その声に応えるように、何かが地響きとともに台所に近づいてくる。
獣だ!戦車だ!いや、蒼星石のマスターだ!!
マ「蒼星石ぃいいい!!いつもありがとぉうううう!!!」
蒼「今日は
土用の丑の日だね。一応は鰻丼を用意したんだけど。」
マ「な、なんだってぇええーーーーーー!?よもや我が家でそんな高級品を食せる日が来ようとはっ!!」
蒼「マスターはいつも暑くる…いや、熱く燃えてる人だから燃料補給しないとね。」
マ「うおぉぉ!!やりくり上手で、気配りも行き届いて蒼星石は最高だぁああああ!!!」
蒼「もう、マスターはいつもいつも大げさなんだから…。さあ、冷める前に食べよう。」
そして食卓に着く二人。そこにはしじみのお味噌汁が入ったお碗、そして本日の主役となるべき丼があった。
マ「こ、これはぁああああ!!!?」
丼を覗き込み驚愕の声を上げるマスター。
丼の中には炊き立てのほかほか御飯、そして鰻のタレ“だけ”があった。
マ「うっおぉぉぉぉおおおお!!!くっああああああーーーーー!!!」
蒼「ごめんねマスター。やっぱり家計に余裕が無くって。……がっかりさせちゃったよね?」
マ「違う、違うんだぁああ!!自分だけなら絶食だろうがなんだろうが構わない、何日でも耐えてみせる!!
だが蒼星石に満足に食べさせて上げられない自分の無力さが情けないんだぁあああーーー!!」
蒼「僕は平気だよ。いつだってマスターから力をもらってるからね。
マスターが元気で居てくれれば僕もそれだけ元気で居られるよ。」
マ「それなら心配は要らないぞぉおお!!
蒼星石が愛情をこめて炊いてくれた御飯!!伝家の宝刀・鰻のタレ!
それらの合わせ技で満足しないわけがなかろうなのだぁあああ!!
元気百倍だぁああああーーー!!!」
蒼「ごめんね、僕がもっとしっかりしていればマスターに美味しい鰻を食べてもらえたのに。」
マ「大丈夫だぁああ!鰻なんて飾りだぁあ!偉い人にはそれがわからんのだぁあああ!!」
蒼「そう言ってもらえると助かるかな。じゃあ、いただこうか。」
マ「おう!いただきまぁあーーす!!」
そう言うやいなや豪快に御飯をかっ込むマスター。
マ「がつがつ………むぉっ、これはぁああっ!?御飯の中から鰻が現れただとぉおおおおっ!?」
蒼「ふふふ、本当はちょっとだけど鰻が買えたんだよ。どう?びっくりした?」
マ「このお茶目さんめぇえええーーー!!でもそんなところも可愛いぞぉおおおおおお!!!」
蒼「喜んでくれたみたいで良かったな。」
そう言って蒼星石も箸を進める。
だがその時マスターが吼えた。
マ「待てぇえ、蒼星石ぃいい!!さっきからなぜ話をする時も食べる時も不自然に丼の中を隠そうとしているんだぁああ!?」
蒼「え!?そ、そんな事はないよ?(大雑把なようで意外と鋭い!…野生の勘?)」
マ「許せぇ!蒼星石ぃいい!!」
蒼「あっ!?」
マスターが蒼星石の手から丼を奪い取るとその中を調べる。
マ「やはり、やはりぃ、やはりぃいいいいいいい!!鰻が無いぞぉおおおおおおーーー!!!!」
蒼「………二人分の鰻を買うお金は無かったんだ。
でも、僕が食べるよりもその分マスターが食べて元気になってくれればと思ったから……。」
マ「蒼星石!君は間違ってる!なぜならば、君が無しで済ませようとする鰻もまた自然の中から生まれたもの!
いわば鰻丼の一部!それを忘れてなにが鰻丼の、土用の丑の日だッ!」
蒼「いいんだ、僕はドールなんだから平気だよ。気にしないで食べちゃってくれればいいよ。」
マ「そんなの駄目だぁああ!! 自分だって、自分だってぇ!蒼星石から元気をもらってるんだぁあああ!!
蒼星石の笑顔があるからこそ自分はこうやって燃え続けていられるんだぁああああ!!!!」
蒼「そ、そうなの?(ちょっと笑うのを控えるべきかな…)」
マ「二人は一心同体!!悲しい事は半分、うれしい事は二人分なんだぁあああ!!!
ほら、あーーーーんしてくれぇえええ!!!」
言うが早いかマスターは自分の丼から鰻と御飯を箸にとって蒼星石に差し出す。
蒼「その気持ちだけで僕には十分だよ。それはマスターが食べて、ね?」
マ「頼むぅうううううう!食べてくれぇえええええ!!じゃなきゃああ、自分も食べないぞぉおおおお!!!」
蒼「う、うん分かった…。じゃあ、あーーん…。」
蒼星石が開けた口に鰻と御飯を放り込む。
マ「どうだ、美味しいか、美味しいだろぉおおおお!!!」
蒼「(もぐもぐもぐ、ごっくん)……うん、とっても美味しいよ。」
マ「それを聞いてこっちも最高に幸せだぁああああ!!!!!」
マスターは満面の笑みを浮かべて心底嬉しそうだ。
蒼「ありがとう、マスター。僕もなんだか幸せな気分になったよ。」
結局、蒼星石は自然と笑顔になっておりましたとさ。