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夏の星空は夢への道/みこと




それは、アコからの突然の申し出だった。

「「「自由研究?」」」
「そう。夏休みの自由研究をまとめるために、みんなに手伝ってもらいたいことがあるの」

アコは真剣な表情で、仲間である響、奏、エレンにこう呼びかけた。
彼女たちはこの日、学校の終業式を終えて帰路に就いていた。
私立アリア学園中学校も市立加音小学校も今日で一学期が終わり、明日からいよいよ待ちに待った夏休みである。
ノイズとの長い戦いも終わり、あれから響たちは中学三年生、アコは小学四年生になっていた。

「自由研究かぁ~。私、毎年いくら実験しても成功した試しがないんだよね。はぁ、気が重い……」
そう言うと響は首を垂れてしまった。
「去年はお花を育てようとしたら見事に枯れちゃったニャ」
「ハミィ、恥ずかしいから言わないで~」
それを聞いた奏はやれやれと思い、俯いた響の顔を覗き込んだ。
「仕方ないわね。今年は私も手伝ってあげるわ」
「本当!?ありがとう奏!」
響は奏の手をぎゅっと掴み、目をキラキラと輝かせて感謝の気持ちを伝えた。

「あのさ、私の話聞いてる?」

響と奏はその呼びかけにハッとすると、自分たちに対してじろりと睨みつけるアコが目の前にいた。
「ごめんごめん。つい……」
二人は苦笑いしながらアコに謝った。
「それで、私たちはどんな事をすればいいの?」とエレン。
その質問を待ってましたと言わんばかりに、アコは口を開く。

「実はね、私は自由研究で星座について調べようと思っているの。だから《加音科学博物館》に行くつもりなんだけど……」
「うんうん。それで?」と響。
「そのために学校の図書館で星について調べていたら、ある上級生の男の子と出会って、今度の日曜日にその男の子と一緒にプラネタリウムを見に行くことになったのよ。でも保護者無しで行くわけにもいかないでしょう?あいにくお祖父ちゃんはその日都合が悪くて……だからあなたたちに、私の保護者代わりとして一緒に来てもらいたいの」
「ちょ、ちょっと待って。上級生の『男の子』!?」
アコの説明に、奏が顔を紅潮させてあたふたする。
「男子って……まさかアコ、その子とはそういう関係ってコト!?」
アコは奏の発言の意図をすぐに理解できなかったが、その表情が徐々に林檎のように赤く染まった。
「ち、違うわよ!その男の子も自由研究で星について調べてたから、せっかくだから一緒に行こうってことになっただけよ!」
「本当にぃ?」
「本当よ!」
疑り深い奏の問いかけに、アコは不機嫌になってしまった。

「まあまあ。それよりも今度の日曜日、アコの付き添いとしてみんなで行きましょうよ」
エレンはアコと奏をなだめながら、みんなにそう呼びかけた。
「うん、ここで決めなきゃ女が廃る!アコの保護者としての務めを果たさなくちゃね!」
「響、言っておくけどプラネタリウムを見ている最中にぐっすり寝ないようにね」
「う……が、頑張る……」
奏に釘を刺されてしまい、また苦笑いする響なのであった。


そして日曜日の午前九時五十五分。
響と奏とハミィは加音科学博物館の正面玄関前にいた。
アブラゼミが暑さを掻き立てるようにやかましく鳴いている。

「プラネタリウム、どんな所か楽しみだニャ~。きっと楽しい所だニャ!」
ハミィは、初めてのプラネタリウムに期待に胸を膨らませていた。
「ふふ、そうね。約束の時間まであともう少しだし、エレンとアコもそろそろ来るはずよ」
奏は、抱き抱えているハミィに対して微笑んだ。
「ところでさ、どんな子だろうね?上級生の男の子って!」
響は、まだ見ぬ少年が誰なのか知りたいというワクワクした気持ちでいっぱいだった。
「案外、私たちも知ってる子だったりするかも?早く会いたいわ」と奏。

「響、奏、ハミィ!」
するとピーちゃんを抱き抱えたアコと、エレンがこちらに向かってやって来た。
「遅くなってごめんなさい。エレンが出発間際に『プラネタリウムに行くなら宇宙服に着替えないと!』とか言い出すもんだから、遅くなっちゃったわ」
アコはそう言うとエレンを睨みつける。ピーちゃんも呆れ顔だ。
「だ、だって!プラネタリウムって宇宙空間を映し出すものなんでしょう?だったら私も宇宙飛行士に成り切らないといけないと思って……」
「エレン、それってもしかして……」
「ええ!音吉さんの本で勉強したのよ!」
響の問いかけに自信満々の表情で答えるエレン。
響たちはエレンのどこかズレている知識に呆れてしまった。

「それにしても、例の男の子はまだかしら?」
奏がきょろきょろと周りを見渡す。
「そういえば、少し遅れるかもしれないって言っていたわ。お父さんがお医者さんで、最近やっと一年ぶりに海外から帰って来たばかりらしいから……」とアコ。
「「「え?」」」
響と奏とエレンは、アコの言葉にハッとした。

「アコ、今なんて言ったの?」
響は真剣な表情でアコに質問した。
「え?少し遅れるかもしれないって……」
「そうじゃなくて、その後よ!」と奏。
「だから、その男の子のお父さんはお医者さんで、最近やっと一年ぶりに海外から帰って来たばかりだって……どうかしたの?」
アコは何故三人が驚いているのか、全く分からなかった。

響と奏とエレンは、雷に打たれたように目を大きく開き、口を揃えてこう言った。
「「「もしかして、その男の子ってーー」」」


「あ、いたいた!おーい、アコちゃん!」


すると、背後からはつらつとした声が聞こえてきた。
響たちが振り返ると、水色のシャツにオリーブ色のズボンを履いている少年と、アイボリー色の背広を着て眼鏡をかけた成人男性がこちらにやって来ていた。

少年はこちらに向かって手を振っている。響たちはその少年に見覚えがあった。

「「マモル君!」」
「マモル!」
「お姉ちゃんたち‼︎久しぶり!」
その少年ーーマモルは響と奏、そしてエレンとの思いがけない再会にとても喜んだ。

「マモル君を知ってるの?」
アコは鳩が豆鉄砲を食ったような表情になり奏に質問する。
すると奏はウインクをして、にっこりと笑った。
「ええ。私たちの友達よ!」


マモルは、エレンがプリキュアとして覚醒したばかりのときに出会った少年だ。

あの時マモルは、船医として海外に行かなくてはならない父・健吾に反発し、父の仕事道具の入ったバッグを持ち出して調べの館まで逃げ出していた。
エレンは自分の居場所はどこにも無いと感じ『自分は一人ぼっち』だと思い込んでいたが、マモルとの交流を経て彼女は『みんなと心と心で繋がりたい』と願うようになったのだ。

そしてエレンは、この再会を誰よりも喜んでいた。

「マモル、背が伸びたわね!元気だった?」
「うん、元気だよ!びっくりしたよ、まさかこんな所でお姉ちゃんたちと会えるなんて!」

久しぶりの再会で会話が弾むエレンとマモル。
健吾はその光景を温かい眼差しで見つめていた。

「マモル君のお父さん、お久しぶりです!」
「日本に戻って来られたんですね」
響と奏が健吾に呼びかける。
「ああ、そうなんだ。あれから一年経ったからね。先週帰国したばかりなんだ。今日は息子の付き添いでここに来たんだよ」

すると健吾はアコに視線を移し、彼女に歩み寄って握手を求めた。
「君が調辺アコちゃんだね。今日はマモルをよろしくね」
「こちらこそ、今日はお世話になります」
アコは差し出された健吾の手をそっと握り返す。

「アコちゃん、今日はよろしくね。分からないところがあったら僕に遠慮なく聞いてね!」
「うん、よろしくね。マモル君」
アコはマモルの頼もしい言葉に微笑んだ。

「よーし、挨拶も済んだことだし、いざ科学博物館にレッツゴー!」
響はワクワクした気持ちを抑えられず、嬉々とした声でみんなに呼びかけた。


「わぁ、素敵……!」
エレンは思わず感嘆の声を上げた。

科学博物館の中に入ると惑星の形を模した大きな展示物が吊るされており、宇宙船のロケットエンジンや隕石も展示されていた。
加音科学博物館の館内は展示物が非常に充実しており、目で見て充分楽しめる空間が広がっている。

「へー、ここって恐竜の化石も展示されてるんだ!」
「ガイドマップによると、他にも科学の実験をするショーもあるみたいね。何だか面白そう!」
響と奏は、充実した展示物やイベントにワクワクし、胸が高鳴っていた。

するとマモルがにんまりと嬉しそうな顔をほころばせ、口を開いた。
「ここでみんなに問題!太陽の大きさは地球の何倍でしょうか?」

「た、太陽の大きさ?あんなに小さいんだもん、そんなに大きくないんじゃない?」
響は頭上の窓から見える太陽を指差した。
アコは響の珍回答に呆れ果て、一つため息をついた。
「そんな訳ないじゃない。太陽が小さく見えるのは、地球との距離がとてつもなく遠く離れているからよ」
「え、そうなの?」

すると、考えを巡らせていたエレンがハッと閃いた。
「答えが分かったわ、マモル!太陽の大きさは地球の百九倍、でしょう?」
「正解!お姉ちゃんすごいね!」
マモルは、まるで花が開いたような笑顔を浮かべた。
「前に音吉さんの本で読んだのを思い出したの!マモルはすごいね。太陽の大きさまで知っているなんて」
「えへへ、そうかな?僕、星について調べることが大好きなんだ」
マモルは、エレンに感心されて面映ゆい気持ちになった。
すると、頭上から女性の声のアナウンスが流れてきた。
『間もなく、十時四十分よりプラネタリウムの投影が始まります……』

健吾が自分の腕時計で現在の時刻を確認する。
「十時四十分まであと十分だね。みんな、そろそろ行こうか」
「「「「「はーい!」」」」」

扉を開けて中に入ると、そこには白いドームの天井と、ダンベルのような形をした投影機が中央に鎮座していた。
座席に座って椅子を倒すと、天井を見上げた状態になった。
「ピーちゃん、プラネタリウム楽しみだね」
「ピー!ピー!」
アコの言葉に、ピーちゃんも楽しそうに返事をした。
響たちは、これから始まるプラネタリウムの投影に期待が膨らんでいた。

『大変長らくお待たせいたしました。それでは、プラネタリウムの投影を始めます』

操作卓に座った男性の解説員が挨拶をすると、照明が徐々に落ちていき、夕方の風景が天井に映る。

『これは、加音科学博物館から見える夕方の風景です。これから、陽が沈み、加音町を照らす今夜の星空を再現してみましょう……』

解説員がそう言うと、天井に映された灰色とオレンジ色のまだら模様に染まった西空の雲が、一瞬で満点の星空に変わった。

「わぁ、すごい……!」
数えきれないほどの数の星の光に感動し、思わず声を上げる響と奏。

『都心部では街の灯りが明るくなりすぎてしまい、たくさんのお星様を見つけることは難しくなってしまいました。ですが、私たちの頭の上には、いつでも美しい星空が広がっているのです……』

解説員は穏やかな口調で今夜見える夏の星座たちを指し示して解説する。
そして天井に映された星座絵は星の並びに重ね合わせるように浮かび上がった。

エレンは、プラネタリウムの星空にうっとりしていた。
彼女は以前響たちとプリキュアの力のパワーアップのために合宿をした日の夜空を思い出し、思わず頬が緩んだ。

(あの時の特訓は大変だったけど、楽しかったなぁ。みんなで寝ながら見上げた夜空を見ていて、気がついたらぐっすり眠っていたっけ……)

すると解説の内容は星座から惑星へと変わった。

『東に見えますのは、夜空を照らす満月です。月は、太陽の光に照らされて光っているように見えており……』

《セイレーンと会えなくなってから、ハミィは随分月を見上げたニャ》

「あっ……」
エレンの脳裏にハミィの言葉が浮かび、彼女は思わず声にならない声が唇から漏れた。

涙が溢れた時は月を見上げる。
それをハミィに教えたのはかつてメイジャーランドの妖精・セイレーンだった自分。
過去に自分が何気なく言った言葉を、親友であるハミィはずっと大切にしていたのだ。

(でも、私はーー)

エレンはハミィのいる方向を見た。
奏に抱き抱えられ、星空をとても楽しそうに見つめている。

かつて大切な親友であるハミィの素晴らしい歌声に嫉妬してしまい、悪に心を染められて多くの人々を悲しませてきたあの時の自分の罪の数々が、エレンの記憶に滲み出てくる。

これまで犯してきた罪は消せない。それは自分がよく分かっている。
だがエレンにとって一番つらいのは、自分のことをひたすら信じ続けた純真無垢なハミィを何度も騙し、傷つけてしまったことだった。

(ハミィには、たくさん悲しい思いをさせてしまったわ……)

親友への申し訳なさと自責の念に駆られ、エレンはじっと目を落として俯いてしまった。
そんな彼女の隣に座っていたマモルは、エレンの表情が暗くなったのを見逃さなかったのだった。


プラネタリウムの投影が終わり、響たちは会場の外に出ていた。

「あー、面白かった!楽しかったね、みんな!」
響は、ぐいっと背伸びをしてそう言った。
「響、ハミィは響がさっきまでず~っと眠気と格闘してたこと知ってるニャ」
「うっ……いいじゃん、寝ないように頑張ってたし!」
奏に抱き抱えられた状態のハミィに 小声でからかわれる響。

「アコ、自由研究まとめられそう?」
「ええ。解説員さんの説明が分かりやすかったから、とてもためになったわ」
奏の問いかけに対して、微笑んで答えるアコ。

「次どこに行こうか?エレンはどこがいい?」
響がそう質問するが、答えはない。
エレンはぼんやりと考え入っているような沈んだ表情で俯いていた。

「エレン?」
「あっ……ごめんなさい。そうね、どこに行こうかしら?」
エレンは少し慌てた口調で返事をした。

エレンの様子がおかしい。
響と奏とアコは、彼女の異変にすぐに気づき、目配せをした。

そして何かを思いついたアコが、マモルに話しかけた。
「ねえ、マモル君。マモル君って確か惑星について調べてたわよね?」
「うん、そうだよ!」
「それならここに行ってみたら?せっかくだし、エレンと二人で」
そう言うとアコは、ガイドマップに書かれてある【太陽系ゾーン】というフロアの絵を指差した。

「二人って……みんなは行かないの?」
アコの提案に、戸惑いを隠せないエレン。
「私たちはこれから【恐竜の化石ゾーン】に行って、その後科学の実験ショーを見に行くわ。響と奏が行きたがっていたし」
「ありがとう、アコ!」
響と奏は自分たちにも気を利かせてくれたアコに感謝した。

「僕、行ってみたいなぁ!【太陽系ゾーン】!お姉ちゃん、一緒に行こうよ!」
「えっと……健吾さん、構いませんか?」
エレンは苦笑いをして健吾に二人で行く許可を得ようとする。
「構わないよ。マモルをよろしくお願いします」
穏やかな笑顔と声で健吾はそう言い、軽く頭を下げた。

こうして、エレンとマモルは響たちと一度別れて、二人で科学博物館内を見て回ることになったのだった。


「お姉ちゃんさ……何かあった?」
「え?」

【太陽系ゾーン】に展示されている巨大な天体望遠鏡の前で考え事をしていたエレンは、マモルからの質問に気づくのにワンテンポ遅れてしまった。

「ほら、プラネタリウムで解説員さんが月について説明してた時から、お姉ちゃん元気無いからさ……ひょっとして、プラネタリウムつまらなかった?」
マモルはエレンに不安げな表情で問いかける。
「そ、それは違うわマモル!みんなとのプラネタリウムはすごく楽しかった!ただ……」
「ただ?」

マモルは、エレンの顔をじっと見つめた。だがエレンには、マモルのまっすぐな視線が痛かった。
自分の過去のことをそのまま説明するわけにもいかず、かと言ってマモルには嘘をつきたくないという気持ちもあり、どうしたらいいのか分からなくなったエレンは口籠ってしまった。

「言いたくないならいいよ。無理に聞かないから」
マモルは穏やかな表情でそう言い、他の展示物に視線を移した。
「僕、お姉ちゃんと久しぶりに会えて、本当に嬉しかったんだ。何でか分かる?」
マモルの質問に、エレンは首をかしげる。

するとマモルは、満面の笑顔を向けてこう言った。

「一年前、初めて出会った時よりお姉ちゃんがとても幸せそうだったからなんだよ」

その言葉にハッとするエレン。

「あの時のお姉ちゃんは何だか寂しそうで、自分の殻に閉じこもってるような感じだった。まぁ、僕もそうだったんだけどね。でも今は違う。お姉ちゃんの笑顔を見てたらすぐ分かったよ」

そう言うとマモルは、バッグからある物を取り出した。
それは、父親の健吾が一年間離れ離れになっても寂しくないように、と手作りしてくれた猫の人形だった。

「パパには言ってないんだけどね。パパが船医として外国に行っている間、この人形があっても寂しいって思う時はあったんだ。でも、そんな時はいつも夜空を見上げてた。星空を見ていると、パパと心と心で繋がっているように思えたんだ」
「そうだったの……」とエレン。

「僕ね、星って人と人との繋がりに似てると思うんだ」
マモルは天井に手を伸ばして、指の隙間から天井に描かれた星空の絵を見つめた。
「一つ一つ輝きは違うけど、みんなと手と手を取り合えば、やがてそれは星座という大きな絆になる。だから僕は、将来大人になったら人と人とが心と心で繋がり合えるような……その手助けをする人になりたいんだ!」

目を星のようにキラキラと輝かせてそう語るマモルの成長に、エレンはとても驚き、そして胸が熱くなった。

「マモル……その夢、すごく素敵だと思うわ。応援させて!」
「えへへ、何か照れ臭いな。この事を人に話すの初めてだったから……」
エレンの言葉にマモルは顔を少し赤く染め、手で頭をかいた。

「私の夢はね、友達の夢を応援することなの。独りぼっちだと思っていた私に『あなたは一人じゃない』と言ってくれた大切な仲間たちの夢を守りたい。そして、さっきマモルの夢を聞いて、改めて思ったの。つらい過去は変えられないけど、それを乗り越えて、前を向いて頑張りたいって」
エレンはマモルに晴れやかな表情で話し、手を差し出した。

「一緒に夢を叶えていこう、マモル!それぞれの目標に向かって!」
「……うん!」
マモルはエレンと固い握手を交わし、互いに微笑み合ったのだった。


その後エレンとマモルは響たちと合流し、科学博物館内を楽しく見て回っていた。
そして気がつけば日も高く昇り、時刻は午後三時を過ぎて別れの時間を迎えていた。

空は夏の勢いに溢れた強烈な青が広がっており、日差しの眩しさにそこら中が輝いて見える。

「皆さん、今日は本当にありがとう。マモルがお世話になりました。今日一日楽しかったな、マモル」
「うん!すっごく楽しかった!」
健吾とマモルはお互いの顔を見て笑い合った。

「こちらこそ、ありがとうございました。私たちもとても楽しかったです」
親子からの感謝の言葉に、アコが丁寧に頭を下げる。

「みんな、また会えるよね?」
「もちろん!マモル君、今度会った時は一緒に遊ぼうよ!サッカーとかキャッチボールとかしてさ!」
「それから、もしよかったらラッキースプーンに来てちょうだい。最高に美味しいカップケーキをたくさん作るわ!」
「やったぁ!楽しみだなぁ~」
マモルは響と奏からの誘いに胸を弾ませた。

「マモル」

するとエレンが、穏やかな口調でマモルの名を呼んだ。

「今日は本当にありがとう。私、あなたと出会えて本当に良かったと思ってる」
「お姉ちゃん……!」
その言葉にマモルの心は喜びに満ち溢れた。
「またいつか再会したら、マモルとお父さんに歌をプレゼントしたいの。いいかしら?」
「……もちろん!お姉ちゃんの歌声が聴けるなんて、すごく楽しみだよ!」
満面の笑みを浮かべてそう言うマモル。

「マモル、そろそろ行こうか」と健吾。
「うん!アコちゃん、お姉ちゃんたち、またね!」
マモルは響たちに大きく手を振って、その場を後にして行く。


響たちは楽しかった今日一日の余韻に浸り、マモルたちの方を見つめていた。

すると、マモルが突然振り向いて、

「お姉ちゃーーーん!!!」

と大声をあげた。ハッとするエレン。
そしてマモルは大きく息を吸い、こう言った。

「頑張ろうねーーー!!!」

その言葉にエレンはハッとし、まるで心にぽうっと暖かい炎が灯ったかのように喜びの感情が湧いてきた。

「ええ!頑張りましょう!」
マモルに向けて大きく手を振るエレン。
マモルも大きく手を振り、そして父と共に家路につくのであった。

「セイレーン、一体何を頑張るニャ?」
「それ、私も知りたい!教えてよエレン!」

エレンはハミィと響の問いかけに一考し、振り向いてこう返した。

「ふふ、秘密」

真夏の昼間の空は、どこまでも青く澄み切っていた。

~終~
最終更新:2020年02月17日 20:39