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飛べないもう一羽のウサギ【4】




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健人君が慌ててドローンを回収した。もう映像が無くても、どんどん大きくなっていくソレワターセはここからでもハッキリ見える。討伐隊も警備員さんも、あまりのことにすっかり浮足立って、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。ごく一部の人は何とか踏み止まっているものの、もうできることは何もない。
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「おい、俺達も逃げるぞ」大輔が叫ぶ。裕喜君と健人君が頷いたけど、あたしは一緒には行けない。プリキュアだった頃も、ここまで大きなソレワターセは見なかった。バリケードなんかおもちゃみたいだ。もしこのまま森の木が全部食べ尽くされたら……次に狙うのは街そのもの。四つ葉町が無くなっちゃう!
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「ラブも早く! もう戦えないんだろ?」「できるから……やってたわけじゃないよ」お腹の底から声を絞り出す。「ラブ、まさか」「ラブちゃん!」やっぱりね。二人にはわかっちゃうんだ。「美希たん。ブッキー。お願い、あたしを行かせて!」それだけ言うと、あたしは二人の返事も聞かずに走り出した。
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二兎を追う者、一兎をも得ず――せつな、そう言ったよね。まだイースだったけど、きっと本気で心配してくれていた。やっぱりせつなの言った通りだったのかな。あの後すぐに倒れちゃったし、今もこうして勝てない敵に向かってる。あたし、どこで間違えたんだろう。それとも最初から、無理だったのかな?
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「おい放せよ! ラブを助けに行くんだ」「気持ちはわかるけど落ち着けって!」「そうですよ、いくら何でも無茶です!」裕喜と健人に羽交い絞めにされた大輔が、怒りの形相で美希と祈里を睨む。「お前らもお前らだ。何でラブを止めなかった!」「わかったようなこと言わないで!」美希の怒声が響いた。
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「アタシ達はラブを信じてる。でも戻って来なかったら、今度はアタシ達が行くわ。あれを街に向かわせるわけにはいかないもの。あなたはそれだけの覚悟があって言ってるの!?」「俺は……」美希の迫力に呑まれて、大輔は口ごもる。ラブさえ無事なら――そんな身勝手な気持ちは、この二人には通用しない。
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ソレワターセの全身が見えた。まるで真っ赤な鎧を何重にも着込んだ、巨大な木のお化けみたいだ。沢山の蔦を伸ばしてどんどん木を取り込んで、もうどこまで大きくなるのか見当もつかない。見上げるのも首が痛い程の距離まで近付いた時、ソレワターセが動きを止めた。どうやらあたしに気が付いたみたい。
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ソレワターセの赤い一つ目があたしを睨む。怖くないワケがない。膝はガクガク震えて、心臓はバクバクして破れそう。それでも視線は逸らさない。この子を産んだのはあたし。あたしは結局、自分の幸せはゲットできなかったってことだよね。でもここで逃げたら、守れたはずのみんなの幸せまで失っちゃう。
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「お願い、もうやめて! 戦いは終わったの。ここにシフォンは居ないし、ノーザは球根に戻ったの。メビウスももう居ない。これ以上暴れて、何をしようと言うの?」地面を懸命に踏みしめて、両手をいっぱいに広げて通せんぼする。ここは絶対に通さないって気持ちを込めて、赤い一つ目をじっと見つめる。
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目を逸らしたら終わりのような気がした。あたしの身体の何倍もありそうな一つ目との、命を懸けたにらめっこ。どのくらいの時間が経ったろう? ソレワターセの腕がダラリと下がった。「よかった。わかってくれ――えっ?」降ろした腕が再び持ち上がる。そして遥か上空から、あたしに向かって墜ちてきた。
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それはゆっくりと墜ちてきた。すぐに視界が遮られ、辺りが真っ暗になる。逃げ場なんてどこにもない。あったとしても足がすくんで動けない。ねえ――これがあたしへの罰なの? 一滴の涙を流したのが、そんなにいけないことだったの? 疑問がぐるぐると回る頭の中に浮かんできた、ただ一人の顔。それは――
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「せつなぁ――ッ!」喉が張り裂けんばかりの絶叫に、どこからか聴こえてきたあどけない声が重なる。“きゅあきゅあ、ぷりっぷ~!”突然あたしの目の前に現れた、小さな、そして懐かしい姿。彼女が生み出した半球状の光の壁は、ソレワターセの巨大な腕を受けとめ――そして弾き返した!「シフォン!」
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シフォンの力で腕を押し返されたソレワターセは、地響きを立てて数歩たたらを踏んだ。シフォンはつぶらな瞳で精一杯ソレワターセを睨みつけ、愛らしい声で「ぷうりぃ~!」と言って威嚇する。その額は緑色の光を煌々と放っていた。あたしはたまらなくなって、そのフワフワな身体を後ろから抱きしめた。
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「助けに来てくれたんだ……。強くなったね。ありがとう、シフォン!」シフォンを抱きしめてすすり泣くあたしの肩に、誰かの手が触れる。ビックリして振り返るよりも先に、ずっと聞きたかった、低めで穏やかな声が耳に届く。「再会の喜びは後にしましょう。美希とブッキーのところまで跳ぶわよ、ラブ」



最終更新:2020年08月14日 02:03