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キラパティの節分(後編)/一六◆6/pMjwqUTk




 抜けるような青空が、いちご坂の上に広がる。二月三日、節分の日。空気はキンと冷えているものの、絶好のイベント日和となった。
 野外ステージのある広場には、まるでスイーツ・フェスティバルの会場がそのまま引っ越してきたかのように、小さなテントがひしめき合って甘い匂いを漂わせている。ゆかりとあきらが中心になって、いちご坂じゅうの店一軒一軒に、このイベントへの参加を頼んで回った成果だ。
 ステージの上では、バンド仲間たちの演奏に乗せて、あおいが力強い歌声を響かせている。これはイベントを盛り上げると共に、ステージの上からならネンドモンスターを見つけやすいかも、というあおいが考えた作戦だった。

「うわぁ、キラキラしてて、すっごくきれい!」
 キラパティにやって来た子供たちが目を輝かせる。
 白、緑、そしてオレンジ。出来上がった新作スイーツは、三色のキラキラした羽を持つ、孔雀の形のわらび餅だ。胴体の部分は餡子をベースにした練り切りで出来ていて、羽には自家製きな粉がたっぷりとまぶしてある。
「キラキラルもいっぱいペコ」
 今日は人間の姿になってお手伝いをしているペコリンが、嬉しそうに呟いた。

「う~ん、美味しいっ!」
 ステージの前に並べられたパイプ椅子に座って舌鼓を打っているお客さんの中から、時折そんな歓声が上がる。
 キラパティの他にも、工夫を凝らしたスイーツの恵方巻や、炒り豆をカラフルにコーティングした小さなお菓子など、様々なスイーツがイベントを彩っていた。

 ひまりとペコリンと一緒にテントに立ったいちかは、満面の笑みで、両手をブンブンと振って叫んだ。
「う~ん、やっぱりこういうイベントって、楽しいっ!」
「はい! あ、でもいちかちゃん。周りをよく見ていないと、モンスターがいつ現れるか分かりませんよ」
「あ……そうだった」
 ひまりに小声で注意されて、いちかが慌ててキョロキョロと辺りを見回す。そしてある一角に目を向けると、ん? と首を傾げた。

 そこに居るのは、スイーツの箱を抱えたお父さんと、お母さん。そして男の子と女の子の、一家揃ってやって来たらしい四人連れ。それだけ見れば、おかしなところはどこにも無いのだが……。

「ねえ、ひまりん。あのスイーツの箱、すっごく大きくない? どこのお店のだろう」
「え、どれですか?」
「ほら、あそこの四人家族のお父さんが持ってるヤツ」
 いちかにそう言われて、今度はひまりが彼らに注目する。
「そうですね……。でも、あれって箱が大きいんじゃなくて……」
 ひまりがそう言いかけた時。
「あれ……? あたしのスイーツは?」
「え? さっきそこに置きましたが」
 キラパティの斜め向かいのテントがにわかに騒がしくなった。それと同時に、注目の四人がそそくさと会場を去ろうとする。
 その拍子に、男の子が転んだ。ポロリと落ちた野球帽の下から現れたのは、ぴょこんと横向きに生えた、紫色の二本の角――。

「いましたーっ!!」
 滅多に聞けないひまりの大声が辺りに響く。
「ネン!」
「ネン!」
 正体がバレたことに気付いたネンドモンスターたちが、慌ててその場から逃げ去ろうとする。
 だが次の瞬間、すぐ近くで呼び込みをしていたあきらとゆかりの手から、彼らの顔を目がけてチラシの束が放たれた。ステージ上のあおいがそれに気付き、予定にはない派手なシャウトを、空に向かって高らかに響かせる。

「ネ、ネン!」
「ネン!」
「ネーン!」
 音に共鳴してビリビリと震える紙が顔に貼り付き、慌てふためくネンドモンスターたち。何とか引き剥がそうと暴れたはずみに、スイーツの箱がお父さんモンスターの手を離れた。

「うわぁぁっ!」
 宙を舞う箱を、いちかが見事ダイビングキャッチ。その勢いのまま、まだ事態に気付かずスイーツを探しているお客さんの足元に滑り込むと、手の中の箱を頭上に掲げるように差し出した。
「お……お待たせしました……!」



 ステージ裏にある、出演者の控室。イベント会場からは見えないこの場所に、スイーツ消失事件に関わった店の人たちが集まっていた。その真ん中には、大勢の人間たちに囲まれて、すっかりしょげ返ったネンドモンスターたちの姿がある。

「スイーツがなくなったのは、やっぱりあなたたちの仕業だったのね?」
「ネン……」
「スイーツを、どうするつもりだったんだい?」
「ネン……」
 ゆかりとあきらの質問に、ただうなだれるネンドモンスターたち。だが。
「もしかして、またキラキラルを狙ったのか? グレイブに命令されて」
「ネネン! ネネネン!」
 リオがそう問い詰めると、四人全員が激しく首を横に振った。

「そんなわけ、ないよね? でも、それならどうして……」
「シエル」
 詰め寄ろうとするシエルを、いちかが目顔で止める。そして笑顔でネンドモンスターの前に進み出ると、腰をかがめて彼らと目線を合わせた。

「ねえ。持って帰ったスイーツは、どうしたの? みんなで食べたの?」
「ネネン」
「食べてないんだ……。じゃあ、グレイブにあげたの?」
「ネン……」
 ネンドモンスターたちが、さっきより一層しょんぼりとうなだれる。その様子を見つめて、そっか……と呟いてから、いちかはゆっくりと、噛んで含めるように言った。

「あのね。スイーツは、食べてくれる人のことを思って、想いを込めて作られたものなの」
「ネン……」
「だから、人のスイーツを黙って持って行くのは、いけないことなんだよ?」
「ネン……」
 観念したように頷く彼らにニコリと微笑んでから、いちかが右手を高々と挙げる。
「よし、じゃあ今日は……レッツ・ラ・お手伝い!」

「ネン?」
「え?」
「ええっ!?」
 顔を見合わせるネンドモンスターと、驚きの声を上げるキラパティの面々。その周りで、スイーツショップの店主たちがポカンと口を開ける。
「……それで、許してあげて下さい。どうかお願いします!」
 いちかは店主たちの方にくるりと向き直ると、そう言って深々と頭を下げた。それを見て、仲間たちの表情が、フッとほどける。
 あきらとゆかりが、ひまりとあおいが、シエルとリオが、そして渋々ながらビブリーが、いちかに続いて頭を下げる。最後にペコリンが、ペコ! と地面に付きそうな勢いで頭を下げると、店主たちは顔を見合わせて、ためらいながらも頷いてみせた。



 午後になって来場者が増え、イベントは更なる盛り上がりを見せた。どの店にも大勢のお客さんが詰めかけて、楽しそうにスイーツを選び、食べ、テイクアウトしている。そんな人々の合間を縫うようにして、小さな黒い影が、休む間もなく会場を動き回っていた。
 会場のゴミを、大きなゴミ袋にまとめる者。それを二人がかりで運ぶ者。食べこぼしで汚れたパイプ椅子を、手際よく拭いていく者。
 やがて夕方を待たずに全ての店のスイーツが完売し、イベントは大盛況のうちに幕を下ろした。

「お疲れ様。はい、どうぞ」
 人気のなくなった飲食スペース。さすがに疲れたのか、パイプ椅子に寝転がっていたネンドモンスターたちに、いちかが孔雀わらび餅を差し出す。
「ネ、ネン! ……ネン?」
 慌てて立ち上がった彼らは、目の前にある物を見て、困ったように首を傾げた。
「どうぞ。食べてみて」

「お前ら、スイーツを食べたことなんて無いんだろ」
 不意に、いちかの頭上から声がした。孔雀わらび餅の紙皿を持ったガミーが、中空からこちらを見下ろしている。
 ガミーはパイプ椅子の上に降り立つと、わらび餅を掴んで、大きく口を開けた。
「見てな。こうするんだ」
 そう言ってわらび餅を口に放り込み、モグモグと咀嚼してからゴクリと飲み込む。そしてニンマリと、幸せそうに笑って見せた。
「うめぇ~! お前たちもやってみろ」
「ネン……」
 ガミーにつられたように、一人のネンドモンスターがわらび餅を掴んで、恐る恐る口に入れた。モグモグと二度三度口を動かした途端、矢印のような二本の角が、ピーンと真っ直ぐに伸びる。
「ネン! ネン! ネン!」
 その場で小躍りを始める仲間を見て、残りのネンドモンスターたちも揃ってスイーツを口に入れる。やがて全員が輪になって踊り始めたのを見て、いちかが嬉しそうに微笑んだ、その時。
「何をやってる」
 いちかの後ろから、ドスの効いた声がした。

 ブランド物のスーツに、派手な黄色の開襟シャツ。シャツよりもっと明るい金髪と、浅黒い肌の大柄な男――。
「グレイブ!」
「毎日妙なものを持って帰って来ると思ったら……。お前ら、こんなところで何やってるんだ!」
「ネ……ネン!」

 怯えるネンドモンスターたちの前に、いちかがさっと両手を広げて立ちはだかる。ギロリと鋭い目を向けたグレイブは、いちかの顔を見て、何か酸っぱいものでも食べたような顔つきになった。
「……プリキュアか。お前に用はない。引っ込んでろ」
「いちか!」
 今度はグレイブの後ろの方から、声と同時に複数の足音が聞こえた。キラパティの面々が駆けて来て、いちかの隣に立ち、グレイブと向かい合う。

「なんだお前ら。用はないって言ってんだろ。また俺の邪魔をする気か?」
 不快そうにこちらを睨みつけるグレイブの顔を、いちかも負けじと見つめ返す。
「ねえ、グレイブ。この子たち、あなたに何度もスイーツを届けたんでしょう?」
「ああ、そうだ。俺は食わねえって言ってるのに、毎日毎日」
「それって、スイーツを持って行けば、あなたが喜んでくれると思ったからじゃないかな。きっとあなたに、喜んでほしかったんだよ」
 それを聞いて、グレイブは一瞬あっけにとられた顔をしてから、さも可笑しそうにゲラゲラと笑い出した。

「ハハハ……こりゃあ傑作だぜ!」
「なっ……何が可笑しいんだよっ!」
 あおいがムッとした様子で食ってかかる。
「だってそうだろ。俺がスイーツをもらって喜ぶだと? じゃあ何か? お前らは俺に、またキラキラルを奪えとでも言うのか」
「いや、そういうことじゃなくてさぁ……」
 もどかしそうに言葉を探すいちかを、へん、とせせら笑ってから、グレイブは再びそこに居る全員を鋭い目で見回した。
「俺はもうノワールの部下じゃねえ。昔のように、また弱い奴らを片っ端から蹴落としてのし上がろうとしている真っ最中だ。なのに、あんな甘ったるいモン毎日持って来られて、喜ぶわけねえだろ!」
「ネ……ネン……」

 縮み上がるネンドモンスターたちに、グレイブが目を向ける。
「おい、お前ら! お前らがスイーツを奪った店、残らず俺に教えろ」
「何をする気!?」
 今度はゆかりがグレイブを問いただす。
「俺様は悪党。コソ泥じゃねえ。こんなチンケな真似、俺様の仕業にされてたまるか。金を払やぁ文句は無いんだろう? ふん、こんなヤツらに盗みに入られるような店、俺様が潰そうと思えばいつだって……」
 グレイブがそう言いかけた時、再び彼の後ろから、さっきより多くの足音が近づいてきた。

 後ろを振り向いたグレイブが、驚いたように目を見開く。
 彼を取り囲む、人、人、人。皆、イベントに出店していたスイーツショップの人たちだ。そのあまりの人数に、ほんの一瞬、気圧されたような顔をしたグレイブが、ぐいっと背筋を伸ばした。

 視線には、圧力がある――それはかつて、街中の人々から敵意に満ちた眼差しを向けられた時に思い知った。
 そういう時は、圧力にもビクともしないように身構えて、こちらがより強い圧力を発すれば、恐れることは無い。

 そっくり返りそうなほどに胸を張り、人々の顔を見下すように、眼光鋭くねめつける。彼のいつものスタイルだ。
 そうしながら、グレイブが密かにグッと奥歯を噛み締めた、その時。人々の真ん中に立っていた“シュガー”の店主が、彼の前に進み出た。

「あのう、その小鬼たちは、あなたの……」
「俺の部下だ。こいつらが店のスイーツを盗んだって話だろう?」
「いえ、それはもうよろしいんです」
「あぁ? ……じゃあ、他にも何かあるっていうのか」
 穏やかにそう答えられて、グレイブが警戒するように眉をひそめる。だが、その後の言葉を聞いて、今度は呆れたように口をあんぐりと開けた。

「一言お礼が言いたくて。ありがとうございました」
「……何?」
 グレイブの様子を気にする風もなく、店主は丁寧に頭を下げ、言葉を繋ぐ。
「何しろ急だったもんで、人手が足りなくてね。いやぁ、実によく働く部下をお持ちだ。お陰でイベントは大盛況。助かりました!」
「……」

 集まった街の人たちが、皆“シュガー”の店主と同じくにこやかにグレイブを見つめる。
 視線には、圧力がある――それはかつて、街中の人々から敵意に満ちた眼差しを向けられた時に思い知った。その圧力が強大なら、自分の存在そのものに突き刺さるような、痛みを感じるということも。
 だが今は、視線には温度もあるのだということを知る。いや、感じる。
 圧力などとは違って、妙にあたたかくて、柔らかくて――。

 開けたままの口を閉じることも、言葉を発することも出来なくなったグレイブの前に、あきらとひまりがネンドモンスターたちを連れて来た。
 人々の間から、拍手が沸き起こる。その時、さりげなくグレイブの隣にやって来たビブリーが、彼の耳元でこう囁いた。
「今、形だけでも挨拶しておけば、金に物を言わせる必要なんて無いんじゃない?」
「部下がこれだけ認められてんだ。上司からの一言は、必要だろ?」
 今度はリオが、グレイブと目を合わさずに澄ました顔で呟く。
「へん。お前ら、せっかくいい気分のところを邪魔しやがって」
 グレイブは小声で悪態をついてから、観念したように、ゴホンと大きく咳払いをした。
「こっちこそ……こいつらが迷惑をかけて、本当にすまなかった」
「ネン!」
 重いものをやっと動かしているような動作で、グレイブが頭を下げる。ネンドモンスターたちも、慌ててそれに続いた。

「ふん。スイーツを奪ったヤツらに礼を言うとは、けったいな連中だぜ」
 スイーツショップの人々が去ると、グレイブは再び鋭い眼差しでいちかたちを見回した。だが、心なしか上気しているその顔に、もはやさっきのような迫力は無い。
「良かったね、グレイブ」
 ニコニコと話しかけてくるいちかに、へっ! と一言吐き捨ててから、グレイブはネンドモンスターたちを、いつもの調子で怒鳴りつけた。
「いつまでグズグズしてる。行くぞ、お前ら!」
「待つペコ~!」

 その時、今度はトテトテという頼りなげな足音が聞こえて来た。人間の姿のペコリンが、両手で大事そうに皿を捧げ持って、懸命に走ってくる。
「グレイブ! これ、食べてペコ」
 皿の中には、今日キラパティのテントに並んでいたものより少々いびつではあるものの、丁寧に盛り付けられた孔雀わらび餅があった。
「だから、俺はスイーツなんて……」
「グレイブのために作ったペコ。だから食べてほしいペコ!」
「……売れ残りじゃねえのか」
 いかにも迷惑そうな顔をしていたグレイブの目が、僅かに泳ぐ。

「ペコリンが言ってることは、本当よ」
 ペコリンの後ろから、シエルも駆け足でやって来た。
「新作スイーツ、全部売り切れちゃって。ネンドモンスターたちの分は取っておいたけど、それも全部なくなっちゃったから、ペコリンが大急ぎで作ったの。あなたにどうしても食べてもらいたいって」
 グレイブは、シエルの顔を睨むように見つめてから、その目をペコリンの持つ皿の方へと向けた。

 皿の上のものを無造作に摘み上げ、しげしげと眺めてから、口の中に放り込む。そのままモグモグと咀嚼して、ゴクリと飲み込んだグレイブの口から、うめくような声が漏れた。
「う……」
「う?」
「う……うま……」
「どうペコ? 美味しいペコ?」
 ペコリンが、期待に目を輝かせてグレイブの顔を覗き込む。そのキラキラした瞳を見て、グレイブの顔がまた少し上気した。

「う……う、うるせえ! お前、まだ修業中だろ。知り合いに旨いって言われたくらいで、喜んでるんじゃねえ!」
「じゃあペコリン、もっと美味しいスイーツが作れるように、頑張るペコ。グレイブ、また食べに来てくれるペコ?」
「また……来てもいいって言うならな……」
 極々小さな声で呟いたグレイブが、笑顔でこちらを見つめるキラパティの面々に目をやって、へっ! と再び吐き捨てるように言った。

「あんまり顔を出さないでいて、どこかで野垂れ死にしたと思われるのもシャクだからな。たまにはお前たちのスイーツでも食いに来てやるぜ」
 それを聞いて、今度はいちかが嬉しそうに、ピョン、とひと跳びでペコリンの隣に立つ。
「ホント? 約束だよ、時々は顔を見せてくれるって。ネンドモンスターのみんなもね」
「うるせえな、たまにだぞ? その代わり、お前たちがどこに居ても、世界の果てまで探して顔を見せてやるから覚悟しとけ」

 精一杯の威厳を込めてそう言い放ってから、グレイブが再びネンドモンスターの方に向き直る。
「さあ、行くぞお前ら!」
「ネン!」
「ネン!」
 去っていく彼らを見ながら、いちかは満足そうに微笑んで、人間の姿になっても小さくぷにぷにとしたペコリンの身体を、ギュッと愛おしそうに抱き締めた。


   ☆

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「……なぁんてあの時はカッコつけてたのに、ダッサ! 毎日毎日やって来て、いくら注意しても、毎日毎日、店の真ん前に車停めて……。邪魔だって何度言ったら分かるのよ!」
「ったく……てめえも毎日毎日うるせーな!」

 あれから数年。いちご坂自然公園に、今やキラキラパティスリーの姿は無い。
 その代わりのように建っているのは、キラパティに似ているけれど、もっと丸っこい形をしたペコリンパティスリー。その店の前で、今日もグレイブと、今はこのパティスリーを手伝っているビブリーが睨み合っていた。ネンドモンスターたちが二人を取り囲んで必死で仲裁しようとしているが、どうやらその努力は今日も水の泡のようだ。

 あの頃と同じように、へっ! と吐き捨てたグレイブは、ふと思い出したように、ぶっきらぼうな調子で言った。
「そういやぁ、あの青いプリキュアが、この町に帰って来てライブをやるそうじゃねえか。凱旋公演とは、たいそうなご身分だぜ」
「ええ、いちかたちも観に来るそうね。知らせたのは、あんたなんでしょ?」
 ビブリーもつっけんどんにそう言ってから、グレイブの顔を覗き込んでニヤリと笑った。

 ブルー・ロック・フェス――毎年いちご坂で行われるロックの祭典の、今年のメインイベントとして、あおいたちのバンドが招かれることになったのだ。
 決まったのはほんの数日前。すぐにあおいから、ペコリンやビブリーを含めた仲間全員に報告があったのだが、いちかとゆかりは今どこにいるのか分からず、連絡がつかない状態だった。それがほんの二、三日のうちに、彼女たちの方から相次いで、あおいに連絡してきたのだ。
 どうやら二人の居場所を探し出し、異国に居る彼女たちの元に直接出向いて、このニュースを伝えた人物が居たらしい。そのお陰で、キラパティのメンバーはこの夏、数年ぶりにここいちご坂で集まることになっていた。

「ああん? 覚えてねえな」
 グレイブがあさっての方を向いてうそぶく。だがその時、こちらに向かって駆けてくる少女の姿が目に入って、嬉しそうな困ったような、実に複雑な表情になった。
「グレイブ~! また来てくれたペコ。嬉しいペコ! さあ、新作スイーツがあるから、食べてみてペコ!」
「分かった分かった。うるせえな。おい! お前らも来い!」
「ネン!」
 迷惑そうな顔をしながら、ペコリンに急かされて、いそいそと店へと向かうグレイブ。その姿を、ビブリーがさっきよりさらに嬉しそうに、ニヤニヤと見送る。いちかたちに、早くこんな彼の姿を見せてやりたいと思いながら。
 いちご坂に、もうじき暑い夏がやって来る。

~終~
最終更新:2018年05月06日 20:54