スイーツを「さかな」に/ゾンリー
曇天が暗い空を覆い、唯一見える月の光は街のネオンに埋もれ霞んでいる。
そんな夜を私__ひまりは歩いていた。
ノワール、そしてエリシオとの戦いから早数年。大学生になった私はひょんなことから、苺坂を遠く離れたここ日本の南に位置する街にある、大学の研究室にお世話になっていた。
(今日もコンビニかな……)
空腹を覚えた私は夕食__もう日を跨ぎそうなので夜食と呼ぶべきなのだろうが__を求めて街を彷徨いだした。
歩く事数分。ちょっとした広場だろうか、白と水色のよく見るコンビニを見つけその中に入ろうとした時だった。
コンビニの背後でボンッっと白い煙が上がり、同時にそこにあった建物が消え、月明かりが私を照らした。
(まさか……いやでも一瞬で建物を消すなんて、やっぱり……)
私はとうに空腹を忘れ、煙の麓へと向かっていった。
・
「ん〜!今日も大盛況やったばい!なんちって」
その声を近くに聞き、高鳴る鼓動が私を急かす。
二回角を曲がってコンビニの裏に。そこにはパティシエ服の親友の姿があった。
「……いちかちゃん」
彼女はゆっくりと振り向くとしばらく呆然とこちらを見つめ、そして駆け寄ってくる。
「ひーまーりーん!」
背中に回された手は暖かく、風で膨らんだ髪からはほのかに甘い匂いがした。
「久しぶり!」
いちかちゃんはバッと顔を離し、私の顔をまじまじと見て、もう一度抱きついた。
再び顔を離した時、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「ねえねえひまりん、お腹すいてない?」
「実はお夕食まだなんです」
「じゃあファミレス行こ?私もお腹ペッコペコなんだ〜」
私は快く承諾し、月を真上に見上げながら2人で夜の街に繰り出した。
・
「いらっしゃいませーお客様何名様でしょうか?」
「二人で!」
「はい、空いてるお席の方へどうぞ」
私たちは窓際の、夜空が見える席についた。
「ひまりん何食べる?」
「そうですね……」
ふむ、とメニューを見渡す。どれも美味しそうで再会によって治まっていた腹の虫がまた鳴り出した。
「じゃあ……これで!」
「おぉっ!ガッツリ行くね〜じゃあ私もこれ!」
ベルを押して注文を終えた私たちは早速ドリンクバーを注ぎに向かった。
「「かんぱーい!」」
「くぅ〜っ、五臓六腑にしみわたりますな〜!」
「ですねぇ〜」
しばらくしないうちに料理が到着した。バチバチと音を立てるのは、香ばしく焼けたハンバーグ。
料理を間近にして、空腹は遂に最高潮を迎えた。それはどうもいちかちゃんも一緒のようで。
「「いっただきまーす!」」
一心不乱にかぶりつく。
互いに、世間話をする事すら忘れて。
「あー美味しかった!」
「ふふ、ろくに話しもせずに食べましたね〜」
「何かデザートでも食べる?」
「そうですね……いちかちゃん、ホテル泊まりですか?」
「んーとね、今からカプセルホテルでも探そうかなーなんて」
私は一瞬躊躇ったけど、結局そのひらめきを提案する事にした。
「よかったら私が借りてるアパートに行きませんか?」
「……いく!いきたい!」
目を輝かせる彼女に私も釣られて笑顔になった。
・
大学の近くにあるアパート。お世辞にも綺麗とは言えない外装だが交通の便もよく、部屋もこじんまりとしていて一人暮らしにはもってこいの部屋だ。
「ただいまー……」
「おっじゃましまーす!」
「何もないですけど、ゆっくりしててください」
私はいちかちゃんがクッションの上に座ったのを確認すると、キッチンでお湯を沸かし始めた。
「ダージリンでいいですか?」
「うん!ありがと、ひまりん」
お湯を沸かす間に茶葉を用意し、冷蔵庫から大ぶりのプリンを取り出した。
「大っきなプリン!作ったの?」
いちかちゃんの座るリビングからは直接キッチンが見える。
「今近くのスイーツショップでアルバイトしてて、そこで売り物にならない材料で作らせてもらったんです。賞味期限切れそうな卵とかを使って」
ガラスの器にプリンを移し替え、あらかじめストックしてあるホイップクリームでデコレーション。チョコペンは無いので少しだけ残っていたアラザンで顔を描く。
「お待たせしました!りすプリン、出来上がり!」
そんな事をしている間にヤカンから吹きこぼれたお湯がコンロの火によって音を立てて蒸発した。
急いで火を止め、茶葉の入ったティーポッドに注ぎ込む。蒸らしてからカップに注がれた紅茶を持って、折りたたみ式のテーブルに向かった。
「それじゃあ再び再会を祝して〜」
「「かんぱーい!」」
そしてようやく、他愛のない話が始まった。
「ひまりんはどうしてこの街に?」
「立花先生の紹介で、研究室のお手伝いをさせてもらってるんです!いちかちゃんは?」
「いやー原点回帰と言いますか、世界を笑顔にする前に日本中を笑顔にしようかな〜って!」
「この街の人達はどうでした?」
「それが苺坂に負けず劣らず親切な人ばっかりでさー!「若いのに頑張ってるね」ってコレもらったんだ!」
いちかちゃんがガサゴソとバックから取り出したのは黄色いパッケージの袋ラーメンだった。
「九州で大人気の袋麺でさ、やっぱり九州はとんこつだよね〜」
そして話題は、私の研究についてになった。
「今やってるのはスイーツのゼリーなんかに多く含まれるコラーゲンをいかに効率よく吸収するかの研究で、既に論文にまとめてるところです」
「論文!大学生っぽいな〜」
「読みます?英語ばっかりですけど」
「う゛……やめときます〜」
いつの間にか二人のプリンは全て胃の中に吸い込まれていた。
「まだまだスイーツ、残ってるんですけど……」
「ひまりーん、夜はまだまだこれからですぞ〜?」
「ですね!」
こうして私たちはスイーツを肴に、暁の空に日が登るまで互いの現状を語り明かした。(終)
最終更新:2018年03月13日 20:39