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【黒禍】ヤマトタケル

<タイプ> <魔械人> タイプ 半神
種族 神族 ジョブ ディフェンダー
HP 550 ATK 90
DEF 80 コスト 60
アビリティ
召喚 なし
覚醒 なし
超覚醒 真揮『禍津・草薙』
アームズ
昏薙ぎ 【アームズ】範囲内にいるターゲット中の敵ユニット1体と、その周囲の敵ユニット全てにダメージを与え、
一定時間HPを徐々に減らす。ただし、カルマ◆を1つ消費する。
「うおおりゃああぁ!!!!」

須佐之男命は愛刀である天叢雲剣を力任せに“それ”へと叩きつけました。

しかしその切っ先は、ガゴン!と大きな音を上げるだけで、
さしたる損傷は与えられていない様子でした。

「っつ! 硬ええぇ! なんなんだよこいつは――姉ちゃ…いや、姉貴ぃ!!」

問われた月読命は応えず、その問いの答えを見極めんとするように眼前の巨大な影を見上げます。

倭建命――草薙の剣と融合を果たし、強力無比な青銅色の巨神と化した姿がそこにありました。
剣の力に浸食された倭建命の心は、今や正常な判断力を失い、
立ち塞がる者すべてを蹂躙する悪鬼へと堕ちかけていたのです。

≪大和……脅かす者ども……俺が……倒す……≫

巨神が大剣を薙ぎ払い、次々と巻き起こす衝撃の波を須佐之男命がかろうじてかわし続けます。
見るとその度に、須佐之男命がいた周辺の地面は根こそぎ抉り取られており、
その強大な力がうかがい知れました。


「ツクヨミ姉さんの命令…いやさ、頼みとあって駆けつけちゃあみたが…
こいつぁ思った以上に厄介そうだ」
「すっごい~ね、でっかい~ね、つっよ~いね~♪」
「ハハ、そんじゃクニちゃん景気づけに一杯いくか~い?」

その様子を見た大国主神はポリポリと頭を掻いて苦笑い、天細女神は気の抜けた声を上げ、
少彦名神はのんきに酒を勧めます。

みなさん、もう一度いきます――生真面目そうな片方の目の赤い青年がそう告げると、
神々は「おう!」とそれに合わせ一斉に動きだしました。

「いっくよ~、風早の舞い~!」

天細女神の鼓舞の舞いの後押しを受け、速さが増した青年と須佐之男命が、
風のような速さで左右から切り込み、
巨大な巨神の剛腕の撃をするりするりと避けながら撹乱します。

「そんじゃスクナ、一杯もらおうか!」
「あいよ~ 飲め~ば飲~むほ~どつ~よくなる~♪」

酔神の御神酒をくいっとあおった大国主神は、
その隙に巨神の装甲を目にも留まらぬ速さで駆けのぼり、
その頭部に、酔神の神力で増した痛烈な一撃を叩きこみます。

ゴワンッ!! と大きな音がし、その衝撃に巨神の身体がぐらりと揺れました。

「よっしゃあ!
こういう図体のでけぇやつは、古今東西頭を狙うって決ま――うおっとぅ!!」

虫でも払うかのように無造作に振られた巨腕を、大国主神は身をよじって避けました。

何事も無かったかのように立ち直る巨神。
そのわずかに傷付いた装甲も、すぐさま時が巻き戻るかのように再生してしまいます。

「…あ~、全然効いてねぇなこりゃ… モノのやつ、いい加減なこと教えやがって…
てか、“うち”の大将はまだかよ」

その様子を見ていた須佐之男命は苛立たしげにダンと地面を踏みしめました。

「あー! クソ! このままじゃラチがあかねぇ!」

そして、仕方ないとばかりに虚空に向かって叫びます。

「デカブツにはデカブツだ! 出番だぜ! 親父ぃぃぃ!!」

すると、地響きと共に天が割れ、
天を突くほどに大きく荒御霊を昂ぶらせた伊邪那岐命が雷鳴と共に降臨し、巨神を睥睨しました。

「ふん、葦原のことは皆に任せておったが、子供らの頼みとあらば聞かぬでもない――
天津神の神力じゃ…存分に味わええええい!!!!」

轟!!――ひと振りで大地を揺るがせ、天を裂き、海を割る、圧倒的な質量の一撃。
数百の落雷が同時に起こったようなすさまじい轟音が辺りに響きわたりました。

しかし――それを受けてなお、土煙の消える頃には、巨神の身体は既に修復されていたのです。

「これでもダメなの? はぁ…父様ばつ悪そうにして帰っちゃったじゃない…
これ、厄介どころの騒ぎじゃなさそうね。どう、なにか打開策はありそう?」

月読命は、倭建命の弱点を見つけようと観戦させていた、
隣でじぃっとしている多邇具久神へと問いかけました。

「………………」
「タニグク…寝てないわよね?」
「ゲコッ! 寝てなどおら~ん、起きておる、手前はず~っと起きておる。
あ~~~手前の知るところによるとだな、奴と一体化しとる“草薙の剣”には、
機甲装置の他にも、な~んか別のものがおるようじゃの~。
その正体を掴むことができれば、あるいはなにかのきっかけぐらいにはなるかもしれんの~う」

曖昧な多邇具久神の言葉を聞いた月読命は、目を細め、鋼の巨神を見ました。

「…何か“関係してる”とは思ったけど、なるほど、剣の中にね…
彼女を呼んでおいてよかったわ」

そして、弟神に言いました。

「スサノオ、ちょっとあんたのムラクモ貸しなさい」
「は!? なんでだよ、やだ――
あ、いや、なんでもないです。どうぞ、好きに使ってください」

須佐之男命はものすごく嫌がりましたが、姉神に睨まれると途端に気勢を削がれ、
大人しく天叢雲剣を差し出しました。

何をする気ですか――赤眼の青年の問いに、月読命は答えます。

「草薙の剣と天叢雲は元々とても良く似た性質を持つ剣なの。
これを使えば――“映せる”かもしれない」

そう言って目を閉じ、月読命は神力を高めていきます。

映すとは一体――青年がさらに尋ねようとしたとき、
須佐之男命の危急を告げる声が響き渡りました。

「姉貴! 小僧っ! 危ねぇ避けろ!!」

青年と月読命が振り返ると、巨神のひと振りによって放たれた巨大な衝撃の波が、
こちらへ向かってきていました。
その勢いたるや、まさに必殺…それは痛恨の油断でした――
もはや回避することは不可能なその波が、青年と月読命を包み込もうとしたまさにそのとき、
突如飛来した三本足の烏から、二つの影が落ちました。

≪ふるべ… ゆらゆらとふるべ――“天津祓”!!≫

凛と少女の声が響くと共に、青年と月読命は淡く光を放つ繭のようなものに覆われていました。

その直後に襲い来た波は、光の繭に全て受け流されるように弾かれて霧散し、
青年と月読命は一切の傷を負いませんでした。

これは、すごい――目を白黒させる青年と対照的に、さほど動揺した様子もない月読命は、
現れた目の前の少女に語りかけました。

「ふぅ、来てくれたのね、ありがとう女王様。それと――」

あっちのあなたのお仲間もね――
促されて青年が見ると、青年と同じように片方の目が赤く染まった、
やや粗野な印象を受ける赤毛の青年が、果敢に倭建命へと斬りかかるところでした。
青年は、彼が来てくれたのなら安心していいと笑い、その場を月読命に任せ、
赤毛の青年の元へ加勢にゆきます。

「もう卑弥呼は女王じゃないよ神様。私を呼んだのはあなただね。
…卑弥呼の残した剣が悪さをしてるって聞いて、それを見るのが怖くて、すごく悲しくて、
すごく落ち込んでたんだけど……でも、やっぱり卑弥呼が撒いた種なら、
卑弥呼がなんとかしなくちゃいけないもんね。
こういうの“ケジメをつける”っていうんだって、あの人が教えてくれたんだ」


赤い髪の青年に少しだけ泣き腫らした目を向けつつ、卑弥呼はにっこり笑い、
「それで、何をすればいいの」と尋ねました。
月読命は、卑弥呼の覚悟に感謝しつつ言いました。

「…これはきっとあなたにしかできないこと。
あの剣に封じられたものを、私の月でこの天叢雲剣に“映す”わ。
そうしたら“それ”を、あなたの力で“憑び出して”ほしいの」


 * * * *


――駄目…タケル…

≪…あんた…は…!?≫

その美しい姫の姿を見た途端、巨神は先程までの暴走が嘘のように動きを止めました。

――駄目だよタケル…もうやめて… それ以上苦しまないでよ…

≪…弟…橘…!?…ああ…ああ……≫

するとどうでしょう、巨神の鋼の身体はガラガラと崩れ始め、
後に残ったのは本来の剣としての形に戻った草薙の剣と、
それを握り締める生身の倭建命の姿でした。

「なぜ…弟橘が… 弟橘は確かにあのとき…」

弟橘姫を守れず目の前で失ってしまった苦い記憶は、
倭建命の頭の中に鮮明にこびりついたままでした。
倭建命は事態が呑みこめぬという風に、茫然と呟きました。

――ごめんね。わたしの体はずっと昔になくなっちゃった…
今ここにあるのは、“剣”に縛り付けられた魂だけなの。

倭建命はハッとしたように、自分の握りしめる草薙の剣を見つめました。

「魂だけが…剣に…? そんな馬鹿なことが…」

その姿に倭建命の正気を確認した月読命は、弟橘姫の現身へと問いかけます。

「やはりそうなのね――弟橘姫、事情を説明してもらえるかしら」

わかりました、そう頷くと、動揺する倭建命とその場を見守る神々に、
弟橘姫はしずしずと語り始めました。


『草薙の剣』とは本来『苦災薙の剣』――
とある神の力を持つ女王が国に残した“あらゆる苦しみと災禍を薙ぎ払うように”
という祝福の祈りが込められた、まごうことなき神剣だったこと。
その管理を任されていたのが、女王の弟妹の血筋を持つ弟橘姫の一族であったこと。
そしてその剣を、倭建命に託したのが、自分であったこと――。

「あ? 人をあんな化け物に変える力が祝福だと? ありゃ祝福ってぇより呪いだろ」

須佐之男命は乱暴に言い放ちます。

――はい…今その剣に込められているのは…タケルを蝕んでいるのは…
“祝福”などではなく“呪い”そのものです。

それはとある“魔神”の企てによるもの…弟橘姫は、そう寂しそうにいいました。

――魔神は剣に何かを仕掛け、“あらゆる苦しみと災禍を薙ぎ払う”祝福を反転させました。
剣に込められた思いはとても純粋――純粋な想いは力が強い反面、
いとも簡単に“裏返す”ことができるのだそうです。
その結果生まれたのが、“あらゆる喜びと幸福を薙ぎ払う”飽くなき力の渇望をもたらす剣――
それが“呪い”の正体です。

「だが! それでどうして、弟橘の魂が剣に囚われねばならない!?」

――草薙の剣の真価を引き出せるのは、その剣をつくった女王の血筋の者だけ…
魔神はそれを知っていたからだよ。

拳を握り問いかける倭建命を、弟橘姫は寂しそうに微笑みながら、
優しくなだめるようにそう答えました。

――わたしの死後、わたしの魂は魔神に捕らわれました。
タケルもまた、戦いの中で魔神に出会い、その体に『種』を埋め込まれました。
その『種』で魔神はタケルを悪しき何者かに作り替えようしているようです。
そしてこの剣の呪いは、タケルの中の『種』を育てる養分として、
タケルに“闇”を送り続けた――わたしの魂は呪いの効果を増幅するための道具…
つまりタケルをより苦しめるための仕掛けとして、この剣に組み込まれたのです。

外道め――正義感の強い赤目の青年は、そう吐き捨てました。

――タケルが今の力を手に入れたとき、心に直接語りかけるような声を聞いたはずだよ。
それが魔神…それが…

「――すべての、元凶…」

感情の読み取れぬ冷たい声で月読命は呟きました。

――死そのものに悔いはありませんでした…
タケルに守られ、タケルの腕の中で逝けたのですから。
それなのに…わたしは…タケルを苦しめるために使われて…

倭建命を気遣い、いつ流れてもおかしくは無い涙を必死にこらえる弟橘姫に、
声をかけられる者は誰もいませんでした。

そんな弟橘姫を見て、倭建命は意を決したように告げました。

「………ならば、今俺ができることは、ひとつだ」

確かな言葉で語るその瞳には強い意志の光が宿っていました。

「砕こう――草薙の剣を、今ここで。弟橘の魂を、こんなくだらぬ楔から解き放つんだ」

しかし、弟橘姫は静かに首を横に振ります。

――タケルの中の『種』は、もう完成寸前みたいなの…。
今となっては、その最後の進行を食い止めているのが、わたしという異物…
私の魂が解放されちゃったら、もう誰も止められない…それこそ、あの魔神の思惑通りに…

そう告げた後、弟橘姫は精一杯の強がりで笑って見せました。

――ごめんねタケル。
あの剣、タケルのためにって思って渡したのに、こんなことになっちゃって…
でも大丈夫だから、わたしはこのままでいい…絶対タケルを守るよ。
だから、タケルもこれ以上闇に飲まれないで――
わたしは、いつも熱い正義の味方で、でも少し抜けてるタケルが大好きだったんだから。

当然、その笑顔に釣られて笑う者など一人もなく、
悲しみとやり場のない怒りだけがその場に重く落ちていきます。

しかし、もう耐えきれぬという風に、倭建命は地面に拳を打ち付けて叫びました。

「なぜ笑うんだ、弟橘…! いっそ俺を憎めばいい!! お前を守れず…死後の安寧すらも奪い…
そのことを今日の今まで気付きもせずにのうのうと生きてきたこの俺を!!!」

――タケル…。

そして、倭建命は静かに告げました。

「…これまで、大和国のためと大層なことを言いながら剣を振るってきた。
でも今になってようやく気付いたよ…俺にとって本当に大切で、守りたかったものは、
国などではない――弟橘、あんたひとりだったんだ…」

倭建命は草薙の剣の刀身に手をかけました。

草薙の剣を破壊しようとしている――
事態を静観していた神々が色めき立ち、月読命が駆けだしました。

「止めるなっ!!」

その機先を制するように倭建命は叫びました。

「俺は、二度と彼女を見捨てない…! たとえ何を失おうと、彼女の尊厳だけは守って見せよう!
その引き替えが、俺の心だろうと、俺の命だろうと――世界だろうとだ!!」

その言葉に、月読命の伸ばしかけた手が止まり、その顔にちらりと倭建命が目を向けます。

「…ありがとう。最後まで、迷惑をかける」
「……」

――ダメだよ…タケル…

弟橘姫のこらえていた涙が、薄くその目に浮かびます。

「弟橘…先にいって、待っていてくれ」

待って――そう言いかけた月読命に、倭建命は穏やかに微笑むと――
草薙の剣を粉々に砕きました。


 * * * *


キラキラと舞う草薙の剣の破片――。

同時に、弟橘姫の姿が次第に卑弥呼に変わっていきました。

「…そう…だったんだね…」

力を使い果たし倒れ込む卑弥呼を、赤毛の青年が優しく受け止めます。

「あの子の魂は無事旅立ったよ…
あの子も彼も、卑弥呼がキミと旅立った時より、遠い未来から来たんだね…
でも、みんなの為を思って残した剣が、そんなことになるなんて…」

赤毛の青年は、辛い思いさせてすまねぇ――そう卑弥呼に謝りますが、

「大丈夫だよ、キミが言った通り、
あの国はあの後も大丈夫だったんだってわかって嬉しかったもん」

卑弥呼は、そう言って寂しそうに微笑みました。


「う~わわわ~! なん~か破片がた~いへんだ~!」

突然、少彦名神が叫びました。

見ると、今まさに砕けちったはずの神剣の欠片が、元の形へと戻っていくではありませんか。

やがて欠片が剣としての形を完全に取り戻すと同時に、
倭建命が目を見開き、大きな苦鳴を上げました。
そして、神剣に焔が灯り、その焔は赤い舌を巻きつかせるように倭建命を包み込んでいきます。

渦巻く焔は倭建命の全身を覆いつくしてなお止まらず、
やがて天を焦がすほどの大炎を巻き上げていきました。

「おいおいおい…! なんだよこりゃあ!?
風と雷も連れてくりゃ良かったな…わだつみのジジィはいねぇしよぉ…」
「あの鬼っ子たちは“あっち”があるから無理ですって。
…それよか兄さん、これやばいっすわ、相当気合入れてかねぇと…」
「はぁ、めんどくせぇ… クニ、テメェはこんな時になんでモノのやつ連れて来なかったんだよ」
「だーかーら無理っすよ! あんたそんなんばっかだな!
あいつ俺の言うことなんかめったにきかねぇし、
どの道来たってあいつがみんなで共闘なんてできるわけないでしょうが!」

天叢雲剣を再び手にした須佐之男命と大国主神が言い合いながら武器を構えます。

熱のない――ともすれば冷たいとすら感じるような、その焔は明らかに“異質”でした。
凶兆を具現化したような不吉で不気味な焔を、皆眺めることしかできませんでしたが、
唯一、月読命だけは、これから起きることがわかっているかのように、
その光景を見ずに顔伏せ、複雑な表情で自らの掌をじっと見つめていました。

その時、大炎が膨張し、煌々と輝きました。

「ウズメーーー!」
「う~わ… みんな~! 踏ん張って~っ!!」

大国主神の声に応じ、
珍しく真面目な声色の天細女神がシャシャンと鈴を鳴らし「御柱」を打ち立てると、
後方に立つ皆の周囲に障壁が張り巡らされます。

直後――嵐のような暴風が吹きつけました。

大炎から吹き付ける強烈な風の中、大国主神はドンと下ろした足で地面をしっかとつかみ、
烈風をものともせず前に進みながらその中心を見据えました。

その目に映ったもの――吹き飛んだ大炎の中から姿を現したのは鋼の巨躯――
再び倭建命と草薙の剣の融合した姿だったのです。

「黒い…草薙…」

誰ともなく口にしたその言葉通り、巨神の鋼の体は黒く染まり、禍々しい神気を放っていました。

「どうしよう…彼の声が……もう、聞こえないよ…」

卑弥呼が呟きました。

黒い草薙からは、先程対峙したときは確かにあった倭建命の感情…暴走する激情や理性との葛藤、
そういった心の叫びの一切が消え失せていたのです。

月読命は歯噛みすると、怒気を孕ませて中空へと呼びかけた。


「いるんでしょう!? 出てきなさい――ロキ」


≪なんだよ~? 言われなくたってこれからカッコよく出ていくつもりだったのにさぁ≫


空間が裂け、軽薄な言葉と共に――魔神が姿を現しました。

「いやぁ、それにしてもこ~んなに綺麗に“忌み種”が開花するなんて、
僕ってや~っぱり天才だなぁ~≫」

そう言って魔神は満足げに頷くと、倭建命の傍らへと降り立ちました。

「おい――さっきから話に出てた“魔神”ってのは、てめぇのことか」

須佐之男命もまた、強い怒気を孕ませながら問いかけます。

魔神は心底楽しそうに両手を広げ、芝居がかった口調で笑います。

「ごめ~いと~う!
というか逆にさ、このタイミングで出てきて実は僕じゃなかったらびっくりだよねぇ。
斬新すぎる脚本は大衆ウケしないよ~?」
「こいつが――卑弥呼の祈りを捻じ曲げて…あの子たちの想いを…!!」

卑弥呼が、滅多に見せない怒りを覗かせ、拳を握りしめます。
しかし、魔神はさして気にした風もなくヘラヘラと笑いながら続けます。

「ほら~、僕って、頼まれたら断れない良い奴じゃない? これもさ~、頼まれたんだよねぇ~
ご依頼は『鍵』、カチャカチャっと扉をあけちゃうさ。
タケルくんはいい『鍵』になったと思う――!?」

突如背後から気配もなく振るわれた大国主神の七支の剣先に気付き、
すんでのところで回避する魔神。
大国主神は小さく舌打ちして距離を取ります。

「ひぇ~あぶな~い! まぁったく、ツクヨミちゃん、君の一族はほ~んと喧嘩っ早いよねぇ~」
「おおせの通りだ、俺ぁ考えるより先に手がでちまう方でね、
お前さんは文句なしで、俺の嫌いなど悪党だ」

言葉とは裏腹にさして焦った様子もなく、魔神は周囲を見渡しました。

「なに? みんなもそんな感じ?
はいはい、嫌われ者は帰りますよ~っと――ま、こいつだけは連れてくけどね」

魔神が巨神に手を触れるとその身体に紋様が浮かび、
そのまま魔神は巨神ごと虚空に飲み込まれ、消え去ってしましました。

その成り行きを、ただ見つめることしかできなかった神々は、みな、
一様に苦い顔を浮かべるしかありませんでした。


 * * * *


魔神と倭建命が去り、協力してくれた神々が立ち去った後も、
月読命はその場から離れず、高台にで二人が去った宙を見つめていました。

月読命を気遣いその場に残っていた青年は、しずかに彼女が立つ高台の側に立ちます。

「私、失敗しちゃった」

青年は何も言わず、そのまま視線も合わせずに語る月読命の言葉を聞きました。

「誰かを愛するということ…それは時に理屈や正しさでは計り知れない激情…
特に人のそれは、絶対に侮っちゃいけなかった――」

月と夜を司る私は、それをよく知っていたのにね――そう言って月読命は自嘲気味に笑います。

「私ならば止められたはずなのに、止められなかった――いいえ、止めなかった。
これは私の失敗で、世界にとっては大きな危機…」

沈もうとする夕日に照らされているであろうその表情は、背を見る青年からは窺い知れず――

その時、青年が凛とした声で言いました。

――私には、彼の気持ちがわかります。
彼と同じ状況になったならば、私も同じことをするでしょう。
たとえ、この世の全てを敵に回したとしても…
だからこそ、その選択をした彼を、私は助けたい…いえ、助けてみせます。

その言葉に、月読命は青年の方を振り向きました。

月読命にまっすぐ向けられた青年の瞳には迷いなどなく、
そこには、確かにその言葉が現実のものとなるであろうことを信じさせる力強さが宿っていました。

「ありがとう…」

月読命は高台から飛び降りると言いました。

「うん…こんなの、私らしくないわね。そうよ、まだ全部が終わったわけじゃない。
どこまでも追いかけるのが、お月様ですものね! さ、私たちも帰りましょ」

そう言って、青年の横を通り過ぎながら、月読命はいつも通りの悪戯っ子のような笑顔を浮かべ、

「でもあなた、世界を敵に回してもいい相手なんてのがいるのね…ちょっぴり妬けちゃった」

そう言うと、返答に困る青年を見てくすくすと笑いました。


~『紅蓮古事記』 其の拾壱の了~
身長 16[meter](神威発現時)
体重 54[t](神威発現時)
討った数 数え切れず
その剣技 衰えず
その心 満たされず
『鍵の座』 第10席
イラストレーター naked
最終更新:2017年05月27日 14:23