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too yellow/makiray




「ひまりん…」
「ごめんなさい、もう少し」
「ひまり…?」
「まだ…」
「ひまりちゃん?」
「あの…ごめんなさい」
「どうしちゃったんだろう」
 宇佐美いちかが、キラキラパティスリーのカウンターに肘をついた。閉店後のミーティング時間。有栖川ひまりは、塾がある、とそそくさと帰宅してしまった。
「特に様子がおかしい、ということはないのよね」
 キラ星シエルが言う。店での客への応対も、苦手ではありながら一生懸命にやっているし、バックでスイーツを作っている時もいつもの通り、真剣だ。
「成績が下がってる、とかいうことはないの?」
 琴爪ゆかりが尋ねると、いちかと立神あおいが首を振る。それで、もっと塾に力を入れろ、と家で言われているのでは、と思ったのだが。
「何か悩み事かなぁ…」
 剣城あきらが、ひまりが出て行ったドアの方を見やった。
 皆が、うーん、とうなる。そうとしか思えなかった。
「早くしないと秋が冬になっちゃうわよ」
 とシエル。
 そうだった。夏休みが終わるころから、秋のフェアをやろう、と皆で盛り上がっている。となれば、メニューの決定は、スイーツの知識ならだれにも負けない ひまりしかない。ところが、それが遅れている。気の早い店は、それこそ夏休みが終わる前から秋のメニューを始めたりしている。そこまで行かないにしても、もう9月も中旬である。客の中にも、それを楽しみにしている人がちらほらいる様子で、皆はいささか焦り始めていた。
「あたしが聞いてみる」
 いちかが宣言した。
「何か悩んでるんだったら、力になってあげたいし」
「その内容によっては、秋のフェアとか言ってる場合じゃないかもしれないもんな」
 あおいの言葉に、また皆が頷いた。

「いちか…」
「…」
「いちか」
「うん…」
「いちかちゃん…」
「はい…」
 あおいが、お手上げのポーズ。ひまりが、塾があるので、と帰っていくと、それを追うようにして いちかも帰ってしまう。店をやっている間はいつも通り、というのは同じ。
「ここはプロのお出ましを願うしかないわね」
「プロ?」
 皆の視線が ゆかりに集まる。ゆかりは逆にあきらを見ていた。
「…。
 私?」
「えぇ。
 人助けと言ったらあきらでしょ?」
「はい…」
「言っておくけど、ミイラ取りがミイラになったら私はもう知らないから」
 あおいが頬をひきつらせた。

「そんなこと、なんて…」
 開店前。
 大きい声ではなかったが、気にしているせいか、厨房にいた ひまりの声が、店の準備をしていた ゆかりたちにも聞こえた。
「ひまりんはみんなのことを考えて――」
 これは いちかだった。
「わかってる。私だって、別に、つまらないことだなんて思ってないよ。
 でも」
 ドアが、やや大きな音を立てて開いた。ゆかりの後に、あおい、シエル。
「どうしたの」
 ひまりがうつむいている。泣いているのかと思ったが、そうではないようだ。その隣にいるいちかは、あきらを見ている。
「説明して」
 いちかとあきらは譲るように、いや、押し付けるように視線を交わした。結局、口を開いたのはあきらだった。
「秋のフェアのメニューが遅れてる理由なんだけど…。
 色だったんだ」
「色?」
 一歩目は難しくなかった。秋の果物、秋の野菜を取り入れたスイーツ。
 まずは定番、栗をのせたモンブラン。
 間もなくハロウィンだが、それを先取りしてカボチャ。これは、パンプキンパイだけでなく和風のアレンジもできる。
 そして、スイートポテト。それ自体がスイーツとして成立するが、トッピングのような使い方もできる。
 だが、ひまりの作業はそこで止まった。
「どうして?」
「みんな…。
 みんな、黄色だから…」
 一瞬の沈黙。シエルが小さく、あ、と言った。そんなこと、と言いかけた あおいが慌てて口を押さえる。
 黄色のドレスをまとった、りすプリンのプリキュア、キュアカスタードである自分が、すべて黄色のラインナップを提案する、ということが ひまりにはできなかった。その気持ちを理解した いちかは、一緒に何か代わりのラインナップを考えようとしたのだが、アイディアが浮かばず、同じように何も言えなくなった、ということだった。
「一緒に考えよう」
 あおいが言った。いちかがすがるような目で見たが、ひまりは震えるような声で言う。
「ありません。
 秋の作物で、スイーツに使えるものはどれもこれも黄色なんです」
「柿はオレンジだよね」
「皮でしょ。果肉は黄色」
 あおいの必死の提案を ゆかりが一言で切り捨てる。
「確かにそうね。
 梨、リンゴ、カリン、マルメロ。見事に黄色ばかりだわ」
 ひまりがさらにうつむく。あきらが、ゆかり…と諌めたが遅かった。
「いいじゃない。黄色で攻めれば」
「でも」
「ゆかりさん、ひまりんの気持ちを分かってあげて」
「黄色の何がいけないの?」
 いちかの弁護を押しつぶすようにゆかりが畳み込んだ。
「だって」
「秋の作物は黄色なんでしょ? それをそのまま取り入れればいいじゃない」
 誰も答えない。
「ひまり」
「…」
「ひまり」
「はい」
「黄色はあなたの色なんでしょ。自信を持ちなさい」
「それは」
「そうじゃないと、私が紫を推せなくなるわ」
「…。
 はい?」
 また沈黙。だが、今度は意味が違う。ゆかりが何か新しいことを言いだしている。それは。
「ぶどうのことですか?」
 叫んだのはひまりだった。
「紫芋っていうのもあるわね」
「そうか!」
 あおいが指を鳴らした。
「遠慮しなくていいんだよ、ひまり!
 黄色推しで行こう!」
「そうよ。
 秋の前半は黄色、後半は紫。これで行けるわ!」
 シエルの頭にはすでにいくつかのレシピが浮かんでいた。
「ひまりん!」
 いちかがひまりの手を取った。
「どう?
 まず、ひまりんカラーでキラパティを埋め尽くしちゃおう! その次がゆかりさんカラー!
 それって、すごくキラパティらしいと思う!」
「…。
 はい。
 はい!」
「大体、ラインナップとパーソナルカラーを厳格に結びつけよう、っていうのが間違いよ」
「そうなんですか…?」
「そんなこと言ったら、あきらはどうするの。
 茶色よ?」
「チョコだからね…」
 あきらが苦笑する。
「そんな果物見たことないわ」
「栗」
「それも皮でしょ」
「そういう あおいちゃんも苦戦すると思うよ。
 青ってそんなに」
「ブルーベリーとか」
「あれは紫でしょう?」
「ブルーだもん!」
「認めないわ」
 いちかは、ひまりが仕舞い込んでいた『スイーツの科学』を持ち出し、ひまりの手に載せた。
「ここで一気に第一弾を決めちゃおう」
「はいっ!」
 ひまりに笑顔が戻る。それが、キラパティの一番の元気の元だった。
最終更新:2017年09月11日 23:34