桃園家の初日の出/一六◆6/pMjwqUTkg
<1>
「ラブ。ねぇラブ、起きて」
「う~ん……もうちょっと……」
ラブを揺さぶるせつなの手が一瞬緩む。昨日は夜遅くまで起きていたから、まだ寝足りないのだろう。
でももう起こさないと間に合わない。
せつなが意を決したように、ラブの耳元に顔を近づける。
「ラブっ! あ・さ・よ!」
「うわぁっ!」
<2>
「もう時間よ」
「あ、そうだった!」
その一言で、ラブがパチリと目を開いた。大急ぎで着替え、二人揃ってベランダに出る。辺りはまだ仄暗くてお互いの顔もよく見えない。
「はぁ、間に合った~」
ラブの言葉に微笑んだせつなが、空を見上げてその顔を曇らせる。暁の空を、分厚い雲が覆っているのだ。
<3>
――初日の出?
――そう! 元旦の日の出に一年の願い事をするの。でも、いつも起きられなくってさ~。
昨夜のラブとのやり取りを思い出す。
この世界の人々は何かと願い事をする。以前はそれが能天気に思えたが、少しずつわかってきた。敢えて願いを口にして、それを叶える決意を新たにしているのだと。
<4>
――だったら明日は私が起こしてあげるわ。
この世界での“年”という区切りの最初の日。自分も願い事ということをして、一年への決意を新たにしたい。そう思ったのだが……。
「ラブ。こんなに曇っていたら太陽は……」
天候のせいなら仕方がない。せつなが諦めかけた、その時。
「あ。見て、せつな!」
<5>
ラブが身を乗り出して空の一点を指差した。そちらを見て、せつなが思わず目を見開く。垂れ込めた雲の間から差し込む一筋の光。見ているうちに光は二筋となり、次第にその数を増して、闇に沈む町を柔らかく照らし出す。
「綺麗だね、せつな」
「ええ……何だか空が、この町を祝福してくれているみたい」
<6>
「さあ、あたしたちも願い事しよう!」
ラブが元気よくそう言って、パン、と手を叩く。
「今年もみんなで、幸せをゲットできますように」
朝日を浴びて、ラブのツインテールが金色に輝く。それを眩しそうに見つめてから、せつなもそっと目を閉じる。
「今年もみんなの笑顔のために、精一杯頑張ります」
<7>
合わせた手を下ろし、顔を見合わせて小さく笑い合う。その時。
「あら? ラブ、せっちゃん。そんな格好で外に居たら風邪ひいちゃうわよ?」
囁くような声が階下から聞こえて、二人は驚いて庭を覗き込んだ。
分厚いコートを着込んだあゆみと圭太郎が、白い息を吐きながら笑顔でこちらを見上げている。
<8>
「お父さん! お母さん!」
「大きな声出さないの。まだ朝早いのよ?」
あゆみにたしなめられ、ラブが、あ……と首をすくめる。
二人とも今朝は珍しく早く目が覚めて、せっかくだから初日の出を見に出て来たのだという。
「それにしてもラブが初日の出を見られるなんて。これもせっちゃんのお蔭ね」
<9>
「ううん、そんなこと……」
照れ臭そうに頬を染めるせつなを見て、ラブがニコリと笑う。
「ねえ、ここからの方がよく見えるよ。上がって来て」
「おお、それもそうだな」
「その前に、二人はちゃんとコートを着ること」
「「はーい!!」」
思わず元気に声を揃えた二人が、今度は揃って口を押さえた。
<10>
「まあ、綺麗ね~」
「うちからの眺めもなかなかのものだな」
狭いベランダで肩を並べ、明けて行く町を眺める。
空には厚い雲があるけれど、目に映る景色は、こんなにもあたたかい。
「あけましておめでとう、ラブ、せっちゃん」
「今年もよろしくね」
四人の笑顔が朝日に照らされ、キラキラと輝いた。
~終~
最終更新:2021年01月02日 12:09