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“微熱”の使い魔-10 - (2008/01/28 (月) 07:09:22) のソース
#navi(“微熱”の使い魔) キュルケはその日、いつもよりも数段早く目を覚ました。ふわあ、とあくびをしてから横を見やると、いつも自分よりも早く起きている“使い魔”がまだ寝息をたてている。 無邪気な寝顔。ブラウンの髪の毛がかすかに揺れて、“ひかえめ”な胸が上下している。 キュルケはその頬を軽くつついてみる。 ぷにぷにとした肌ざわり。 何度かつつくと、ううん、とエリーは声をあげる。けれど、起きたわけではない。 エリーの、“ううん”が面白くて、キュルケは何度も頬をつつく。 ぷにぷにぷにぷにぷに。 「……あ、おはようございますう……」 調子に乗りすぎたのか、エリーは目を開けて、むっくと起き上がった。キュルケの扇情的なものとは対照的な、地味で露出の少ない、まあ普通の寝間着。 「おはよう、エリー」 ちょっと残念に感じながら、キュルケは可愛らしい“使い魔”に微笑みかけた。 朝食を終えた後、キュルケは教室へと向かった。その横に、エリーはいない。 大体いつも一緒に授業を受けるのだが、時にエリーは錬金術の調合を行ったり、他の使用人たちを手伝ったりして、錬金術に使う材料をわけてもらったりする。 今日も、新しい調合を試してみたいから、と言って授業にはこなかったのだ。 それに関して、キュルケがどうこう言うことはない。 使い魔とて、四六時中いつも主と一緒というわけではないのだ。まして、エルフィール・トラウムは人間の少女である。 と、何か声がする。見てみると、“ゼロのルイズ”こと、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが使い魔と何か言い合っていた。 言い合い、というより、ルイズが文句をつけているのを、使い魔である才人がへえへえと聞き流しているというのが正しい。 あの森で狼に襲われた一件以来、二人の距離は縮んでいるように思われる。いや、ルイズが積極的(おそらく本人の度合いでは、だろうが……)に縮めている。 当初傍目から見ても、険悪な雰囲気であったのに。 今でも仲がいいとは言いがたいが、それでも最初の頃のような殺伐としたものは感じられない。 ――ま、いい傾向よね。 キュルケは微笑する。 あのままの状態が続けば、ルイズはいずれ、“ぷっつん”して、才人のみならず、エリーにまで何かしてきたかもしれない。 何故、エリーが。 それは、才人のルイズへの反抗とか、無関心さは、少なからずエリーのせいでもあるからだ。 本人たち、特にエリーのほうはまるでわかっていないようだが、才人がエリーを憎からず思っているのは、間違いない。 それはまだ恋という炎にもなっていない、種火のようなものかもしれないが、そんなものでも状況次第ではとんでもない炎となる。 特に才人のエリーを見る瞳……は、実に面白い。 時にはそのまま同世代の少女を、時には母親を、時には妹を見るように、エリーを見ている。 最初の出会いからして、才人はエリーにそういうものを抱きやすかったのだろう。 召喚によって見知らぬ土地に連れてこられ、是非もなく使い魔にされて、文句を言えば鞭で叩かれる。 そんな不安だらけの状態で、同じ使い魔という立場にあり、普通に接して、優しくもしてくれる。しかもそれが可愛い女の子とくれば、男はたまらないだろう。たとえ、同性であっても嬉しいはずだ。 ルイズは気に入らないのだろうが、好意を持つなというほうが無理である。 エリーと、才人。 二人とも生まれ育った文化圏はまるで違うものだろう。 けれど、両者ともに、“異なるもの”を受け入れる土壌のようなものがあったようだ。おそらくエリーは環境的に、才人は性格的に。それが反応しあったということもあるかもしれない。 「おはよう、キュルケ」 考えごとをするキュルケに、同級生の男子が声をかけてくる。ただのクラスメートではなく、キュルケの“ボーイフレンド”の一人だ。 「おはよう、ホンドシュー」 キュルケは優雅な仕草で挨拶を返した。 「今日は可愛い使い魔と一緒じゃないのかい?」 「まあね。あら、あなたあの子に興味があるのかしら?」 「いや、そうじゃあなくて……。最近あまり話すこともなかったから、ワインでも飲みながらゆっくりと語り合いたいと思ってね……。今夜あたり、どうかな」 “ボーイフレンド”の提案に、キュルケはふむ……と考える。 そういえば、ここ最近夜のお付き合いのほうは、てんでご無沙汰だった。いくらキュルケといえども、エリーのような少女がいるのに、遊び相手の男を引っ張り込むわけにはいかない。 単に“遊ぶ”だけなら、キュルケから向こうの部屋を訪ねてもよさそうなものだが。あるいは、興味の優劣が男よりもエリーのほうへかかっていたせいもあるかもしれない。 かといって、生来の“男好き”といってもいい気質が変わったわけではないが。 「やっぱり、あの噂は本当なのかい?」 キュルケがどう返答しようかと考えていると、ホンドシューはぼそりといった。キュルケに向けて、というのではなく、思考が無意識に漏れ出たというところか。 「どんな噂よ」 「いや、別にたいしたことじゃあないさ」 鋭く問いかけるキュルケに、ホンドシューはおどけるように言った。ごまかしたつもりだろうか。 「もう一度聞くわ。どんな噂」 柔らかだが、喉元を締め付けるような口調で、キュルケは問いただした。 「本当に、大したことじゃあないんだよ。ただね、その……君が変わった趣味になったとか、ならなかったとか、そんなことなんだ」 「ふーん。へえ。で、私がどんな趣味を持つようになったっていうのかしら?」 「そのだね、つまり、ええと、なんていうのかな? その年下の女の子を可愛がるようになったとか、まあ、そんなことなんだよ」 「は?」 キュルケはわけがわからなかった。受け取りかたによっては、キュルケが下級生の女子でもいじめるようになったととれなくもない。 しかし、ホンドシューの口調などからして、どうもそうではないようだ。そうではなくて、むしろ、この場合は。 「つまり、私が百合の花にでも目覚めちゃったとか、そういう噂かしら?」 百合の花。いわゆる、レズビアン。 「まあ、そういうようなものかなあ?」 「そういうものってねえ……」 キュルケは腹が立つよりもあきれてしまう。ほんのちょっと男と夜を過ごさなかったくらいで、何でそこまで話が飛躍するのだ。 「ばっかばかしい。どうすればそんな噂が出てくるのかしら?」 つぶやいてから、キュルケは気づく。 原因はおそらくエリーだろう。 男好きで有名な女が、男遊びそっちのけで、いきなり女の子にいちゃいちゃべたべた(あくまで偏見だが)し始めたら、なるほど確かにそう受け取られる可能性はある。 それに、年下の子といえば、親友のタバサもそうである。気質はともかく、実年齢より幼く見えるあの少女と仲がいいことと、エリーのそれを関連付ければ、そんな噂が出てくるのかもしれない。 さらにもう一つ。 キュルケはルイズのほうを見た。 ルイズに対して、キュルケが色々とちょっかいを出しているのは、学院でもけっこう知られている。それは性格上のことや、家同士の関係のことが、主な理由(実際そうなのだが)とされていた。 が、それをエリーやタバサのことに関連付けると、好みの子にちょっかいをかける、という図式になりはしないか? あくまで予測。しかし、そうはずれてもいないのでは? キュルケは頭に手をやって、ため息を吐いた。本音では、大声でそれは誤解よ、誤解なのよと言ってまわりたいが、そんなをことしたって無駄なのは、嫌でもわかる。むしろ逆効果――余計に噂をあおるだけだ。 「ホンドシュー、悪いけど……お誘いはまた次の機会に、お願いできないかしら」 さっきまでは、久々だし誘いを受けるのもいいかな? と思っていたが、これを聞いてしまった後だと、何だか噂を消すために遊ぶようで嫌だ。 火遊びはあくまでも、遊びとして純粋に楽しみたいのだ。たとえどう噂されようが。 それがキュルケなりのこだわりだった。 昼下がり頃、ギーシュ・ド・グラモンは物思いにふけっていた。 その傍らでもぐもぐ言っているジャイアントモールの頭を撫でながら。 青春とは何だろうか。恋愛とは何だろうか。 最近、そんなことばかり考えているような気がする。 きっかけは、二股がばれたあの事件からだろう。 ぶっちゃけて言えば、ギーシュはモンモランシーとケティ、二人の少女にふられた。 その直後に起こった、才人とのゴタゴタでギーシュの中では一時有耶無耶になっていたが、一時はあくまで一時。 ふられたことについては、今から考えれば自業自得なのでしょうがない。それでも、ショックはショックだ。 プレイボーイを気取っていたが、モンモランシーのことは本気だった。だから未だに尾を引いている。 あんなことしなきゃ良かった。こうすれば良かった。今さらながら、後悔だけが起こる。 自己嫌悪の悪循環。 こういう場合、自分はどうすべきなのだろうか。 少女たちへの謝罪。それは、すませた。いずれも、許してはくれなかったが。 モンモランシーにはまた殴られ、ケティにはまた泣かれた。 あれ以来、気軽に女の子に声をかけることはできなくなった。 恋愛はゲーム。そう友人たちにうそぶいてみせたこともあったのに、今では恋という言葉や文章を見るも少々つらい。 恋愛博士。 そんな風にマリコルヌに自慢してみせたこともある。 でも、今では。 ――いや、そうじゃない。 ギーシュは首を振る。 恋愛というものには、嫌でも“痛み”がつきまとう。それが両者か、あるいはどちらか一方かの違いはあるだろうが。 それを、理解していなかっただけなのだ。 ふう、とギーシュは頭を抱えた。どうしてネガティブなことばかり考えてしまう。 ある人は言った。世界は観る者の認識によって姿を変える 実際今のギーシュの世界は鉛色の変わりつつあった。 その中で救いといえるのは、愛しき使い魔ヴェルダンデ。 陰鬱な気持ちの中で、もう一度、ヴェルダンデの頭を撫でた時。 とことことことことこ……。 ギーシュのすぐそばを、小さな生き物が走り去っていった。 「何だあああ?」 ギーシュは叫びながら振り返る。 これが猫か犬なら珍しくはない。蛇やカエルでもだ。おそらくは誰かの使い魔なのだろう。 しかし、今走っていったものは。 「子供?」 緑の服と帽子の、小さな子供がすばしこい動きで走っていたのだ。その背中に、体躯に見合った小さな籠をしょって。 その小さな子供は、女子寮の方向へと走っていったようだったが。 (使用人の子か? しかし、ずいぶん小さかったな……) 大きめにみても、せいぜい三歳児くらいの背丈だったように思う。 何となく気になり、ギーシュは後をつけてみることにした。 女子寮にいけば、またぞろモンモランシーやケティと顔を合わせるかもしれない。そんな考えもあって、今までは近づかないようにしていたのだが、好奇心のほうが勝った。 勝ったというよりも、好奇心にかられて一時失恋のことを忘れていたのかしれなかった。 ギーシュはふらふらと女子寮の前まできたが、周辺を見ても、あの緑の子供はどこにもいなかった。 あるいは、幻覚だったのかもしれない。 「僕も相当疲れてるなあ……」 ギーシュは自嘲した。 しばらくその場に立ち尽くしていると、いきなり鼻にくる異臭が漂ってきた。 「うう……! げほ、げほ、げほ! なんだあ?」 ギーシュがむせながら周辺をきょろきょろしていると、女子寮の一室の窓が開かれ、そこからうっすら煙が出ているのが見えた。 どうもにおいのもとはあそこらしい。 じっと見ていると、窓から一人の女の子がひょこりと顔をのぞかせる。 ――秘薬の調合でもしていたのか? いや、まさかぼやだろうか? ギーシュはちょっと心配になって、少女に声をかけた。 「おーい、そこの君―! 何かあったのかー?」 「大丈夫ですー! におい出しちゃってごめんなさいー」 少女はギーシュの声に、ちょっとあわてた声でそう言った。 やっぱり少女の部屋がにおいの原因らしい。 しかし、けっこう離れたギーシュの位置からでも、つんと鼻にくるにおいなのだから、部屋の中はかなりきついことになっているのではなかろうか。 「まあー火事とか、事故じゃないのならいいんだけどね」 ギーシュは目の前が女子寮であることを思い出した。あまりこのあたりに長居しないほうがよいだろう。においが嫌だというのもある。 ――しかし、この子……。 どこかで見たような気がするな、とギーシュは考える。女子寮にいるということは生徒か? だったら別に見覚えがあっても不思議じゃないが、制服をきていない。 「ん?」 思い出した。やはり見た覚えがあるわけだ。 この少女は、キュルケの使い魔である少女。エリーとかエルフィールとかいう名前だったか。 と、すると、顔を出したあの部屋はキュルケの部屋か。 エリーが平民ながら、爆弾や薬を作れるという話は聞いていた。ならば、あのにおいは何かを作った際に出たものなのかもしれぬ。 ――そうだ、さっきの子供。 ギーシュは少しにおいにむせながら、やってきた理由を思い出す。 「そうだ、ねえ君。このへんで、緑の服の子供を見なかったかい? こう、ちっちゃな籠をしょってたんだけど……」 「緑? 籠?」 エリーは目をぱちくりさせていたが、ひょいと首を引っ込めてしまう。と、思うと、またすぐに顔を出した。 ただし、一人ではなく、小さな人形、ではない。小さな子供を抱えて。 「ひょっとして、その子供って、この子ですかー?」 「あ、そうそう! その子供……。いや、って、何で女子寮に子供が? まさか……」 まさか、あの子供は、キュルケの。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの。 「キュルケの、隠し子かい?」 「…………キュルケさんが聞いたら、怒りますよ」 とんでもねーこと言う人だなあ、という顔でエリーは緑の子供……妖精を抱えながらギーシュを見る。 「え……じゃあ、君の弟か何かかい?」 さすがにエリーの子供という発想はなかったようだ。 違いますよー、とエリーは笑った。 ほんの数分前。エリーはこのハルケギニアにきてから、初めてのへ新調合に挑戦していた。 今のエリーからすればちょっと高めのレベルのアイテムだったが、材料にいくつか余裕があり、最近調子もいいので、やってみることにしたのだ。 調合するアイテムは、“悪魔の息吹”。 赤の中和剤。ケムイタケ。黄金色の岩(硫黄)。これら三つを組み合わせてできる、アイテムである。 本によれば、強烈なにおいを発生させる、一種の催涙弾のようなものであるようだ。 作ろうと考えたきっかけの一つは、この間狼の群れに襲われたことから。 あのような場合、下手な爆弾よりもこういったもので、群れを無力化、あるいは惑乱させるもののほうが有効かもしれない。 エリーはそんな風に考えたわけだ。 そして、調合の結果はというと…… 結論から言えば、成功した。 したのだが。 「うえ、おえ……ごほ、げほ!!」 エリーはものすごい勢いでむせ返った。 完成した悪魔の息吹は、思った以上に効果が強いらしく、近くにいるだけでそのにおいが目や鼻にしみまくる。 その上調合過程で発生したにおいと合わさり、部屋はえらいことになりつつあった。 これは、やばい。 新調合へのいきごみで、ここがアトリエではなく、“ご主人様”であるキュルケの部屋であることを忘れていた。 おかしなにおいがしみついたりすれば、おしゃれな彼女は激怒するかもしれない。鷹揚な彼女だが、そういうことに関してはやはり気にするのだ。 あるいは、錬金術にはまりこんだエリーのほうが、少々鈍感すぎるのかもしれないが。 「窓、開けないと……」 エリーはむせながらも出来たばかりの悪魔の息吹を厳重に袋へしまいこんで、窓へ向かおうとした。 その時、部屋がノックされる。 ――うえ!? 一瞬、エリーはドキリとした。 キュルケが帰ってきたのか、あるいは、強烈なにおいに他の生徒が抗議にきたのかもしれない。 「は、はああい!」 エリーは内心やべえと思いつつも、無視するわけにもいかないので、おそるおそるドアを開ける。 「――うわあ! すごいにおい……だね!?」 ドアを開いた途端、可愛らしい悲鳴が下のほうから上がった。 おや、と視線を落とすと、籠をしょった緑の服に帽子の小さな子供が、げほげほと咳き込んでいる。 ……妖精だ。 「おねーさん、約束どおり来たよ。うえ、げほ…」 妖精はそういって笑顔を向け、また咳き込んだ。 「君は、ポポルだよね?」 「そうだよ。ぼくはねえ、行商をやってるんだ。良かったら何か買っておくれよ」 妖精ポポルはそういうと、よっこいせと籠をおろしてみせた。 「へえ……こっちでは、どんなのが……って、それどころじゃない!」 エリーはあわてて窓辺へ走り、窓を開け放った。 新鮮な空気が部屋へと入り込み、同時に部屋に充満しつつあったにおいが薄らいでいく。 ほう、とエリーは息をついた。 と、そこへ、 「おーい、そこの君―! 何かあったのかー?」 下から声がかかってきた。 「へ?」 見ると、寮の前に一人の男子生徒が立ち、こちらを見上げていた。 「……まあ、そういったわけなんです。すみません」 説明を終えたエリーは、ギーシュは頭を下げた。 「いや、僕に謝ることでもないと思うけど、でも、あのにおいはまずいかなあ」 ギーシュは苦笑する。 「それはそうと……君は変わった知り合いがいるんだね?」 そう言いながら、ギーシュはポポルを見る。 「まあ、知り合いっていうか……」 「妖精か……。おとぎ話でしか聞いたことのない相手に、こんな風に会えるとはね」 「お兄さんも、何か買ってく? 色々といいものがそろってるよ」 ポポルはギーシュを見上げて、にんまりと笑ってみせた。 可愛いらしいが、どことなく不気味でもあった。やはり、人ならぬもの。古代の精霊につらなるものである、ということかもしれぬ。 「そろってるって……」 見たところ、ポポルの籠は小さく、そんなに量があるようには見えない。 「今日はぷにぷに玉がたくさん入ってるんだ。あ、この火蜥蜴の鱗もおすすめだよ」 そういって、ポポルは妙な草やら石、それにどうも幻獣のものとしか思えない鱗や羽毛を取り出してきた。 数や種類……どう考えても、籠の中に納まりきるとは思えない量である。 ――どういう仕掛けだ? 先住魔法でもかかっているのか? ギーシュは籠をようく見てみたが、どう見てもサイズが小さいだけの普通の籠だ。 「へえ、こっちにもあるんだ…。おお! コウモリの羽や牙も!?」 エリーのほうはそんなことは気にするでもなく、ひたすらポポルの見せる“商品”に声をあげていた。 「ほう……変わった鉱石だな。……猫目石? ふうん、けっこういい宝石になりそうだなあ」 気がついた時には、ギーシュもポポルの“商品”をあれこれとっていた。 ここで、ギーシュは完全にあることを失念していた。 今いる場所がどこか。 そして、今の自分を見て穏やかならざる感情を抱きつつある人間がいることに、まったく気づいていなかった。 「ギーシュ……」 見事な金の巻き毛の少女が、わなわなと震えながら、自分と、そしてとなりの少女を睨みつけていることに。 #navi(“微熱”の使い魔)