内緒のスパークル/一六◆6/pMjwqUTkg




「ねえ! そう言えばさぁ、“スパークル”ってどういう意味?」
 キラキラした目で質問してくるひなたに、のどかとちゆが、ギクッ! と顔をこわばらせる。
 ゆめポートからの帰りのバスは、思いのほか空いていた。それで五人は一番後ろの席に並んで座ったのだが、真ん中の席のひなたが、座るや否や二人の方にグイっと迫って来たのだ。

「な~に~? ひなたが英単語の意味なんて珍しいじゃん」
「え、マジ? 近々英語のテストとかあったっけ?」
 のどかたちの反対側に座った、りなとみなが怪訝そうな顔をする。
「え? いやぁ、そうじゃなくってぇ……」
「あーっ! そ、それなら、えーっとぉ……ちゆちゃん! ちゆちゃん、分かるっ!?」
「た、確か、“火花”って意味じゃなかったかしら」
 ひなたが二人に何か言いかけるのを、のどかが全力で止め、ちゆも何とか質問に答える。

――ひなたにプリキュアのことは内緒って言うの、忘れてたニャ!

 ニャトランの衝撃の一言を聞いて、慌ててひなたを追いかけて来たものの、のどかもちゆも、まだそのことを彼女に伝えられずにいる。この状況では無理もないが、何も知らないひなたが、いつどこで爆弾発言をするか分からないと、二人も、そして二人のカバンの中に隠れているラビリンたちも、ドキドキしっぱなしだ。

「そっか~。どんな意味かなぁって想像してたんだけど、わりかし普通なんだ」
 ちゆの答えを聞いて少し下がりかけたひなたのテンションが、次の瞬間、再び上がる。
「あ、じゃあじゃあ! えーっと、何だっけ……オペ……オペ……」
「オペレーション?」
「そう! それ! ありがとう、ちゆちー。意味、分かる?」
「ええ、それなら調べたわ」
 今まで心配そうに眉根を寄せていたちゆの表情が一転、少し得意そうな微笑みに変わった。

「いろんな意味がある言葉みたいなの。操作とか、運転とか、あと会社とか。でも一番ぴったりな意味はきっと、“手術”ね」
「ああ、お医者さんがよく使う“オペ”って、その略なんだ~」
「えーっ! あたしたちが手術なんて、何それ、めっちゃ怖いじゃん!」
 ちゆの言葉に、おっとりと膝を打つのどかと、大仰にのけぞるひなた。
「二人とも! 一緒に盛り上がってちゃ駄目ラビ!」
 ついに我慢できなくなって、ラビリンがちゆのカバンの中で声を上げる。
「え? なんか今、変な声聞こえなかった?」
 不思議そうなりなの言葉に、今度はひなたも含めた三人が、ギクッ! と固まった、その時。
 ガタン、とバスが揺れてバス停に停車すると同時に、ひなたが「あっ!」と叫んで立ち上がった。

「おばあちゃん! 大丈夫?」
 バスを降りようとして座席から立ち上がった拍子によろけた老婆を、駆け寄ったひなたが素早く支える。老婆が持っていた買い物袋もひっくり返って中身が辺りに散らばってしまっていたが、それは後から駆け付けたのどかとちゆが拾い集めた。
 ひなたが買い物袋を広げ、二人が中身を元に戻す。

「わ! これめっちゃ重い! おばあちゃん、これあたしが運ぶねっ」
 言うが早いか、軽快な足取りでバスから降りるひなた。
「え……ちょっと、ひなたちゃん!?」
 慌てるのどかの肩に、ちゆがそっと手を置いた。
「大丈夫。私たちが降りるはずだったのは次のバス停だから、歩いても大した距離じゃないわ。それに……」
「チャンス到来だペエ」
 ペギタンも、ちゆのカバンの中でこっそりと囁く。そこでようやくちゆの狙いが分かって、のどかも笑顔で頷いた。

 りなとみなに、先に行っててね、とお願いして、のどかとちゆもバスを降りる。バス停のすぐ近くにあった老婆の家まで荷物を運び終えると、ようやく三人だけになった。

「え? プリキュアのこと? それは勿論、みなぴ達に言うつもりないし」
「あ、そうだったんだ……」
「やっぱり、簡単に人には話せないわよね」
 ひなたの即答に、ホッと胸をなでおろしたのどかとちゆは、続く彼女の言葉を聞いて、ハッとしたようにその顔を見つめた。
「だって、プリキュアのことを話そうと思ったら、どうしたってニャトランのこと、話すことになっちゃうでしょ? だから……」
「ありがとな、ひなた。さすがは俺のパートナーだぜ!」

 不意に、のどかのカバンがカタカタと揺れて、ニャトランが勢いよく飛び出した。まるでもうそこが定位置とばかりに、ひなたの右肩に飛び乗る。
「あ~、それと、“スパークル”の意味だけどさ。お前、どんなの想像してたんだ?」
「え? そりゃああの衣装だから~、“めっちゃカワイイ”とか、“凄~い”とか、あと“キラキラ~”とか!」
「って、まんまかよ!」
 ガクッとズッコケたニャトランが、気を取り直してひなたに向き合う。
「最後の一個だけ当たってるぜ。確かに“火花”って意味もあるけど、ほかに“煌めき”とか“輝く”って意味もあるんだ。お前の場合は……まぁ、きっと……」
 ニャトランがそう言いながら、少し照れたようにポリポリと頬を掻く。だが、その言葉は最後まで続かなかった。
「何それ……煌めき? 輝く? う~~~ん、それサイコー! めっちゃ可愛くて、めっちゃカッコイイ!!」
 ひなたが目をうるうるさせながらそう言って、ニャトランの顔にぐりぐりと頬を押し付ける。
「わ! やめれ! だから、苦しいって!」

 ハイテンションのひなたと、ジタバタと暴れるニャトランを、のどかとちゆ、ラテ、それに既にカバンから出て来たラビリンとペギタンが笑顔で見守る。
 スパークルの意味は知らなかったけど、“煌めき”って、ひなたにぴったりの言葉かも。ラテの頭をなでながら、のどかはそう思っていた。


~終~
最終更新:2020年02月23日 23:06