天文台で発見
車が停まる。
「天文台…でしょうか」
れいかが言った。
セバスチャンは、あゆみとれいかを残し、中に入る許可を得るため建物に向かっていった。
あゆみはちらりと後ろを見た。大きめのワゴンが静かに待っている。四葉家の科学捜査チームが中に乗っているらしい。いつもなら、四葉家はいつも大げさだなぁ、と笑うところだが、今回はそういうわけにはいかなかった。改めて今日の参加者の顔を見たら、リコやことはだけではなく、トワもいた。彼女たち自身も、どうやってこの世界に来たのかわからないのだという。みらいは、誰かが「プリキュアを集めたい」とか願いをかけたんじゃないかな、と言ったが笑ったのは数人だけだった。
「返事がありません。やむをえませんな」
セバスチャンが戻ってきた。やむをえないとどうするのだろう、と思ったが、後ろのワゴンから人が下りてきた。彼らは背中に大きなリュック――ではないのだろうが、ほかに何と言えばいいのか――を背負うと建物に向かっていった。
「おふたりも参りましょう」
れいかが、どこに行くのですか、と聞くと、建物の裏側でございます、という答えが返ってきた。
「裏側?」
ふたりの疑問をそのままに、セバスチャンと捜査チームは建物の脇を抜けて裏手に進んでいった。つまり、やむを得ないので許可を得ずに中に入る、というわけだった。
思ったより広い。顔を上げると星がよく見える。
「しばらくここでお待ちください」
捜査チームが、色々な器具を背中のリュックから取り出した。早速、調査が始まっているようだ。
「望遠鏡…でしょうか」
れいかが指さす。確かに、星空の観察に適した晴天ではあるが、一基は倒れていた。あゆみが、何かあったのかな、とつぶやくと れいかが頷いた。
「お待たせしました。
坂上様、当家のものと一緒に、その望遠鏡の確認をお願いできますか。
青木様は、こちらの方へ」
「あ、でも」
れいかがあゆみを見る。心配してくれているのだろう。
「ありがとう。大丈夫だよ」
「わかりました。
無理はなさらないでくださいね」
うん、と頷き、捜査チームの後ろをついていく。一人は立ったままの望遠鏡を、あゆみともう一人は倒れた方に近づいた。起こすのを手伝う。
そんなに、というくらい慎重だった。その望遠鏡で何を見ていたのかを確認したいのだと言う。
「倒れた時に動いたりしてませんか?」
なんでも、三脚の状態から想像して場所はずれていない可能性が高いという。台の上の望遠鏡自体は動いたかもしれないが、重さや固定の状況を調べれば、少なくともここからここまでのどこか、という範囲は見当がつくらしい。捜査チームのメンバーは、蹴とばしたりしていれば別ですが、と付け加えながら望遠鏡に機器を接続した。装置の数字を見ながら細かな作業をしてファインダーをのぞく。
何が見えるのか目元だけでなく口元まで一緒に動かしているのがおかしい。あゆみの頬が緩みそうになったが、そういう場合ではない、と思って我慢する。やがて彼は顔を離した。
「何が見えたんですか?」
特に何も、と言う。うっすらと銀河が見えるだけだったらしい。わたしものぞいていいですか、と言うと彼は場所を譲った。望遠鏡を動かさないようにそっと顔を寄せる。
「…。
きれい」
確か「連星」というのだったか。青や緑、黄色のカラフルな星が五つほど並んでいる。
「あれ、なんていう星だかわかりますか?」
捜査チームのメンバーは、多すぎて「あれ」と言われても、と苦笑した。銀河を形成する星には違いないが、と言う。
「いえ、そういうのじゃなくて。あの五つの星です」
場所を替わる。彼はやはり、そんな目立つ星はない、と言う。
自分はまだ疲れていてありもしないものを見えたと思ってしまっているのか、と思っていると れいかとセバスチャンがこちらに来るところだった。
「もうあちらの調査は終わったんだそうです」
「え、もう?」
こちらは望遠鏡を起こし終わったばかりだというのに。れいかの方の望遠鏡は倒れたりしていないのですぐ終わったのであるらしい。
「あゆみさん、少し顔色が戻りましたね。よかった」
気づかなかった。あゆみは自分の頬に手を当てた。確かに、さっきよりは暖かくなっているような気がする。いや、それより。あゆみは、れいかにファインダーをのぞかせた。
「あ…」
れいかも、あゆみと同じように、その星の美しさに笑みを浮かべた。逆に、捜査チームのメンバーたちには困惑が浮かんだ。
「どう?」
「素敵です。心が温かくなるような、勇気づけられるような、そんな光です」
「わたしにも見せていただけますか」
あゆみと れいかが下がり、セバスチャンがファインダーをのぞき込んだ。
「…」
「セバスチャンさん…」
セバスチャンは、顔を上げると、メンバーに何事かの指示を出した。
「重要な手がかりが得られたようです」
「どういうことですか」
「わたしにはいつもの天の川しか見えません。ほかのメンバーも同じです」
「え」
「ここにいる中では、それを見ることができるのは、坂上様と青木様だけのようでございます」
「わたしと、れいかちゃんだけ…。
!」
声にならない声を上げる。ふたりは顔を見合わせた。
あの星はプリキュアにしか見えないのか。
「実は、この望遠鏡が向いている方向が、昨日、ワームホールで皆さんが向かった方向なのです。
必要なデータは取得したしました。急ぎ戻り、詳細な分析を加えたく思います」
れいかが、急ぎましょう、という。あゆみも遅れて頷いた。
最終更新:2019年08月17日 14:49