いちかとゆかりのキラキラパティスリー <最終回> ~笑顔の溢れる場所~
「昔、昔ある所にスイーツが大好きなうさぎが居ました。そのうさぎはその大好きなスイーツで皆を笑顔にしたいと思いお店を始めました。やがてうさぎのその想いに共感したリス、ライオン、猫。犬も集まってくれて一緒にお店をやってくれたおかげで次第に賑やかな繁盛するお店になりました。うさぎは仲間と一緒にスイーツが作れる事に、そしてそのスイーツで訪れるお客様を笑顔にする事が出来て本当に幸せでした。ところがそんなある時、仲間の猫が『もっとスイーツの勉強がしたい』とお店を出て行ってしまいます。そしてそれに呼応するかの様に他の仲間達もそれぞれの『夢』を見つけ旅立って行ってしまいました。一人残されたうさぎは寂しくて仕方ありませんでしたがそれでも最初の「スイーツで皆を笑顔に」の想いを胸に頑張ってお店を続けて行きました。そして数年後、何故か一番最初に出て行った猫がひょっこりとお店に帰ってきました。その突然の出来事にうさぎが尋ねると。
「私はあなたとずっと一緒にこの店が続けたいと思って、色んなスイーツが作れる様になる為に世界を回って勉強して帰って来ました」
その言葉通りにその後、お店にはこれまでにはないたくさんの種類のスイーツが並ぶようになり人気を博し前よりも賑わうようになりました。
更には『夢』を追い求めていった仲間達もそれぞれに道半ばではあったのですが、うさぎの事が心配になって少しずつですがお手伝いに来てくれるようになりそのおかげでうさぎはいつも笑顔でその後もお店は大繁盛していくのでありました…」
「ねえ、そのお話って私達の事?」
「ええ、そうですよゆかり!私達の事です」
と得意げな笑顔でいちかが答える。
いちかとゆかりのキラキラパティスリー <最終回> ~笑顔の溢れる場所~
キラ星一家がキラパティで同行してから一年が経とうとした頃にそろそろ自分達の店に戻ろうとの申し出があったので思わず。
「え~、そんな寂しいよ~シエルもビブリーもリオ君も、もっと一緒にスイーツを作ろうよ!」
と駆け寄りシエルの腕を取ると。
「ノン、ノン、いちかにはゆかりがいるでしょう?それにちゃんと私達の代わりも用意したから大丈夫よ!」
と笑顔でウインクしながら私の鼻をツンツン突いて腕をそっと外して離れようとしたので。
「でも、また一緒にスイーツを作れるよね」
と伝えると一瞬、固まった後にやれやれと言う表情をして。
「本当、いちかには敵わないわ」
と突然抱きしめられて、そしてそっと耳元で。
「一番大切なものはひとつだけよ、それだけは絶対忘れないで」
と私を離した後にゆかりさんと無言で見つめ合いその後に一礼した後3人はキラパティを後に去って行った。その後ろ姿を見送りながらふと考えてみる。
「私の一番大切なもの…か」
シエルの指定した日、果たしてどんな助っ人が登場するのかと思いきや顔見知りすぎる面々が揃っていて驚いた。呼び鈴が鳴りドアを開けるとそこには何とひまりんとあおちゃんとあきらさんが立っていた。『何故、皆が居るの?』と尋ねると。
「私は高校卒業後には立花先生の研究所に勤めていてずっとスイーツの科学について研究してたんです。そうしたら先日先生に『ひまり君、君には私が伝えられる事は全て伝えた。だから今度はその科学の知識を世界中のたくさんの人達に伝えてみないか?そして今度は君だけのスイーツの科学を作ってみると言うのはどうかな?』と言われて真っ先にここが思い浮かんで、なのでお願いです私をここに置いて下さい」
「あたしは今度ヨーロッパでライブツアーを一年位やるんだけどもし良かったらこのキラパティも一緒について来て欲しいんだ。いちかとゆかりさんのスイーツも食べたいし勿論、私も一緒に作りたいから。どうかな?」
「私はいちかちゃんのお母さんみたいに世界中を回って医療で困っている人達を助けたいと思っているんだ、と言っても実は正式に医師免許を取ってまだ年数は浅いんだけどね。でもそこは頑張って経験を積んで行こうと思っている。みくの事はまだまだ完治とまでは行かないんだけど今は安定してるし、もし何かあってもどこからでもプリキュアの力を使えば会いに行けるしね」
と肩にのっている犬のクリスタルアニマルにウインクすると嬉しそうに『ワン』と答えている。
「それに何よりみくが私の夢を応援してくれたのもあるし、あと私もいちかちゃんみたいに小さい患者さん達にもスイーツを振る舞ったりして笑顔に出来たらなんて考えたんだけど、私もここに置いてもらえないかな?」
と思いもよらぬ嬉しい申し出に気が付いたら飛びついて抱きしめていた。
「嬉しい!嘘みたい、またこの5人でキラパティが出来るなんて!!ゆかりさんっ 良いですよね!」
と急にゆかりさんの方を振り向くと何故か一瞬だけ眉をひそめた表情を見せるもすぐにいつもの優雅な顔つきになり。
「良かったわねいちか。皆、大歓迎よ!」
と笑顔で答えてくれるもどこか違和感を感じ一瞬、戸惑っていると。
「どうしたのいちか?今日はあきら達の歓迎会をやりましょう!それともキラパティ初期メンバー復活祭と言うべきかしら?」
との言葉に皆が盛り上がり『買い出しはどうする?』とか話し合っている。そんな中、ふとゆかりさんのを見ると気が付いてくれていつもと同じ笑顔を向けてくれたのでこちらも笑顔で返したのだが何故か胸がチクリと痛んだ。そして今こそ密かに用意してた『アレ』をついに渡す時が来たのだと確信したのだった。
歓迎会は本当に盛り上がった。皆成人しているので当然お酒も入る訳でそうなると普段は見れない様な行動をしている。あおちゃんは何故か下着姿になってテーブルの上に立って泡立て器を片手にずっと熱唱してるし、あきらさんはひまりんを膝に乗せて抱っこして『いや~可愛いよね~ひまりちゃん。みくと同じ位、可愛いよ!』と王子スマイルで口説いているものだからひまりんは懸命に正気を保とうとスイーツの知識について真っ赤になって呪文の様に唱え続けていたのだが。
「あれ?ひまりちゃん顔が赤いよ風邪かな?」
とカバンから聴診器を出してきて。
「はい、上着を脱いで上半身を見せて下さ~い」
の言葉についにショートして倒れる。その姿に焦ったあきらさんは。
「いけない!こうなったら人口呼吸で心肺蘇生だ!」
とひまりに口付けようとした瞬間に『このヤブ医者が~!』あおちゃんの脳天ダブルチョップが炸裂する
「何をするんだ!一刻を争うんだ!」
「このエロヤブ医者が!」
とひまりんを挟んであおいVSあきらの戦いが始まった。と言ってもふたりとも相当に酔っているのでまともに立ってる事が出来ずにお互い貶し合っているだけなんだけど。その様子に『やれやれ』と思っているとふとゆかりさんの姿がない事に気付き、窓から外を見るとテラスに一人で座って月を見ていた。その姿に覚悟を決め、『アレ』をポケットに忍ばせ彼女の元に向かった。
『は~』とさっきからため息しか出て来ない。『全くいちかと来たら私と言うものが居るのに…』と思うとやるせなくなってくる。
「でもこれが惚れた弱みって奴なのかしらね。あの笑顔を曇らしたくないと思うと不思議と何でも我慢出来ちゃうのよね…」
と呟いた瞬間に嬉しそうに笑っているいちかの姿が浮かび自然と笑みがこぼれる。と次の瞬間、本物のいちかがキラパティから出て来て心配そうな表情で駆け寄ってくる。
「ゆかりさん、大丈夫ですか?」
と声をかけてくるのでいつも通り平静を装い笑顔で。
「大丈夫よ、ちょっと夜風に当たりたくなっただけだから」
と返すと『良かったあ』と安堵の表情を見せた。そして隣に座りしばらく静かにふたりで月を見ていた。
「月が綺麗ですね…」
いつものその言葉に思わず苦笑した。『全く本当の意味も知らないで…』と思っていると視線を感じたのでいちかの方を向くと小箱を差し出してきて真剣な眼差しでこちらを見ていた。瞬時にその小箱に入っている物は何なのか理解出来たがあまりに突然の出来事で固まってしまった。
「月が綺麗ですねって意味、いくら何でも私だって知ってますよ。あの時はわざと知らないふりをしてただけなんですよね」
とさもいたずらが成功した子供の様にはにかみながら笑ったと思ったら次の瞬間、また真剣な顔に戻り。
「私はゆかりさんへの想いは今もあの時と変わりません!これを受け取ってくれませんか?」
と箱を開けると中には8カラットだろうか、ダイヤモンドの指輪が入っていた。
その夢にまで見た状況に一瞬『現実なの?』とも思ったがそれ以上に自分が実はとうの昔にいちかの術中の中にいた事実の方が衝撃で。
「プッあははっ おかしい!この私がいちかに手玉に取られてたなんてね~あはは!本当におかしい」
とお腹がよじれる程笑っていたのだがいちかはその間も真剣な眼差しでこちらを見ていた。そして近寄ってきて優しくそっと私を包み込む様に抱いてくれた。
「ゆかりさん…泣いてますよ…ごめんなさい。ずっと待たせてしまってもっと早く伝えておけば良かった…」
その沈痛な口調な言葉に初めて自身が涙を流していた事に気づく。
「ゆかりさん、これまで私を支えてくれて守ってくれてありがとうございます。これからは私もゆかりさんを支えたいし守って行けたいと思います。だからこの先もずっと、おばあちゃんになるまで私と一緒にいてくれませんか?」
思わず『本当に?』と答えると。
「はい、ゆかりさん。私、宇佐美いちかは琴爪ゆかりを世界中の誰よりも愛しています!」
ずーっと欲しかった一言が聞けて嬉しすぎて涙が止まらなかった。そしてしばらく経った後に体を離し向き合い目が真っ赤になっているいちかと向き合う。
「これをゆかりさんの指にはめても良いですか?」
「はい」
と答えると左手を差し出すとスッとはめてくれた。その真剣ながらも泣きはらしたいちかの顔に思わず吹いてしまい『いちか、随分とひどい顔になってるわよ』と伝えると。
「ゆかりさんこそ!もっとひどい顔ですよ!!」
とあらためてお互い顔を見合わせたらもう笑い出してしまって止まらなくなってしまった。ひとしきり笑って、笑い過ぎて更にお互いひどい顔になりつつもあらためて向かい合いそして長年秘めていた想いを伝える。
「いちか、私もあなたを愛してるわ。私をここに連れて来てくれたあの日からずっと…」
次の瞬間、月夜に照らされたふたつのシルエットは重なり合った。
そんなふたりの様子をキラパティの窓からあきら、あおい、ひまりの3人は皆、目を潤ませ見守っていた。
「ちっくしょう見せつけてくれやがって!何かあたしもみつよ…いや、水嶌に会いたくなって来た~!」
「おばあちゃんになるまで一緒、か良いね!私達もこのままずっと一緒にいようか?」
「私もおばあちゃんになってでも良いんですけど、でもいちかちゃんみたいに私も運命の人に巡り会いたいんですよね」
と横目でチラッとあきらを見上げる。
「ええっ、私?」
「私じゃダメですか?あきらさん」
と上目遣い見つめられその姿に思わず『可愛いっ!』とドキッとし、『そうかひまりちゃんか~それも良いかな』と平静を取り戻し。
「はは、良いね~じゃあまずは友達から始めようか!」
とひまりの頭をポンポンと撫でてると。
「もう子供扱いしないで下さい!それに既に私達はお友達なんですから今度は恋人として始めたいです!!」
と激しくむくれた表情で抗議してくるもその愛くるしさに思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えて。『ならこれでは』と片膝をついて右手を胸に当てひまりの右手の甲にキスをする。
「私とお付き合いして頂けませんか?ひまり」
と成長して高校生の時より更に輝きを増した王子スマイルに耐える事は出来ず『プッシュ~』の音と共に真っ赤になって倒れる。その様子を一部始終見てたあおいは『何が恋人同士だよ~』と腹を抱えて笑っていたが。
「ひまりちゃん、ひまりちゃん!いけないこうなったら人工呼吸で心肺蘇生だ!!」
と再び口付けようとした瞬間。
「またか~このエロヤブ医者が!」
と渾身のドロップキックが炸裂するも酔って受け身を取れなかったせいで着地時にしこたま頭を打ち付け『グエッ』と気絶してしまった。一方、あきらの方もまともに食らってしまったので『う~ン』とノビてしまっていた。
ゆかりさんとキラパティのドアを開けた時にはふたりして固まってしまった。何せうら若き乙女達が床に倒れている姿に、更にめちゃくちゃになった店内の様子には数分前まで幸せの絶頂期で夢心地だった私達にとっては否応なしに現実に引き戻される感覚に陥った。とりあえずはと3人を揺り起こそうとしたのだが完全にノビていて仕方がないので部屋のベッドまで運び寝かせる事にした。ひまりんとあおいちゃんはふたりで何とか運ぶ事が出来たのだがさすがに長身のあきらさんだけはどうしようもなく最後の手段に出る。
「キュアラモード・デコレーション!」
ホイップとマカロンになってあきらさんを担いで部屋に連れて行きベッドに寝かせると。
「…今まで一番くだらない理由の変身だわ」
と非常にご立腹のマカロンの様子。確かにこの後は散らかったお店も片付けなければならないから尚更にご機嫌斜めになるだろうと思ってたらふと『キラッと閃いた!』ので変身を解こうとする彼女を制止すると『どうしてなの?』と尋ねてくるので最高の提案をする。
「マカロン、ちょうど変身しましたしこのままふたりで婚前旅行に行きませんか?と言ってもこの後いつもの夜空の散歩を夜明けまでした後にどこか静かな湖畔で1日ふたりだけでゆっくり過ごして夕方には帰って来るってものなんですけど、いかがですか?」
との申し出に、予想通り『婚前旅行』のキーワードに彼女のご機嫌は一瞬で良くなった。
「それはなかなか面白そうなお誘いね…うふっ」
と満面な笑顔で快諾されたので『じゃあお弁当作ってきますから待ってて下さいね』と伝えると。
「私も一緒に作るわ」
とふたりで厨房で作り始め、最初は軽くサンドイッチとおにぎり位で良いかなと思ってたんだけどやっぱり気合が入っちゃったみたいで気がつくと重箱5段の豪華な弁当になってしまっていた。あきらさん達には「明日の夕方までに私達が帰るまでにちゃんと片付けて置く事」と置き手紙をして出かける。いつものうさぎのクリスタルアニマルにお弁当とお茶を積み込んで二人乗りし。
「マカロン、いやゆかりさん、いやゆかり!行きますよ」
と伝えるといつもと違って私の背中に頭を寄せて『ええっ』と答える。その温もりが嬉しくてついつい自然と顔が緩みがちになる自分にふと『これが幸せって奴なのかな』と。無限の星空の中を最愛の人とどこまでも一緒に飛び続けながらしみじみそう感じていた。
次の日の夕方、ふたりの時間を満喫した私達はキラパティに向かっていた。
「ゆかりさん、あきらさん達もきっと反省しているはずだから御手柔らかにお願いしますよ」
「分かってるわ。それよりももう『ゆかり』って呼んでくれないの?」
の言葉に思わず赤面しつつ『ふたりきりの時だけは』と伝えると。
「ふ~ん、まあ良いわ。今はそれで許してあげるわ」
と上機嫌そうに答えてくれた。
やがて眼下にキラパティが見えて来たのだけれども店には明かりがついてない様子だったので。『アレっ?』と思って変身を解きドア前に立ってみたけどやっぱり中は真っ暗で『ひょっとしたらあきらさん達は怒って帰ってしまったんでしょうか?』とゆかりさんに伝えると少し眉をひそめて『…とりあえず中に入りましょうか』とドアを開けると。
「婚約おめでとう~!!」x3
と突然、店内に明かりがつきクラッカーが鳴り私達は祝福された。そこにはキラパティのパテシエ服に身を包んだ3人が満面の笑顔で迎え入れてくれた。周りを見てみると昨日の彼女達の歓迎会の時よりも豪華な食事が並んでいて、壁をみると結構本格的な飾り付けが所狭しと施されていて更に正面の壁には『いちか&ゆかり婚約おめでとう!!」と垂れ幕が下がっていた。思わず『これは?』と尋ねると。
「これは私達のお祝いの気持ちだよ!時間が足りなかったんで多少荒い部分もあるとは思うけど。あと昨晩は非常にお見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした」
と3人揃って頭を下げている様子に『どうしよう』と思ってゆかりさんの方を向くとウインクして答えてくれて。
「分かりました。色々と言いたい事もあるけどこれに免じて昨晩の事は不問にしましょう」
の言葉に3人は『やった~』と喜び合ったが、その後にひまりんが近づいて来て『いちかちゃん、ちょっと良いですか?』と突然厨房の方に引っ張られてしまったので焦ってゆかりさんの方を観ると同様にあきらさんに引っ張られてカウンターの奥の方に連れて行かれていた。『何なの?もうっ』と伝えると奥から純白のベールの付いたドレスを取り出して来たのだった。
その後店内に戻った見たものは私と同じウエディングドレスを身に包んだゆかりさんだった。そのあまりの美しさに見惚れていると『はいはい、愛しい人の艶姿に見惚れるのは分かるけど次、次!」とふたり並んで上座に座らされた。そしていつの間にか用意されていた店内の片隅に置かれたピアノにステージ衣装に着替えたあおちゃんが座り『ではこれからふたりの前途を祝して一曲』と弾き語りが始まった。
「愛してるばんざーい、ここで良かった~私達の今がここにある。愛してるばんざーい、始まったばかり~明日もよろしくね、まだ~ゴールじゃな~い。」
その素朴なメロディーと歌詞には胸に響いてくる。そして『これはゆかりさんと私だけじゃなくて私達5人の為の歌なんだ』と気がついた。ふと横を観るとあきらさんもひまりんも一緒になって歌ってくれている。ラストの「ラララ~、ラララ~」のサビの部分ではゆかりさんも私も続いて歌う。感動に胸が震えて自然と涙がこぼれて来て思わず。
「どうしようゆかりさん。私、今とっても幸せです…」
と伝えると目を潤ませたゆかりさんも『ええ、私も幸せよ。とっても』と微笑み返してくれた。
「はい、はい、そこのおふたりさん!湿っぽいのはなしだよ!さて次は今日の最大の目玉だ!ひまり、あきらさん!!」
との返事にカウンターの陰から台車と共に高さ1.5メートル程のケーキが運ばれて来た。更なるサプライズで思わずふたりで目を丸くしてるとあきらさんが。
「ごめんね。本当はもっと大きくするつもりだったんだけど時間がなくて。でも本番はこの倍以上にするから楽しみしてて!」
「さあ、おふたりとも立って下さい。人生最初の婦婦の共同作業の予行演習ですよ」
とリボンのついたナイフを渡される。思わぬ展開にゆかりさんと見合わせるも、とりあえずふたりでケーキ入刀が済むとまたあおちゃんが。
「そしてお次はこちらだ!」
とピアノを移動させるとそこには小さな祭壇と神父の衣装に身を包んだあきらさんがにっこりと笑って立っていた。
「…これも予行演習なのかしらね」
と少し前の感動がどこかに飛んで行ってしまったのか少し呆れた様子のゆかりさんに。
「良いじゃないですか嬉しい事は何度あっても。行きましょう、ゆかり!」
と手を差し出すと満面の笑みで手を取ってくれて一緒に向かった。
その後、パーティーは大いに盛り上がり明け方まで続いた。
その数日後の夜、シエル・ドゥ・レーヴの居住スペースの寝室でひとつの布団にピカリオを挟んでビブリーとキラリンが3人で寝ていた。
「おい、これって本当に合っているのかピカ?何かおかしいピカ」
「ノン、これが日本古来から伝統の家族で一緒に寝る『川の字』言うスタイルキラ!」
「本当かなピカ。ビブリーは知らないピカ?」
「あたしも聞いた事はあるけど実際にやった事はないからよく知らないわ。それよりいちかからの結婚式の招待状にアンタに入場のエスコートをやって欲しいと書いてあったけどどうするの?」
「……」
「ピカリオ、やっぱりやめておくキラ?だって好きな人の結婚式に出るだけだってツラいしね…キラ」
と弟の気持ちを案じ心配そうに声をかけるが。
「いや俺は出るピカ!いちかに俺の想いは届かなかったけどやっぱり幸せになって欲しいから祝福するピカ!…それに俺にはこうして家族がいるから寂しくなんかない…ピカ…」
最後の方は涙声になって声が震えてる様子にビブリーとキラリンが思わず同時に抱きしめる。
「えらいキラ!さすが我が弟キラ!誇りに思うキラ!!」
と一緒になって涙を流していた。一方、ビブリーは真剣な表情で。
「…ノワールの元を去った後、行くあてが無いあたしにシエルが声をかけてくれた時は本当に嬉しかったんだ。もうひとりじゃ無いんだって。それから今日まで一緒に暮らして来て色々あったけどアンタ達はあたしにとって本当に家族なんだよ。大好きよふたりとも」
その言葉に『ビブリ~』と今度はキラリンとピカリオが彼女の胸に飛び込んでいく。ビブリーは優しく受け止めふたりが泣き止むまでしばらく間そのままでいた。そんな中、ピカリオはある事に気がつく。いや気がつかなくても良かったのだがこれも悲しい男の性言うべきものか、全て台無しになる。
「ビブリーって柔らかくて良い匂いがするピカ…そう言えば前にキラリンが良い匂いがするって言ってたけピカ」
とその心地良さに頰を染めてポーッとして離れようとせずいつまでピッタリ張り付いている様子に。
「ピカリオ!いい加減離れるキラ!そこはキラリンのものキラ~!」
とキラリンの怒りが爆発するも初めての感覚に酔いしれてるのか全く届いていなかった。その様子に更に腹を立てたキラリンは今度は実力行使に出て引き剥がそうとするがビクともしなかった。そして怒りが頂点に達した彼女はシエルの姿になりついに最終手段に出ようとする。『キュアラモード・デコレー…』
「待った!!アンタ何でそんな事で変身するの?ダッサ!それにこの位なら…」
と『ベリッ』とあっさりピカリオを引き剥がすが彼は相変わらず夢見心地の様でポーっとしている。
「だって私のビブリーが取られちゃうんじゃないかなと思って…」
とシエルは少し拗ねたように両手を後ろで組んで下を向いて仕切りに床を蹴っている。その姿を見てクスリと笑ったビブリーは。
「ほらおいで、私達は家族だと言ったでしょう」
と自分は布団の真ん中に入り右側にピカリオを寝かせると空いてる側をポンポンと叩いて招く。その様子にシエルは目を輝かせ。『キラ~』とキラリンの姿に戻って滑り込む。そしてピカリオの方を見ると案の定、既にビブリーに寄り添って眠りについていた。負けじとキラリンも空いている側に寄り添う。『やっぱりビブリーは優しいキラ!大好きキラ!』と言うと続いてあっと言う間に眠りについてしまった。そんなふたりの様子を愛しげに見つめていると自分も眠りに落ちそうになってきてふと思った。
「この様子だと何かあたしはまるでお母さんになっちまったみたいだね~まあいいか…」
その後、ビブリーの魅力に気がついてしまったリオは今度は彼女一筋になってしまい、当然シエルがそれを阻む為にビブリーをかけての姉弟のスイーツ対決が日々繰り広げられる事になった。そのおかげでふたりのスイーツ職人として腕は更なる進化を遂げ、店は繁盛するし美味しいスイーツは毎日食べ放題だし、とビブリーはいつもご満悦の様子との事である。
短い新婚旅行からふたりが帰ってきた翌日、いよいよ新体制で始まるキラパティ。窓の外には既に行列が出来ておりメンバーも否応無しに気合が入っていた。店に出すスイーツも準備万端で本日の目玉は5人で最初のお客様に出したあの5つのアニマルが乗ったケーキである。開店10分前、店内をチェックするいちか、ふと見回すと『あの頃』と同じく5人で開店準備をしている光景に感慨深くなってきて一瞬、涙を溢れ出しそうになるのを吹き飛ばすように。
「あたし『琴爪いちか』!パティシエ歴10年、キラキラパティスリーで店長をやっています!大切な人と大好きな仲間に囲まれて大っ好きなスイーツで皆を笑顔に出来てとても幸せです!!」
と突然、天井を指差して自己紹介するものだから皆が作業の手を止めていちかの元に集まってくる。
「どうしたんだよ~突然?」
「あ、分かりました。名字が新しくなって嬉しいから言いたくなったんでしょう?」
「えへへ、正~解で~す!」
とわざと照れ隠しに笑うと。
「うん、確かに『琴爪いちか』はなかなか新鮮で良い響きだよね」
「うふふ、良いでしょう」
「あ、でも『剣城』と言う名字も良いですよね…」
とちらりと上目遣いであきらの方を見るひまり。
「あ~、もうすぐ開店前なんだからそういうのは後、後」
「あとね、私もう一つやりたい事あるんだ~付き合ってくれる?」
とのお願いに『え~何?何?』と口々に尋ねてきたので『では行きますぞ~』と思いっきり腕を広げて飛びかかる。
「は~ぎゅ~」
と思い切り4人にハグをすると『イタタ』『何すんだよ!』とクレームの嵐だったが『皆ありがとう!大好き!!』と伝えると静かになった。そして腕を解いて向かい合うと皆満面の笑顔で『私も大好き!』と返してくれた。
開店3分前それぞれが持ち場につき、私は入口の所でスタンバっているといつの間にか後にゆかりさんが立っていてそしてそっと耳元で。
「さっきの『アレ』私にもう一度してちょうだい」
とお願いしてきたので『はい喜んで』とゆかりさんの頭を包み込む様に抱き頰を寄せていると。
「またこの5人でお店出来るなんて本当に夢みたいよね…でもいつかはまた…」
「大丈夫ですよ。そうなっても私はゆかりの隣にいますよ。それにこの間も誓ったばかりじゃないですか『ずっと一緒にいる』って」
と体を離し少しおどけた表情をして左手の薬指の指輪を見せると微笑み返してくれた。
「そうね、私達はずっと一緒だものね」
自身の指輪に視線を愛おしそうに眺めた後に私と見つめ合う。その深紫色の瞳に思わず吸い込まれて行き、後少しで唇が重なり合おうとした瞬間に。
「こら~ふたりとも!もう開店だよ!!何朝からいちゃついてんだい!!」
「まあ、まあ、新婚さんなんだから仕方ないよ。大目に見てあげようよ」
「いちかちゃんゆかりさん、とっても羨ましいですぅ~」
気がつくと3人はすぐ側に来てて私達の一部始終は全て見られていたらしい。思わずゆかりさんと目を合わせるとお互いキョトンとした顔をしていたがすぐに込み上げて来て笑い出してしまった。それにつられて皆も笑い始め一気に店内が明るくなる。ふと時計を見ると開店20秒前だった。
「あ~もうこんな時間!皆、早く早く持ち場について!!」
『は~い』と皆がそれぞれの持ち場に戻って行く中、ゆかりさんが私の方を見てウインクしてくれたので投げキッスでお返しした。そして扉を開ける。
「さあ、行くよ皆!せ~の!!」
『いらっしゃいませ~キラキラパティスリーへようこそ!』
キラキラパティスリー、そこはいちか達5人の夢がいっぱい詰まった場所、そして訪れた人達を素敵な笑顔にしてくれる場所。今日も多くの人達が幸せを求めて集まってくる。
~完~
ていお亭ていお様が作者宛に贈られた色紙です。ていお様の許可を得て掲載させていただいております。
最終更新:2018年03月10日 11:52