱に陥っていた時刻。
どさくさにまぎれて、宝物庫周辺を伺っていた黒ずくめの女性がいた。
黒いローブを着た、緑髪の美しい女性である。
『どうやら、かなり強力な固定化の魔法がかかっているようね』
おそらくスクウェアクラスのメイジが数人がかりでしかけたのだろう。外壁を力任せに破壊するならともかく、個人が魔法を用いて
封印を解除するのは不可能に近いだろう。
力任せに破壊するにしても、自分のゴーレムで果たして可能かどうか。
この壁一枚を隔てて、破壊の杖をはじめとする財宝が鎮座せしめているのだ。もし盗み出すことができれば、国中がひっくり返るような
騒ぎになるだろう。
『それにしても……』
朝に見たあの少年はなにものだったのか。
話によると新2年生の呼び出した使い魔で、エルフであるらしい。だが、
『あんなエルフがいるはずがない。』
ということをフーケは知っていた。
元々、この身分に落ちたのはエルフがらみである。この学園ではエルフの知識については1,2を争って持っているはずだ。
そんな自分だからこそ断言できる。あれはエルフではない。
では、いったい何者だろうか?
宝物庫周辺にいるにもかかわらず、朝の光景が気になり、いまいち注意力が散漫になっているフーケだった。
「おい」
完全に油断していたフーケに、突如かけられた声。
『警備!?』
驚いて振り返り、あわてて仮の姿、ミス・ロングビルをとりつくろおうとする。
だがそこにいたのは警備ではなく、黒マントに白仮面という怪しい男であった。もっとも、仮面が顔全体を覆っているせいで男か
どうかははっきりと断言できない。ただそのたたずまいが一流の武芸者や軍人を連想させるものであったため、男に違いないだろうと
判断したに過ぎない。
薄暗い宝物庫周辺では、まるで仮面だけが宙に浮かんでいるように見える。
マントからメイジの証である杖が飛び出していた。
「ど、どなたでしょうか?ここは部外者以外立ち入り禁止ですよ?」
異様な気迫に声が思わず上ずってしまう。大人の女性としては不本意だが、漏れてしまいそうだ。
「土くれ、だな?」
取り繕ったにもかかわらず、あっという間に正体を看過される。
声の調子は男である。よかった予想通りで、となぜか全く関係ないことを考えていた。人間、切迫した場面ではこういうものなの
かもしれない。
「な、なんのことかしら?私の名前はロン…」
「本名、マチルダ・オブ・サウスゴータ。」
フーケの身体がピクッと反応する。目が座り、顔から表情が消え、能面のようになる。
「なぜ、その名を……?」
サウスゴーダ、消えた名前。サウスゴーダ、過去の名前。サウスゴーダ、誇りある名前。
それを突きつけられ、フーケの雰囲気が一瞬で変わる。浮つきというものが一瞬で消え、触れれば切れる剃刀のようになった。
杖を軽く握り、一瞬で魔法を使い迎撃できるような態勢になる。並みのメイジならば先に魔法を唱えようとしてもカウンターで
やられてしまうだろう動きであった。
「なるほど。さすがにただ一人で国中を荒らしまわる盗賊だけのことはある。」
感心したように白仮面が言う。そして杖を壁に立てかけた。
敵対するものではない、という意思表示である。
それをみてフーケもわずかに警戒を緩める。とはいっても、白仮面がどう行動しようと、いつでも攻撃できるだけの態勢は維持している。
フーケは、杖を持っていないこの白仮面が、この状態でも下手をすれば自分と同等の強さを誇ることを本能的に察知していた。
「なに、すこしアルバイトをしてもらいたくてね。報酬は出そうじゃないか。」
マントから袋を握った腕を突き出す。袋の紐を外すと、口からボタボタとエキュー金貨が零れ落ちる。
「まず、前金として20エキュー。仕事が終われば、あと200エキューだそうじゃないか。」
袋に残っていた金貨を取り出し、フーケに渡す仮面の男。フーケはそれを取り上げ、鑑定し、
「どうやら本物のようね。でも、こんなに報酬をよこすなんて、どんな仕事だというの?」
「なに、簡単な仕事だよ。汚れ仕事でもない。特殊な技能も必要ない。きみの目的の片手間にできる仕事さ。」
男は懐から小さな紙片を取り出し、そこに描かれている非常に鮮明な絵を見せる。
「きみも気になっているこの少年、バビル2世を、観察し報告してくれるだけでいいんだ。」
男は、嗤ったようであった。
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