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『もしも宇佐美いちかが“プリキュア5つの誓い”をひらったら』/Mitchell & Carroll




 春一番であろうか、昨日は大風だった。小鳥たちの今朝の木の上会議も、開口一番そのことのようである。その下をいちかは、大きなゴミ袋を両手にぶら下げ、エッサホイサと収集所へ運んでいた。途中、おそらく風で飛んできたのであろう、A4サイズ程の紙が、可哀相に幾つかの足跡を付けられて道にへばり付いていた。いちかはその紙を拾い上げ、裏返して見ると、ただでさえ大きな目をさらに拡げて驚愕した。

「こ、これは……“プリキュア5つの誓い”!?」

 プリキュアといえば、先日いちかが変身したそれである。そのプリキュアの、秘伝書のような内容がコピーされた紙を拾ってしまったのである。いちかは抜群に良い視力で辺りをキョロキョロと見回し、誰にも見られていない事を確認すると、その紙をポケットに突っ込んで隠した。その様子はまるで、卑猥な本を見つけた少年のようであった。

 ゴミを出し終えたいちかは脱兎の如く家に帰り、そのまま自分の部屋へと収まった。そしてドアに鍵を掛け、替わりに自分の心の鍵を外した。万全な体制はユートピアとでも呼ぼうか、はたまたパラダイスか。

(こんなドキドキ、初めて―――)

 高鳴る鼓動を必死に宥(なだ)めながら、ポケットから先程の紙を取り出し、改めて内容を確認してみる。

 ―――いちかは迷った。この紙を、他の誰かにも見せるべきかどうか。まだまだ幼い心のどこかに、この興奮を独占したいという気持ちがあった。だが、手にする紙に書かれている二つ目の誓いが目に止まる。

「……そうだよね。独り占めは良くないよね。今度、みんなにも見せてあげようっと!」

 さっそく誓いをひとつ実行したいちかは、まだまだ幼いその胸を誇らしげに張る。そして部屋の中をうろうろしながら、誓いを声をあげて読み始めた。

「ひとぉ~つ!プリキュアたるもの、いつも前を向いて歩き続けること!!」

 だが丁度その時、足元に転がっていたぬいぐるみを踏みつけて、つんのめってクローゼットに鼻をぶつけてしまった。鈍痛と激痛が入り混じったハイブリッドな痛みに、いちかの瞳はジワリと濡れる。すぐさま紙をグシャグシャに丸めて窓から投げ捨てたくなったが、プリキュアとしての使命感からか、いくらか忍耐強くなったらしく、そこは何とか耐える事ができた。そして涙と鼻水交じりの声で、残りを読み上げる。

「ひ、ひとぉ~つ!愛は与えるもの!!ひとぉ~つ!愛することは守りあうこと!!ひとぉ~つ!プリキュアたるもの自分を信じ、決して後悔しない!!ひとぉ~つ!プリキュアたるもの一流のレディたるべし!!ひとぉ~つ、みんなで力を合わせれば不可能はない!!」

 読み終えるやいなや、ガックリと肩を急降下させ、ベッドにダイブしてしまった。
「自分を信じるって難しいよ~……」
 ちょうど先日、自己流でプリンを作ろうとしたが上手く出来ず、結局、友達の助けを借りてようやく完成したところであった。
「それに、一流のレディって?レディのたしなみと言えば……やっぱり、“スイーツの美味しいお店を知っている”、これだよねっ!!」


 いちかの頭の中に追いつくように、外もだんだんと暖かくなり、いちかとその仲間が、偉大な先輩達と出会う季節がもうそこまでやって来ている。ひょんな事からこっそり予習をした彼女は、この春、どんな活躍を見せてくれるのであろうか。誓いに秘められた、プリキュア達によって受け継がれる“思い”とは――。



 劇場版へ続く
最終更新:2017年03月04日 14:52