終幕!『オールスタープリキュア!レッツ・ラ・競作!冬のSS祭り2018』/夏希◆JIBDaXNP.g
「またね~っ!」
ぶんぶんと大きく手を振り回して、いちかはキラキラルで作られた階段を下って帰路に着く。みんなも同じように再会の約束を口にして帰っていった。移動手段は空に浮かぶ鍵盤だったり、鏡の中だったり、これまた大きな鳥に乗ったりと、それぞれに違うけれど。
最後の一段を降りると、一瞬だけ眩い光に包まれる。やわらかな風が吹き抜けて、微かな春の草木の匂いを運んできた。
いちかは異国の小さな農村の、少しさびれた広場の片隅に立っていた。
「そっか、ここはいちご坂じゃなかったよね」
豊かで活気のあるコンフェイト公国の、そんな都市近郊から外れた、のどかな田舎と呼ばれるような場所。
「ひまりんも、あおちゃんも、あきらさんも、シエルも、さっきまで一緒にいたはずなのに……」
そう、確かにさっきまでみんな一緒だった。キラパティのメンバーだけじゃなくて、大勢のプリキュアのみんな達と、中学生だった頃の姿のままで――
いちかは自分の両手と足元を見つめる。鏡なんて見るまでもなく、立派に伸びきった大人の女性の身体だった。
その昔、というほど前じゃないけれど、最後のエリシオとの戦いから――もう、片手の指では足りないくらいの年数が経過していた。
「やっぱり夢だったのかな。毎年この時期に、決まって見る夢? これもホームシックの一種なのかなぁ」
「夢かどうかはともかくとして、独り言が多いのは寂しいからって、よく言うわね」
「わわっ! って、ゆかりさん!?」
突然会話に割り込んできたのは、夢でも見ているかのような、現実離れした美しい女性だった。大人びているってのは、大人には一歩届かない人を表現する言葉だ。目の前の彼女にはまったく相応しくない表現だろう。
余裕があって優雅で、華やかで気品に溢れていて、それでいて表情はやわらかくて親しみを感じる。あの頃も高校生離れした容姿だった彼女は、今やそんな完璧な女性に成長していた。
「驚いたと思ったら黙り込んで、私の顔に何かついてる?」
「そうじゃなくて、あんまり綺麗だからつい見とれちゃって」
「ありがとう。よく言われるわ」
自慢する気なんてなくて、謙遜する気も全然なくて、ゆかりは事実をありのまま口にする。でもその瞳には、少しいちかの反応を面白がっている色も見えた。
「あはは……それで、ゆかりさんはどうしてここに?」
「この国は私の留学先だもの。知り合いから噂で聞いたの。いちかこそどうしてこの村に? 都会に来れば色々なスイーツの勉強もできるのに」
「いずれは向かうつもりですけど、ここから始めたかったんです」
いちかはそう言うと、通り過ぎる親子に手を振った。その子の嬉しそうな顔を見ただけで、ゆかりはすべてを察したようだった。いちかの夢の原点で、彼女の憧れの人の姿が思い出される。
「ねえ、ゆかりさん。私、さっきまで夢を見ていたんです。中学生だった頃の夢。みらいちゃんや、他のプリキュアのみんなと一緒に、お話会をしていたんです。いちご坂で、キラパティの中で」
「そんな夢なら、私も見たわ」
ゆかりの言葉を聞いた途端、いちかは迫るようにゆかりの顔を覗き込む。一歩離れて憧れの眼差しで見ていた、さっきまでの態度が嘘のように大胆に、そして懸命に。
「ホントですか? 実は、今年だけじゃないんです。毎年、このくらいの時期になると必ず見るんです。いつの間にか招待状が届いていて、でも終わったら無くなっていて、夢なのに、不思議と全て覚えているんです。おかしいですよね」
「毎年見るのに、どうして今になって話したの?」
ゆかりの問いかけに、いちかはちょっと口ごもる。どうして話す気になったのか、どうして話せなかったのか、自分の心に問いかける。
「私、本当は、あれは夢じゃないんだって思いたいのかも。誰かに話して、それが夢だとハッキリしたら、もう招待状が来なくなるんじゃないかって。だけどゆかりさんと会ったら、確かめたい気持ちが抑えきれなくなって……」
いちかはなんとかそれだけ話すと、ゆかりの顔を真剣な顔で見つめて返答を待つ。その口から出てくる言葉だけじゃなくて、表情からも、何も見逃すまいとするかのように。ゆかりをいっぱいに映すその瞳の中には、期待もあれば、不安もあって。ゆかりはその様子を見て、小さく笑った。そして何かを思いついたのか、目を閉じると、自分の唇をいちかの唇に近づけた。
「わわっ! なんですか? どうしてこうなるんですか? ゆかりさんは好きだけど、私たちは女の子同士で、嫌じゃないけど、心の準備もできてなくて」
慌てて後ずさるいちかを見て、ゆかりは今度こそ笑いをこらえきれずに噴き出した。
「先に確認させてもらったわ。どうやらいちかも同じ夢を見ていたようね。同じ日に、同じ夢を、違う人が見るなんてありえない。だとしたら、あれは――現実にあったことよ」
「そんなことって! 私、さっきまで確かに中学生でした。それにお話会は作り話をする場所じゃなくて、お互いの近況を伝えあう場所なんです。まさか、だって、あんなこと……」
「時間を超えたことなら、プリキュアだった頃に私達もあったでしょ? それに体験したことのない実話があるとしたら……パラレルワールドの記憶って可能性もあるわ」
「パラレルワールドって、前にラブちゃんたちが話してた、違う可能性の世界ですよね?」
「ええ、本で読んだ知識だけど、違う世界で生きている自分と記憶を共有することがあるそうよ。既視感ってのも、それが原因だと考えている人もいるわ」
いちかは近くにあった、丸太の柵に腰をかける。軽く目を閉じて、お話会で聞いたことを思い浮かべる。まるで台本でも読んでるみたいに、一字一句を鮮明に思い出すことができる。
「毎年、違うお話ばかりなんです。中には突拍子の無いようなお話もあって、でもどれも真剣で、嘘だなんて思えなくて。あれも、全部本当に起きたことなんですか?」
「ええ、恐らくは。不思議ね――こうしている間にも、違う世界で私達は違う毎日を過ごしている。まだ中学生かもしれないし、結婚して子供もいるかもしれない。その全てが現実なの。今の私たちがそうであるように」
「それって素敵ですね。だとしたら、どんなことだってできるような気がします。何かに躓いたり、間違って転んだりしても、そうじゃない道を選んだ自分がいるなら、後悔せずに、また立ち上がれる気がします」
「いちかは、今の自分を後悔しているの?」
今度はゆかりがいちかの顔を覗き込む。ここに足を運んだのも、一人でお店を切り盛りしてると噂に聞いて、心配したからだった。
「まっさか、私、すっごく幸せで毎日が楽しいんですよ」
「ええ――知ってるわ」
いちかの視線の先にあるものを見て、ゆかりはそう言って微笑んだ。広場には、キラパティのオープンを待つ子供達が、いや、大人や老人達までが大勢集まっていた。
「キラパティ、オープン!」
いちかがそう口にすると、突然、手にした小さなカバンが立派なスイーツショップになる。
「いらっしゃいませー。ようこそキラキラパティスリーへ!」
いちかはゆかりに目配せすると、お客さんを案内するように、店内に入っていく。ゆかりも「手伝うわ」と一言だけ口にして後を追った。
いちかは隣を歩くゆかりに、最後に一つだけ問いかけた。
「招待状って、必ず送り主がいるものですよね? 一体、だれが送ってくれたんだと思いますか?」
「さあ、それはわからないわ」
ゆかりは全てをわかったような顔でそう答える。一瞬だけ外を、空を、世界を超えた、もっと大きな、もっと大勢の、自分を見守る何かに目を向けて。
キラキラパティスリーには、今日も笑顔の花が満開に咲いていた。
~fin~
最終更新:2018年03月12日 01:21