臥待月の夜/一六◆6/pMjwqUTk
部屋の中が、しん、と静まり返っている。そんなこと、ここ数年は当たり前だったのに、何だかそれが新鮮に感じられた。
この三日間――今日、リコたちが帰るまでの間、自分でも驚くくらいずっと喋り通しだったのだから、不思議ではない。それでも話したいことの十分の一も、まだ話せてはいないのだけれど。
半開きになった窓の隙間からは、今夜の月が覗いている。机の上に座ってそれを眺めていたモフルンが、モフ! と叫んで、くるりとみらいの方を向いた。
「今夜のお月様、何だかオムライスみたいな形モフ」
「オムライス?」
首を傾げて窓の外に目をやったみらいが、ああ、と頷く。確かに今夜は、半月より少し膨らんでいるくらいの欠け具合だ。
「今夜は満月から四日目。臥待月だね」
「ふしまちづき……モフ?」
「うん。満月の次の日が十六夜でしょ? その次の日が立待月、その次の日が居待月、そして今夜が臥待月。だんだん上るのが遅くなって、寝ながらじゃないと待てないお月様、って意味だよ」
「みらい、やっぱり詳しいモフ」
「ずっと毎日見てたからね~」
軽い調子でそう口にしてから、みらいが少し慌てたように、モフルンにニッと笑いかける。
リコが十六夜の姓を名乗ってから、色々調べてより月のことに詳しくなった。そして毎晩一人で月を眺めるようになってからは、まるでその満ち欠けのように、夜ごとに違う感情が、ぐるぐると胸の中に渦巻いた。
十六夜の夜には、どうしても期待が抑えきれなくて、そのせいで余計落ち込んだり、分厚い雲の間からぽっかり顔を出したその輝きに、いつか必ずまた会えると励まされたり。
(そして……やっと会えた……)
みらいはベッドに腰かけて、ゆっくりと部屋の中を見回す。
(リコはそこの椅子に座って、勉強机を見ながら「懐かしいわ」って言ってたっけ。はーちゃんは相変わらず、ベッドの上をごろごろ転がってた……)
数年ぶりに再会を果たしたリコとことはとモフルンと一緒に、この部屋で夜が更けるまで語り明かした三日間。その夢のような時間をもう一度味わう様に、あの賑やかな光景を、会話のひとつひとつを丁寧に思い起こす。
と、その時みらいの膝の上に、ぴょん、とモフルンが飛び乗って来た。
「みらい」
「なあに? モフルン」
「実は、モフルンはずっと、やってみたいと思っていたことがあるモフ」
「やってみたいこと……?」
不思議そうに問いかけるみらいに、二ヒヒ……と悪戯っぽく笑ってから、モフルンは大きく両手を広げて抱きついた。
「本当は、もっともっと早くこうしたかったモフ……。みらい、長い間一人でよく頑張ったモフ。偉いモフ!」
「モフルン……」
幼い頃から慣れ親しんだ、柔らかくてあたたかな感触。ずっとみらいの傍に居てくれた温もりだけど、モフルンから抱きついてきてくれると、やっぱり何かが違う――。
それが嬉しくて、いつものようにモフルンを抱き上げようとしたみらいが、そこで手を止めた。
モフモフした両手は、いつも以上に目一杯伸ばされて、みらいの肘の辺りをしっかりと抑え、ギュッと力を込めている。
(モフルン……ひょっとして、わたしに抱きついてるんじゃなくて、わたしを抱き締めてくれているの?)
みらいがキュッと両手を握り締める。そしてその手を、モフルンの小さな背中に、そっと回した。
「一人じゃないよ。いつだってモフルンが一緒に居て、ずっと見ていてくれたじゃない」
「モフ!」
数年ぶりに二人で目と目を見交わして、声を出さずに笑い合う。
臥し待ちの月は、窓の外から柔らかな光を投げかけて、抱き合う二人を静かに見守っていた。
~終~
最終更新:2019年03月10日 12:31