雨上がりの空に、虹は輝く/一六◆6/pMjwqUTk
「AI。惑星レインボーのデータは、まだ更新されていないルン?」
調査員として他の星に赴いた帰り道。ララがいつもの操縦席に座って、AIに呼びかける。
「はい。約一年前のデータから、更新はありません」
それに対してAIが、前回と同じ答えを返した。ここのところ、ララはひと月に一度はこの質問を投げかけている。
「じゃあ……あの星の人たちは、まだ元に戻ってないルン?」
ダークペンの暴発事故で、ユニを除く全ての住民が石になってしまった惑星レインボー。あの最後の戦いの後、スターパレスで別れた時、ユニとアイワーンは人々を元に戻すための研究をすると言っていた。
あれからもうそろそろ半年になる。やはり人々の石化を解くのは、相当難しいということなのだろうか。
ララが運航モニターを見ながら考え込んでいると、再びAIの声が響いた。
「データ更新が遅すぎるので、宇宙星空連合で管理している惑星渡航記録にアクセスしました」
「ルン……」
「昨年ララ様たちが訪れたのを最後に、惑星レインボーへの渡航は確認できません」
「それじゃあ、今の惑星レインボーがどうなっているかは、データからは分からないってことルン?」
AIのよどみない声が続く。
「惑星レインボーは、宇宙星空連合に加盟していません。ですから定期的な調査報告は、なされていないものと思われます」
「オヨ……」
再びモニターを見つめるララ。だが今度はすぐに、もう一度声を上げた。
「AI。ここからすぐ惑星レインボーに向かったら、サマーンに帰るのにどれくらいかかるルン?」
「往復の時間だけでしたら、二日もあれば十分です」
それを聞いて、ララの瞳がキラキラと輝き出す。
今回の調査は長丁場だったので、明日から五日間の特別休暇が貰えることになっている。ということは、今からすぐに出発すれば、行き帰りに二日かかったとしても、中三日は惑星レインボーに滞在できる。今日までの調査報告が少し遅れてしまうが、急を要するものは特に無いので、休み明けに報告しても差し支えないだろう。
何より、久しぶりにユニに会えるかと思うと、胸の高鳴りを抑えることが出来ない。
「行くルン! 惑星レインボーに!」
「承知しました」
AIの返事と同時にエンジンが火を噴き、機体が急カーブを切る。
ピンク色のロケットは、星空界の明るい宇宙を一路、惑星レインボーへと向かった。
雨上がりの空に、虹は輝く
花も木も無く、ところどころに赤茶けた岩があるだけの、砂埃が舞う荒野。ロケットから降り立ったララは、悲し気な顔つきで辺りを眺めた。
「やっぱり……まだこの星の住人は、石になったままルン?」
そう呟いて歩き出そうとしたところで、足を止める。土埃の向こうから近付いて来る、複数の影。その姿が次第にはっきりしてくるにつれて、ララの表情がパァッと明るくなる。が、影がさらに近付いて来ると、ララは怪訝そうな、少々緊張気味な顔つきになった。
「何だか……様子が変ルン……」
近付いて来るのは確かに複数の人影だ。猫のような耳が見えるから、おそらく元に戻った惑星レインボーの住人たちだろう。
だが、何だか彼らの表情は固く、あまり歓迎されていないように見える。中には斧やつるはしを構えている者まで居て、皆でじりじりと、間合いを詰めるように近付いて来る。その気配に押されて、ララが一歩、二歩と後ずさった時。
人々の合間を縫って、ひとつの影がララに駆け寄って来た。
「……ユニ!」
「やっぱり。機影が見えた時から、そうだと思ったニャン」
本来の姿で飛ぶように駆けて来たユニが、その勢いのままにララに抱きつく。
「ララ!」
「ユニ……会いたかったルン!」
しばらく固く抱き合ってから、ユニが身体を離して照れたような笑みを浮かべる。そして二人の周りを取り囲んでいる人々に、少し厳しい視線を投げかけた。
「みんな、何してるニャン? この人はサマーン星人のララ。私の友達よ」
ユニがそう言った途端、人々の雰囲気が変わった。互いにバツが悪そうに顔を見合わせ、ララに向かって申し訳なさそうな、遠慮がちな笑顔を見せる。
ユニはそれを見て、やれやれ、といった表情でため息をついてから、パッとララの手を掴んだ。
「丁度良かった。一緒に来て」
「オヨ!? ユニ、一体どこへ……」
それには答えず、ユニがララの手を掴んだまま走り出す。ララも引きずられるようにして、その後に続いた。
「今の人たち、惑星レインボーの人たちルン? もうみんな、元に戻ったルン?」
「ええ。アイワーンの発明のお蔭でね」
走りながらユニが説明してくれたところによると、アイワーンが試行錯誤を重ねた結果、少し前にみんなを元に戻すことに成功したのだと言う。
「良かったルン……。ユニの願いが、ようやく叶ったルン!」
「ええ、ありがとう」
嬉しそうに頷くユニ。だがすぐにその顔が曇った気がして、ララは心配そうに眉をひそめた。
しばらく走って二人が足を止めたのは、以前プリンセススターカラーペンの反応を追って、皆で訪れたことがある洞窟だった。前に来た時には、一番奥にレインボー鉱石のアクセサリーなどのお宝の山があったのだが、今はその姿は見えない。ガランとした洞窟の壁には、前に来た時には無かった頑丈そうなドアがあって、一部のスペースが仕切られている。
「今はここ、アイワーンの研究室なんだけど……実はアイワーンがこのところ、ここに籠ったまま出てこないのよ」
「……どういうことルン?」
扉の表面を撫でながら、ユニは語る。
アイワーンが発明した香水のお蔭で人々が元に戻った時、アイワーンは深く頭を下げて人々に謝り、皆も彼女を許し受け入れたのだという。
人口およそ1800人の惑星レインボー全土の人々を元に戻すのに、そう時間はかからなかった。幸い、畑や生活用水も元に戻すことが出来たため、人々は元の生活に戻るために懸命に働き始めたのだが、その頃から、アイワーンが研究室兼自室であるこの部屋に籠ったきり、出て来なくなったのだと。
「それで、アイワーンは中で何やってるルン?」
「分からないけど、どうやらまた何か研究してるみたいね。多分、もう二度と失敗できないと思っているから、慎重の上に慎重になって、それでなかなか上手く行ってないんじゃないかと思う」
「二度と、失敗できない……」
ララの呟きに、ユニが少し寂しそうに頷いた。
「星のみんなは、アイワーンがこの星に住むことを許してくれた。でもアイワーンは……どこか居心地が悪そうだったニャン」
後ろめたさは勿論あるだろう。でもそれ以上に、何か皆の役に立つことをしないと、居場所にしてはいけない気がしてるのではないか。
思えばノットレイダーに居た頃から、彼女が次から次へと発明品を生み出していたのは、そういう気持ちがあったからなのかもしれない。
「発明が完成すれば出て来てくれると思うんだけど……実は、心配なことがあるの。さっき見たでしょ? 星のみんなの、あの様子を」
「……」
ララの脳裏に、さっきの人々の固い表情が浮かんだ。
「元々惑星レインボーは、他の星を追われた私たちの先祖が移り住んだ星よ。だから他の星との交流はほとんど無かったんだけど――何だか前にも増して、みんなが異星人を警戒するようになって……」
住民全員が石になってしまうという惨事が、他でもない突然の異星人の来訪によって起こったのだから、無理もないのかもしれない。
「じゃあ、アイワーンに対しても……」
「そんなことはないって思いたいんだけど……アイワーンが研究室に籠ったきりだから、今度は何をするつもりなのか疑心暗鬼になってる人がいるのは確かね」
扉に手を当てたまま、ユニは言いにくそうに、俯き加減でぼそりと言った。
「ルン……それならアイワーンに早く出て来てもらえるように考えるルン」
ララがユニの顔を見つめる。
「何か手伝えることはないルン?」
「それが分かれば、もうやってるわよ。私に発明の手伝いなんか、何も出来ないし」
ユニが小さくため息をつく。相変わらず扉に当てたままの猫のような手の甲に、ララがそっと触覚で触れた。
「何も出来ないなんてことは無いルン。辛い気持ちの時、一杯一杯になった時、友達がそばに居てくれたら、それだけで助けになるルン」
「友達……? でも、私は……」
「何言ってるルン」
不安そうに目を泳がせるユニに、ララが今度は自信たっぷりの声でそう言って、ニコリと笑いかける。
「ユニがそばに居るよって伝えるだけで、アイワーンはきっと、凄く嬉しいルン」
「あ~! また失敗だっつーの。これで33回目だっつーの!」
実験台の前で、アイワーンが頭を掻きむしる。机の上には農業の専門書。そして手に持った試験管からは、黒い煙が上がっている。
「まだまだだっつーの……。アイツらの前では、もう失敗出来ないっつーの……!」
うわごとのようにそう繰り返しながら、次の試薬を仕込もうとして、その動きがピタリと止まった。
「この香り……まさか!」
バケニャーン……という言葉が口から出かかった時、実験台の上にカチャリと紅茶のカップが置かれた。
「行き詰まった時の気分転換は、このブレンドでしょ?」
見慣れたティーポットと銀のお盆を持ったユニが、いつの間にか隣に立っている。少し照れ臭そうな顔で――でもあの頃のように、姿勢正しく真っ直ぐに前を向いて。
「あんた! どうやってここに入ったっつーの!?」
「忘れたの? あんな鍵くらい、私がその気になればワケないニャン」
そう言ってパチリと片目をつぶるユニに、ワザとらしくハァッと息を吐き出してから、アイワーンがぎこちない動作でカップを持ち上げた。
目を閉じて一口すすり、ゆっくりと味わう。
「……美味しいっつーの」
「当然! ……バケニャーンじゃなくて、ごめんニャン」
ごく小さな声で付け加えられたユニの言葉に、え?と聞き返すアイワーン。それには答えず、ユニがコホンと咳払いする。
「それで、今度は一体何の発明なの?」
「……畑の肥料みたいなもんだっつーの」
「畑の……肥料?」
「ただの肥料じゃないっつーの。これを使い続ければ土が豊かになって、もっともっと畑が増やせるっつーの」
最初はボソボソと話していたアイワーンの口調が、次第に熱を帯び始める。
人々を元に戻した香水を使って、同じく石化していた畑も元に戻すことができた。だが、やはり人間と違って長い間石化していた影響があるのか、今年の作物の出来は今ひとつだ。大人たちは、いざとなったらレインボー鉱石を売って、他の星から食糧を調達することを考え始めている。
レインボー鉱石が、他の星で非常に高価な値が付くことは、最初にそれを売り払ったアイワーンが一番よく知っている。レインボー星人の優れた加工技術で作られた装飾品なら、尚更だ。しかし鉱石は掘り続けていれば、いつか枯渇する。
「星が貧しくなれば……あたいみたいに星を追いだされる子供が出て来るかもしれないっつーの。だから飢饉の年もレインボー鉱石に頼らなくてもいいように、今のうちに畑を増やして、食糧を蓄えておいた方がいいっつーの」
「アイワーン……」
少し潤んだ目でそう呟いたユニが、フッと小さく笑って口調を変えた。
「なるほどね。じゃあ、実際に畑に撒いて実験した方が早いんじゃない? まぁ、まだそんなレベルには程遠いニャン?」
「う、うるさいっつーの、次は絶対成功するっつーの! でも……畑で実験は出来ないっつーの」
「どうして?」
「だって、もしまた失敗したら……」
「最初は小さな畑で試せばいいじゃない」
俯くアイワーンのカップに添えられた手に、ユニがそっと手を重ねる。
「大丈夫。失敗しても、またやり直せるわ。何たって、超天才科学者のアイワーンなんだから」
「そんな見え透いたお世辞はもういいっつーの……ご馳走様っつーの」
アイワーンが、ユニの手を振り払うようにして紅茶を飲み干す。ひょいっと首をすくめてみせてから、カップをお盆に戻したユニが、アイワーンの方を見ずに小さく呟いた。
「お世辞じゃないわよ」
「え?」
「昔も今も……お世辞なんて言ってない。本心ニャン」
そう言い捨ててスタスタと去っていくユニの後ろ姿を、アイワーンがポカンと口を開けて見送る。やがてその頬が、はっきりと赤く染まった。
「そう。アイワーンがこの星のことを、それほどまでに考えてくれていたとは……」
ユニの話を聞いたオリーフィオが、穏やかな口調でしみじみと言った。その周りでは、集まった住人たちが恥ずかしそうに俯いている。
「アイワーンに、畑を使って実験させてほしいの。勿論、小さな畑でいいから」
「ああ。むしろそうしてもらうように、私からもアイワーンにお願いしよう」
オリーフィオの言葉に、笑顔で頷く住人たち。それを見て、ユニがパッと顔を輝かせる。
ユニの隣から嬉しそうに一部始終を見ていたララが、そこで表情を引き締めて、オリーフィオの前に進み出た。
「わたしからも、お願いがあるルン。惑星レインボーの人たちが元に戻ったことを、他の星の人たちにも伝えたいルン。調査報告、してもいいルン?」
「君は惑星サマーンの調査員だったね。だが、果たして私たちのことを知りたいと思う人が、君の他にもいるだろうか」
「……今のデータだけじゃ、居ないかもしれないルン。だから伝えたいルン」
ララがチラリと、隣に立つユニに目をやった。そしてギュッと拳を握って、言葉を続ける。
「人口約1800人、みんな石になって星は滅んだ――それが今の、惑星レインボーのデータルン」
オリーフィオの周りの住人たちが、それを聞いて少しざわめいた。そんなデータを耳にすることは、皆初めてだったのだろう。
「わたしは一年前、そのデータを知ってからこの星に来たけど、データと現実では全然違ったルン。何人石化したとか、滅んだとか、そんな数字の話じゃ無かったルン。一人一人みんな人生があるのに、そんなデータだけじゃ、何も伝わってなかったルン」
いつしかオリーフィオだけでなく、住人たち全員の目が、ララに注がれていた。
「わたしはそんな数字だけじゃなくて、この星で何が起こったのか、ちゃんと伝えたいルン。何が起こって、今はどうなって、この星に生きている人たちが、これからどうしていきたいと思っているかを伝えたいルン。それでこの星のことを知りたいと思う人が居たら、嬉しいルン」
懸命に言葉を紡ぐララを、微笑みながら見つめていたオリーフィオが、そこでゆっくりと頷いた。
「そうか……。ユニは旅に出ている間に、アイワーンの他にも、素敵な友達に沢山出会ったんだね」
「ニャン!? まぁ……そうニャン」
ユニが珍しくドギマギと顔を赤らめる。その顔を楽しそうに見つめてから、オリーフィオが静かに口を開いた。
「君の言うことはよく分かったよ。ありがとう、この星と私たちのことをそんな風に思ってくれて。調査報告を、君に――あなたにお願いします」
そう言って丁寧に頭を下げるオリーフィオに、今度はララが、オヨ……と慌ててぺこりとお辞儀をする。
「私たちは忘れていたのかもしれないね。この地に冷たい雨を降らせ、美しい虹を見せてくれる空は、宇宙と――そして他の星々と繋がっているんだということを」
オリーフィオは、空を見上げてそう呟いてから、ララに向かってもう一度笑顔で頷いて見せた。
ララがロケットに戻り、うんうんと唸りながら書き上げて送った報告書は、惑星サマーンだけでなく星空連合でも大きなニュースになって、なんと宇宙号外が発行された。
そして早速その効果が表れ、翌日には最初の訪問者が惑星レインボーに降り立った。
「久しぶりだな、ブルーキャット。それに……プリキュアまでいるのか」
「あなたは、ドラムス!」
ゼニー星の大富豪・ドラゴン一家の跡取り息子であるドラムスが、最新式の宇宙船から颯爽と現れる。
「宇宙号外で、惑星レインボーのニュースを読んでね。それでブルーキャット、君のことを思い出して駆け付けたんだ」
そう言いながらドラムスがパチンと指を鳴らすと、お付きのゼニー星人が小さな宝石箱を恭しくユニに差し出す。
「さあ、受け取ってくれたまえ。君が取り返し損ねたこの星の宝を、僕が金に物を言わせて集めておいたのさ。もっとも、もうほとんど君の手にわたっていたらしく、それほど残ってはいなかったけどね」
「……ありがとう。でも、何故あなたがわざわざ、こんなことを?」
小首をかしげるユニに見つめられて、ドラムスは少したじろいだ。
「そ、それは勿論、惑星レインボーが元に戻ったお祝いに決まってるじゃないか。それに……」
そう言いかけて、ドラムスがそこに呆然と突っ立っているララの方にチラリと目をやる。
「君がドラゴン兵団に入れようとしたプリキュアは、困ったことがあったらタダで助けに来ると言ったんだぞ! 世の中にタダより高いモノは無いんだ、そのままになんてしておけるか。だからこれは、ささやかな僕の気持ちだっ!」
そう早口で言い終えると同時にくるりと回れ右して、ドラムスがそそくさと宇宙船へと取って返す。
「……どうやら後の方が、ホントの理由みたいね」
「ひょっとして……タダで助けに行くって言われて、嬉しかったルン?」
目と目を見交わしてクスリと笑ったユニとララが、肩をいからせて去っていく後ろ姿に同時に手を振った。
「ドラムス~! ありがとう!」
「もうプリキュアじゃないけど、わたしたち、必ず助けに行くルン!」
そしてもう一人、ララが惑星レインボーに居る間にやって来たのは、やはり宇宙号外を読んで駆け付けた、サプライズ好きのサンター星人だった。
「イエ~イ! ブルーキャットには沢山サプラ~イズさせてもらったから、今度はこっちからサプラ~イズを仕掛けにきたじゃ~ん!」
ノリノリで歌うようにそう言って、夜が更けてから、橇の形の宇宙船で子供たちにプレゼントを配って回る。ユニとララも、手伝わせてもらうことにした。
「そう言えば去年、地球でお仲間に会ったニャン」
ユニがそう話すと、サンタ―星人は得意そうに人差し指で鼻の下をこすった。
「俺たちのネットワーク、宇宙の隅々まで届いてんじゃ~ん。だから仲間から仲間へリレーすれば、どんな遠いところにでも何でも伝えられるし、届けられるじゃ~ん」
「え……地球にもルン!?」
「急ぎでなければ、大丈夫じゃん」
ララがユニと顔を見合わせる。確かに人から人へと伝えるわけだから、届くのは何年先になるか分からない。それでも、もしも地球にメッセージが届けられるなら――。
「ユニ! ど、どうすればいいルン!?」
「お、落ち着くニャン。とにかく、どうやってメッセージを送るか考えるわよ」
「ルン!」
「そうだ! マイクロカプセルを使えば、立体映像の受像機を託せるかも」
「ルン! じゃあ早速撮影するルン!」
「待って、ララ! 朝にならないと無理ニャン」
「ひゃっほぉ! 何だか思いがけないサプラ~イズ、出来たみたいじゃ~ん」
夢中で語り合う二人を見ながら、サンター星人が楽しそうにニヤリと笑う。惑星レインボーの夜空には、無数の星々が静かに輝いていた。
そしてその頃、スターパレスでは――。
「フワ! 待つでプルンス!」
「フワ~! もっと遊ぶフワ!」
相変わらず楽しそうにはしゃぎながらあちこち飛び回るフワを、必死で追いかけるプルンスたち。もうお馴染みとなった光景を見ながら、十二星座のプリンセスたちが優雅にお茶会を楽しんでいる。
「フワの力、やはり戻りそうもないですね……」
ため息混じりのそんな声を聞き流しながら、プルンスがすぅっと思い切り息を吸い込んだ。
「これでどうでプルンス!」
巨大な風船のような姿になってフワを受け止め、腕を伸ばして捕まえる。その時、フワの額の辺りに何か硬い感触を覚えて、プルンスは首を傾げた。
「フワ。どこかに頭をぶつけたでプルンスか? こぶが出来てるでプルンス」
「ぶつけてないフワ。でも、なんだか頭がもぞもぞしてくすぐったいフワ」
「どれどれ? よく見せるでプルンス」
改めて慎重にフワの額をさすったプルンスが、驚きの声を上げる。
「フワ! 角が生えかけてるでプルンス!」
そう言われれば、以前に比べてフワの四肢が少し長くなってきた。飛ぶスピードも、以前より速くなったような気がする。
「フワは、着実に成長しているでプルンス」
小さな声でそう呟くと、誇らしげに胸を張って、プルンスは空を見上げる。
すっかり明るい日差しを取り戻したスターパレスの空には、七色に輝く、大きな虹がかかっていた。
~終~
最終更新:2020年03月15日 16:22