さて、DVDもセットしたし、後は蒼星石が差し入れを置いていなくなったら再生しよう。
ヘッドホンは・・・もしもまた蒼星石が来た場合に気づかないと困るからやめておくか。
そんな事を考えつつ適当な作業を行っていると蒼星石が現れた。
蒼「マスターお待たせ、
クッキーと紅茶だよ。」
マ「お、ありがとう。」
蒼「あれ?これって動画を見るためのソフトだっけ?」
何気なくディスプレイを覗き込んだ蒼星石がタスクバーを見て疑問を口にした。
・・・そういえば以前にパソコンの使い方をちょこっと教えたっけ。しかし目ざといな。
マ「・・・そうだよ。」
蒼「・・・ちょっと・・・待ってて。」
マ「?」
せっかくの差し入れを持ったままどこかへ行ってしまう。
しばらくして蒼星石が戻ってきた。少し照れたようにして後ろ手に何かを持っているようだ。
蒼「あ・・・あの、僕じゃマスターを満足させてあげられないから・・・この位しか出来ないけど・・・。」
そこで手にしていた物をこちらに差し出す。
蒼「・・・忘れ物だよ。」
蒼星石が手にしていたのは・・・ボックスティッシュ・・・。
まさか・・・。
マ「あの、これはちょっと・・・。」
蒼「・・・足りない?」
マ「ちっがーう!それで何をしろと!?」
蒼星石は真っ赤になってうつむいてしまう。
蒼「ナ、ナニって・・・そんな事を僕に言わせて何が楽しいのさぁ・・・。」
消え入りそうな声でそう言った。
マ「いっ!?いや・・・そうじゃないって、そんなセクハラまがいの事を聞いてるんじゃないよ!
というかそもそもそんなナニもしないって!」
だがセクハラを働く不埒者の気持ちがちょっとだけ理解できてしまったのも事実だ。
蒼「隠さなくてもいいよ・・・そりゃあ目の前でされても困るけど・・・。
でも若い男の人って大変なんだってね・・・頑張ってね。」
マ「だから違うって、頑張ったりしないから!!蒼星石は理解がありすぎだから!!」
間違いなく誤解を招いている。
蒼「いいんだよ、別に恥ずかしい事じゃないからさ。」
マ「あー、もう!見てもらった方が早い!!」
こうなったらもう隠し立てしても仕方が無い。というよりも隠していた方がダメージがでかい。
どうせ堂々と見るならテレビの方が良いと思い、DVDを取り出すと問答無用で蒼星石を抱き上げて移動する。
蒼星石を抱えたままテレビの前にどかっと腰を下ろすと、DVDを再生する。
蒼「あ・・・あの、僕はそういったものに関心は・・・。」
膝の上で赤面した蒼星石が何やら言いかけていると画面にDVDの中身が映し出される。
蒼「あれ・・・これって、くんくん?」
蒼星石の言う通り、画面では犬のぬいぐるみが活躍する人気番組が始まっている。
マ「この間の運動会の時、みんなはいろいろと詳しく知っていて盛り上がっていたじゃない。
自分だけ何も知らないみたいだったのになんだか疎外感があってさ、年甲斐もなく借りてみたんだけど・・・。」
蒼「あ、そうなんだ。僕はまた、てっきり・・・・・・なんでもない。」
マ「・・・そんなもの見ないって。第一、蒼星石以外の女性に魅力を感じたりするもんか・・・。」
蒼「え・・・あの、それって・・・僕で・・・。」
どうやらまたとんでもない誤解を招きそうな事をしでかしてしまった。
マ「ごめん、言い方が悪かった!・・・蒼星石でそんな事するなんて失礼な真似が出来るはずないじゃん。」
蒼「じゃあマスターは・・・その・・・どうしてるの?」
マ「だーかーらー、そんな事はしてないんだって!!一切しません!!」
蒼「じゃあ、マスターはずっとずっと我慢して・・・。僕のせいで、僕が普通の・・・」
その先が言えないように蒼星石をぎゅっと抱き締める。
マ「・・・だからさ、自分には必要ないんだよ、そんなもの。こうしていられるだけで十分満ち足りてるんだからさ。」
腕の力を緩め、今度は包み込むように優しく抱き締める。
その腕を蒼星石がそっとつかんできた。
蒼「僕も・・・こうしていられれば他には何も要らないよ・・・。」
マ「じゃあ・・・しばらくこうしていようか。」
蒼「うん・・・。」
DVDが終わり、画面が何も映さなくなってもずっとずっとそうしていた。