あま~いおやまをつくりましょ/金丼亭猫好
「すぐ春だからね、タコカフェも新しいメニューとか考えないと、って言ったんだよ。あたしがさ」
2月もなかば。タコカフェの車の前のパラソル席の横であかね先輩がそう言うのを、あたしはちょっとぼーっとしながら聞いてたんだ。
「ついでだから、なんかイベントっぽいのにもしたいなぁ、とかさ。軽くね、軽ぅ~く」
となりで ほのかが上を見ながらため息ついてる。いや、あたしのため息かな、これ?
「‥‥脚立を持ち出したときに、あれっ、と思えばよかったんだろうけどねぇ」
3人並んで見上げてる脚立の上で、こっちに気がついた ひかりが、ちっちゃく手を振ってきた。
反対の手で、薄茶色の大きな山に、シュークリームをひとつ、チョコをノリ代わりにして乗せながら。
シュークリームの山積みケーキ――クロカンブッシュ、だっけ。聞いたことはあるけど、本物はこんなデカいんだ‥‥
「というわけで。なぎさ、あとよろしくね♪」
‥‥へ?
ぽんっ、と肩に乗っかったのを感じて、そぉっと横向いたら、あかね先輩がにっこり笑ってたよ。
「いやさぁ、さすがにこれ車には載せられないから。今日中に片付けないと」
って、ちょっと!?
「む、無理無理無理っ!ひとりで食べられる量じゃないですって、あれ!!」
頭がちょっと痛くなるくらい、あたしは横に首振った。
ふつー冗談だと思うとこだけど、これマジだ。にっこり顔の目が笑ってないんだから‥‥ああ、ひかりのことになると、とたんに姉バカになるんだからっっ!
「ほ、ほのかも何か言ってよぉ!‥‥え?」
となりに向き直ったら、ほのかが携帯を閉じるとこだった。
「あかねさん。これ、ベローネの生徒会がタコカフェに発注した、っていうことでいいですか?」
「あ?ああ、引き取ってくれる、ってンなら構わないけど」
こんどはほのかのにっこり顔‥‥の、目が笑ってないヤツ。あかね先輩がちょっと引いてるのはいいけど、なにする気よ。
「バレンタインっていうことで、ベローネの女子高等部から男子高等部にプレゼントすることにしました。あれだけ積めるならシューは固いはずだから、明日くらいまでもつでしょ?」
ほえ~、さっすがほのか。一瞬で交渉済ましちゃったよ。いろんなとこ人脈あるからなぁ‥‥ん?なんか、手渡されたけど、ボウル?
「じゃ、なぎさ。しっかりコーティングお願いね。わたしは運ぶひと連れてくるから」
ボウルの中身は板チョコいっぱい‥‥コーティングって、あの山に!?
「ちゃんと固めないと動かせないんだから、早く、早く☆」
笑いながらパタパタ駈けてっちゃったよぉ、おぃぃ!
「さぁて、それじゃ営業再開っと。ひかり~、あとはなぎさにまかせて、こっち手伝って~」
あかね先輩はひかり連れて車に引っ込んじゃって。あとにはテーブルの上に携帯コンロとお湯張ったナベか。くっそぉ。
「やりゃぁいいんでしょ、やりゃぁ。もぅ、こっちは自分のチョコだってまだ出来てないってのに‥‥あれ?」
火をつけようとしたコンロに、なんかはさんであるよ。メモか、なになに‥‥
『藤村くん、チョコシュー好きよ?がんばってね~♪』
ちいさな紙の上に、細くてすっとした、ほのかの字が踊ってた。‥‥って、ことは、だ。
「あかね先輩!ひかり!!わかっててやったなっっ!!!」
最終更新:2018年03月11日 21:40