星の下にて/一六◆6/pMjwqUTk




「ね~え、マナ」
 レジーナがマナに腕を絡ませて、甘えた声を上げる。いつものメンバーで集まった帰り道。いつも通りの光景だと、誰もがさして気に留めなかったのだが……。
「“不幸の星”って、どの星なの?」
 夜空を見上げて発したレジーナの一言に、全員の足が止まった。

「え……レジーナ、今なんて言ったの?」
「あのね、前にベールたちがこっそり話してるのを聞いちゃったの。あたしのこと、“不幸の星の下に生まれた王女様”って。だからどの星なのかなぁと思って」

「いや、レジーナ。その言い方はね……」
「まあ。そんな名前の星があるのですか?」
 どう説明しようかと悩む六花の隣で、亜久里が怪訝そうに小首をかしげる。その隣には、真剣な顔つきで食い入るように夜空を見つめる真琴の姿――。
 はぁ、と小さくため息をつく六花の肩をポンと叩いて、マナがその手を、すっと空へと向けた。

「ほら見て、レジーナ。今日みたいに天気がいい日は、星がいっぱい見えて、とっても綺麗だよね」
「ホントだ。ちっちゃな光ばっかりだけど、キラキラしてて凄くキレイ」
「こ~んなキュンキュンしちゃうような星たちの中に、不幸なんて名前の星は無いよ。みんなあんなに一生懸命輝いて、夜空を照らしてるんだもん」
「マナ……」
 ねっ? と笑いかけるマナの顔を、実に嬉しそうに見つめ返してから、レジーナがコホンと咳ばらいをして、もう一度空へと目を向ける。
「なぁんだ、そうなの。ちょっと残念」

「え? 残念って……」
「レジーナさん。もしそんな名前の星があったら、どうするおつもりだったのですか?」
 怪訝そうな六花の後ろから、ありすがのんびりとした調子で問いかける。
「そりゃあ勿論、このあたしが改名してあげようって思ったの。“レジーナ星”って」
 左手を腰に当てたいつものポーズで、得意気に言い放つレジーナ。
「へ……?」
 思わず間抜けな声を上げたマナは、間髪入れずに聞こえて来た声に、今度はパチパチとせわしなくまばたきした。

「いけませんわ!」
 こちらは両手を腰に当てた格好の亜久里が、レジーナに食ってかかる。
「そんな名前を付けるなんて、許しません」
「なんであんたの許しが必要なのよ!」
「わたくしも同じ星の下に生まれたんですもの。わたくしの名前も入れるのが当然ですわ!」
 一瞬あっけにとられたレジーナの顔が、薄っすらと赤く染まる。が、すぐにむぅっと膨れて、レジーナは亜久里を睨んだ。

「何よ。割り込んで来るなんてズルいじゃない!」
「心外な! 割り込んだわけではありませんわ」
「ふん。“レジーナ・亜久里星”なんて、みっともないから却下ね」
「みっともないとはなんですか!」
「そーじゃない。長ったるいし、語呂だって悪いし」
「そんなことありません! それに、何故あなたの名前が先って決まっているのですか!?」

「まあまあ、亜久里ちゃんもレジーナも落ち着いて」
 マナが苦笑いをしながら二人をなだめようとする。
「そもそも、星の名前なんて勝手に変えられるわけないでしょ?」
 六花に呆れた調子で言われて、二人がようやく睨み合うのをやめる。その時、真琴が不思議そうに首を傾げた。
「勝手に変えられないのは分かるけど……星の名前って、一体誰が決めてるの?」
「星の種類にもよりますが、最初にその星を発見した人ですわ」
 ありすが穏やかに即答する。するとレジーナが亜久里の方を向いて、ニヤリと不敵に笑った。

「それなら“レジーナ星”の誕生は時間の問題ね。新しい星なんて、す~ぐ見つけちゃうんだから」
「わ、わたくしだって負けませんわ」
「あたしが勝つに決まってるじゃない!」
「ならば、勝負ですね。受けて立ちますわ!」

「もう、話が変わってるし。それに星を見つけるなんて、そんな簡単に……」
 再び呆れた声を上げた六花が、クスリと笑って口をつぐんだ。夜道で顔と顔を突き合わせるようにして言い争っている二人は、何だかとても楽しそうに見える。
 マナがつられてクスリと笑い、さらに伝染したように、ありすも真琴もクスクスと笑い出す。
 向かい合う二人と見守る四人の頭上には、大貝町の星空が、明るく優しく広がっていた。

~終~
最終更新:2020年03月29日 13:49