飛べないもう一羽のウサギ【7】
<73>
戦いが終わると、森はすっかり元通り……とまではいかないけど、以前の森に近い状態に戻っていた。ソレワターセが森のほとんどの木を吸収していたせいで、戦いで傷付けられることもなく、除草剤の影響も少なくて済んだみたい。「ねえ、せつなはすぐに帰っちゃうの? 少しだけ、話したいことがあるの」
<74>
「わかった。帰るのは明日にするわ」ホントに? って思わず聞き返しちゃった。さっきからずっと考え込んでたし、すぐに帰らなきゃいけないのかなって心配してたから。「ええ。おかあさんとおとうさんに挨拶して帰るつもりだったし」あたしって単純だ。それを聞いただけで、何だか元気が出るんだから。
<75>
家の前まで来ると、せつなが突然足を止めた。「せつな、もしかして緊張してるの?」「ううん。でも何だか胸が一杯になって……。こんなに早くまた逢えるなんて思わなかったから」こんなに早くって、せつながラビリンスに帰ってもう一年も経っているのに。ひょっとして……もう逢わないつもりだったの?
<76>
玄関の扉を開けると、お母さんとお父さんが飛び出してきた。せつなが帰ってきたことは、電話で知らせてあったから。口を開きかけたせつなを、お母さんがギュッと抱きしめる。せつなのことだから、きっと挨拶も考えてきてたよね。でも涙ながらに口にしたのは「ただいま、おかあさん」の一言だけだった。
<77>
お母さんとしばらく抱き合ってから、せつなはお父さんと向き合った。お父さんが腕を伸ばしかけてすぐ引っ込めたのを、せつなも見ていたのかもしれない。いや、抱き合うのはさすがに……って思ってたら、せつなはお父さんの傍まで行って、頭をちょんと、お父さんの胸に当てた。「ただいま、おとうさん」
<78>
お父さんってば、涙ぐんじゃってる。お母さんもビックリした顔でせつなを見てた。せつなの甘える仕草なんて珍しいもんね。お母さん、「色々あったのね」って微笑んでた。その夜はタルトとシフォンも一緒に家族パーティー。ラビリンスのこと、四つ葉町のこと、夜が更けるまでみんなでいろんな話をした。
<79>
シフォンが寝付いてから、あたしはベランダに出た。すぐにせつなもやって来た。「ラブ、話って?」「うん、あのね……」昼間の話の続きなの。あたしはやっぱり、みんなの幸せも自分の幸せも、二兎を追って両方ゲットしたい。美希たんやブッキーやせつなの夢を応援して、自分の夢も掴みたい。だから――!
<80>
ずっと抑えてきた気持ちが胸一杯に膨らんで、高まって、弾けるみたいに迸った。ボロボロと涙が溢れて、それを隠すようにせつなの首に腕を回す。「だから――あたしを置いて行かないで! だってせつな、言ってくれたじゃない。あたしにはこの先、素晴らしい幸せが訪れるって。それは一体どこにあるの?」
<81>
「ラビリンスを笑顔で一杯にしたいってせつなの夢を、あたしも応援したい。でも逢えなくなるのは嫌だよ。離れていても心は繋がっている。だから時々でいいから心を伝えたい。一緒に幸せゲットしたいの!」せつなは黙って聞いてくれた。そして身体を離したあたしに、静かに頷いた。「ええ――わかったわ」
<82>
翌朝早く、せつなはラビリンスに帰って行った。タルトもシフォンもリンクルンを持ってスウィーツ王国に帰った。せつな、やっぱり無理して泊まってくれたのかな。美希たんとブッキーは、せつなとゆっくり話せなかったことを残念がってたけど、実はね、これからは月に一度は帰るって約束してくれたんだ。
<83>
後は大輔のことをちゃんとしなくっちゃ。「話って何だよ」大輔が緊張してるのが伝わってくる。あの日から、やっぱり何だか元気なかったもんね。「大輔の気持ちは嬉しいけど、あたしの気持ちはきっと大輔と一緒じゃないんだ。だから、今は言えない。聞きたかったら、あたしを大輔と同じ気持ちにさせて」
<84>
「つまり、男を見せて惚れさせろってことだな」大輔が顔を上げた。「よし、待ってろよ、ラブ。それまでは幼馴染で我慢してやるよ」あたしの話のどこに元気が出る要素があったのかわからないけど、何だかいつもの大輔に戻ったみたい。さあ、ここからが本番だ。みんなから遅れた分、うんと走らなきゃ。
<85>
それから二週間経って、庭に小さな芽が出たの。あの時の実を埋めて、毎日水をやってたんだ。もちろん普通の植物になってることは、せつなに調べてもらってからね。明日はせつなが帰ってくる。って、もうこんな時間? ミユキさんのレッスンに遅れちゃう!「行って来ます!」みんなで幸せ――ゲットだよ!
~完~
最終更新:2020年08月14日 02:07