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いけないかくれんぼ/makiray




 ドアをバタンと閉めると、坂上あゆみはリビングの椅子に大きな音を立てて座り込んだ。グレルとエンエンは自分の部屋に置いてきた。
「グレルなんかもう知らない!」
 そのままテーブルに突っ伏してしまう。
 グレルが乱暴な口をきき、あゆみがたしなめる。それがエスカレートして言い合いになって――あゆみとグレルは数か月に一回、こういうケンカをする。
(それじゃ人にちゃんと伝わらないよ)
(それはあゆみの頭が固いからだろう)
(わたし?)
(もうちょっと想像力を働かせて、人の言うことをだな――)
(もういい!)
 つっぷしたままため息をつくあゆみ。
「ふーちゃん、わたし、頭固いかな」
《あゆみ…》
 襟のエコーキュアデコルからふーちゃんの心配そうな声が聞こえる。
「固いよね…」
《そんなことない。あゆみには想像力がいっぱいある》
「なぐさめてくれるのはふーちゃんだけだよ…」
《本当! あゆみの想像力はすごい!》
「ありがとう…」
《グレルだって、きっとわかってる》
「それはどうかなぁ」
 あゆみは顔を上げかけたが、またつっぷしてしまった。
《きっと、グレルも大人になるから》
 それはそうかもしれない。グレルだって成長はする。すぐには無理でも、いつかは大人になってくれるかもしれない。例えば…。
〈そうだね、わかりやすく言う必要があった。すまない。率直に反省するよ〉
「え…?」
 あゆみは自分の「想像」に戸惑った。
〈まず、前提を共有しておこう。第一歩が大事だからね。次に、ありえない選択肢を排除する必要があるだろうね。話が複雑になりすぎるから〉
 あゆみの肩が震えた。クックックという笑いもこみあげてくる。
「グレルが『前提の共有』だって…」
《あゆみ…?》
「じゃぁ、エンエンは――」
〈あゆみちゃん、泣きたいときは泣いたっていいんだよ〉
 想像のエンエンが凛々しくきっぱりと言う。
〈それは心の汗だからね。そうしてすっきりしたら次の一歩を進められる。涙はそのためにあるんだ〉
「ありえない…」
 笑いが喉の奥から次々に湧き上がってくる。止まらなかった。

 グレルはあゆみの部屋からリビングを覗いていた。顔が真っ青だった。
「あゆみちゃん、どう?」
 グレルはドアから離れた。ベッドにもぐりこんでシーツをかぶる。
 そして、場所を変わったエンエンも見た。
 一人で肩を震わせ、クックックと笑っている あゆみを。時折、引きつった笑い声を上げる あゆみを。
 悪寒が背筋を駆け上がってくる。
「こんなあゆみちゃん、初めて見た…」
「俺のせいじゃないぞ」
「グレルがあゆみちゃんをいつも怒らせるから、そのストレスで」
「俺じゃない!!」
「今…何か」
 椅子を引く音。あゆみが立ち上がったのだ。ゆっくりとこちらにやってくる気配。腰の抜けたふたりは後ずさった。
「逃げるんだ。あゆみに取って食われちまうぞ!」
「まさか――」
 ガチャ、とドアが開く。エンエンはグレルにベッドの下へ引っ張り込まれた。
「グレル、さっきはごめん――
 あれ、どこ行ったんだろう。
 グレル…エンエン?」
 怯えたふたりは逃げ続ける。それが十分も続き、からかわれてると思った あゆみの機嫌がまた悪くなり…この一日は永遠に続くかのようだった。
最終更新:2020年03月16日 19:48