終幕!『オールスタープリキュア!イマジネーションの輝き!冬のSS祭り2020』/夏希◆JIBDaXNP.g
ピンク色をした大きな卵みたいな宇宙船の前に設けられた、お話会のパーティー会場。その噴射口にもたれながら、花寺のどかは遠くが赤く染まりかけた空をぼんやりと眺める。
「はふぅ」と小さく息を吐くと、また新しくできたお友達の方に目を移して、楽しそうに微笑んだ。
「こんなところでどうしたの? もしかして疲れちゃった?」
「あ、ひかるちゃん。わたし、実はあんまり体力なくて……」
「そっか~。のどかには初対面の子ばかりだもんね、しょうがないよ」
そう言うと、ひかるはのどかの真似をするように、女の子座りで宇宙船にもたれかかる。
「お話会はどうだった? もうすぐ終わっちゃうけど、今年もキラやば~だったよね」
「うん、すごく楽しいよ。テーマを決めて近況報告って聞いてビックリしたけど、わたしにもなんでか分かったから」
そう言って、のどかはまた眩しそうにみんなの方を見る。入院生活が長かったのどかと違って、みんなは語り出したら止まらないくらいに、実に様々な経験をしていた。
だからバラバラに話していたら、もう収集が付かなくなっちゃう。それに――
「同じテーマでお話するから、みんなの暮らしの違いとか、性格や物事の捉え方の違いとか、ひとりじゃ気が付かない発見があるんだよね」
「そうそう! 人のイマジネーションって、みんな違う形をしてるの。同じものを見てるつもりでもね、目に映る姿はみんな違うんだよ。そういうのって、キラやば~って思わない?」
「うん……そうだね」
ひとりひとりの目に映るものの姿形が違うなら、人の数だけ世界があるのと同じ。それはとっても夢のあることだと思う。
「わたし、まだみんなに話せるような体験ってあんまり無くて。いつか、わたしにも自分だけのイマジネーションを語れる日が来るのかな。ひかるちゃんみたいに、みんなの中心で輝ける日は来るのかなって」
「いつかだなんて、来年だよ! これからの一年でのどかにもいっぱい仲間ができて、キラやば~な経験をたくさんして、そして次の仲間達に……」
「次の――仲間達って?」
「えっ? あたし、そんなこと言ったっけ?」
ひかるはアハハっと笑って、赤みが強くなった空を指さす。
「もうすぐ陽が沈んで、そしたら夜空になるの。この観星町は、と~っても星が綺麗なんだよ」
「うん。わたしも見てみたいな」
「ねえ、星空の中心ってどこにあるか知ってる?」
「えっ? そんなのあるんだ? なんだろう……北極星とか?」
「北極星だって、地球以外の星から見たら別の星になるんだよ。だから星空の中心なんて、本当はどこにもないし、だからこそ全部の星が中心にもなれるんだ~」
謎掛けのような話だった。真意を問いたくて、のどかはひかるの方を向いて、そしてドキッっとする。
びっくりするくらいに、ひかるの顔がのどかのすぐ前にあったから。キラキラと目を輝かせながら、ひかるは顔がくっつきそうなくらいの距離でのどかを覗き込んでいる。
「ほら、こうしたらあたしの中心はのどかになるでしょ? あたしが中心に居るように見えたんだったら、それはのどかがあたしのことを見ていてくれたからなんだよ」
みんなの中心に見えるような子がいたとしても、それは、その場所から見えた姿に過ぎない。見る場所を変えたら、違う子が主役になったり、取り巻きになったり、するんだろう。
「そうか~。だったらわたしも誰かの中心になれるかもしれないね」
別にのどかは目立ちたいわけじゃない。特に人気者になりたいわけでもなかった。ただ、誰かの助けになりたいだけ。
そして、ここで聴いたみんなのお話は、まさしくのどかの理想の体現だった。誰かを助けたり、困ってる人の力になったりするお話が多かった。
「そうそう。それに、少し前までは、あたしもあんまり友達と遊んだことなかったんだ~」
「えっ! ひかるちゃんが?」
「うん、だからあたし達、きっと似てるところもあるんだよ」
そう言って、ひかるはニカッっと笑う。
「ひかる~。のどか~。そろそろおひらきの時間ルン」
「イチャイチャしてないで、後片付け手伝うニャン」
「ごめーん。今行くから!」
みんなに大きく手を振ると、ひかるはのどかに手を差し延べる。
「行こう! みんなのところへ」
「うんっ!」
そう言ったひかるの姿はやっぱり眩しくて。のどかは(敵わないよな~)って心の中で呟いて、でも自分もいつかって、憧れを新たにする。
「それじゃ、私は調査のお仕事に戻るルン」
「アイワーンのことも放っとけないし、私もレインボー星に戻るニャン」
「うん、ララ、ユニ、また会おうね」
まずは宇宙組がフワと共に帰っていく。次に未来組が謎のメカに乗って。カタツムリのような列車が迎えに来たり、鏡の中に入って移動したり。
まどかやえれなも、それぞれの家に帰宅していく。
「あたし達だけになっちゃったね、のどか。後で駅まで送っていくから、天文台に行って、星空を見ていかない?」
そう言って、隣に居るはずののどかを振り返る。しかし、そこには誰もいなかった。ヒューっと、薄暗くなった森に冷たい風が吹き抜ける。
「そっか、帰っちゃったんだ……」
夕方と夜の狭間の僅かな時間帯。ひかるが顔を上げると、冷たく澄んだ空に一番星が輝いていた。
「あの星――のどか、どこかで見てるといいな」
――ひかる。ねえ、ひかるったら!
「えっ! あれっ? ここ、あたしの家?」
さっきまで森の中に居たはずなのに、気が付くとひかるはリビングのソファに寝転んでいた。
「もう、何を寝ぼけているの? 珍しくお昼寝したかと思ったら、全然起きないんだもの。どこか調子でも悪いの?」
「え、いや、全然元気だよ? それよりお母さん、あたし、今日はずっと家に居たんだよね?」
あれが夢だったなんて思いたくない。ひかるは一縷の望みをかけて母に問いかける。
「だからそう言ってるじゃない。本当に大丈夫なの? 勉強を頑張るのもいいけど、ちゃんと夜は寝るのよ」
苦笑しながらそう言って、母はキッチンへと戻っていった。ひかるはポケットに入れておいたはずの封筒を探るが、ひっくり返しても見つからない。
ひかるは走って自室に戻って、遼太郎にもらったノートをパラパラとめくる。そこには、今日の日付と、聴いたばかりのみんなのお話が書き止めてあった。
「よかった……夢じゃなかったんだ。本当にみんなに会えたんだ。きっとまた、来年も会えるよね?」
そう独り言をつぶやいて、ひかるはノートを抱きしめる。
新たな出会い。次の仲間達のことを想像しながら――
最終更新:2020年03月09日 00:14