贈りもの/makiray
コンコン、と窓をたたく音がする。
「あ、まこぴー」
「どうしたんだろう、入ってくればいいのに」
「…。
鍵がかかっていませんか?」
「あ!」
マナが慌ててドアに駆け寄った。カチャ、という音とともにロックを外す。
「何をやっているのですか、あなたは」
「ごめーん、お店が休みだと思ってたらつい」
「あたし、参加してもいいのかしら」
ドア口に戻ってきた真琴が怒った様子もなく言った。
「お待ちしておりましたー」
クリスマス。
多くの人が、パーティをしよう、と考えるが、この五人についてはそうはいかなかった。
マナの家はレストラン、クリスマスは書き入れ時である。
六花の父は相変わらず海外で写真撮影、母は「クリスマスにも病院にいる子供たちのそばにいてあげたい」と自発的当直。
ありすは様々な企業や団体に呼ばれたり呼んだりする。
真琴はイベントに正月番組の撮影。
辛うじて支障がなさそうなのは亜久里だけだったが、彼女の場合は、祖母と一緒にいるだけで十分にうれしいし、マナたちの事情が分かっているので、自分から言い出すこともなかった。
そんな彼女たちを見かねたのか、マナの父が、クリスマス明けは休業にするから店とキッチンを自由に使っていい、と提案、12/26 のクリスマスパーティとなった。学校はすでに冬休み、午後から準備を始め、真琴が仕事を終えたら開始、という予定だったのだが、マナはうっかり店の入り口に鍵をかけてしまったのだった。
飾り付けられたテーブルに全員がそろう。
「メリー・クリスマース!!」
「お腹空いたー」
「撮影、大変だったの?」
「出る方もスタッフさんもバタバタで」
「でも、これくらいの時間に来られてよかったですわ」
「まだ続くんでしょ?」
「30 日まではね」
「大晦日の国民的歌番組への出演依頼が来ないのが不思議ですわね」
「断られると思ってるみたい」
「あー、アーティスティックな方に路線変更したもんね」
「まこぴー、やっぱり出たいの?」
「…。
正直、大晦日くらいは休みたい。元旦からライブだし」
「お体には気を付けてくださいね」
「じゃ、まこぴーにチキン、もう一つ」
「そんなに食べられないわよ」
大皿が二つほど片付くと、プレゼント交換会になった。持ち寄ったプレゼントを、真琴の歌に合わせて順番に隣に手渡していく。それが終わったところで手にするプレゼントが決まる。
「何でしょうか――お茶碗。これは、亜久里ちゃんですわね」
ありすが手にしているのは深い青に釉薬が流れる上品な茶碗であった。
「お気に召すといいのですけど」
「うれしいですわ」
「あたしは…文庫本? 六花ね」
真琴は袋から本を取り出した。
「はーい」
「あ、童話なんだ。面白そう。ありがとう」
「いえいえ」
「私のはずいぶんと軽いですわ…これは」
亜久里の顔がこわばる。
「どうしたの?」
「栄太堂のギフト券ですわ!」
「って、平日休日を問わず開店一時間でその日の商品を売り切ってしまう、伝説の和菓子屋さん?!」
「ありがとうございます!
おばあ様も喜びますわ!」
「亜久里さんのところにたどり着いて、ギフト券も喜んでいると思います」
「あたしのはっと…」
六花が眉をひそめた。
「白いハンカチ…マナでしょ」
「あー、何を用意したらいいかわかんなくってぇ…」
「忙しかったもんねぇ。期末試験に、生徒会に、お店の手伝いに」
「すいません…」
「そういうマナは何もらったの?」
「これも軽いな…封筒?」
マナは袋から封筒を取り出した。
「なに…あなたの歌を作ります券?」
四人の視線が真琴に集まる。
「あたしも…時間取れなくって」
「え、まこぴーがあたしに歌を作ってくれるの?!」
テーブルがガタンと揺れる。
「っていうか。
何かテーマを設定してほしいなって。
それで、書いてみる…から」
「うん!
えっとね、あのね」
「ストップ、マナ。
今、慌てて考えようったって無理」
「でも!」
「いつでもいいから…逃げないし」
真琴の耳が赤くなっていた。
「つかぬことをうかがってよろしいでしょうか」
亜久里が言った。
「みなさんは、いくつまでサンタクロースが実在すると思ってらっしゃいましたか?」
「どうしたの?」
「実は、クラスに一人、実在を信じてる人がいるのです。
とても純粋に信じてらっしゃるので、その夢を壊さないようにと皆がピリピリしていまして」
「あー…」
また視線が真琴に集まったが、誰もそれ以上は言わなかった。次には、マナと六花とありすが顔を見合わせた。
「あたしたちは割と早かったよね」
「だねー」
「はい」
亜久里が、そうでしょうね、と頷いた。三人とも、早い時期に「現実」を認識していそうな気はする。
視線が真琴に戻る。
「しょうがないでしょ!
あたしはこの世界のこと知らないんだから」
「いつなのですか?」
真琴が顔をそむける。
「私、ひょっとして不愉快なことを申し上げていますか?」
亜久里の率直な態度に真琴は顔を戻した。
「去年…」
「え?」
「悪かったわね。
去年まで、サンタクロースは実在すると思ってたわよ!」
亜久里は絶句した。
「まぁ、確かに、世界中でサンタ、サンタって言ってるものね。そこまで言うなら実在するに違いない、って思ってもしょうがないかな」
「この時期になるとたくさんサンタの格好をした人が現れますでしょ? 中に本物が紛れ込んでいるかもしれない、とおっしゃってましたわ」
「サンタの行方を追ってるホームページもあるし…」
「もう、この話、おしまい!」
真琴の機嫌は直ったらしい。ありすの紅茶が運ばれると真琴は店内を見渡した。
「それにしても、ここ貸切にしちゃってよかったのかな」
「大丈夫だよ。お休みなんだから」
「私もマナのお父様のご厚意に甘えすぎなのではないか、という気はしていました」
「とは言っても、代金を払う、っていうのも違うような気がするし」
六花が言うとありすが頷いた。
「お父様にとっては、私たちはマナちゃんのお友達。それはきっと筋違いですわね。逆に失礼にあたるかもしれません」
「…」
では、店の手伝いをするか、いや、それは却って迷惑になるのではないか、と話が議論になりかけたとき。
「あ」
「どうしたの?」
真琴が外を見て言った。立ち上がり、窓にかけよる。
「これ、いいかも」
「なにが…あ!」
「雪ですわ」
「ホワイト クリスマスだ!!」
五人はしばらく窓越しにそれを見ていた。マナが明かりを消すと、窓の外の白い花ははっきりと見えるようになった。
「積もるかも…」
「雪かきですわね」
「そうか」
「うん。
明日の朝、お店の前の雪かきをしよう」
「お客さんが足を滑らしたりしないように」
「安心して歩けるように」
「寒いって思わなくて済むように」
「そうしよう!」
不思議なものだ。なぜか雪が暖かく見える。
綿を連想させるからなのか、彼女たちが暖かいからなのか。
五人は、空からの白い贈りものを飽きることなく見ていた。
最終更新:2016年12月25日 11:31