HAPPY BIRTHDAY TO US/makiray
「今度の日曜日、キラパティはお休みにします」
「あら、そう」
宇佐美いちかが言うと、琴爪ゆかりはいつもの調子で答えた。
「実は私、ちょっとこないだの中間テス卜の成績があれで…」
「あぁ…」
「ゆかりさん、今、思いっきり納得した!」
剣城あきらが苦笑する。
「だって、ものすごく説得力があるもの。
補習?」
「再試験の勉強をしないと…」
「いちかがそうなのはわかったとして、ひまりとあおいは?」
「三人で勉強しようっていうことになっています」
「いちか一人じゃどうしようもないからね」
みんな、ひどい、といちかがベそをかく。有栖川ひまりと立神あおいが、よしよし、と慰めた。
「ゆかりと私だけじゃ流石にお店は回らないし」
「そうね。
じゃあ、久しぶりにゆっくり休ませてもら――」
「そうは行きません」
いちかが急に元気を取り戻す。
「試験勉強のない二人には、新しいレシピを考えてもらいます」
「新しいレシピ?」
「おかげさまで、マカロンもチョコレー卜も好評です。そこでもうー品、増やしたいんです」
「人使いが荒いわね」
ゆかりは不満そうだったが、あきらが助け舟を出した。
「まぁ、いいじゃないか。
試験が終わったら、今度はいちかちゃんたちが考えるんでしょ?」
「もちろんです!
ゆかりさんには、お茶を使ったスイーツをお願いします」
「いいわ」
ゆかりは、試験勉強そっちのけでレシピ考えたりしないようにね、と釘を刺した。
そして日曜日の朝。
いちかはきれいな箱を持って家を出た。ところが、その後から、ひまり、あおい、あきらの三人も出てくる。
その箱を大事そうに抱えながらも鼻歌の出るいちか。
「なんだか、いちかちゃんの方が楽しそうだね」
「だって、お誕生日ですよ、お誕生日!
みんなが楽しくなる日です」
「ゆかりさんもきっと喜んでくれます」
「そうかなぁ。またなんか一言ありそうな」
「喜ぶと思うよ。何かは言うかもしれないけど」
「うん。
みんなで作ったネコケーキ、きっと喜んでくれると思う」
「嫌いじゃないわ、とか言って」
「そう。
ゆかりさんの『嫌いじゃない』は最上級の褒め言葉!」
今日は、ゆかりの誕生日である。最初は、キラキラパティスリーで誕生日フェアをやろう、とも考えたのだが、そういうやり方は好まないだろう、ということはすぐにわかったので、サプライズ プレゼン卜をすることにした。
プレゼントはもちろんケーキ。ブドウやブルーベリーでゆかりの好きな紫色をメインにしてある。サプライズなので、キラキラパティスリーではなく、いちかの家に集まって作った。
ただ渡しただけでは、ゆかりもいちかたちも面白くないので、お店をお休みということにし、得意のお茶を使ったレシピを考えろ、という宿題を出してある。そうすれば家に閉じこもらざるをえないだろう、そこを襲撃、という作戦だ。
「こんにちわー!」
元気に琴爪邸のベルを押す。
ところが。
「出かけちゃったんですか?」
「えぇ。
お菓子がどうとか言って」
いちかたちは顔を見合わせた。
「材料を探しに行ったのかも」
「せっかく、お茶のスイーツって言ったのに」
「家にあるものだけじゃ物足りないとか」
「ありうる。なんだかんだ文句を言うくせに、いざとりかかると凝るタイプ」
「じゃぁ、商店街だ!」
四人は、形ばかりの礼をすると いちご坂商店街へ急いだ。
「手分けして探そう」
あきらが言った。
「いちかちゃんは、ケーキを持っているから走れないね。ひまリちゃんとー緒に行動した方がいいな。慌てないでいいからね」
「はい」
「私とあおいちゃんが走ろう」
「うん」
「見つけたら、いちかちゃんのケータイに連絡。
いいね」
「了解!」
時間が過ぎる。いちかは、ケータイが鳴るたびに飛びつくようにしてそれを取ったが、見つかった、という報告はなかった。
《お茶屋さんや、食料品店は全部見た》
《スイーツのお店もチェック完了》
《…。
ブティックとか宝石店は》
《スイーツはぁ?!》
《もうレシピが決まってたら、寄り道してる可能性も》
《わかった》
やがて日も高くなる。
《今、ファンクラブの子たちと会った。
あの子たちもゆかりを探してるらしい》
《ファンクラブも行方を掴んでないってことですか?》
《もう一度、商店街を回ろう。入れ違いになってる可能性もある》
《はいっ!》
「あとは、焼きあがるのを待つだけ」
長老とペコリンは、卜レイがオーブンの中に納まるのを、待ちきれない様子で見ていた。やがて、キラキラパティスリーの厨房に甘い香りが漂い始める。
「それにしても、自分の誕生日に、人にご馳走するためのお菓子を焼くとは」
「面白いでしょ」
ゆかりが笑った。
「いちかたちがびっくりするペコ」
ふふ、と笑うゆかり。
「私にサブライズをしかけるなんて百年早いのよ」
「ばれてるペコ」
「なんでわかったんジャバ」
「再試験なんてことになったら、いちかはもっと前から大騒ぎしてるはず。それをあんな落ち着いた顔で言うなんて信憑性のかけらもないわ。
それが本当なら、ひまりは心配して何度も口にしてるだろうし、あおいは呆れてるでしょうね。あきらにはそもそも人をかつぐ真似なんて無理だし」
見事な推理に、長老も頭をかいていた。また静かに笑うゆかリ。
それにかぶさるようにペコリンのお腹が鳴った。
「お腹空いたペコ」
「だめよ。
みんなが来るまで待って」
「本当に来るペコ?」
「心配ジャバ」
「大丈夫よ」
はぁ、はぁ、と激しい呼吸。
あきらもあおいも大粒の汗を流している。
「これだけ探してもいないなんて」
「ゆかりさん、どこ行っちゃったの」
あきらは汗を拭いた。まだ息が荒い。
「ファンクラブも見失ってる、っていうのが不思議だね」
「町の外に出かけてるってことはないでしょうか」
「いや、それだったら彼女たちも知ってると思うんだけど…」
「お家にもいない…。
商店街にもいない…」
それぞれに手掛かりを求めて周囲を見渡す。
「あ」
ひまりが叫んだ。
「どうしたの?」
「一か所だけ、探してないところがあります」
「商店街はもう三周もしたよ」
「今日、お休みのお店があります!」
「お休み…あっ!」
お互いの顔を指差す。
「キラパティ!」
きれいなマカロンが焼きあがった。
「でも、マカロンだけでいいペコ?」
「折角の誕生日、ちょっと寂しくはないジャバか」
「主役はケーキだもの」
そろそろ紅茶の準備をしましょう、とゆかリは立ち上がる。そして、アイスティーにしようかな、とつぶやいた。
最終更新:2017年06月12日 23:36