とりあえずここまではクリアーだ。
いろいろと不安の多いお芝居ではあったが、レンピカ達が見張ってくれ合図を送ってくれたおかげでうまく動けた。
蒼星石を囮にして犯人をおびき出すことにはなんとか成功したのだ。
さてと、ここからが本番だ。
今回の事は警察が犯人捜しに
積極的になってくれるような類の事件ではないのだ。
しらばっくれられたりうやむやにされたら終わりだ。
そして決定的な証拠というものが無い以上、これからのやり取りでボロを出してもらうしかない。
それには相手が精神的に立ち直る前に、動揺しているところを一気に畳み掛けるのが一番だろう。
マ「昨日この場所であんな所業に及んだのもあなただったんですね。」
些細な問いかけだがそれでも慎重に言葉を選ぶ。
いろんな可能性を想定し、それこそ何百回と繰り返しシミュレートしてきたがやはり本番は緊張する。
「ち、違います!私じゃあ・・・ありません。」
即座に否定する。まあやっているにせよそうでないにせよ当然の反応だろう。
これで自分から積極的に身の上話でも交えて語り出してくれたら楽なのだが。
相手だってなんとか誤魔化そうと必死なはずだ。
決してこちらの手の内を一気に出し切ってしまってはいけない。
限られた手札を小出しにして最大限に有効利用しなくては。
マ「そんな物を手にして言ったところで説得力はありませんよ・・・黒崎さん。」
黒「・・・・・・。」
黒崎さんは何も答えない。
このままだんまりを決め込むつもりなのか、それとも何か弁解を考えているのか。
山「黒崎さんが・・・私のキャサリンを?」
マ「ええ、おそらくは。」
愛する人形を傷つけられた山田さんが黒崎さんを睨みつけた。
山「ひどい!あんな事をできるなんて悪魔よ!!」
すごい剣幕で罵倒する。
黒「ち、ち、違います・・・私では・・・」
山「どこからどう見たってあなたの仕業じゃない!それに今度は青木さんの蒼星石ちゃんまで狙うなんて!」
黒「た、確かに・・・・・・それは認めます。でも・・・ほ・・・他は、違います、私じゃありません。」
山「何が言いたいのよ!」
み「それって・・・昨日までの事件の犯人は別に居るって事?」
みっちゃんさんが口を挟む。
他の皆には一種のグルだと悟られぬように適当に相槌を打ってもらうように言い含めてある。
黒「そ、そうですそうです!便乗してこんな大それたことを企ててしまいましたが・・・まだ何もやっていません。
ど、ど、どうか・・・信じてください!」
山「信じられるわけがないでしょ!!」
梅「確かに・・・この状況ではその言葉を聞き入れるわけにはいきません。」
み「いずれにせよそういう事をしでかしても平気な人間って事よね。」
黒「う、うう・・・。」
梅「黒崎さん、私のエリザベスもあなたが・・・。」
黒「違う!そんなのは関係ない、私は無実だ!!」
だんだんと切羽詰った感じになってきた。
梅「すみませんが、とてもじゃありませんが信じられません。なんでこんな事を・・・。」
マ「その件に関してなんですがね、ちょっといいですか?」
桜花さんに一声かけ、耳打ちするときのポーズをとる。
梅「あの・・・どうしたんですか?」
マ「桜花さんが悩まされているというストーカー・・・その事で少々確認したい事が・・・。」
み「何か皆の前じゃ話しにくい事?なら気にしないでこっそり話して。真相につながるかもしれないんだし。」
梅「では・・・。」
みっちゃんさんの言葉に促されて桜花さんが僕の手に耳を近づけてくれる。
マ「例のストーカーなんですが、ひょっとして・・・」
梅「えっ!?」
桜花さんが虚を突かれたという声を上げた。
その他の面々の顔にも驚愕の色が現れる。
無理も無い、自分だって今の今まで半信半疑だった。
しかしこれで確信が持てた。
自分の考えは果たして正しかったのだと。
マ「ひょっとして・・・そんなの最初から居なかったんじゃありませんか?」
言いながら一同の視線が集中する自分の右手に目を向ける。
そこにはたった今桜花さんから掠め取ったウィッグがつかまれていた。