小さな鳥は笑顔を運ぶ/ゾンリー




「あれっ?えみるちゃん」
「ことりちゃん、奇遇なのです!」
のどか……とは決して言えないような暑さの七月十五日。はぐくみ市立の図書館で、二人は遭遇した。
「ことりちゃんも読書感想文の本を探しに来たのです?」
迫る夏休み。小学校から出される大量の宿題の一つ、読書感想文。
「うん、だいたい目星はついてるんだけどまだ決められなくて。そういうえみるちゃんは?お姉ちゃんやルールーと一緒じゃないの?」
ことりのその言葉で、えみるの顔に影がかかった。
「実は、中学生以上の大事な会議があるからとビューティハリーを追い出されてしまったのです……もしかして私……」
その後に続く言葉は「嫌われているんでしょうか」か、はたまた別の言葉か。そう思った時には既にことりは声を発していた。
「それは違うと思うよ」
その声は静寂な図書館の中で少しだけ大きく響いた。
「あっえっとね、お姉ちゃんってすごく不器用なんだ。それこそ隠し事なんてバレバレでさ」
「だからね、もし仮にそうだったとしても回りくどい事しないと思うんだ。きっとサプライズかなにかじゃない?」
「サプライズ……」
冷房が効く図書館の中で、暖かいものがえみるの中に込み上げてくる。
「そ。だからしばらく待ってあげようよ、私も付き合うから。」
「ことりちゃん……!」
こうしてしばらく、二人は図書館の中を探索した。
「この絵本、懐かしいのです!」
えみるが手に取ったのはごくごく普通の、一冊の絵本。
「あ、それ懐かしい。ママに読んでもらってたけど、いつも途中で寝ちゃってさ……」
「ふふっ、なんだか可愛いのです!」
昔の話だけどねと肩をすくめることり。
三十分程経っただろうか。
えみるのプリハートにはなから連絡が入った。
急いで図書館に戻り、ことりに伝えるえみる。
「はな先輩からビューティハリーに来て欲しいと連絡が入ったのです!」
ことりはめいっぱいの笑顔を浮かべて、
「よかった。行ってらっしゃい!」
と見送ろうとした。
えみるは歩き出さなかった。
「あの……よかったらことりちゃんにも来て欲しいのです」
「私?」
えみるは顔を紅潮させながらことりに顔を近づける。
「きっとことりちゃんが来てくれなかったら自己嫌悪に陥ってたのです!せめてものお礼をしたいのです!」
力説するえみるにことりは従う他なかった。
「こんにちはなのです!」
「お邪魔しますー……」
カランコロンと音を立てながらドアを開いた、その瞬間。
パン!パン!と立て続けに鳴るクラッカー。投げられるリボン。そして……
「「えみるー!お誕生日おめでとう!」」
はなやルールー達からのお祝いの言葉。

今日は、えみるの誕生日だった。

「さぁー入った入ったー!ってことり!?どうして?」
「私が一緒に来て欲しいとお願いしたのです!」
「ええやん、パーティはたくさん人が居た方が楽しいんやでー」
はなとえみるとハリーが会話している最中も唖然とすることりを、さあやとほまれが中に入れた。
「ほら、外暑かったでしょ」
「ジュースもたくさん買ってきたから、みんなで楽しみましょ?」
「あっ、ありがとうございます」
ことりが言葉を発していた間に、えみるが「本日の主役」と書かれた襷を下げてみんなの前に立った。
「皆さん!ことりちゃん!今日は本当にありがとうなのです!」
ハリーからこっそりコップを渡される。
「これからもプ……ああああえっと色々諸々頑張ります!乾杯なのです!」
「「かんぱーい!」」
紙コップなのでいい音は鳴らなかったが、えみるにはそんな事気にしてないたようだ。
一人一人に挨拶してきたえみる。最後はことりの番。
「もう、誕生日なら言ってくれればよかったのにー」
「実は私自身忘れていたのです!にしてもサプライズは本当だったのです」
「だから言ったでしょ?まさか私まで来ることになるなんて思ってなかったけど」
二人でひとしきり笑った後、もう一度紙コップを合わせた。

「お誕生日おめでとう、えみるちゃん」
「ありがとうなのです!ことりちゃん」
(終)
最終更新:2018年07月16日 11:58