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源頼朝

<タイプ> <酷薄者> タイプ モノノフ
種族 不死 ジョブ マジシャン
HP 700 ATK 110
DEF 100 コスト 90
アビリティ
召喚 なし
覚醒 サクリカードコマンドW
超覚醒 【白】聖威大将軍/【黒】鎌倉大権現
チェンジ
類まれなる才気、先見の明、強運、周囲の者を否応なしに惹きつける魅力――
義経は物心ついて間もない頃から、己がその全てを持っていることに気づいていた。

河内源氏の嫡流に生まれ、全てにおいて思い通りに事が進み、自分の成すべき事が手に取るようにわかる。
結果、成功の中心には常に自分がいる。
それは、義経にとって至極当然なことであったが、他の人間にとってはそうでなかったようだ。
故に、周りの人間は異常なまでにそんな義経を敬愛し、不自然なほどに甘やかした。しかし――

――どいつもこいつもつまらぬな… 
父も、家臣どもも、兄たちも、いずれ俺が成し遂げる武功や、源氏にもたらす栄光にすがろうと必死なのだ。
まこと、つまらぬ、俺の傍には、かような弱者しかおらぬのか――

弱者は強者に媚びへつらう――そういった退屈な摂理を肌身で感じながら、それもまた強者の定めかと、
義経は常に、作った笑みを顔に貼り付け、自らに近寄る者たちを冷めた目で見つめていた。

しかし、父・義朝が源氏秘蔵の武具『鬼神の籠手』を義経に与えたことをきっかけに、彼の世界は一変する。

その時目にした兄・頼朝の瞳――他の兄たちと違ってただ一人、
義経に近づくことのなかったこの男の視線が、義経に未知の衝撃を与えたのだ。

頼朝は、一人黙々と文武に励む大人しい男であり、
その生真面目な気性と才気により、かつては周囲の期待と父の寵愛を一身に受けていたと聞く。
しかし義経が生まれ、それらすべてがすっかり義経に向いてしまうと、
その口数は一層少なくなり、義経に構わないどころか人の輪にも入ろうとしなくなり、
周囲の者と必要以上に関わらぬようになっていったという。

哀れで根暗な負け犬――義経にとっての頼朝は、その程度の認識でしかなかった。

しかし、籠手を受け取った義経に向けられた頼朝の視線――
篭った嫉妬の、その激しさ、禍々しさたるや――
義経は生まれて初めて、腹の底がぎゅうと締め付けられるような居心地の悪さを感じたのだった。

――なんという目でこの俺を見る…この男、一体なんだというのだ――

義経は、初めての感覚に戸惑うと同時に、口角が上がるのを抑えられなかった。

頼朝という男が持つ激情――
初めて他者より向けられた強い感情に、義経は密かに、これまでにない奇妙な興奮を感じていた。

――面白い…愉快だぞ兄上、ならば…“譲ってやろう”。


その後、義経は様々な有事において目覚ましい活躍を見せるも、
最後には兄を立てるよう振る舞い、頼朝の功を後押しした。

嫡男として父の後を継いだ頼朝は、そんな義経の振る舞いに抗するように、かつての静で大人しい様を捨て、
あまねく者にすべての功は自身の力であると誇示し、尊大に、かつ冷酷に振舞うようになった。
そして、瞬く間に源氏を政の中心へ押し上げていった。

しかし、頂点に上り詰めてなお、頼朝は決して満足した様子を見せなかった。
その心にあったのは、ただ義経に対しての憎しみのみ――
平家打倒という一族の悲願を果たした際であっても、
頼朝の目は、その折に凄まじき武功を立てた義経に向いたままであった。

そして義経は、頼朝にその“視線”を向けられるたび、それが心地よく、面白くてたまらなかった。

――いいぞ…源氏の頂に立ってなお、
未だあなたの世界では、籠手を奪われ、父の寵愛を受け続けた俺があなたを見下ろしているのだろう? 
俺に媚びる弱者で溢れたこの世界での唯一の楽しみは、もはや兄上の一途な俺への激情のみ…
もっともっと俺を憎め…ひたすらに追い続けよ――

義経の世界では頼朝のみが…頼朝の世界では義経のみが…
異なる形で、しかし唯一としてあり続けるのだ…そうあるべきなのだと、義経はそう思っていた。

そうして義経は、自身の心の在り所を確かめるように頼朝の側でその心をくすぐり続け、
その憎しみの手が届きそうになる度に、するりとそれをかいくぐり、
あざ笑うように遠くへと逃げおおせた。

一時、頼朝が恋慕の情などに腑抜けそうになったこともあったが、
そのようなことで兄の憎しみが少しでも揺らいでしまうことをも、義経は許さなかった。

だから、奪ってやった。
籠手のみならず、唯一愛した者まで奪われたと知ったときの、兄上のあの目といったら――


* * * *


命を懸けた斬りあいの最中――義経は、ふと浮かんだかつての記憶にほくそ笑んでいた。

「何を笑う!? 言ったはず、これは我が主君の弔いだと…! 
であるに、先程からそなたの心は此処に在らず…武人としての礼はないのか!」

刃と刃がぶつかり合う音が幾つも響く中、凛と美しき女武者は苛立ったように叫び一打を打ち込む。
義経は片方の手に持つ鉄扇でそれを受けると、反動に身を任せて一歩下がり、
顔を背けて尚もくつくつと笑った。

「そう盛るな。お前のその必死な様が、“ある者”の顔を思い出させてつい、な。
…巴とやら、俺は今機嫌が良いのだ。だからこうして弱者のお前とも戯れてやっている」

「…源義経、どこまで私を愚弄する…! 
この巴とたま丸が、どのような思いで貴様を追い求めていたと思うか…!」

異界の原にて刃を交える武者ふたり。
なおも口元に笑みを浮かべる義経を睨み、鉈を振り下ろす女武者――巴御前。
義経は、かつて滅ぼした多くの敵の顔を頭に浮かべながら、巴の言う主君の名を脳裏にさがした。

「お前の主、なんといったか…、ああ、そうだ、義仲よ。奴は確かにこの俺が討った。
しかしそれもすでに遥か昔、俺が棄てた国での出来事よ…
驚いたぞ、まさか遥けきこの地でその仇討ちに合おうとはな…」

義経への執念ゆえに、義経を追うもの――この女は、“あの男”と似ている。しかし――

「…お前をこの地へと導いた執念、たいしたものよ。だが、まだ足りぬ…
お前の執念は主への愛情ゆえにあるもの。俺が向き合うには小綺麗過ぎて足らぬのだ。
俺が好むのは、もっと純粋に禍々しく、俺そのものすべてに向けられた憎しみよ…!」

そう不敵に笑った義経は『八艘跳び』と謳われた強脚に乗り、
目にも止まらぬ速さで飛翔すると、四方八方から刹那の連撃を巴に打ち込んだ。

巴はそれらをすべて受けきるも、反撃の余裕はなく、跨る霊猫と共にじりじりと後ずさっていく。
追い込まれる巴の姿に、巨大な霊猫が唸り声をあげ、宙を舞う義経に爪を走らせる。

「いけません! たま丸!」

その反撃を待っていたとばかりに義経の目が光り、霊猫の爪を鉄扇にて真横へと受け流す。
体を崩した霊猫が、がら空きの胴を見せ――

「邪気、一閃!!」

そこににやりと笑う孤狼の一刀が吸い込まれてゆく。

「くっ…!!」

間一髪、巴は捨身とも思える打ち込みでそれを防ぐも、
その鉈は義経の刃に押し負け、宙を舞った。

「――っ!」

「…巴とやら、楽しかったぞ。あの世の義仲に逢うてまいれ」

義経の刃が、巴御前の白い喉元に触れ――
その寸前、どうしたことか、義経は舞うように身を翻し、巴に背を向け鉄扇を開いた。

キィィィンと響く鋭い音――見ると、義経の鉄扇は剛の白刃を受け止めていた。

ふわりと砂塵が巻き上がり――

「くはは… げに、今日という日はなんという…」

その向こうに立つ者の姿を見た義経は、驚きに目を見開くと、そう言って顔を笑みに歪めた。


「ふん、役に立たぬ雌虫よ。
あと少しこやつの気が引けたならば、この俺がすべて終わらせてやったというに。
目障りだ、去ね」

そう言って、義経に刃を伸ばす男…漆黒の狩衣を纏い、眼光鋭く義経をねめつけるは、
源氏の長たる征夷大将軍――源頼朝であった。

「…そなたは……源氏の総大将がどうしてここに…!?」

「虫が勝手に口をきくな。去ぬのならば黙れ。
さもなくば、この頼朝の気まぐれに命を救われた感謝にむせび泣きつつ、自ら喉を突くが良い」

「な…!? 誰が…!」

巴の声など歯牙にかけることもなく、頼朝は再び刃を真っ直ぐ義経へと向けた。

義経を射抜くように向けられた視線は、あの日と変わらず、激しい憎しみに満ちていた。
義経は鉄扇をぱちり閉じると、笑みを浮かべたまま静かな視線を返した。

「必ず追ってくると思ったぞ、兄上。
長くかかったな…この俺を朝敵とし、討伐を掲げてからどれほどの月日が経ったことか…」

「フン、貴様が惨めで小賢しい溝鼠の如くこのような地にまで逃げ回ったゆえにな。
…貴様の腰巾着は一緒ではないのか?」

「弁慶か? あんなもの、もとより俺には必要がない」

「……ほう。では――」

言いかけて、頼朝は義経の身を探るかのように見やる。
義経はその意図に気づくと、ふっ、と乾いた笑をこぼした。

「…あぁ、兄上が求めてやまぬ『鬼神の籠手』か? あれとて、俺には同じこと――」

その言葉に、頼朝が目を細める。義経は煽るようにしてさらに続けた。

「――俺には全く要無きものゆえ、人に与えてそれきりよ。全く、笑えるな… 
俺が簡単に棄てられるものを、兄上はいつも必死に求めている…
『鬼神の籠手』も――『静』もな」

「………!」

突如、頼朝が言葉無く踏み込み、刃を振り上げた。
餓狼のように目をぎらつかせた義経が、瞬きすることなく笑みを浮かべながら、
その刃に頬をこすりつけるように紙一重でかわして見せる。

「知らぬであろうが兄上よ、静はとうにこの世におらぬと聞いた! 
籠手をくれてやった与一もくだらぬ『呪い』に蝕まれ、どこぞの果てへと姿を消した! 
悔しかろうな、兄上が求めるものはもはや永劫に手に入らぬよ!!」

餓狼の牙を震わせつつ、義経は頼朝を逆上させようと声を張りながら打ち込んだ。

案の定か、頼朝はその言葉に、わずかに受ける刃を鈍らせた。
それを見逃さず、伸びた義経の刃が鋭く頼朝の喉元へと届かんとしたその時――
義経は、冷ややかな頼朝の声を聞いた。

「…つまらぬなぁ、義経よ、貴様も――豚に成り下がったか」

「何…?」

義経の牙が止まった。頼朝が、その切っ先をついっとつまんでみせる。

「この兄に見捨てられるのがそれほどに恐ろしいか?飢えた孤狼と呼ばれしも過去か…
笑い種よな。貴様だけは“人”であるやもと思うたが、
どうやら、俺は長い勘違いをしていたようだ」

「勘違い…だと?」
義経は、頼朝の手から刃をはずさんと力を込めるが、刃はぴくとも動かない。

「義経、今、貴様は何故ひとりでそこにある。
貴様は全てを手に入れていたはずだ。何故その全てを捨て去った。
この頼朝の真に欲する全てを持つ貴様であったからこそ、俺は追った。
しかしどうだ…今のお前は、何物も受け入れることのできぬ、度量の狭き下郎な豚よ。
真の強者であるならば喰らえば良い…捧げられたすべてを喰らい尽くせば良い! 
喰らうこともできずに捨てゆく強者など、虚弱の極み!!」

「…ふ…ふはははは! 何を口にするかと思えば…」

義経は刃を捨て、とんっと後ろに退くと、鉄扇を構え大きく笑ってみせる。
しかし、その背には何故か知れぬ汗の滲みを感じていた。
そんな義経に構わず、頼朝はずずいと前に進み出る。
そのまま義経のすぐそばに立ちはだかった頼朝が、義経には実の何倍も巨大に見えた。

「この頼朝を今まで煩わせることができたのだ。
このままただ切り伏せるというのも慈悲無きというものか…
ならば、豚に褒美だ……鎌倉大権現である!!」

その瞬間――眩しき光が走ったと同時に、義経はどうと地に倒れていた。

次いで左の肩口から右の腹にかけて、すぃっと深い刀傷が刻まれていく。

一瞬のうちに、一体なにが起こったのか…
それは斬られた義経どころか、傍で見ていた巴でさえもわからなかった。

いつの間にか、剛なる鎧武者へと姿を変じた頼朝が、倒れる義経を見下ろしている。

「どうだ、土は旨いか?」

「…なんだ…ぐぅっ……何が起きた…!?」

もはや力の入らぬ四肢を放り出し、喉の奥からせり上がる熱いものにむせながら義経が叫ぶ。
頼朝はそれを冷たく見下ろし、流れるような所作で刀を納めた。

「…やはり“死なぬ”か。
この俺同様、在りし日の若き姿でこの世界にいるということは、
貴様も何かしら、この世ならざる呪いの力を手に入れたのだろうと思うたが…
何にせよ、この頼朝には劣る力よ、どうでも良いか」

「……ごふっ…何故俺が…倒れるのだ…何故お前が俺を…見下ろすのだ…!!」

ぜひぜひと喘ぐ義経に向けられた頼朝の視線――
それはもはや、かつて義経に限りない愉悦を与えた『あの視線』などではなかった。

「人まねか…? 豚ならば、ぶひりと鳴け。さすれば止めをさしてくれよう」

しかし、その言葉に、もはやひゅうひゅうと息をあげることでしか答えらえることのできぬ義経を見て
頼朝は心底呆れたようにため息をついた。

「鳴くこともできぬか…哀れな豚よ」

頼朝は踵を返すと、

「籠手はもはやこの世に在らず…か、ならば――」

そう言って宙に片手をかざした。すると、空間に黒い渦が巻き起こる。

「…ふん、“鬼”の専売かと思うたが…存外簡単なものだな。
さすがはこの俺、といったところか」

そのまま虚空に生まれた渦へと踏み入ろうとする頼朝――
その背を、ぎりりと食いしばる歯音が突く。
ふと歩みを止めた頼朝は、背中越しに告げた。

「…俺を妄執につかれた哀れ者とでも思うか? 違うな、俺は俺の決めたことを叶えるまでよ。
それは俺だからこそ、この頼朝だからこそできること…静が死していようが関係などあるものか。
あの籠手はな、“死人還り”のいわくを持つものだそうだ… 
俺は、必ず源氏の頭領の証たるあの籠手を手に入れ――静と、祝言をあげる!」

力強く言い終わると共にちらりと義経を見やる。頼朝の背を見つめるその目は――

「…悔しいか。ならば、今度は貴様が俺を追ってみよ。
俺を討つことだけを考え、憎み、ひたすらに見上げ続けてみよ……
人の言葉が聞こえているのならばな――もう、聞いてはおらぬか」


そうして頼朝は渦に足を踏み入れ姿を消し、
残った言の葉の響きもまた、どこか寂しそうな音を残し、風にまかれて消え去った。


* * * *


ぐるる、と響く、獣の唸り声――
霊猫たま丸が、目を閉じ地に倒れたまま動かぬ義経の周囲をじれったそうにうろついている。
そしてしびれを切らしたように一際大きく唸ると、巴に視線を投げかけた。

もはや抵抗の気配無し、怨敵源義経、ここで討たずして何とする――
その思いをひしひしと感じながらも、巴は首を振った。

「いいえ、たま丸…私は、この男に敗れたのです。
敵討ちを、盗人の様にかすめ取って何になりましょう。
この者の命は、私の…自らの刃で追い詰め、切り伏せてやらねば意味がないのです――
あの男のように…」

目に焼きついて離れぬ、義経を圧倒したあの力――頼朝は、それを『呪いの力』と言っていた。

「『鬼神の籠手』……源氏に伝わる秘宝と聞いたことがあります。
着けた者には呪いをもたらし、いつかはその身を蝕んで滅ぼすと…
しかし同時に、この世あらざる力を授けると…」

巴はそう呟き、何かを考え込むようにしばらく黙った後、横たわる義経を見つめて再び口を開いた。

「ならば私も、その『呪い』を追いましょう……
義経よ、巴はこの身がどうなろうとも、そなたに一矢報いねばならぬのです」

そう言って霊猫に跨ると、巴もまたその場を去った。



残された義経の体を、冷たい風が吹きさらす。

誰もいなくなった原野に転がる、淋しき躯のごときその目がうっすらと開いた。


「……なんともな、この俺は……そうか……兄上よ…」

――俺もまた、今、初めて生を得たか…。


そう天を仰ぐ孤狼の拳は、強く握りしめられていた。
身長 1.78[meter]
体重 66[kg]
幼名 鬼武丸
官位 征夷大将軍
性質 恋人には甘い
趣味 歌詠み
イラストレーター 藤原カムイ
最終更新:2017年03月10日 01:35