プリキュア ドリームスターズ Ver.0.9 -Quartet Branche- 吹雪の向こう
白い闇。
扉の向こうでは吹雪が渦巻いていた。何も見えない。風が耳元で騒ぎ立てる。キュアエコーはグレルとエンエンを抱いた腕に力を込めた。
「プリキュアたちはどこにいるんだよ!」
グレルが大きな声を出す。
わからない。探そうにもこの状態では。
「吹雪を払おう!」
エンエンも怒鳴った。エンエンのそんな声は初めて聴いたような気がする。
「でも」
「トラウーマのときにやったでしょ!」
そうだ。
あのときは黒い煙だった。それを、体を回転させることで吹き飛ばした。
「僕たちも手伝うから!」
「そうだ、三人一緒なら、こんな吹雪なんか!」
「…。
うん」
キュアエコーは足を止めた。ゆっくりと息を吐く。グレルとエンエンも同じようにした。
掌が暖かい。この吹雪の中で体は既に冷え始めているが、お互いにつないでいる手は別だった。
(いつもと、違う)
閉じていた目を開けると、自分の体がうっすらと光っている。グレルとエンエンの体も。キュアエコーの光の力が伝わったのか、それともグレルやエンエンがもともとそういう力を持っていたのかはわからない。
いや、それは、後だ。
キュアエコーの体は、ふたたびゆっくりと浮かび上がった。
猛吹雪のせいで体は時折、右に左にと揺れた。だが、ここに来たときのように巻き上げられたりはしない。まっすぐに上昇していく。
合図をする必要もない。キュアエコーの体が回転し始める。両手のグレルとエンエンが惑星のようにその周囲を回り、光の粒をまき散らした。
それは次第にスピードを上げる。
回転速度が上がる。キュアエコーの白に、グレルとエンエンの淡い黄色が加わった渦は、やがて当人たちの形を失い、一瞬、ソフトクリームのように見えたかと思うと、直ちに嵐の核となった。
その「ソフトクリーム」から生まれた風はあたりの吹雪を巻き込み、空に飛ばしてしまった。ゴウ、っという音が余韻を残す。
「あれは」
そこに横たわっている大きな繭。
「三つ…まさか」
キュアエコーは繭に駆け寄り、どうすればいいかわからないまま、それをこすった。
「リズム…」
まるで氷を磨いたように、繭の一角が透明さを取り戻した。その奥でキュアリズムが眠っている。
ということは、残る二つは ほのかと舞に違いない。
「だめだよ、そんな乱暴しちゃぁ!」
背後から甲高い声。キュアエコーは烏天狗をにらみ返した。
「リズムを元に戻して!」
「やだ、こわぁい」
「戻して!」
烏天狗は顔の両側で手をひらひらさせて笑った。
「はい、そうですか、なんて言うわけないだろ!」
キュアエコーが一歩踏み出す。烏天狗は、わずかに体をのけぞらせた。
グレルはキュアリズムが閉じ込められている繭の上に飛び乗った。腰につけている剣を抜く。
「えいっ!」
カツン、と固い音。
それでも簡単に割れるようなものではないらしかった。グレルは大きなかけ声とともに剣を繭に降りおろしていたが、繭には傷が付く様子すらなかった。
「グレル…痛くないの?」
「そんなこと言ってる場合か!」
「でも」
(音が…)
グレルは一所懸命にキュアリズムが閉じこめられた繭をたたき続けている。その音が変わってきたような気がした。
(ひょっとしたら)
さっきもそうだった。烏天狗の吹雪を消すために三人で手をつないだ――もちろん、フーちゃんも一緒だった――とき、今までに感じたことのない力強さが伝わってきた。
グレルのおもちゃの剣は、あの繭を割れるのかもしれない。
「つづけて!」
「?」
グレルの手が止まる。キュアエコーはもう一度、叫んだ。
「グレル、エンエン!
繭をたたき続けて!」
「わかってる!」
心配そうに見ていたエンエンも繭に飛び乗った。
「僕もやる!」
「よし!」
二人は一緒に剣を握りなおした。その瞬間、剣が光を帯びた。
「やっぱり…」
何が理由かはわからない。グレルとエンエンが成長したということなのか、それとも、キュアエコーと一緒に戦ってきたことが理由なのか。そうだとすればきっと、今はキュアデコルとなっているフーちゃんの存在も重要なキーのはず。
確かに言えることは、グレルとエンエンが「光の力」を発揮することができる、ということだ。
「行くぞ!」
「えいっ!」
「やぁっ!」
「そんなことはさせないよっ!!」
危険を感じた烏天狗がじゃまをしようとする。だが、キュアエコーはその前に回り込んだ。
「がんばって!」
「任せておけ!」
「僕たちは、プリキュアのパートナーなんだ!」
「だから、俺たちがプリキュアを」
「助けるんだ!」
パリン、と。
想像していたのよりもきれいな音が響いた。
「割れた!」
足場を失ったグレルとエンエンが、それでもうれしそうな顔で落ちていく。ポコン、と今度はかわいい音がして二人が着地した。
「…。
あれ、私」
「リズム!」
キュアリズムは、なにが起こったのか、一瞬、わからなかったようだった。だが、烏天狗の前にいるキュアエコー、そして自分の目の前で得意そうにふんぞり返っているグレル、喜びを満面にたたえているエンエンを見て了解した。
「ありがとう!」
「いいってことよ」
「けがはないの?」
「うん、大丈夫」
キュアリズムはそう答えると、厳しい顔つきに変わった。そしてまだ冷たい地面を蹴る。
「やぁっ!」
キュアエコーと烏天狗の間に割って入る。烏天狗が驚いて一歩下がると、キュアエコーと一緒に距離をとった。
「よかった、リズム」
「助けにきてくれたのね」
「ほのかさんと、舞さんも?」
「うん。繭の中」
二人はそういうと無言で頷きあった。烏天狗よりも、二人の方が先だ。
だが、どうすれぱいい?
グレルとエンエンのおかげで、あの繭が割れることはわかった。だが、かなり時間がかかっている。
また繭を叩く音が響きはじめた。グレルとエンエンがさっきと同じように繭に飛び乗って割ろうとがんばっている。だが、その表情はさっきよりも厳しい。
「私もやってみるね」
そういうとキュアリズムは下がった。
「ファンタスティック ベルティエ!」
だめだ。グレルの剣より音だけは大きいが傷すらつかない。
「えい。
えい!
えい!!」
いや、グレルのおもちゃの剣の方が効いているように見える。ぶつけたときにかすかに光が散っている。
「そうだ。
あたしたちは『光の使者』」
最終更新:2017年08月15日 07:55