「Blink」/ゾンリー




「ごめんね。最後まで練習付き合ってもらって」
「気にしないで! ちゆちゃんの練習見るの楽しいから」
時刻はちょうど最終下校時刻手前あたりだろうか。学校から自宅へ至る道を私――沢泉ちゆとのどかは歩いていた。暦の上では春といっても、まだまだ暗くなるのは早いし、現に今歩いている舗装道路も、すでに紅い夕焼けに染まっていた。
「……ふふっ」
不意に、のどかが笑みをこぼす。
「どうしたの」
苦笑交じりに聞き返してみる。ちらりと見た彼女の横顔は、瞳は、夕日に照らされて紅潮し、潤んでいるように見えた。
「ううん。何でもない……ただ、楽しいなぁって!」
彼女が幼い時に何があったのかを、私は詳しく知らない。ただ、運動をあんまりしたことがないってことは、そういうことなんだろうなって思う。それも、普通に学校に通えないレベルの。
私はそんな彼女の喜ぶ顔が見たくて、こんな提案をしてみた。
「じゃあ、少し寄り道していく?」
「寄り道!?」
目を輝かせるのどかに、私は「あんまり遅くならないように、だけどね」と補足してから、進路を変えた。
やってきたのは、近くの森林公園。さっきの場所よりも標高が高いということで、気温は低いけど、のどかはそんなのお構いなしに野原に寝っ転がっていた。
「……寒くないの?」
「う、ちょっと寒いかも……」
あ、お構いなしでも、やっぱり寒いんだ。
「あっちに自販機があったから、温かいものでも飲みましょ」
飲み物を買って、そばにあったベンチに腰掛ける。二人して買ったココアの温かさと優しい甘みが、練習で疲れ切った体にしみわたっていく。
「ふわぁ~……」
「生きてるって感じ?」
「うん! それに、一番星がきれいだなぁって」
のどかが指さした空の先には、小さく瞬く星があった。すぐにでも消え去りそうに、小さく輝く星。
「……ほんとだ」
「私ね、一番星を見つけるのは得意なんだよ。ずっと空を見てたからかな? 一番星はね、小さくても、まだ周りが明るくても、一生懸命に輝いてるんだ」
(それってなんだか、のどかみたい)
「……私も見つけられるようになろうかな、一番星」
「ほんと!? じゃあ競争だね!」
「うん」
私は小さくうなずいて、飲み終えた缶をごみ箱に捨てる。
「そろそろ帰ろうか」
いつの間にか真っ赤な夕日はその姿を隠し、薄明の空に浮かぶ一番星の隣にまた一つ、小さな輝きがと灯った。

(ほんと、きれいな一番星)

私は星々を掬うようにやさしく、やさしく手を伸ばした。(終)
最終更新:2020年02月24日 00:31