『えみるくボーイ』/Mitchell&Carroll
えみる「ルールー!知らない方から、1.5ミリの六角レンチを頂きました!」
ルールー「有難い事です。それは、いくつ有っても困らない物ですから」
えみる「そういえば……私の母が、気になるプリキュアがいるのだけれど、そのプリキュアの名前を思い出せないらしいのです」
ルールー「では、私が解析してさしあげますので、その子の特徴を挙げてみて下さい」
えみる「その子は読者モデルをしていて、背が高くて、青い髪の子だと言うのです」
ルールー「――解析完了。“蒼之美希”です。特徴が完全に一致。直ぐに判明しました」
えみる「でも……分からないのです」
ルールー「何が判らないのですか?」
えみる「私も蒼之美希だと思ったのですが、母が言うには、その子のグッズは全て売り切れているというのです」
ルールー「では、蒼之美希ではありません。蒼之美希のグッズが売り切れるという事態は有り得ません。蒼之美希は、スタッフからも存在を忘れられたり、表記ミスをされるキャラクターですから。もう少し、詳しく情報を教えて下さい」
えみる「その子は、お友達の頬にビンタをしたらしいのです」
ルールー「蒼之美希です。未だに語り草になっています。コンプライアンスの厳しい今の時代では、確実にアウトです。蒼之美希で確定です」
えみる「でも、分からないのです……」
ルールー「何が判らないのですか?」
えみる「母が言うには、その子は、他人の目を気にしないタイプだというのです」
ルールー「ならば、蒼之美希ではありません。蒼之美希は自意識過剰で、スタイル維持の為とか何とか言って、食事に気を遣い、運動を欠かさない人物です。蒼之美希は、他人からの視線を頼りに生きている女ですから。他に何か特徴を仰っていませんでしたか?」
えみる「その子は“アタシ、完璧”が口癖らしいのです」
ルールー「それはもう、蒼之美希以外の何者でもありません。この広い宇宙で、そんな恥ずかしい台詞を人前で堂々と口に出来る生物は彼女以外に存在し得ません。蒼之美希である確率、100%」
えみる「でも!分からないのです!!」
ルールー「何が分からないというのですか?」
えみる「私も、蒼之美希だと思ったのですが、母が言うには、その子からは、必死さが感じられないというのです!」
ルールー「では、蒼之美希ではありません。蒼之美希は、自分がモデルである事をアピールする為に、変身時のキメポーズにモデルウォークを取り入れたり、自分磨きという名の自己満足に余念が無いなど、とにかく必死です。それに、キュアベリーというネーミングですが、ベリーと一口に言っても、ブルーベリー、ラズベリー、クランベリー、ストロベリーなど、色々あります。それを一括して、キュアベリーなどと名乗るのは、かまって欲しいが故にハッシュタグを大量に付ける、現代の寂しい人間が取る手段の、逆転の発想と言えます。普遍性の高い“ベリー”を名前に付けておけば、検索ワードで引っかかるとでも思ったのでしょう。ガムシャラシャララです。他に何か特徴は言ってませんでしたか?」
えみる「その子は終盤、先鋭的な羽を付けて飛んでいたと言うのです」
ルールー「それは蒼之美希です。何故、一人だけ、あのような羽を付けていたのか、理解不能―――」
えみる「わかりません……」
ルールー「ええ」
えみる「私も、蒼之美希だと思ったのです。でも、母が言うには、蒼之美希ではないというのです」
ルールー「では、蒼之美希ではありません。本人がそう言うのですから、間違いありません。全くもって無駄な時間を過ごしてしまいました。私がモデルウォークを真似ているのを、どんな思いをして見ていましたか?」
えみる「申し訳無いと思って、見ていました……」
ルールー「一体、何がどうなっているのか……」
えみる「父が言うには、その子は、ピーサードではないかと……」
ルールー「その確率は0%です」
完
最終更新:2020年02月22日 08:55