『孤独のグル眼』/Mitchell&Carroll
ここんとこ、連日の徹夜で、新発明の設計に携わってたもんだから、疲労困憊だっつーの。でも、無事、完成して、一段落だっつーの。それにしても……腹が減ったっつーの!
こんな時は、町を出歩くっつーの。――ん?三ツ星の寿司屋!ここにするっつーの!
「いらっしゃいませ」
「ニャン?」
うっ、ブルーキャット!まさか、コイツも来てるとは思わなかったっつーの……。独り飯と決め込んだつもりが、とんだ邪魔が入ったっつーの。でも、一度、入店した以上、出る雰囲気でもないし、ここは折れる事にするっつーの。
「大将、“お任せ”だっつーの」
それにしても――ふん!格式高い内装だっつーの。
「“コハダの握り”になります」
「おいしそうだニャ~」
「アタイのだっつーの」
なんだっつーの?この娘は。涎でテーブルがビチャビチャだっつーの。おかげで、水をこぼしたと勘違いした店員が、慌てて拭きに来たっつーの。そんな粘度の高い水があるかっつーの!
モグモグ……この時期のコハダは絶品だっつーの。適度に脂が乗っていて、身が締まってるっつーの。何より、大将の熟練の包丁裁きが、ネタを活かしてるっつーの。舌にストレスを感じさせないという、その心意気には脱帽だっつーの。
「“ノドグロの炙り”です」
「頂きますニャン」
「あっ、横取りするなっつーの!」
こいつが、盗みのプロだという事を忘れてたっつーの!
「ガリは、あげるニャン」
「いらないっつーの!」
――と、言いつつも、腹の足しになる物なら何でも頂くっつーの。ガリに含まれた僅かな糖分が、アタイの、駆使された頭脳を癒していくっつーの。
「“蛤の吸い物”です」
「私に盗めない物は無いのよ!ズズズ……熱いニャン!!」
「ケヒャヒャヒャヒャ!!」
ざまあみろっつーの!天罰が下ったっつーの!猫舌に吸い物は耐えられないだろっつーの!大将、良い仕事してるっつーの!
「“宇治抹茶のジェラート”になります」
「ふぅ~、舌を冷ますのに丁度良いニャン」
「だから、アタイのだっつーの!!」
まだ、コハダとガリしか食ってないっつーの。よし、ここは、秘密兵器の出番だっつーの。アタイの開発した、この“テレパシー装置”で、大将に無言で注文するっつーの。
(大将、“ワサビ特盛り寿司”だっつーの)
「“大トロの握り”になります」
「アイワーン、さっきはごめんなさい。食べさせてあげるわ。はい、ニャーン」
「ぶっふぉっ!!」
アタイの大きな瞳から、信じられない量の涙が溢れ出て来たもんだから、店員が慌てて拭きに来たっつーの。
「“穴子の握り”になります」
「アイワーン、ほら、ニャ-ン」
その手は桑名の焼き蛤だっつーの。
「アンタが食べろっつーの、ブルーキャット」
「ホント?じゃあ、頂くわ。モグモグ……う~ん、美味しいニャ~」
しまった!これは、サビ抜きだったっつーの。
「“イクラの軍艦巻き”になります」
来た来た!この、充血した目ん玉みたいなヤツは、実は、アタイの大好物なんだっつーの!
「頂くニャン!う~ん、食感が堪らないニャ~ン」
「プチッ」
今のは、イクラが弾けた音ではなく、アタイの堪忍袋の尾が切れた音だっつーの……
終焉
最終更新:2020年04月07日 22:16