翠「今日の夕食は翠星石がうまいもの作ってご馳走してやるですよ。」
マ「へえ・・・一体どんな風の吹き回しで?」
翠「この間寿司を食べに連れて行ってもらったことを話したら、
のりのやつがお礼に夕食でも作ればいいと言ったですよ。
せいぜい感謝しやがれですぅ。」
マ「へえ、のりちゃんがそんな事をねえ・・・・・・ヨケイナコトヲ。」
翠「ん、何か言ったですか?」
マ「いえいえ、余計申し訳ないと。で、何を作っていただけるんで?スコーンとかですか?」
翠「ふっ、今回はお菓子ではなくちゃんとした料理を作ってやるですよ。」
ちゃんとした料理・・・たかがゆで卵作りで電子レンジを無茶苦茶にしたり、
オムレツを闇鍋のごとくカオスな物に仕上げたという彼女の場合はそれすらも一つの奇跡という気がする。
伝え聞いた限りでは、その腕は壊滅的なまでに殺人的、圧倒的破壊力の歯車的小宇宙・・・だとか。
曰く、ストマック・ブレイカー。曰く、ポイズンコック。
全国津々浦々の薔薇乙女からそんな情報を耳にしている。
マ「それで・・・具体的には何を作る予定なんでしょうか?」
おそるおそる尋ねる。
翠「聞いて驚けです。ビーフストノガロフですよ!てめえなぞ食べたことないんじゃねえですか?」
マ「確かにないけれど・・・せめて名前ぐらいは言えるものに挑戦してください・・・。」
もはや半泣きで慈悲を請う。
翠「感涙ですか。そこまで喜ばれたら翠星石としても手を抜くわけにはいかねえですね。
アクセル全開フルスロットルで行くから期待してろです。」
どうやらこちらの真意はまったく伝わらなかったようだ。
マ「・・・・・・胃が・・・。」
片手でお腹を押さえつつ、壁にもう片方の手をついてうつむいてしまう。
蒼「大丈夫、マスター?」
翠「なんですか、もう期待で腹が減ってしまったですか?まあ向こうで胸弾ませて待ってろです。」
マ「いえ、ぜひお手伝いさせてください!ぜひ!!」
翠「そんな気を使わずとも別にいいですよ。お前はゆっくり休んでろです。」
マ「そこをなんとか!!!」
必死に懇願した結果、なんとか手伝うのを認めてもらえた。
マ「それで材料はどうするの?」
材料さえこちらで用意するのであれば無難な料理に誘導できるし、最悪でも変な物を混ぜられることは防げるはずだ。
翠「のりが持たせてくれたですよ。」
マ「へえ、どれどれ・・・。」
翠星石の持っていた袋には牛肉、玉ねぎ、マッシュルーム・・・といったものが入っている。
マ「あれ、サワークリームがないよ?うちにも置いてないし。買って来る?」
蒼「生クリームならあるんだけどね。代用できないかな?」
翠「それならわざわざ買いに行かなくても生クリームに酢をぶち込んでやればいいですよ。」
マ「それってクリームが固まるだけだと思う・・・。」
本当にこんなんで
お菓子作りが得意なのかも怪しいものだが、実際そうなのだから不思議なものだ。
翠「しゃあねえですね。まあ牛肉さえ使ってればビーフストロガノフって事で構わないですよね?」
構うって。なんでお菓子作りは計量が命なのにその他の料理に対してはそんなに大雑把なんだ。
蒼「翠星石、ビーフストロガノフはロシア料理だからビーフは牛肉のことじゃないよ。」
マ「~風や~流という意味の単語だそうです。」
翠「むう、じゃあどうすればいいでしょうかね。」
マ「もうカレーとかでいいですよ。わざわざ手を煩わせるのも悪いし。」
蒼「そうだよ、その気持ちだけでも十分にありがたいからさ。」
翠「むっ!二人とも翠星石の腕を見くびってるですね。たかがカレーごときで済ませる気はねえですよ!」
『見くびってるも何もそのカレーごときをまともに作れるの?ありがた迷惑だからもうやめてよ!!』
・・・と言える性格だったらどんなにか良かっただろうか。
蒼「でもさ、もっと他の料理でもいいと思うよ?」
翠「うーん、でも・・・。」
蒼星石の言葉に翠星石も多少考えを改める気配を見せる。
今ならうまくやれば翠星石のプライドを傷つけず簡単な料理に変更させられそうだ。
マ「そうだ!すき焼きをお願いします。目には目を、和には和を!お寿司にはすき焼きを。そういうことで頼みます。」
翠「すき焼きですか・・・。それはいいですね。翠星石も食べたいですよ。」
自分でもどういうことかが分からない、かなり強引な提案だが翠星石が受け入れてくれてほっとする。
蒼「じゃあ材料を用意するね。」
何とかうまい具合に事が運んだようである。これでこちら側でまともな材料さえきちんと用意してしまえばいい。
後はそれを切って適当に煮るだけのようなものだから大丈夫だろう、たぶん、流石に、そう信じたい、お願い神様。