『プリフェッショナル~仕事の流儀~』/Mitchell&Carroll




(この物語はフィクションであり、想像の産物です)



 映画館で、子供達が一心不乱に、ある物を振っている。ミラクルライトである。このミラクルライトは、ある一人の少女の手によって、一本一本、手作りされている事を御存知だろうか。


《手に持って使う物は、手作りであるべき》


 少女の名前は「坂上あゆみ」。キュアエコーとして知られる彼女は、ミラクルライト職人でもある。今回は、その現場に足を踏み入れてみた。

「これが、基となるミラクルライトです。これに合わせて、作っていくんです」

 そう言って、彼女は早速、製作に取り掛かった。一本のミラクルライトを作り上げる為に要する時間は、およそ2時間。樹脂の削り出しから始まり、内部の組み立て、表面の仕上げまで、全ての行程を一人で行う。

「――出来ました」

 基となるミラクルライトとの誤差を、スタッフが特殊な装置で計測してみた。その差は僅か、0.000013ナノマイクロメートル。まさに“寸分の狂い”も無かった。さらに――

「こうやって実際に振ってみて。重芯が傾いていないかチェックするんです」

 利き腕である右手だけでなく、左手でも振っている。

「左利きの子も、いるでしょうから」

 ミラクルライトは、左右どちらの腕でも触れるように、計算されていた。

 この日、彼女が仕上げたミラクルライトの本数は、4本だった。
 仕事を終えた彼女は、おもむろに、携帯ゲーム機のスイッチを入れた。

「これが、何よりのストレス解消法です」

 彼女はゲームに熱中するタイプらしく、プレイ中に放送禁止用語を連発した為、一部、音声を変更させてもらう事にした――。

 坂上あゆみは、父親の仕事の都合で、横浜にやって来た。“なんやかんや”あって、キュアエコーに変身し、その後は、出たり出なかったりで、現在に至る。


 この日も彼女は、ノルマである4本のミラクルライトを仕上げ、リビングで、テレビゲームに熱中していた。
 しかし、ここで思わぬトラブルに見舞われた。

「あゆみ!いつまで、やっているの!?」
「お母さん!?」

 彼女の母親が、突如、ゲーム機の電源を切ってしまった。ショックを受けた彼女は、一目散に自室に駆け込んだ。
 その日、彼女が自室から出てくる事は無かった。


《尊い、という気持ち》


 後日、彼女は取材陣に、こう、話してくれた。

「オートセーブ機能が働いていたので、事無きを得ました」

 この日の彼女の製作ペースは凄まじかった。通常、一日に4本を仕上げるのが限界のミラクルライトは、この日、7本も仕上げられた。
 その制作意欲の秘密を探る為に、特別に、彼女の自室を撮影する許可を貰った。

 そこには、衝撃の光景が広がっていた。壁一面に貼られた、アニメのポスター。さらに、ベッドの上、脇、下には、大量のBL本が積み重ねられていた。スタッフの何人かは、思わず、呻き声を上げた。

 そもそも、彼女は、何故、ミラクルライト職人を志したのか。

「お金を稼ごうと思ったからです」

 稼いだお金は、BL作品に費やしていると言う。


 最後に、スタッフは質問した。「坂上あゆみにとって“プリフェッショナル”とは、何ですか」。彼女の答えは、こうだ。

「カワイイだけじゃなくて、カッコイイ。そういう事じゃないですかね」

 彼女は、今日も、また、ミラクルライトを作り続ける。子供達の為、そして、大好きなBLの為に。



 終
最終更新:2020年04月05日 11:34