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開幕!『オールスタープリキュア!レッツ・ラ・競作!冬のSS祭り2018』/一六◆6/pMjwqUTkg




「う~~~~~ん」
 キラパティことキラキラパティスリーの工房。大量のプリン液を全ての型に流し入れ、ホッと一息ついたひまりは、不意に聞こえて来た声に驚いて顔を上げた。
 調理台の前で、いちかが腕を組み、目と口をギュッと引き結んで唸っている。
「いちかちゃん、どうしたんですか?」
「どうしたペコ?」
 ひまりに続いて、人間の姿でドーナツの生地を作っていたペコリンも、首をかしげて問いかけた。
「うーん……悩んでいるのでござる。ショートケーキのスポンジ、もっとたくさん作るべきか、作らざるべきか……」
「当日になってそんなこと言い出しても、材料無いだろ?」
 冷凍庫をバタンと閉めて、あおいが呆れた声を出す。だが。
「だってぇ、あおちゃん。前回のお話し会の時のみんなの食べっぷり、見たでしょう? あ~んなに大量のお菓子が、あっという間になくなっちゃったんだよ! だから量も百人分くらいにしたんだけど、何だかあの光景を思い出したら不安になって来ちゃって……」
 いちかの言葉に、あおいとペコリンは、ああ、ペコ、と同時に納得の声を上げ、ひまりもコクコクと小さく頷いて見せた。

「へぇ。プリキュアの先輩たちって、そんなにスイーツ好きが揃ってるの?」
 シエルが目をキラキラさせていちかたちの顔を見つめる。
 今日はプリキュアみんなが集まる、恒例のお話し会。今回の会場は、このキラパティだ。もっとも、このメンバーでのスイーツショップ・キラキラパティスリーとしては、つい先日最後の日を迎えたのだが、プリキュア全員を招いて、スイーツいっぱいの楽しいお話し会を開こうと、みんな張り切っていた。
 中でもシエルは、仲間たちの中で一人だけ、まだお話し会に参加したことがない。他のプリキュアたちに会うのも初めてなので、彼女はこの日をそれはそれは心待ちにしていたのだ。

「だったら、いちか。まずは予定通りの量を仕上げて、後は様子を見て作り足せばいいんじゃない? 材料なら、あとでピカリオとビブリーも来るはずだから、お使いを頼んでおくわ。そうだ! お話のイメージに合わせて、わたし、アシェットデセールで何か作ろうかしら」
「わぁ、それ凄いよ。テーマは『スイーツ』と『ひらめき』だから、アシェットデセールにはぴったりだね! パティシエ・シエルのスイーツが食べられるなんて、みんな大喜びだよ~!」
 さっきまでの厳めしい顔が嘘のように、いちかがパァッと笑顔になる。が、その途端、グーッという鈍い音が響いて、シエルの姿が突然消えた。
「お腹空いちゃったキラ~」
 すぐに調理台の下から、妖精キラリンがふわふわと力なく浮かび上がった……。

「わぁぁ、どどどどうしよう! すぐに食べられるもの、何かあったっけ。スポンジはまだオーブンの中だし……」
「プリンはこれから蒸すところです」
「アイスもまだ固まってないよ」
「ドーナツは、まだ生地も出来てないペコ!」
 四人が大慌てで騒いでいると、工房のドアがカチャリと開いた。

「みんな、遅くなってごめん」
「あら、どうしたの?」
 大きな買い物袋を提げたあきらと、スーツケースを持ったゆかりが連れ立って入って来る。キラパティ最後の日のために一時帰国したゆかりは、このお話し会が終われば、再び留学先のコンフェイト公国に旅立つことになっていた。

「ゆかりさぁぁぁん、あきらさぁぁぁん!」
 すっかりテンパっているいちかの顎の下にこちょこちょと指を滑らせてから、ゆかりがふよふよと漂うキラリンを見て小さく微笑む。そしておもむろにスーツケースを持ち上げると、調理台の上でそれを開いた。
 途端に全員が、言葉にならない感嘆の声を漏らす。大きなスーツケースの中は、ビニール袋に入った小さな丸いカラフルな物体でびっしりと埋め尽くされていた。
「え……これって……」
「ぜ~んぶ、マカロン!?」
 うふっ、と楽しそうに笑ったゆかりは、ビニール袋のひとつを開けてキラリンに差し出した。
「頂きますキラ」
 キラリンがそう言うが早いか、目の前に置かれたマカロンを頬張る。立て続けに五つ平らげたところで、ポン、と小さな音がしてシエルが姿を現した。
「メルシー、ゆかり。とっても美味しかった。また腕を上げたわね」
「せっかく一流のパティシエに教わったんだもの。ちゃんと自分のものにしないとね」
 楽しそうに笑い合う二人を見て、いちかたちもホッとしたように笑顔になる。その時、あきらが慌てた様子で全員の顔を見回した。

「そうだ、忘れてた! ここへ来た時、店の前をうろうろしている人たちが居てね。どうやらお話し会のお客さんらしいから、店の中で待っててもらってるんだけど、ここへ連れて来てもいいかな?」
「ウィー! ついにプリキュアの先輩とご対面なのね!」
 鼻息の荒いシエルに、あきらがニコリと笑う。
「いや、先輩っていうか……その中には、シエルちゃんも会ったことがある人も居るんだよ」
「え、わたしも?」
 シエルが怪訝そうに首を傾げたその時、ゆかりに招き入れられて、二人の少女と一人の赤ちゃんが工房に入って来た。

「失礼します! わぁ、まさかこの素敵なスイーツショップが、プリキュアの先輩のお店だったなんて!」
 嬉しそうに頬を真っ赤に染めて笑う少女の顔を見て、いちか、ひまり、あおい、シエル、そしてペコリンが、あーっ! と大声を上げる。
「あなたは、あの時の!」
「はい! わたし、野乃はな。元気のプリキュア・キュアエールです。こちらはクラスメイトでもある……」
「初めまして、薬師寺さあやと申します。ついこの間、知恵のプリキュア・キュアアンジュになりました」
 はなの隣に居た少女が、彼女の場合は緊張と恥ずかしさからか、はなに負けず劣らず頬を真っ赤に染めて挨拶し、深々と頭を下げる。

「はなちゃん、さあやちゃん、いらっしゃい! お話し会のことは、誰に聞いたの?」
「それが……実は昨日、気が付いたらはぐたんがこれを握り締めてたんです」
 はなが鞄の中から取り出したのは、皺を伸ばした痕のある、一通の招待状。その見覚えのある封筒に、いちかの目が僅かに潤んだ。
 この招待状は、いちかたちが書いてプリキュア全員に送ったものだった。先輩プリキュアのみんなと――もう一人。この前、キュアペコリンの危機を救ってくれたプリキュア・キュアエールに向けて。
 だが、彼女の名前も住所も分からなくて困っていた時、クリスタルアニマルたちが、その招待状をどこかに運び去ってしまった。得意げにピョンピョンと飛び跳ねる彼らを見て、ひょっとしたら……と密かに思っていたのだが。

 工房の陰に隠れているアニマルたちにこっそりと笑いかけてから、いちかがはなの腕に抱かれたはぐたんに、にっこりと笑いかける。はぐたんも、はぎゅ~! と挨拶代わりの満面の笑みを振りまいた。
「はなちゃん、さあやちゃん、はぐたん! 改めて、ようこそ、キラパティへ。そして、プリキュアみんなが集うお話し会へ!」
 いちかの声と共に、全員が笑顔で新しい仲間を迎えた。

「わぁぁ、スイーツを作ってるんですね? え……でも、今日はスイーツの会じゃなくて、お話し会なんじゃ……」
「うん。主役は勿論、いろ~んなお話だよ。だけど、楽しいお話には美味しいスイーツがあった方が楽しいでしょ?」
「うん! わたしもそう思う。その方が絶対、イケてます!」
 いちかの話に、はなが力強く同意する。が、すぐに調理台の上を見回して、目を白黒させた。
「でもあの……今日はプリキュアオンリーの、貸し切りのお話し会なんですよね?」
「うん、そうだよ」
「それでこの量って……一体何人のお客さんが来るんですか?」
 はなの問いかけに、いちかが待ってましたとばかりに身を乗り出す。
「それはねぇ! ……何人だっけ」
 勢い込んだいちかの見事な肩透かしに、ひまりやあおいだけでなく、はなまでもが思い切りよくコケた。
「えっと、確か五十人は超えてますね」
「ご、五十人!? プリキュアってそんなに居るの!? めちょっく! 最初はわたしだけかと思ってたのにぃ」
「はなちゃん……?」
 何故か大変ショックを受けた様子のはなを、さあやが心配そうに見つめる。だが、はなはすぐに立ち上がると、いちかたちを見回してニッと笑った。

「じゃあ、せっかくキッチンに入れてもらったことだし、わたしたちも手伝います!」
「ホント? 手伝ってくれるの?」
「ええ。こ~んな素敵なパティスリーでお菓子作りなんて、めっちゃイケてる! 今まであんまり……ほとんどやったことないけど、きっと大丈夫! フレー、フレー、みんな! フレー、フレー、わたし!」
「はなちゃん! ……わ、わたしも、分からないことは調べ……じゃなくて、教えてもらって、頑張ります」
 工房の真ん中で腕をぐるぐる振り回し始めたはなをさりげなく押さえるようにしながら、さあやも笑顔を見せる。

「大丈夫かな」
「大丈夫でしょうか」
「大丈夫大丈夫!」
「うん、そうだね」
「ウィー!」
「うふっ、面白いわ」
「ペコ~!」
 やがて九人の楽しそうな笑い声と慌ただしそうな足音が、工房に響き始めた。


   ☆


 太陽が高く昇り、いちご山の上をホイップクリームのような白い雲がのんびりと行き過ぎる頃。キラパティのカウンターと大きなテーブルの上に、色とりどりの様々なスイーツが並べられた。
「ジャババ~! キラキラルが溢れてるジャバ~」
 自称ダンディなオーナー姿になった長老が、パティスリーを見渡して満足そうに頷く。ちょうどその時、キラパティの扉が開いて、たくさんの少女たちが店の中に入って来た。

「うわぁぁぁ! 美味しそう~!」
「見てるだけでほっぺた落っこちちゃうよぉ!」
「も~我慢できないっ!」
「「「いっただっきまぁす!!!」」」

「「「こぉらぁぁぁっ!!!」」」

 スイーツに突進しようとする少女たちと、それを必死で引き留める少女たち。中にはゆかりが作った巨大な食品サンプル……もとい、オブジェを見上げて、物欲しそうに指をくわえている少女もいる。

「プリキュアって、ホントにこんなに居るんだ……」
 半ば呆然と呟いたはなの表情が、キラリと輝く。
「うん、凄い! みんなそれぞれ全然違うのに、み~んな、めっちゃイケてるっ!」
 興奮気味なその声に自然と笑みをこぼしながら、キラパティの制服に身を包んだいちかたちは、少女たちの前に笑顔で並んだ。

「皆様、ようこそ! キラキラパティスリーへ。素敵なお話と美味しいスイーツの、夢の時間を楽しみましょう!!」
最終更新:2018年02月17日 04:06